働いてみた
誓いの言葉が国中に晒されるというオチがついたものの。
とにかく俺はセシリアへのプロポーズを成功させた。
成功させたのである。
後は黒雷の魔剣士は俺ことヨウキだと宣言して結婚式へと行きたいところ。
しかし、世論がそれを認めてくれるかという話。
正体を明かし結婚式をして共同生活が始まってから、文句を言われたくない。
静かにとは言わないが少しでも妬まれずそっとしておいて欲しい。
だから俺は……。
「はーはっはっは。黒雷の魔剣士参上。依頼は迅速かつ完璧にこなすのが売りの黒雷の魔剣士だ。依頼内容は畑を荒らすフォレストボアの討伐だったな。森の生態が狂わない程度に仕留めてきたぞ!」
好感度を上げるために働くことにした。
今回の依頼はミネルバの近くにある村民からの依頼だ。
居場所を速攻で突き止めて瞬殺。
血抜き等の処理はプロの猟師に丸投げして終了と。
「まさか一日かからずに終わるとは。これが噂に聞く黒雷の魔剣士殿の力……」
「ふっ、この程度の依頼なら造作もない。依頼料はギルドに納めてくれ。俺は次の現場へ行く」
「忙しい方ですな。大したもてなしもできませんが休んでいかれては?」
村長からありがたい申し出をもらう。
大変、ありがたいのだが……。
「済まないな。俺の助けを待っている誰かがいる。長居はできん。気持ちだけ頂いておこう」
「そうですか、残念です」
「次に会う機会があれば遠慮なくお言葉に甘えさせてもらおう。では、さらばだ!」
俺は村を後にした。
ここ数日はこうして休みなく働いている。
色々な人からの理解を得たいのでどんな依頼も受けているな。
討伐、護衛、採取等ランク関係なしで。
黒雷の魔剣士の売り、依頼は迅速かつ完璧にこなしてだ。
このまま依頼をこなしていけば俺の目標も達成できる。
そう思っていたんだが……。
「お前さ、働き過ぎ」
「何……?」
新たな依頼をとギルドに立ち寄ってみたらクレイマンに文句を言われた。
いや、働き過ぎって文句なのか?
「依頼達成が早過ぎんだよ。護衛の依頼はともかく討伐、採取の仕事とかどうやってんだ。見ろ、この書類の山を!」
確かにクレイマンの机には書類の山ができている。
多分、俺の依頼関係の書類だ。
「もうちょいゆっくり仕事しろ。俺を見習え」
「クレイマンさんは見習ってはいけない部分が多い気がしますけど」
「うるせーぞ、シエラ。お前が引っ掛けようとしてる男に酒癖悪いのばらすぞ」
「な、何を言ってるんです。悪くなんてありませんから……」
なんか職員同士で言い合いが始まったんだが。
シエラさん、酒癖悪いのか。
何があるかわからないし注意しておこう。
「有益な情報を得られた。しばらく身を隠すことにしよう」
「ゆ、有益な情報って何ですか。ちょっと……」
「では、さらばだ!」
俺は身を翻して走り出す。
後ろからクレイマンさんのせいで誤解されたじゃないですかーというシエラさんの悲痛な叫びが聞こえてきた。
いや、別にシエラさんの酒癖の悪さを知っても特に悪用とかしないんだけど。
婚活頑張ってくださいとしか言えない。
「ふっ、これが結婚秒読みを迎えた男が持てる余裕というやつか」
家まで向かっている途中、ヘルメットの中でにやにやが止まらない。
人の恋愛をそうか、大変だなと心配できる程の心のゆとりが今の俺にはある。
プロポーズが成功したからな!
あとは結婚式……セリアさんが色々と動いてくれているらしい。
娘のためにも本気を出すわと言っていたなぁ。
プロポーズの結果報告の時は笑っていたけど、根回しの話の時は目が笑っていなかった。
貴族の本気怖い。
まあ、セリアさんにぶん投げな形になるけど結婚式はできるみたいだし。
それまで世間のイメージアップもあるが老後のためにも稼ごうと思っていたのに。
「どうしたものか……むっ!?」
どこからか俺を呼ぶ声が聞こえる。
ヒーローに助けを求める……そんな声が……。
「黒雷の魔剣士さーん。取材を受けてくださーい!」
後ろから走ってきているのは記者のウッドワンだった。
「くっ、予想外だ」
プロポーズ成功やったぜ、というのはまだ世間に知らせたくない情報だ。
今バレたらセリアさんの根回しが無駄になる。
そんなことをしたら、あの目の笑っていない笑みが俺に向けられることに……冗談ではないぞ。
「俺を呼ぶ声がする。行かねば!」
「呼んでいるのは僕ですっ!」
ウッドワンが何か言っているが気にせずその場を離脱する。
家の屋根の上を跳び走って逃げた。
「うぉぉぉぉぉ、取材ぃぃぃぃぃ!」
「くそっ、厄介な脚だな」
俺の速度に付いてくるとか本当にどうなってるんだ。
生まれる世界を間違えたんじゃないのか。
あの脚があれば……いや、今は撒くことを考えよう。
追われて差を開けないのならこうするしかない。
「この俺を追跡するとは貴様の脚力は相変わらずのようだ。だがそれもこれまで、とう!」
俺は高く跳躍して日の光が俺と重なった瞬間を狙い姿を消す魔法を発動。
路地裏に着地したあと、素早く着替えて黒雷の魔剣士セットを手早く袋に詰めて人混みに紛れた。
「えっ、えーっ!? 一瞬で消えるなんてずるいですよ……」
ウッドワンがショックのあまり地面に座り込んでいるのを尻目に俺は家へ向かった。
「何なのまじで……」
家に帰ったらお客さんがいたわけで。
「どうもこんにちは」
ソレイユが家の前に立っていたのである。
いや、だから次期領主だろ。
暇なの!?
「お、おう。今日もユウガが迷惑をかけたのか?」
「何故、僕が来ただけでユウガさんが関係していると思うんです。偶々、ミネルバに来る用事があったので寄っただけですよ」
近くに来たからって家に寄ってくとか俺とソレイユの仲っていつそこまで親しくなったんだ。
まあ、家の前にいられたら目立つので家にあげることに。
何の用事があるのやら。
「ミネルバに住んでいる貴方なら知っていると思いますが」
「何を?」
「ここ数日、黒雷の魔剣士の活動が活発になっているそうです」
自分で出したお茶を吹き出しそうになった。
話題それかよ!
「妙なことにランクの高い難しい依頼から初心者でもできる簡単な依頼まで手広くこなしているみたいなんです」
そりゃあ、イメージアップのために手広く活動した方が良いと思ったからな。
「依頼に失敗しない。素早く丁寧に終わらせる彼はミネルバの住民から絶大な支持を得ています。これが何を意味しているかわかりますか?」
「さ、さあな……」
「現実から目を逸らすのは良くありません。本当はわかっているんでしょう。王の褒美によりセシリアさんの結婚は当人同士の決定に委ねられています。世間体を気にした活動……黒雷の魔剣士が行っているのは間違いなく、それです」
止めろよぉぉぉ、恥ずかしくなるだろうがぁぁぁ。
なんでこんな決め顔で結婚準備頑張ってるんですねってばらされなきゃいけないんだよ!
そこまで頭が切れるなら、正体も察しろや。
「そんな辛そうな顔をしないで下さい。こうなってはもう……ひっくり返せるような盤面ではないのですから」
ソレイユのせいで辛くなってるんだけどな。
「ですが、貴方の目は僕のようにまだ諦めていない目です。何故、そんな目ができるんでしょう」
やっべ、諦めた目をしないとばれるな。
まだその時ではないんだ。
死んだ目にならないと。
「急に何もかも諦めた目になりましたね。隠し事でもあるんですか。わざとらしいにもほどがあります」
ソレイユの観察眼がうざい。
こいつどうしたら帰ってくれるかなぁ……。




