恋人と打ち合わせしてみた
俺は相変わらず俺ということが判明。
ちーん……という効果音が鳴りそうな状況だ。
くじけるわけにはいかないので下を向くことはないけど。
「さて、旅行についての話ですが」
「あ、普通に話し始めるんだ」
俺の醜態についてはこれ以上語らないのね。
さすがセシリア……優しい。
「私はかなり悩みました」
「それはさっき聞いた」
「ですよね。実は私なりに調べてみたんですよ。付近の街での催しや心落ち着く名所がないか情報を集めたのですが……決められなくてですね」
「セシリアでもそこまで悩んだのか」
俺も自分たちの旅行ってなると気軽に決められない。
情報を調べれば調べる程、旅行計画が立てられなくなるのかも。
しかし、セシリアには別の理由もあったようで。
「調べている内にヨウキさんとの旅行なのに一人で全部決めるということに少し寂しさを感じてしまったんです。私に任せて下さいと言った手前、情けない話なのですが……」
「そうか」
それで俺を頼ってきたということだな。
数々の相談にのってきた俺、俺たちの未来のためにも相談にのろう。
……いや、そもそもセシリアが俺のために企画してくれてるのか。
助けられてるのは俺だったな。
「いえ、大丈夫です。そこでお母様を頼ったので」
「あ、そう」
俺の出番はなかった。
「そしたら、人を頼ることを覚えなさいと言われてしまって。私なりに悩んだ結果、私たちの旅行先をみなさんに考えてもらうことにしました」
「みなさんて……まさか」
「ヨウキさんの想像通りです。私とヨウキさん共通の知り合いに協力してもらいました」
「ユウガたちってことか。協力してくれたんだな」
それぞれ忙しいのに案を出してくれたと。
「私が頼みに行くと快く引き受けてくれましたよ。どういった意見をだしてくれたかは私も知りませんが」
「知らないの!?」
それでどう計画を立てるんだ。
「ソフィアさんに集計を頼んでいまして。旅行の直前に意見が書かれたメモの入った箱を用意してもらい、そこで決めようかと」
くじ引きで決めんの!?
セシリアの提案と思えず、口を開けて軽く放心。
俺が考えてセシリアからプチ説教をくらいそうな案に思えるが。
そこはセシリアも感じているらしく、説明してくれた。
「不思議に思ってますよね。私が何故こういった方法を選んだか。……私もこれが最善の手段か迷いました。でも、偶にはこういうのも良いかと思ったんです。新婚旅行は二人で相談して決めます。今回はみなさんに力を借りて後は運任せということにしちゃいましょう」
その方が楽しくなりますよ、と言い切るセシリア。
みんなの力を借りるか……良いね。
行き先はクジを引いて気ままに旅行か。
「悪くないな。いや、最高だ」
「そう言ってもらえると思っていました。では、明日の朝、私の部屋に来てください」
「明日!?」
急すぎないか。
「ヨウキさんはギルドの仕事が制限されているとソフィアさんから聞いています。予定もなさそうだとハピネスちゃんから聞きました」
情報収集した上での誘いか。
成る程、面白い。
「わかった。明日準備して行くよ」
「待っていますよ」
楽しみですねとセシリアは笑顔を残して帰っていった。
くじ引きか……どんな旅行になるんだろう。
セシリアが頼みに行ったんだし、変な行き先やイベントは書かないだろうけど。
「うーん……何を持って行くかな」
何があっても対応できるように装備は充実させていこう。
「三人の贈り物を持ってくか」
中身が何か見てないけど重要な場面で使うことになりそう……な気がする。
「触った感じシークのは本、ハピネスのは……シークよりも薄いな。本じゃなさそうだ。デュークのはなんだろう、皿か?」
今見ても良いけど楽しみにとっておこう。
よくわからないものだったら、旅行から帰った後に襲撃すれば良い。
今回ばかりはネタに走ってないよな、大丈夫だよな。
困ったら使うんだからな、頼むぞ。
脳内で俺を三人がかりで馬鹿にしてくる絵が浮かんできた。
頼むからな、本当に……。
翌日、起きて身支度をしてセシリアの屋敷へ。
誰にも見つからず屋敷に侵入し窓を軽く叩く。
「正門から入ってきても良いですよ」
「それは遠慮する」
まだ、情報屋がうろついてるからな。
慎重になっても良いと思う。
「ヨウキさんがそう言うのなら」
セシリアも納得して部屋に入れてくれた。
「おはようございます、ヨウキ様」
「おはようございます、ソフィアさん」
部屋にはセシリアだけでなく、箱を持ったソフィアさんもいた。
箱の中にくじが入ってるんだろう。
どんな内容が詰められているのか、楽しみ半分怖さ半分だ。
「集計……と言っても私は皆さんの意見が書かれたメモを箱に入れただけです。何が書いてあるかは私も知りません」
「えっ、そうなの?」
集計って言うから実現不可能そうな意見とかは省いてくれたんじゃ……。
「この箱にはヨウキ様とお嬢様のためにと協力してくださった方々の想いが入っています。私ではなくお二人が最初に見るべきかと」
「ソフィアさん……そうですね。みんな忙しい中、協力してくれたんだ。楽しもう、セシリア」
「そうですね。では、早速行き先を決めましょうか。最初はヨウキさんからで良いですよ」
記念すべき初日の行き先は俺の手に委ねると。
ありがとうセシリア、俺はその想いに応えてみせる。
「わかった。任せてくれ。さあ、最初の行き先はここだ」
勢い良く手を箱に入れて一枚メモを掴んで引き上げる。
何が書かれているのか、セシリアと二人で内容を確認する。
メモには無人島に行くと夫婦の絆が深まるよ、と書かれていた。
「おいぃぃぃぃぃぃ!」
俺はメモを床に叩きつけた。
勇者の特殊な事例を持ち出すんじゃねぇよ!
一番最初に引いたのはユウガの意見だった。
あいつこの前会った時はミカナのためにと。
父になるんだと頑張ってんだなと思っていたのにこれだよ。
急に難易度高めな気がするんだけどどうしようね。
「それでは出発しましょうか」
「即決!?」
ツッコミなし!
嘘だよね、セシリア。
いつもなら全く勇者様は……って言う感じになるのに。
「念のために水着を用意しておいて正解でした。忠告、感謝しますソフィアさん」
「海は定番ですから。私も子どもたちを連れ、夫を引きずり家族旅行へ出かけることもあるので」
クレイマン引きずられてんのか。
いや、今は人様の家族事情に首を突っ込んでいる場合じゃないぞ。
「セシリア、最初の行き先だよ。無人島で良いのか」
「ヨウキさん。ここで私たちが何かと理由をつけて行き先を変えてしまってはこの箱の意味がなくなりますよ。大丈夫です、私とヨウキさんなら何処へ行っても……」
ね、と笑顔で両腕を突き出されたら止まるわけにはいかないのが俺。
いつも通り横抱きにして飛行準備完了と。
「お二人ともお気をつけて」
「わかったよ、ソフィアさん。セシリアには怪我の一つ負わさずに帰ってくるから」
「当然です」
感情のこもってない瞳で返された。
当たり前なんだよな、うん。
わかってるんだけどさ……ただの決意表明じゃん。
怖いよ、ソフィアさん。
「ヨウキさんがいますし、私ももうこどもではありません。そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、ソフィアさん」
「……………………そうですか」
間が長いよソフィアさん。
少しは信用して欲しい。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってきますね」
俺はセシリアと旅行用の鞄を引っ提げて飛び立った。
「そういえばセシリア」
「どうかしましたか、ヨウキさん」
「ちょっとユウガのところに寄りたいんだけど」
「駄目です」
許可は下りなかった。




