勇者を説得してみた
「えぇぇぇぇぇぇぇ……げふっ!?」
ユウガは疑問の声を上げつつ、吹き飛び木に叩きつけられた。
大丈夫、手加減はしたから。
案の定回復は早く、すぐに起き上がり。
「さすがにこれは酷くない!?」
俺に文句を言ってきた。
「俺の言いたかったことは確かに伝えたぞ」
「いや、意味がわからないよ」
「言葉通りの意味だって。仕方ないなもう一回、言ってやる。俺は物語の裏ボス的……」
「もう一回言われてもわかんないって!」
何故だ、詳しく説明しないと伝わらないのか。
ならば教えてやろう。
「いいか、ユウガは魔王を倒しただろう」
「うん」
「物語だとボスを倒してもさらに強い裏ボスってやつがいてだな。俺は俺がその裏ボスっていう存在じゃないって伝えたかっただけなんだ」
「それって殴る必要はなくない!?」
「………………ないかもな」
つい、ノリで殴ってしまったんだ。
「その間は何!」
「まあまあ……俺の言葉の真意を聞かせてやるから落ち着けって」
ここからがミカナからの相談事に繋がるんだ。
文句を言っていたユウガに回復魔法をかけてやるとようやく落ち着いて話を聞く態度になった。
「さて、先程俺に全力でかかってきて見事に返り討ちにされたわけだが」
「うん……言い訳はしない。心に乱れはあったけど手は一切抜いてなかったから、完敗だよ」
手は一切抜いてなかったとか。
まあ、全力で来いと言ったけども。
「いいか。俺はユウガの敵じゃない。だけど、世界は広いんだ。魔王以上の実力を持つやつがここにいるんだから、他にもいるかもって考えるのが普通だ」
「うん」
「ユウガは結婚して人生のゴール地点に着地したと思っているかもしれないが……まだなんだよ。いつ、何処で、何が起きてもいいように勇者は準備をしとかないと」
「そんなこと言われなくてもわかってるよ。毎日鍛錬をしてるもん」
「今のユウガじゃあ俺には勝てないぞ。何度来たってカウンター決めて終わりだ」
さっきはかなり手を抜いていたからな。
強化した一発ならもっと飛んでいってた。
これには反論できないのか、ユウガも黙ってしまう。
よし、本題に入るぞ。
「いいか、ユウガ。強くなるには勇者として……夫として正しい選択をしていくんだ。そうすれば強くなれる……はずだ」
「正しい選択?」
ユウガの頭にはてなが浮かんでいる。
「まず、勇者としての自覚は置いておいて」
「それ、置いておいたらダメじゃないの」
「ユウガの場合は良いんだよ」
そこは重要な部分ではない。
もう充分勇者やってるし。
問題は別のところにある。
「問題はな。ミカナについてだ。最近は良い傾向になりつつあるがそれはミカナの体調が悪いからだろう。ミカナが本調子に治ったらまた……」
「ちょっと待って。いきなり何の話してるのさ」
「お前が家の中でミカナに隙あらばけしからん行為をしていたことは耳に入ってる」
「けしからん行為って……僕とミカナば夫婦だよ」
それを言ってしまったらおしまいだろうに。
俺は優しくユウガの方に手を置き、諭すように声をかけた。
「いいか、ユウガ。夫婦であってもな。年がら年中きゃっきゃウフフするっていうのは厳しい時もあるんだ」
例外はあるけどな。
「でも、ミカナは新婚旅行の時……」
「その時はそうだった。今はちょっと違うらしい」
「そんなことあるの!?」
「あるんだよ」
お前の嫁の現状がそれだよ。
それでもここで言いくるめないと悩み相談達成にはならない。
ラッキースケベは狙っていたものと認識させて自らを縛るようにしないとダメなんだ。
「ユウガ……嫁の心変わりに対応するのも夫の役目だと思わないか」
「え……?」
「全部に対応しろってわけじゃない。たださ、新婚でミカナもユウガも慣れない生活を始めたわけだろ。ここはさ、男の余裕を見せつけて一歩引いた態度で接するのが良いんじゃないか?」
「一歩引くかぁ。でも、僕はミカナとその……イチャイチャしたいなぁ……なんて」
やっぱりラッキースケベではなく確信犯だったんじゃないか。
それともユウガの欲望に何かしらの力が働いて望む結果に繋がっただけか。
真相は確かめようもないが、今はその行動をやめさせれば良いと。
「今回、ミカナに接しすぎない看病はどうだったかな。好評だったんじゃないか」
「それは……そうだよ。迷惑かけてごめん。でも、嬉しい、ありがとうって言われた。その後も本当にごめんて二回謝られたけど」
それは仮病に関しての謝罪だろうな。
面と向かって真実を言う勇気が出なかったのかもしれない。
その辺は体調が良くなったらミカナから話すだろう。
「今のユウガの態度がミカナにとって最適なんだよ。ユウガは窮屈かもしれないけどさ。その辺は今後上手く折り合いをつければ良い。ただ、今はさ……嫁のわがままを聞いてやっても良いんじゃないか」
これが俺から言える精一杯の忠告だ。
さて、どうでるかね。
「……うん、わかったよ。ミカナとちゃんと話してみる」
「そうか」
「あーあ……結婚してもヨウキくんとセシリアに頼りきり。情けない勇者だよね」
珍しく投げやりな態度だな。
いや、少しは自分を振り返ることができるようになったのか。
これは成長の兆しというやつではないかね。
「誰だって上手くいかないことがある。自分で気づいたり誰かに助けてもらって成長するんだ。ユウガの良さは前向きで真っ直ぐで決断力があって折れない意思があることだろう」
あれ、俺同じこと言ってないか。
「それ全部同じこと言ってない?」
ユウガからもツッコミがあった。
……うん、ここは重要ではないので無視。
「気のせいだ。話を戻すと今回、ユウガは自分の行動を振り返りミカナと話すことを決めた。あとは暮らしていく内に今日の反省が活かせられれば良いさ」
「そうか。まだこれからだもんね。しょげてられないよね。ミカナのためにも……」
良い感じの流れで話が終わりそうだ。
しかし、ユウガの様子がおかしい。
何だろう、この感じは前も経験した気がする。
「そうだよ。幸せにするって誓ったんだ。独りよがりじゃあダメだ。言いなりもダメだ。二人で決めていくんだよね。手を繋いで一緒に生涯を共にするんだから。そのためにも頑張らないといけない……」
ぶつぶつと呟くユウガから光が溢れ出してきた。
聖剣の光がユウガの体に移っているのか。
……何、この最終局面な展開。
俺が呆然として成り行きを見守っていると、ユウガはよしっ、と気合を込めて聖剣を強く握りしめた。
「ヨウキくん。もう一度僕の全力を見てくれるかな」
ユウガから発せられる光は不思議だ。
とても強い光なのに眩しくて目が眩むようなことはなく。
むしろ、見ていて安心するような気持ちになる。
このユウガの全力を魔族状態の俺が受け止めるのか。
……俺、完全に悪役じゃね?
「さっきも言ったけど俺は物語の裏ボス的存在じゃ……」
「わかってる。ヨウキくんが魔族とか前世は人間だったとか。そういうのは抜きにして……僕は僕の友人であるヨウキくんに頼んでるんだ」
「……成る程」
嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
「頼まれると断る断らない関係なしに巻き込まれるのが俺だ。……来い!」
俺は肉体強化のレベルを上げる。
この状態のユウガは未知数だ。
手加減して負けましたとかかっこ悪すぎる。
「準備はできたみたいだね……行くよ」
聖剣を構えて飛んでくるユウガ。
先程とは段違いの速さだ。
しかし、俺には見えている。
避けることも可能だが……ここは拳で受けて立つ。
今、俺とユウガの闘いが……。
「何をやってるんですか!!」
始まらなかった。




