勇者に話してみた
セシリアに大事な話をする前に。
俺は決着をつけることにした。
ミカナ仮病作戦からもう一週間は経ってる、頃合いだろう。
「よし、準備は完了だな」
まずは家で黒雷の魔剣士に変身完了。
鏡の前で確認……うむ、いつも通りだ。
ふっふっ……いやいや、今日は違う。
完全に厨二スタイルで行くのはダメだ。
少しだけ黒雷の魔剣士になるぞ。
「さて、行くか!」
俺はこっそりと家から出た。
行き先はもちろん、ユウガとミカナの家である。
ユウガだけ呼び出して打ち明けるのだ。
俺の正体についてな。
しかし、相手はあのユウガだ。
何が起こるか……未知の領域である。
不安からか歩みが止まってしまった。
こんな時は頼れる味方に助けてもらおう。
途中から目的地を変えた結果。
「というわけで付いてきて下さい!」
「わかりましたから、頭を上げて下さい」
俺はセシリアに頭を下げていた。
こんな時に一番頼りになるのはセシリアだからである。
やるべきことはあるのにないがしろにしているみたいで心が痛い。
それでもユウガは俺にとって避けられない道のようなもの的なやつなんだよ。
「ミカナにヨウキさんの正体がばれたのは聞いています。敵対することもなく好きにしたら良いと話していました。ですが、勇者様にはばれていないのですよね。何故、急に話そうと思ったんですか?」
「ユウガだけ事情を知らないってのはちょっとさ。やり残したことって感じがするんだよ」
いずれ話すことになるなら、今話したって良いだろう。
これは俺とユウガの最終対決的なやつなのだ。
まあ、他にも言いたいことがあるというか。
「セシリアには万が一のことを考えて控えていて欲しいんだ。俺とユウガが暴走した時のために」
「ヨウキさんは自分で暴走しないように自己管理できないんでしょうか」
「ユウガの出方によるかな。あとは俺の心がどれだけ震えるか……」
「私が鷲掴みにして震えないようにしましょうか?」
「いや、頑張って自制します……」
怖い発言が出たので強制終了。
周りの目を気にしつつ、ユウガたちの家に到着したんだけど。
何故かユウガが一人で家事をしているという状況。
ミカナはどうしたのかと聞いたら体調不良なんだとか。
これには俺とセシリアもこそこそと会議を始めてしまった。
「なあ、ミカナってまだ仮病を続けているのか?」
「私は何も聞いていませんが前回の来た時のことを考えると続ける必要はないんですよね」
「じゃあ、本当に体調不良ってことか」
嘘ついたら本当に体調壊したのかよ。
そんなこともあるんだな。
「二人ともせっかく遊びに来てくれたのに大したもてなしもできなくてごめんね」
ユウガはエプロンに三角巾という格好で家の掃除をしている。
料理もユウガが作っているみたいだ。
セシリアの見立てだと特に問題はなく、むしろ病人食としては完璧な仕上がりらしい。
前回はセシリアに随分ときつい指導をされていたのに嘘みたいな上達ぶりを見せている。
本当、ユウガってミカナのためなら、何でもできるようになるのな。
「それにしても体調不良って風邪なのか?」
「心配ですね。……ヨウキさんはどこで話をするつもりですか。家だとミカナがいるのでその……荒事に発展するとまずいですよ」
「俺としては荒事にしたくないんだよ。ユウガもあの調子だし、問題ないとは思うんだ」
二人で家事に取り組むユウガへと視線を移す。
ミカナが買ってきた観葉植物に鼻歌混じりで水をやっている。
……今の毒気のない状態なら何もなさそうだ。
「勇者様ならヨウキさんのことを知っても悪いようにはしないでしょう。きちんと説明しないとダメですよ」
セシリアの心配はごもっともである。
まあ、何とかするさ。
「わかってるよ。もし、何かあったら……」
「私はミカナのことが心配なので残ります」
「だよね」
セシリアに付いてきてもらった理由が変わってしまった。
やはり、男二人で話をつけるしかないようだ。
俺は意を決してユウガを誘った。
「ユウガ、実は大事な話があるんだが」
「ヨウキくん申し訳ないんだけど、タンスのそっち側を持ってくれないかな」
「えっ、ああ……」
話を切り出したのに掃除の手伝いをすることになった。
ユウガの目がマジだからさ。
断れずに小一時間手伝った。
「ありがとうヨウキくん。おかげで家中の掃除ができたよ」
「それは良かったな……」
ユウガはやりきった感を出しているが、こっちは疲れたよ。
まさか、家の隅から隅まで掃除するとは思わなかったからな。
「こちらも終わりましたよ……」
「セシリアも助かったよ」
セシリアも参加して三人がかりである。
俺は重大な話をしにきたはずなのに……。
このままでは手伝いで一日が終わる。
「ユウガ、俺はお前に用事があって来たんだ」
このタイミングで仕掛けないと違う作業に入ってしまう。
だから、俺は一気に話を進めることにした。
「用事……ヨウキくんが?」
「ああ、重要な話でここじゃあ言いにくい。付いて来てくれるか?」
「でも、僕はミカナの看病をしないと」
「私が家に残ります。ですから、ヨウキさんの話を聞いてもらえないでしょうか?」
セシリアからの援護もあり、ユウガは少し考えてからわかったと言ってくれた。
俺もセシリアも重要な話なんだと念を押したこともあってだろう。
「それじゃあ、付いて来てくれ」
「うん」
ユウガを案内したのはミネルバから少し離れた人気のない森の中だ。
ミネルバを出るのか、森に入るのか、何をするんだとか。
ここに来るまでユウガから沢山の質問が飛んできたが全て着いたら話す、で押し通した。
それでわかったというんだから、ユウガはやはり大物である。
「ここら辺なら大丈夫だな」
「何が大丈夫なのさ」
「念のためだよ……さて。着いたから話すがな。俺はセシリアと結婚したい」
「ほぇ?」
「もう指輪も買っていてプロポーズ秒読み段階といったところなんだ」
「そっか……うん、おめでとうヨウキくん!」
「まだ、プロポーズするって話だからな?」
「あ、そうだね。頑張ってヨウキくん」
「頑張って……か」
ユウガの目を見ると本気で応援してくれているのがわかる。
ユウガは良いやつだ。
困ってる人がいたらほっとけない、勇者。
「ユウガは俺とセシリアの出会いって知ってるか?」
「えっと……聞いたような聞いてないような」
どっちだよ。
「まあ、俺はセシリアに一目惚れしてさ。告白して振られて死のうと思ったら励ましてもらって惚れ直して頑張って現在に至る」
「死んじゃダメだよ!?」
そこにツッコミを入れるのか。
いや、当然の反応だな。
「その時、俺には事情があったんだよ。こういう事情がさ」
俺は魔族の証である角と翼を生やす。
ユウガは口を開けて驚いていたが、すぐ正気に戻り聖剣を召喚していた。
「ヨウキくん、君は…….」
「覚えていると思うが……俺は魔王城で戦った魔族だよ」
「そんな、ことが」
ユウガの反応を見て俺は思う。
こいつ全然、俺の正体について勘付いてなかったんだな、と。
正体を明かしたらこんなに驚かれるとは思わなかった。
まあ、これくらいの展開は想定内だ。
ユウガは聖剣を構えている。
この後の展開が重要なんだ。
「セシリアがどんな説明をしたのかは知らないけど、魔王城で俺とセシリアが二人きりになった時、俺は告白して振られたんだ。そして、わざとセシリアの攻撃を食らって死のうとしたらさ。セシリアが攻撃を中断してな。そこから俺の事情を説明することになって」
「ヨウキくんの事情?」
「ああ。俺はさ。前世の記憶があるんだよ。この世界ではない別の世界で人間として生きていた記憶がさ」
「人間として……」
「そんな記憶あったら人なんて殺せない。でも、それじゃあ、魔族として生きていけない。中途半端な俺は魔王城に形だけの幹部として引きこもっていたわけだ。無駄に力を持て余してな」
「それがヨウキくんの事情か」
「そんな俺の事情を話したらさ。セシリアは俺に手を差し伸べてくれたんだ。私と外の世界に出ましょう、ってな。玉砕したけど……そこで俺はセシリアを諦められないって思ったんだよ」
俺が本当に惚れた瞬間はあの時だったかもしれない。
あの光景は未だに俺の脳内に焼き付いている。
「そこから色々あったな。俺の元部下が押し寄せてきたり、レイヴンと友達になったり、ユウガの騒動に巻き込まれたり……」
「僕の騒動って何!?」
世の中に知らない方が良いこともある。
俺もセシリアがミカナから相談を受けていたことは黙っておこう。
「まあ、そんな感じで俺は生活してきたわけだ。さて、この情報を知って……ユウガは俺をどうする?」
「どうするって……」
言葉通りの意味だよ。
「俺がユウガに正体を明かしたのは隠したままでは進めないって思ったからだ」
「僕は……」
何やら迷いのある顔をしている。
しかし、ユウガが迷うのも想定内。
用意していた言葉を贈ってやろう。
「ユウガ、全力で突っ込んでこい」
「え?」
「急展開だ。お前の持つ全ての力を俺にぶつけてみろ」
「ヨウキくんてそんなこと言うような人……うん、人じゃないよね!?」
言い直した意味なくなってるぞ。
確かに俺は脳筋なキャラじゃない。
だが、俺にも考えるんだ。
「良いから来いよ」
俺は戦闘態勢に入りユウガを挑発する。
さすがにカチンときたのかユウガは光の翼を生やして飛んだ。
「……本当に良いんだね」
「ああ」
「よし……僕はヨウキくんが……」
何か言いながら空から特攻してきた。
俺が……何だって?
何か言いたいことがあるなら、そんな技使いながら言わないでさっき言え!
俺は言わせてもらうぞ。
「俺はな……物語の裏ボス的存在じゃねぇぇぇぇ!」
ユウガの聖剣を横にずれてかわし、拳によるカウンターを決めた。
そして、ユウガは吹っ飛んだ。




