表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/420

頼まれてみた

ミラーをボコって川に捨てて数日がたった。

あのあとセシリアの元に帰ると、あの姿について説明を要求された。



俺魔族だからという説明で終わらせると怒られてしまった。

ミラーに魔物の恐さを教えるために、あんな姿になったというと出来ればもう、あの姿にはならないでほしいと言われた。



どうやら俺には人間らしい姿で生活してほしいらしい。

あの時は仕方なくあんな姿になっただけで、俺だってもう魔族に戻る気はない。



俺は人間ヨウキとして今を生きているからな。

……なんか虚しいな。



シークは戦って負けたのがショックだったのか、あの日以来元気がない。

俺やセシリアが励ましたがあまり効果はなかった。

帰ったら、デュークやハピネスに期待するしかない。あの二人でダメだったら、セリアさんに頼むしかないな。



シークのこと大分可愛がってくれてるみたいだし、なんとかしてくれるだろう。


ティールちゃんはセシリアと俺の回復魔法でなんとか一命は取り留めた。

かなり危険な状態になったが、ガーゴイルがずっと手を握っていたのが効いたのかもしれないな。



ガーゴイルは両翼と片腕を失ってしまった。

回復魔法では治らない。

本人はそんなに気にしていないようだったけど、いろいろ不便になってしまうだろう。



捕らえた山賊達はセシリアがレイヴン団長率いる騎士団に連絡したようで、連行しに来てくれる手筈になっている。


いろいろな出会いや出来事があったが、今日で俺達はダガズ村を去る。



今は村長の家で荷物の整理をしている。

思えば一週間ほどこの家で生活していたのだと思うと去るのが、少し寂しい気がする。



「シーク、ちゃんと荷物の整理は終わったのか?」



自分の服や、薬剤調合の道具などを、緩慢な動きでリュックに積めながら、こくりと首の動きだけの返事で返された。



未だにショックが抜けきらないのは仕方ないと、俺もセシリアも諦めている。

シークはまだ子どもだからこういう壁にぶち当たる経験をしていないからな。



「整理が終わったなら外で遊んできていいぞ。仲が良くなった子いるだろ。最後になるんだし行ってこい」




「……うん」



荷物を積めたリュックを背中にしょって、窓から飛び降りてった。

……何故玄関から出ていかないんだ。



「……少しは元気になってくれるといいんだけどな」



村の子ども達が少しでもシークを元気づけてくれることを祈りながら、荷物の整理をし、使わせて貰っていた部屋の掃除をした。



掃除が一段落ついた頃、ドアをノックする音が聞こえる。



「ヨウキさん、今入っても大丈夫ですか?」



どうやらセシリアのようだ。

俺が良いと返事をするとセシリアが入って来た。



「荷物の整理は終わったようですね。部屋の掃除も……シークくんは何処ですか?」



「最後だから、村の子ども達と遊んでくるように言ったら窓から出てったよ」



「……そうですか。出発までまだ時間がありますし、良いんじゃないでしょうか」



セシリアもシークがショックを受けていることを知っているので、大目に見てくれたようだ。



「それで、何か用事?」



「はい、先ほど言ったように、出発まで時間があるのでティールちゃんとガーゴイルさんの所に行きませんか?」



確かに二人には別れの挨拶を済ませに行くべきだろう。

俺の油断や慢心でティールちゃんは生死の境をさ迷うことになったのだ。



ガーゴイルも両翼、片腕を失った姿になってしまったが、中々楽しい奴だったし会っておきたい相手だ。


「そうだな。シークは……仕方ないか。行こう」



セシリアと二人でティールちゃんの家に向かった。



もう歩きなれた林を歩き、ティールちゃんの家に着くとなんだか家の中が騒がしい。



「ヨウキさん、ティールちゃんの家に誰かいます!」



「山賊の生き残りか!?」



セシリアは杖を持ち、俺は何時でも魔法が使えるようにし戦闘準備を整える。

家のドアを開けると。



「守り神様が! 守り神様が私の元に来てくださるだなんて! こんな本だらけの汚い部屋ですみません。すぐに掃除をしますので少しだけお待ちください!」



「ええい、いいから大人しく寝ていろ娘。まだ身体の具合が悪いのであろう! これでは我輩が看病しに来た意味がないではないか。」


「大人しく寝ているなんてとんでもないです。本を片付けて、部屋の掃除して、お茶を出して、えっと、えっと……」



「何もしなくていいから寝てくれー!!」



寝巻き姿で暴れるティールちゃんと、そのティールちゃんをベッドに押さえ付けるガーゴイルがいた。



セシリアは呆然としているが、俺はこういう良くわからない状況に陥ることに慣れてしまったようだ。



多分、自分を守って怪我をしたティールちゃんが心配になりガーゴイルが様子見に来たんだろう。



そこから看病しようとしたが、憧れの守り神様が来たのでティールちゃんがパニックになっていると。



「おい、そこの小僧。眺めていないで手伝え! このまま暴れさせるのは娘の身体に良くないぞ」



「守り神様、守り神様。厚かましい願いだとは思いますが、ティールと呼んでくださいませんか」



「ぬうぅ、わかった。では……ティール、身体がまだ本調子ではないのだからベッドに……」



「きゃーっ! 守り神様がティールって。今、私の名前呼んでくれましたよね。ああ、もう死んでもいいかも……」



うっとりとした表情で頬を紅く染めて何処か遠くを見だしたと思ったら、頬に手を当てて頭を左右に降り出した。

なんか良からぬ妄想でもしたのか。

いや、ガーゴイルから名前を呼ばれたことが頭の中で何度も再生されているとかかもしれない。



「死んではならんだろう。というかいい加減落ち着いてくれ! 」



ガーゴイルが必死にティールちゃんを寝かしつけるのを俺はセシリアが正気に戻るまで眺めていた。



「……先ほどはかなり取り乱してしまっていて申し訳ありません。せっかくわざわざ家まで来ていただいたというのに……」



セシリアが正気に戻った所でガーゴイルに協力し、なんとかティールちゃんを落ち着かせることに成功させた。

また、暴れられると困るので、ガーゴイルには家の外に待機して貰っている。



「いえ、大丈夫ですよ。ねぇ、ヨウキさん」



「あ、ああ、まあな」



実は俺もセシリアも表情にはあまり出していないが苦笑いだ。

まさか、あんなにぶっ飛んでしまうとは……。

どれだけ、ガーゴイルのこと好きなんだよ。

ヤンデレにならないか心配だな。



「でもちょうど良かったです。私からお二人に会いに行こうと思っていたので」


「何か用があったのですか?」



「実はですね。私と守り神様も一緒にミネルバまで連れて行って貰いたいのです」



俺達に深々と頭を下げてきた。

すると同時に勢い良くドアが開く音が部屋中に響いた。外から話を聞いていたのだろうガーゴイルが入って来たのだ。



「ティール、何を勝手なことを……」



「お願いします、セシリア様、ヨウキ様。守り神様は私を庇って両翼と片腕を失いました。普通の回復魔法では守り神様の体は治りません。でも、ミネルバなら守り神様の御体を治す術が見つかるかもしれません」



お願いしますと再度頭を下げてくる。

確かに、山村にいるより、人がたくさんいて情報が集まるミネルバの方が、治す術が見つかりやすいだろうが。



「どうする? セシリア」



「正直無理ですね。ティールちゃんは病み上がりですし、ガーゴイルさんはどうしようもないです……。万が一社からいなくなっていることがばれたら大変ですし」


やはり無理か。しかし、ティールちゃんの決意を無駄にしたくはない。

俺が人肌脱ごうじゃないか。



「セシリア、俺に良い考えがあるんだが……」



「……とても不安なんですが、一応聞きます。話してみてください」



「実はさ……」



俺の作戦を伝えると最初は渋っているようだったが、俺の強い推しにより採用された。



「セシリアから許可が出たぞ。良かったな」



「待て、小僧! 我輩はまだ行くと決めては……」



「やったー。良かったですね。守り神様ー!」



ガーゴイルが反論する前にティールちゃんが抱き着いた。

それによりガーゴイルは何も言えなくなったようだ。くそう……俺だってセシリアに抱き着いてもらいたい。

そんな煩悩を掻き消して、俺の考えた作戦を二人に話した。

二人の了承をもらい、作業を実行し完了した。



そして、村人との別れの時がやってきた。



「村の者を代表して、お礼申し上げます。この度は村の危機を救ってくださりありがとうございました」



村長が頭を下げてくる。

こう感謝されるのは悪いものではないな。



「あと、どうかティールのことをよろしくお願いします」


ティールちゃんは身体の弱い部分を治すためにミネルバの治療院に療養させることにするということにした。

半分本当で半分嘘だ。

療養は本当だが、アクアレイン家の屋敷で住み込みで働けるようセシリアがセリアさんに進言してくれることになっている。



働きながら、シークの薬で治していく予定だ。

ガーゴイルはというと……



「……? ヨウキ殿、その石像はなんですか」



俺が馬車に積もうとしているのはもちろんガーゴイルだ。

だけど、今は俺の土魔法で体をコーティングして大仏の姿になっている。



「ああ、すみません。この村の近くに良い岩があったので、つい趣味の石像作りをしたらかなりの力作が出来たので持って帰ることにしたんですよ」



「そ、そうですか。随分と変わった趣味をお持ちなのですね……」



俺だって趣味が石像作りってなんだよと思う。

まあ、本当に石像作りが趣味な人に失礼なので強くは言えないが。

ちなみに社には俺が作った悪魔像を置いてきた。



ティールちゃん曰く社に来る村人はいないのでばれないだろうとのことだ。

ガーゴイルを積み終わり、全員馬車に乗る。



「では皆さん。また会いましょう」



村人達に別れを告げると馬車はミネルバに向けて発進するのであった。



ちなみにミネルバ到着後ティールちゃんはメイドとして採用されたが、俺の作品である大仏[ガーゴイル]を置くことは断られてしまった。



結果、俺が借りてる部屋にガーゴイルは住むことになった。

ガーゴイル編長かったなあ…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリーめっちゃ面白いw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ