調査してみた
「それで隠し事を話してくれる気にはなりましたか」
俺は厄介な推理力を持ったソレイユに追い詰められていた。
真実を話すのが一番楽なのだが……まだ早い。
二人の秘密にしていたいとかじゃないけどさ。
知っている人そこそこいるし。
それでもまだ早いんだよ。
こうなったら……。
「そうだな。話してやるよ。黒雷の魔剣士の活躍は異常だ。依頼を必ずに成功させてあの速さ。とてもじゃないが俺みたいな一般市民には追いつけない。でもさ、男の憧れってのは現実の高さに直面しても中々踏ん切りをつけられないもんだろ。今の俺はそう言う段階ってことなのさ」
それっぽいことを言ってみたけどどうだろうか。
最後に視線を斜め下に逸らして哀愁も出してみたぞ。
さあ、これで納得しろ!
「……おかしいですね。僕から見た貴方はそういう諦め方をしない人に見えます。諦めてもただでは転ばないでしょう?」
そこまで深く交流してないのにどうしてそこまで俺を知った風に言えるんだ。
的外れなことを言ってないし、本当にこいつの推理力怖いんだけど。
内心焦りつつ、冷静なふりをして俺は考える。
これ以上下手な嘘ついても無駄だ。
話し合いだと分が悪い。
外に出るか。
「よし、行くぞ」
「は?」
「お前の話はわかった。つまり黒雷の魔剣士の行動の真意を知りたいということだな」
「いえ、僕は貴方の真意をですね」
「俺の真意なんざ簡単だ。セシリアが幸せになれば良い。それだけだよ」
俺はソレイユの腕を掴んで家を出た。
今のは本心だからな、嘘じゃない。
俺が幸せにするっていうのが抜けただけさ。
「……かっこいいことを言った手前、もちろん当てが無いわけではありませんよね」
俺はソレイユを連れて走る。
当てはない。
適当に走っているだけではダメだ。
黒雷の魔剣士に関連付ける何か……よし、閃いた。
俺は適度に急いで走り、曲り角でタイミングを見計らって目的の人物……ウッドワンと接触した。
怪我しない程度にぶつかり倒れる。
軽く尻餅を着いたくらいなので大丈夫。
「痛た……前を見て走ってください。全く」
「あっ、す、すみません」
「いえ、貴方に言ったわけではありません。僕の腕を掴んで走っていた彼に言っているんです。ぶつかってしまい申し訳ない」
「いや、注意していなかった僕も悪いんで……」
「役者はそろったな」
俺の言葉に二人は頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
まあ、何を言っているんだって話だろう。
抜群の推理力と天性の脚力を持った記者。
この二人が揃えば黒雷の魔剣士の情報を集められる……と思うだろう
厄介な二人には協力してダメだった。
または、ある程度の情報で納得してもらい、俺たち良くやったよな……エンドを迎えてもらうしかない。
「さあ、黒雷の魔剣士について調査だ」
「えっ、貴方は何時ぞや会ったお兄さん。僕の取材を手伝ってくれるんですか」
「ああ、この推理力に秀でた隣国の勇者パーティーの一員、ソレイユがな」
「ソ、ソレイユ様!? 隣国の勇者パーティーの一員で次期領主であるソレイユ•グレスハート様ですか。しゅ、取材したいぃ……」
仕事道具を持つ手が震えているぞ、大丈夫か。
「勝手に僕の正体をばらすのは止めて欲しかったのですが……。仕方ありませんね。勝手に名乗られてしまいましたが改めてソレイユ•グレスハートです」
「僕はミスチーフ所属の情報記者のウッドワンです。早速取材を……」
ウッドワンの目がギラついている。
どんだけネタに飢えているんだよ。
ソレイユも引いているぞ。
「すみません。僕は立場上クラリネス王国の情報誌に堂々と自分のことを掲載されるわけにはいかないので」
「そ、そんな……」
ウッドワンが絶望している。
まあ、理由としては納得できるものだ。
他国に自分の情報は渡せないよなぁ。
「埋め合わせとは言いませんが僕が協力する以上、必ず黒雷の魔剣士の有力な情報を見つけることを約束しますよ」
不敵な笑みを浮かべてはっきりと言い切るソレイユ。
良いのかそんな約束をして。
こっちには当事者がいるんだぞ。
提供する情報はしっかり調整するからな。
「さて行こうか」
早速出発だと思い歩き始めたのだが二人が付いてこない。
どうしたのかと振り返る。
「いや、ここは貴方も名乗るべきではないですか」
「僕もお兄さんの名前知らないです」
確かにさっきの流れ的には名乗るべきだったな。
「俺の名前はヨウキだ、よろしく」
「僕は貴方とセシリアさんとの会話で知っていましたが……改めてよろしくお願いします」
「ま、まさかあの聖母様と知り合いなんですか。取材を……」
「いや、そこまで親密じゃ……」
ないですと言わねばなるまい。
だが、その場をしのぐためとはいえセシリアと親密ではないと言い切るのは辛い。
苦虫を噛み潰したような顔でどうにか言葉を発した。
「ぐっ……親密じゃない、です」
「そこまで辛い表情をするくらいなら嘘をつくべきではないでしょうに」
「今のが嘘ということはヨウキさんは聖母様と親密ということですよね」
誤魔化し切れていないらしい。
くそっ、胸が痛いが……。
「全然、何もない……から。真面目に嘘じゃ……うぐっ」
「ウッドワンさん、これ以上の追求は止めてあげましょう。彼を苦しめるだけになりますよ」
「で、でも取材ぃぃ」
「今回は黒雷の魔剣士についての情報が目的ですよね。彼からセシリアさんの情報が聞けるとしてもこの様子ですし今度機会があればで良いのでは?」
取材したいウッドワンをソレイユが説得している。
苦しんでいる俺は黒雷の魔剣士。
一体、この構図は何なんだろうか。
セシリアがいたら呆れた表情をしてそうだ。
結局、ソレイユの説得により俺からの情報を諦めたウッドワン。
自己紹介も終わったし適度に情報を渡す調査開始である。
「それじゃあ、行くか」
「目的地として妥当なのは人が集まりやすい中心街か問題が起こりやすい貧民街でしょうか。黒雷の魔剣士は依頼を迅速かつ完璧にこなす冒険者。最近の傾向だと種類問わず依頼を受けているのでその辺から聞き込みをするのが良いかと」
「僕、情報記者としての人脈を活かして黒雷の魔剣士さんに感謝している人の一覧表作ってきているんです。役立ててもらえると助かります」
「成る程……良いですね。近いところから順に聞き込みしていきましょう」
二人で盛り上がっていて話に入りにくい。
聞き込みって……何を聞くんだよ。
あとウッドワン、そんな一覧表作らんでくれ。
「では、行きましょう。黒雷の魔剣士の目的を探りにね」
ソレイユの推測がほぼ当たりだから探る必要ないんだけどな。
「おお、かっこいいですね。行きましょう」
なんかウッドワンはノリノリだし……。
「彼のことです。結婚へ向けて準備をしているだけではないはず。本当の目的は別にあるという可能性も捨て切れません」
「さっき言ってたことと違うじゃねーか」
「よくよく考えてみると彼の評価は元々高いんです。セシリアさんと結婚のためとはいえ……もっと依頼を吟味するはず。蒼炎の鋼腕事件を解決した彼なら無作為に依頼を受けるはずがないんです」
悪かったな無作為に依頼を受けて!
「結婚を機に舞い上がっているようにしか見えません。しかし、普段から自分のペースを崩さない黒雷の魔剣士がですよ。婚約の発表は特に変わった行動がなかった。つまり、今回のハイペースに依頼を受けた行動は何か別の意味があるということに……」
うるせぇぇぇぇぇぇ。
プロポーズ成功して舞い上がっちゃったんだよ、悪いか!?
「これはもしかして隠された真実を発見するとかありますかね。そうだとしたら……」
隠された真実なんてないわ!
大スクープを予感しているのか特報とか一面とか言っている。
いや、ほんと自分で蒔いた種だけどどう収拾つけよう?
厄介な二人を見て俺は冷や汗を流すのであった。