恋人にプロポーズしてみた
やっとたどり着いた……
これってセシリアの掌の上で動いてないか。
俺は今日を振り返ってみる。
この格好、さっきの食事した場所にリンベルの花畑。
プロポーズにはもってこいのシチュエーションである。
俺の計画ではここまでのことは出来なかったと言える。
普通に食事をしてから、出会った場所でプロポーズというのが良いと思い、魔王城まで飛んで行こうとしていたんだ。
二人きりでリンベルの花畑とか反則じゃないの。
絶対に今指輪を渡すのが良い。
これ以上ないってくらいのシチュエーションだ。
きっと素晴らしい記憶として残るだろう。
……だが、それで良いのか?
指輪の件がバレた時、俺はセシリアに約束した。
ばれていても驚くようなプロポーズをすると!
セシリアが導いてくれたこの状況はプロポーズにうってつけなのは事実。
でも俺は……。
「セシリア」
「何ですか」
「俺はセシリアに頼りっぱなしだ」
「そうですね」
「きっぱりと言い切ってくるね」
自分から言っといてあれだけど反論できない。
実際に頼りっぱなしだし。
それでも俺にだってセシリアに負けないものがある。
「……私はヨウキさんに気を遣ってこの場を設けたわけではないんですよ。本当に今日は思い出に残る一日にしたかったので、途中から私が盛り上げようと考えてみたんです」
「もう充分盛り上がってると思うんだけどな」
ここまでの道のり考えたらゴールしても良いくらいだ。
物語だったらどう考えてもここでクライマックス突入である。
「ダメですよ。ヨウキさんは私では到達できない景色をいつも見せてくれるじゃないですか。今回も私を驚かせてくれますよね?」
「セシリアがそんなこと言うなんてな……意外だ」
「ヨウキさんなら……って信用しているんですよ。私の休日を二日差し上げたんです。きちんと結果を残してください」
この状況で手厳しいことを言ってくる。
セシリアから期待を寄せられているのは嬉しい。
だけど……かなり難しい試練だぞ。
厨二は禁止され、勢いもつけられない。
どうしろっていうんだ……いや、諦めるな。
俺にしかできないことを模索しろ。
セシリアが俺に結果を残せと言ってきている。
残すしかないんだ。
指輪のことはバレているから……渡す場所と演出だな。
「……セシリア、付き合ってくれるかな」
「断ると思いますか?」
「だよな」
許可ももらったし行きますか。
俺は翼を生やしてセシリアを抱き抱えて空を飛んだ。
いざ、決戦の場所へ。
「セシリアも慣れたよね」
飛んでいる最中にふと思った。
最初は結構騒いでいた気がするけど最近は俺の腕の中で大人しくしている。
「何度も経験すれば慣れるものですよ。……まあ、慣れる程、抱き抱えられて空を飛ぶことになるとは思っていませんでしたが」
「そんな遠い目をしながら言わなくても。ほら、ミカナも同じような境遇だし」
ユウガも飛べるようになってから、度々ミカナをお姫様抱っこして移動しているのを見かけるな。
「共通の話題が増えたというか……」
「普通抱き抱えられて飛ぶことは共通の話題にならないんですけどね」
「俺やユウガが特殊パターンなのな」
「その通りです。それに出掛け先でそんな話題を出したら周りから注目を集めてしまいますね。お互いの気苦労について話している時に話題にするかもしれないです」
「……なんかごめん」
「謝る必要はないでしょう。ほら、私の特権みたいなものですよ」
フォローまでされる始末である。
「えっと……ほら、夜空が綺麗ですよ」
強引に話題を変えてきた。
さすがセシリア、優しいな……全力で乗っかるぞ!
「確かに……」
ここでセシリアの方が綺麗だと言うべきなのか。
勝負前に余計なことは言わない方が良いのか。
駆け引きなんて拳でしかしたことないからわからん。
「何か?」
見つめてる癖に何も言ってないから不思議がられてしまった。
ええい、本能のままに言っちゃえ。
「ふっ、夜を照らす星の輝きも見事だがそれ以上にセシリアの方が」
「ヨウキさんそこは誤魔化さずに言ってほしいです」
つい厨二を出してしまい失敗。
やはり、普通に言わないとダメか。
恥ずかしいからとか、この際思ってる場合じゃないな。
「ああ、星よりもセシリアの方が綺麗だ」
「……自分が言われると恥ずかしい台詞ですね」
言うのも恥ずかしいんですよね、と微笑みながら聞かれてしまう。
ここまできたら恥ずかしいとか言ってられるか。
「恥ずかしいとかはなしだ。二人きりなんだし本心を言わない理由はないな」
「言ってることは間違ってないですけど……」
「だから、俺はセシリアが可愛くて優しくて綺麗で料理上手で癒し系の恋人だってはっきり言える!」
「ヨ、ヨウキさん、ありがとうございます」
「俺が失敗しても叱ってくれる。依頼の手伝いもしてくれる。デュークたちも快く受け入れてくれて嬉しかった」
「も、もうその辺で……」
「今日も気を遣わせた。俺が普段からしっかりしていればセシリアももっと楽しめる一日になったのに。本当にセシリアはすごいよ。俺だけじゃなく周りの手助けだって……」
「充分、充分ですから」
セシリアが何か言ってるけど気にしない。
今は二人きり、まだまだ言いたいことはある。
急にじたばたし始めたので強めに抱きしめ落ち着かせた。
そしたら、大人しくなったので普段の感謝とセシリアへの想いをぶちまけまくった。
「結構、語れるもんだ」
「ヨウキさんを本気にさせてはいけないと今更ながら知りましたよ……。それで、ここは何処ですか」
セシリアを褒め殺していたら着いてしまった、海に。
「海だ」
「えっ、あっ、陸地が見えませんよ」
「大分離れたからな」
「何故!?」
ここなら誰もいない。
俺とセシリア二人きりで目撃者なんていないんだ。
だからこんなことだってできる。
俺は火属性の魔法を放った。
時間差で爆発する花火のように辺り一面にだ。
「これは……」
セシリアも見入っている。
空中でのプロポーズなんて俺にしかできない芸当だ。
そして花火っぽい魔法、演出は充分。
俺は懐の指輪を取り出す。
あとはプロポーズすれば良い。
もう厨二は使わない、俺の言葉で言うんだ。
「俺と結婚してくれ、セシリア」
言った、言ったぞ俺。
セシリアの反応が怖い、指輪受け取ってくれるよな、くれるよね?
内心びくびくしつつも表面には出さないようにする。
少し間があってから、セシリアの口が開いた。
「ありがとうございます」
「よっしゃー!」
プロポーズ成功だ。
「純粋に嬉しいです。指輪の存在を知っていてもこう……面と向かって渡されると恥ずかしいものなのですね、驚きました」
指輪を箱から出して眺めるセシリア。
口元を緩ませているので本心で言っているんだろう。
カイウスにシアさん……最高の指輪をありがとう。
「まさか最後の最後に直球で言ってくるなんて……ヨウキさんらしくないですね。さっきまではこの瞬間の布石だったんですか?」
「えっと、それは……」
どうしよう全然考えてなかった。
嘘つくの良くないけど、違うって言うのもなぁ。
俺が言い淀んでいたら、小さく笑われてしまった。
「わかってますよ。ヨウキさんはそういうの得意じゃないですから」
「お恥ずかしい限りだ」
「そもそもこのプロポーズはずるいです。私、断れませんよ。辺り一面海で空の上なんて」
「うっ……」
確かにこのシチュエーションは断れない。
断ったら……お互いに気まずい思いしながら帰ることになっていただろう。
「それにもう暗いのに陸地が見えないってどうするんです。今日は野宿ですか?」
「あっ!」
失念していた。
セシリアを褒めて褒めて時間感覚がなかった。
もう深夜だ、ミネルバに帰る頃には日が出かかる頃になる。
近くの町が村で宿を取るしかない。
「言っておきますけどこの格好で宿を取ったら訳ありと疑われてしまいますよ」
「うっ」
俺は正装、セシリアはドレス。
しかも、飛んでいたせいか若干着衣が乱れていたりする。
うーむ、余計な詮索をされる可能性大だ。
「これは……やってしまった……のか?」
「全く、やはりヨウキさんはヨウキさんですね。この調子では結婚してからも大変そうです」
「ごめん、セシリア……えっ、ああ、そっか」
プロポーズ……受け入れてもらったんだっけ。
「ミネルバまで戻るには時間がかかります。共同生活するに当たっての注意事項等について相談を……」
「セシリア」
「なんですかヨウキさん……何故でしょう。星の光加減が原因なのか、怪しい笑みを浮かべているように見えるのですが」
「今は喜びを分かち合いたい」
「えっ、えーっ!?」
俺は抱き抱える体勢を変え、セシリアの両手を握りしめてくるくると空中をまわりはじめた。
セシリアも経験したことがないからか、狼狽えているらしい。
「ヨウキさん、これは良くありません。私が落ちてしまいますよ!」
「大丈夫、絶対に離さないから」
「そういう問題ではないです」
「何があっても離さないって」
「いつもとは状況が違うんですよ」
「迷惑かけて困らせるかもしれない。でも、それ以上に笑顔にさせるって俺はここで誓う」
「現在進行形で迷惑かけてます」
最初は焦っていたセシリアだが徐々に慣れたのか俺と空を舞うのを楽しんでいた。
まあ、俺が満足して止めた後に説教くらったけど。
内容としては万が一指輪が飛んでいってしまったらどうするのかというものだった。
私が着けていたから良いもののと帰る途中に何度も言われてしまったな。
後、乱れた着衣で朝帰りしてソフィアさんに大目玉を食らったのは言うまでもない。
寝ていないってことも含めて怒られた。
セリアさんは若い証拠ねと笑っていたけど。
何はともあれプロポーズは成功したんだ。
正式な発表はまだしない。
その辺はセリアさんが上手くやってくれると言っていた。
黒雷の魔剣士の正体はまだもうしばらく謎のままだ。
「いやー、隊長。プロポーズ成功おめでとうっす」
「今更だな。あれからもう数日経ってるぞ」
「いやいや、十日以上経ってるっす」
デュークから久々に会いたいと誘われて昼を共にしているわけだが……。
祝福は翌日報告して受けたぞ。
「まあ、何度も祝ってもらえるのはありがたいけどさ……」
「実は隊長に面白い情報があるんす」
「ほほう」
内容によるがわざわざ呼び出したんだ。
俺に有益な話なんだろう。
「吟遊詩人たちが今、はまっている歌があるらしいんすけど」
「吟遊詩人がはまってる歌?」
話が読めないぞ。
「何でもある吟遊詩人が偶々人魚に遭遇して。その人魚が歌っていた歌があまりにも美しく、聴き入っていたら、どうかこの歌を広めて下さいと人魚が直々に頼んできたって話っす」
「へぇ、人魚がねぇ」
ひょっとしてシケちゃんやミサキちゃんの仕業だったりしてな。
「歌の内容が夜の海、夜空を舞いながら愛を誓うってものなんす」
「ぶほっ!?」
飲んでいた飲み物を盛大に吹き出した。
むせながら考える、それってまさか。
「海を見下ろし、夜空を見上げて、永遠に離さないと誓おう。悩ませた分、君を笑わせよう。君と空を舞いながら僕はここで誓う……そんな歌詞だったっす。人魚の歌ってすごいっすね。人が歌っても名曲は光るみたいっす」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
めっちゃ恥ずかしいじゃねぇか!
俺はその場で叫んで頭を抱えてしまった。
周りの客から注目を集めてしまったが、デュークが何でもないっすと説明している。
何でもなくねぇよ!
俺の誓いが歌になって世間に晒されてるんだぞ。
「いやー、良い歌っすねぇ」
「お前わかってて言ってるだろ!?」
「何のことっすか」
「デュークぅぅぅぅぅ」
「いやー、歌の元になった人がいたら良いっすよねぇ。自分の誓いが耳に入ってくるんすから。絶対に忘れないっすね」
「うおぉぉぉぉ」
こうして俺の誓いは歌となり国中に広まったのである。




