元部下たちに元気付けられてみた
家族のような存在のハピネス。
口数が最小限でも俺たちは分かり合えていたはずなのに。
ハピネスの心のうちが読めない。
「あー、隊長。俺は分かるんで隊長が分かるようにハピネスの気持ちを代弁するっす」
デュークはわかっているらしい。
かなりショックな話だが考えても答えは出なさそうなので大人しく話を聞いた方が良さそう。
パープルボアを引きずるのを止め、その場に立ち止まるとデュークの話が始まった。
「ハピネスは隊長のよくわからない状態がっすね」
「よくわからない状態って言うなや」
俺の厨二スイッチオン状態をわけわからんみたいな言い方しないでくれ。
黒雷の魔剣士が怒るぞ。
「まあ、ハピネスからしたらよくわからないんすよ。それでっすね。それも隊長が持ってる一面なわけっす」
「そりゃそうだけど……」
「結婚を理由に自分を押し殺すのは良くないとハピネスは言ってるんすよ」
そういうことか。
ハピネスも小さく頷いているので、デュークの言ってることで合っていたと。
「隊長だってセシリアさんが自分との結婚を理由に趣味を止めるとか性格矯正するとかされたら嫌じゃないすか?」
「それは嫌だ」
「でしょう。そういうことっすよ。隊長の場合少し大人になった方がいいとは思うっすけど」
「……大人」
「今じゃ落ち着きないもんねー、隊長」
言いたい放題だな、お前ら。
だが、参考になるので文句は言わない。
こいつらもそれぞれ恋愛事情を抱えているんだし、間違ったことは言っていないからな。
自分らしさを消さず大人になり落ち着きを持つか。
難しい課題だな。
「まあ、婚前旅行っていうのはいいと思うっすよ。隊長とセシリアさんて旅行に行っても大体抱き合わせで行ってる感強かったっすから」
「なんだよ、抱き合わせ感て」
なんかのついでみたいな意味か?
二人で旅行……遺跡探索したり山にピクニックに行ったり。
あれ……もしかしてちゃんとした旅行に行ったことない?
思案しているところにハピネスの視線が突き刺さる。
彼氏としてどうなんだよと言われている気しかしない。
口元を引きつらせつつ、さりげなくハピネスから目を背ける。
止めてくれ、俺をそんな目で見るな。
「隊長ー。ハピネス姉のことちゃんと見なよー。すっごく冷たい目してるからさー」
「それを見たくないから俺は目を逸らしているんだよ」
「そういうの良くなーい」
気の抜けそうな声でぐさりと突き刺さることを言う。
シークに言われっぱなしなのは悔しいので視線を戻すと。
「……侮蔑」
「馬鹿にしてる度合いが高いな!」
「隊長、仕方ないっすよ」
「仕方ないで片付けられてしまうのか」
侮蔑って人に使うことあまりないよね。
よりにもよって家族みたいな俺に使うか。
俺ってそんなに罪深いの?
「そんな隊長にはっすね」
「おい、何さらっと別の話題に行こうとしてんだ」
このまま話題変わったら、俺が侮蔑されてもいいようなやつになるだろ。
「……細かい」
「隊長ー、話が進まないからそこは気にしないで行こうよー」
「ぐっ……わかったよ」
押しに負けて簡単に引き下がる俺。
おかしい、俺ってこいつらにとって隊長なんだよな。
扱い的には入ってきたばっかの後輩なんだが。
「俺たちは隊長を心配してるんすよ。隊長はセシリアさんに惚れて俺たちを置いて、長年引きこもってた魔王城を飛び出していったっす。それが色々あって結婚間近になってこれじゃないすか」
「これっていうな」
「……ヘタレ」
「ヘーターレー」
「お前らもやめろ!」
ハピネスとシークはガヤ担当なのか。
しかし、ヘタレと言われても仕方ないんだよな。
「そんな隊長に俺たちができることはこれくらいっすね」
デュークが俺に小包を渡してきた。
突然の贈り物に戸惑っているとハピネスやシークまで渡してきたぞ、突然なんだ。
「婚前旅行で困ったら使ってほしいっす」
「……役立つ」
「僕からの気持ちだよー」
「お前ら……」
ここに来ての贈り物とか泣くやつじゃないか。
泣きそうになるのをこらえて三人から小包を受け取る。
大きさはばらばらなのでそれぞれで選んだのだろう。
さて、何が入っているんだ。
「待つっす。開けるのは婚前旅行に行く時にするっすよ」
「……秘密」
「今開けたらつまんなーい。僕らのいないところで開けてよー」
三人からストップがかかり開けようとしていた手を止める。
ここで開けたら入ってる物によってツッコミを入れてしまいそうだ。
それなら中身は謎のままにしといた方が良いか。
俺は三人からの贈り物を開けずに背負う。
荷物が増えたな。
「三人ともありがとうな。それじゃあ、パープルボア……」
「それじゃあ、出発っす」
「……おー」
「わーい」
「……」
三人はどんどん俺とパープルボアを置いて進んで行ってしまった。
あいつらさ、本当いい性格してるよな。
結局、パープルボアは俺が一人で運んだ。
さっきより荷物が増えて大変だったけど、一人で運んだ。
村人からはいつも通り感謝してもらえたのでよしとしよう。
村長に依頼完了の報告をしていたら、村の広場でハピネスが歌っていたのは驚いた。
デュークは客引きでシークは歌に合わせて踊っていて……もちろん歌っている曲はというと。
「それ歌うなっつーのぉぉぉぉぉぉ!」
今流行りの夜空で愛を誓うである。
曲名は最近知った。
ハピネスの影響だな、複雑で何とも言えない。
村人もミネルバで流行っているとデュークが宣伝するものだから盛り上がり。
同じ歌を三回も歌ったところで強制退場した。
もういい加減にしろって。
帰りの馬車でも散々いじられて疲労困憊だ。
「このまま四人でご飯っすね」
馬車から降りたらちょうど夕食時だった。
もうここまできたらそれでいいな。
「隊長の奢りっすか」
「まあ、俺から誘ったし贈り物ももらったからいいよ」
「……高級」
「高い店ー」
「適当な酒場に入るぞ!」
アホ二名がわけわからんことを言っている。
ちょっとは遠慮しろよ。
「そういえばあれっすね」
デュークが何か思い付いたように呟いた。
あれって何だよ。
「隊長と行動しているのに何も起こらなかったっす」
「……奇妙」
「隊長いつも問題を呼び込むのにねー」
「お前らなぁ……俺のことを何だと思ってるんだよ」
俺だって平和に過ごす時だってあるわ。
そんなにハプニングが欲しかったのか。
だったら願ってみるか。
「ふっ、俺は以前鏡に向かって自分の不幸を予言したこともある男」
「うわっ、痛々しいっすね」
「……奇人」
「意味不明だー」
心を強く持て、俺!
「そんなことを言っていられるのも今の内だ。俺は自分の不幸を願っても家族の不幸は願わない男……お前たちにはこれから幸福過ぎる幸福が訪れるだろう」
厨二ポーズでしっかり決めた。
三人は俺の姿を見て笑っているが良いのかね。
俺の予言は当たるからな。
そんな馬鹿なことをやって酒場に向かっている途中。
「シークくんではないですかっ。こんなところで偶然ですね」
シークを見つけるなり右腕をがっちりと掴んだのはティールちゃんだ。
「シークくんなのー」
フィオーラちゃんも現れシークの左腕を掴む。
これは逃げられないやつだな。
しかし、こんな時間に二人で出歩いているわけないよな。
「ふむ、小僧ではないか。仲間が揃っているようだが邪魔をしたか?」
ガイが遅れて登場。
やっぱり、保護者はいるよな。
「いいや、それよりも少女二人連れてどうした」
「言い方に悪意を感じるぞ」
「気のせいだ。それでどういう状況」
「うむ、仲の良い二人を連れて食事でもと副ギルドマスターの男に頼まれてな」
クレイマンの仕業だったか。
クインくんはいないが欠席なのか。
「そうか、それでこうなったのか」
視線の先には最早逃れることはできそうにないシークの姿が。
「シークくんも一緒に行きましょう。話したいことが沢山あるんです。守り神様との日々とか守り神様の日常とか守り神様の勇姿についてとか!」
「シークくん、また薬の話を聞きたいのー」
「え、えーっと……た、隊長ー」
「行ってこいシーク。この子ども好きなおじさんが奢ってくれるから」
「おい、小僧!」
「それじゃあ、シーク頑張れよ」
シークをガイに預けて俺たちは歩き出した。
「隊長、酷いっす」
「……見捨てた」
「何言ってんだよ。せっかく女の子の友達二人から誘われてるんだから黙って送り出すのが家族だろう」
行った先でどうなるかはお察しだがな。
さて、シークが離脱して三人になったか。
何処でご飯を済ますかな。
食事処を探していると見覚えある人影が走ってくるのが見える。
あれは……。
「……ハピネス!」
レイヴンだった。
こちらはがっちりと両肩を掴んで逃さない体勢。
ハピネスは突然の展開に混乱気味。
「……今、ミネルバの劇場で催しをやっているんだが詩人の一人が急病で倒れてしまった。俺は劇場の警備をしていたんだが代役はいないかと聞かれて困っていたんだ」
なんか展開が読めてきたぞ。
「……ハピネスの嫌がることはさせたくない。ただ、今回の催しは貴族だけでなく市民の方々にも楽しんでもらえるようにと企画されたものでな。俺としては最後まで楽しんでもらいたいんだ。歌ってほしいのはハピネスが酒場で歌っていた夜空で愛を誓うなんだが」
レイヴンがここまで必死に説得してくるのも珍しい。
公の場にハピネスを出したくない気持ちもあると思うんだけど。
ハピネスも俺をおちょくりたいだけで歌ってるわけじゃないだろう。
ハピネスがどう答えるのか。
「……拒否」
「……そうだよな」
「……しない、頑張る」
断ったと思ったら快諾したよ。
「……ありがとうハピネス。帰ったらお礼はする。早速、劇場へ行こう。衣装合わせもあるからな」
「……衣装?」
「……ああ。ハピネスに合った衣装を見つけよう。劇団員には化粧係もいるからな」
「……困惑」
「……大丈夫だ。ハピネスの警護には俺が付く。着飾ったハピネスには誰にも触れさせないからな」
「……隊長」
「行ってこい」
最後に助けを求めてきたな。
だが、そこは頑張れよと言いたい。
浮かれ気味なレイヴンはそのままハピネスを連れて行った。
帰ったらレイヴンはどんなお礼をするのか、楽しみだなハピネス。
「さて、結局一人になってしまったか」
「いや、何言ってるんすか。俺がいるじゃないっすか。シークとハピネスの分まで食うっすよ俺」
デュークが離脱した二人の分まではしゃいでいる。
お前の優しさは充分伝わったぞ。
ありがとうなデューク、でもな……。
「デューク、はっきり言って俺はお前が一番早く離脱すると思っていたよ」
「な、何言ってるんすか。俺は三人の中で一番隊長を補助してきた部下っすよ。そんな簡単に離れないっすよ」
簡単に離れないと言われてもなぁ。
「お前の場合は簡単に離れてもらえない、だろ」
「へ?」
ほら、来たよ。
間抜けな声を出したデュークの後ろから猛スピードで突進してくる人影が。
「デュークさーん」
「へぐっ!?」
勢いを殺さず綺麗に腕と脚を使って抱きついたのはイレーネさんだ。
うん、絶対来ると思ってた。
「イ、イレーネっ。俺は今日非番っすよ!」
「知ってますっ。私は夕方で終わりなんですっ。デュークさんがいなくて寂しくて……騎士団で劇場の護衛の話を聞いてお安く観れると聞いて気晴らしに来たらデュークさんがっ」
はいはい、お熱いことで。
「ちょっ、隊長。何背中を向けてるんすか。この状況でゆっくりと歩き出すって」
「この場に俺は必要ない。必要なものは……デューク、お前ならわかるはずだ」
「何かっこよく意味わからないこと言ってんすか……っていうかイレーネっ。いい加減に離すっすよー」
「いーやーでーすー!」
はいはい、ご馳走様です。
違う意味で三人にご馳走になる形になったな。
夕食は一人で酒場に入るのも嫌だったので家で簡単に済ませた。
元々、四人で食べる予定だったのに一人寂しく夕食とかさ。
セシリアも今日は来ないし。
スケジュール調整と婚前旅行の予定決めで忙しいのだろう。
「ふっ、今日はパープルボアを一人で運んで疲れたしさっさと寝てしまおう」
一人暮らしは慣れたつもりだったんだけどな。
早くセシリアと一緒に暮らしたいと思ってしまった。




