勇者の嫁から相談を受けてみた
クインくんの問題も無事に解決。
指輪も無事にゲットしたのでプロポーズの準備も万端。
後の問題はというと。
「プロポーズってどんな感じでやったら良いんだ?」
未経験で何もわからないんだけど。
誰かのを参考にするのとかは違う。
相談するのもおかしい、こればかりは自分で考えないといけないことだ。
もし、知人のプロポーズを参考にすると言ったら。
「レイヴンの場合は旅行先でプロポーズか。どんな風に言ったのかは不明と」
ミネルバでするよりも二人きりで遠出してプロポーズするのもありか。
「ユウガの場合は……」
完全に外堀を埋めてから、公衆の面前でプロポーズと。
「……俺がやったら後でセシリアに説教を受けそうだ」
そういう派手さをセシリアは求めていない気がする。
あれはユウガだから許されるプロポーズだ。
「セシリアもユウガのプロポーズ見てたからなぁ。俺のと比べられたりしないだろうか」
普通のプロポーズですね、なんてセシリアは言わないだろうけど。
男としてもやっとする部分もあるわけで。
買った指輪を見つめながら悩むも答えは出ず。
「どうすっかな……」
時間の猶予はある。
焦って挑む必要はないはずだ。
「保留にして今は頼まれ事を片付けるかな」
ショットくんに頼まれたユウガへのお土産をまだ渡していないんだよ。
そうと決まれば早速出発。
歩きながら悩むも良い案は浮かばず。
あっという間に二人の愛の巣へと到着した。
扉をノックするも無言…-いないのか?
帰ろうかと思ったらドタバタと走る音が聞こえてきた。
「ど、どちら様ですか?」
「あー、ヨウキだけど」
「あっ、ヨウキくんなんだ。えーっと……少しだけ待っててくれるかな。本当に少しの間ね」
返事も聞かずにユウガは扉の前から去って行った。
もしかしてタイミング悪かったかな。
話さえ聞いてくれたら出直したんだけど。
ユウガはすでに去った後だったため、大人しく待つことに。
五分くらい待ったらようやく扉が開いた。
「お待たせ。さあ、入って」
出迎えたユウガは急いで着替えたって感じだった。
髪は所々ぼさぼさだし、シャツとズボンもしわが寄ってる。
お邪魔して良い雰囲気ではないぞ。
「日を改めた方が良さそうだな」
「そんなことないよ。話したいこともあるんだ」
ということで強引に家の中へ案内された。
居間は綺麗に片付いており、さっき掃除したって感じではない。
毎日こまめにしているんだろう。
枕やコップに帽子とペアグッズが目立つ。
夫婦関係良好のようだ。
万が一もないだろう。
「ほら、これ。ブライリングに行ったらショットくんに会ってな。ユウガに渡してくれと。結婚式に参加できなくて申し訳ないってさ」
ショットくんから託されたお土産をユウガに渡す。
中身を確認して嬉しそうな笑顔を見せている。
新しいペアグッズが増えて良かったな。
「そっかショットくんが……ありがたいな」
何処と無く元気がない。
何かあったのか?
「悩みか」
「そうなんだよ、聞いてくれる!?」
急に元気になった。
帰って良いかな。
「最近ミカナが冷たいんだよ」
まだ聞くって言っていないのに相談が始まった。
つーか、ミカナが冷たいって。
「そんなわけなくね?」
新婚旅行はなんやかんやあったけど最終的に良い感じに収まったじゃないか。
ユウガがおかしくなるのは想像できるけど逆はできないぞ。
「そんなわけがあるんだよ。今日だってせっかくの休みなのにさ……」
「こらー!」
居間にミカナが乱入してきた。
こっちも身支度が完全に整えられていない。
部屋は綺麗なのにどうしたんだ二人とも。
「余計なこと言ってないでしょうね……」
ミカナは真っ先にユウガに詰め寄って胸倉を掴んでいる。
この時点で尻に敷かれていることは確定だ。
余計なことって何か問題でもあるのか。
つーか、全く冷たくないだろう。
傍から見たら冷たいどころか熱すぎるくらいじゃね。
「ミガナ……ぐるじぃ……」
魔王を倒した勇者が嫁の首締めにより倒れようとしている。
これも良い記事になるんじゃね。
うんうんと頷きながら成り行きを見守っていたら、ユウガからヘルプサインが。
「ヨ……ヨウギグン……」
限界である。
「そろそろ放してやったら?」
「あっ、そういえばいたのね」
ミカナが俺の存在を再認識したところでようやくユウガが解放された。
手を放した瞬間、崩れ落ちるユウガ。
「新婚生活って俺が思ってる以上に殺伐としているんだな」
「勘違いしないでよ。いつもはこんなじゃないから」
「甘々な新婚生活ということか」
「まあ、当たってる……わね」
幸せな新婚生活を送っているらしい。
恥ずかしがってる妻と床に倒れてピクピクと痙攣している夫。
……幸せらしい。
「そんな幸せな旦那はどうして嫁が冷たいなんて相談してきたのやら」
「そこはちょっと……ね。できればセシリアも交えて話したいんだけど」
男の俺だけでは問題があると。
いや、結婚したばかりの人妻の相談とか俺一人には荷が重いな。
「じゃあ、今から行ってみるか。いるか分からないけど」
「いるはずよ。ちょうど今日約束しているし」
「何とも都合の良いことで」
「あんたが合わせてきたようなものじゃないの。すぐに支度するから待ってなさい。……余計なこと言いそうだから回収するわね」
ミカナはユウガを引きずり隣室へ。
居間には俺一人が取り残された。
うーむ……どういう話なんだろうか。
セシリア交えてって言ってたから深くは聞かない方が良いのだろう。
待っていると身支度を整えたミカナだけが部屋から出てきた。
「さ、行くわよ」
「ユウガは?」
「……枕を抱きしめて寝てるわ」
抱きしめてる枕ってあれかなぁ。
隣室へ目を向けていたら早く行くわよと急かされたので家を出た。
深く聞いたら怒られそうだし確認はしない。
道中も特に何も聞かず、セシリアの屋敷に到着。
セシリアの部屋にてようやく話を聞くことに。
「それでミカナが話したいこととは何なのでしょう。詳しくはこの場でとしか聞いていませんでしたが」
セシリアが切り出すと言いづらそうにしつつもミカナが口を開いた。
「その……あの新婚旅行からね」
「はい」
「ユウガがすごく構ってくるのよ。見境がなくなっちゃったみたいで」
「へぇ」
「それが悩み……二人ともその顔は何!?」
「顔は何って言われても……なぁ?」
「はい……」
それって惚気じゃないのか。
話しづらそうにしていたから、何かと思ったらさ。
蓋を開けたら旦那が構ってくると。
しかも、見境がないくらいに……良いじゃないか。
新婚旅行前は真逆のことを心配していたんだ。
望みが叶ったと受け入れるべきだろう。
「それは幸せ者故の悩みだ」
「そうですよ。勇者様がミカナのことを大切にしている証です」
「よっ、勇者嫁!」
「これからもお幸せに」
「……あんたら一発ずつ拳落とすわよ」
悪ふざけが過ぎたか。
セシリアがやり過ぎましたねと話してくる。
こういう冗談にのるのは珍しいな。
相手がミカナだからかね。
「それで何が問題なんだ」
「だからさっき説明したじゃないの」
「惚気じゃないのか」
「こっちは大真面目よ!」
「ミカナが望んでいたことではないのですか?」
「……朝起きたら高確率で寝る前には着ていたはずの寝巻が脱げているわ」
「は?」
「アタシが着替えていたらこれまた高確率でユウガがこけてアタシに倒れこんでくるわ」
「えっ……」
「まだあるわよ?」
その後も沢山のエピソードを惜しげも無く披露するミカナ。
夫婦だし……で納得するにも限度があるものもあった。
「……この世界には魔法だけでは説明のつかない力があるっていうことが証明されたな」
「はい。私もそう思います。解き明かすのは無理そうですね」
ユウガはそこまで器用ではないからわざとという線は薄い。
ただ、ユウガがミカナを求めている求めていないに限らず無差別に起こるわけだからな。
ミカナが疲れるのもわかる。
ユウガは無自覚だから本当に求めた時に断られて冷たくされたと思っていると。
「ちょっ、諦めないでよ!」
こればかりはどうしようもないな。
嫁の特権ということで頑張れとしか。
「もう自分も楽しむという選択肢があるぞ」
「アタシだってユウガを拒絶するわけじゃないわよ。ただ、今は良いかもしれないけど。この現象が公の場で起こり始めたら……」
現象って言っちゃったよ。
まあ、今は家の中だけで済んでいるみたいだが。
街中で起きたら事によってはまずいよなぁ。
セシリアも俺と同じ事を思ったのか目を見開いてこちらを見ている。
俺は俺でプロポーズがあるんだけどなぁ。
懐に忍ばせている指輪の入った箱を握りしめる。
まだ、渡せそうにないな。




