吸血鬼に任せてみた
今年最後の投稿となります
クインくんが語った内容は憧れていたお姉さんの婚約が決まった。
お姉さんには幸せになってほしい。
最近、暗い顔をしていたので明るくなったのは良いのだが心境が複雑。
踏ん切りがいまいちつけられないというもの。
「ふむ……そういう話か」
「はい。僕としてはハピネスさんが嬉しそうにしているので祝福したいんですけど」
もじもじしながら答えるクインくん。
その言葉に嘘はなさそうだ。
「何故、できないのかな。君は自分で気持ちを整理してどう相手と接するかも考えているように見える。君に足りないあと一押しは一体何なのだろうか」
それ必要かと言いたくなる身振りを入れてカイウスはクインくんに尋ねる。
しかし、クインくんは自分でもわからないようで黙ったままだ。
待っても答えは出ず……カイウスが再び話し始める。
「君は普段から勉強熱心で真面目に生活しているんだろう。その分、今回の件では頭では理解していても感情が邪魔をしていて妙な取っ掛かりが生まれているんだと思う」
さすが恋のキューピッドだ。
分析は完璧に近く、クインくんも驚いた様子で首を縦に振っている。
問題はそこからどう行動して吹っ切るかだな。
「はっきり言わせてもらうが……君はまだ子どもだ。社会的な責任を取ることはできない。きっと相手以上に彼女を幸せにすることは不可能。そこは理解してほしい」
「はい……」
子どもに容赦なく現実を叩きつけるな。
ちょっと落ち込んでいるんだけど。
これじゃあ、また早く大人になりたいって言い出すぞ。
「でも、子どもは子どもで許されている権利がいくつかあるんだ。その中に大人には少しくらい甘えても良いという権利がある。……どうだろうか、この際彼女に甘えてみるというのは」
「甘える……ですか?」
「君の想いを伝えて吹っ切りなさい」
「えっ……」
「言いようのないモヤモヤを抱えているならいっそのこと想いを伝えてスッキリするべきだ」
「それはかなり厳しいですよ。ハピネスさんをこまらせてしまうじゃないですか。それに……」
「それに……何かな。後の言葉の方が本音だろう」
カイウスにはお見通しのようだ。
俺もなんとなくだけど、わかるな。
ハピネスを理由にして本音を隠そうとしている感じがさ。
「逃げるな、ぶつかれ。その経験が君を強くする。君が彼女に憧れたことを無駄にするな。吐き出すんだ。自分はそういうキャラじゃない、迷惑をかけたくない。そんなものは言い訳だ。伝えたいことを伝えて……それから彼女の幸せを願えば良いんじゃないか?」
「僕は……すみません。考えさせて下さい。ヨウキさんもありがとうございました。ちょっと一人で街をぶらついてきます。集合場所には時間通りに行くので」
クインくんは重たい足取りで部屋を出て行った。
あんな状態なのに一人にして大丈夫かな。
「時には一人で考えたくなることもあるさ。子ども大人関係なくね。私にできることはやった。あとはあの子が決断することだ」
「子どもに随分難しいことを要求したもんだな」
「言ったろう。子どもだからこそ、今の内にできることがあるのさ。失恋も立派な経験。どう乗り越えるかであの少年の成長にもなる」
「そんなもんなのか……」
やはり、カイウスのところに連れてきて正解だったか。
あとは帰ってクインくんがどう行動するかだな。
「ところで、出かける準備をしていたよな。俺は相談ないしお暇するよ」
「おっと、気を遣わせてしまったようだね。実は最近、恋のキューピッド以外もやっていてね。そちらが忙しいんだよ」
恋のキューピッド以外って……何だ。
副業的なやつかね、本職が恋のキューピッド……うーん、こっちが副業じゃね。
「何を始めたんだ」
「実は恋の相談だけでなく結婚に関係のあること全般の仕事をしているんだよ」
「結婚に関係のあること全般?」
範囲が広すぎてよくわからないんだけど。
「式場、段取り、余興の手配等いくつか候補を挙げてこれから結婚する相手に提案するのさ。恋の終着駅、それが結婚式だ。そんな晴れ舞台を設定する……まさに恋のキューピッドである私の使命だと思わないかい?」
棺桶からバツの書かれた札が出てきて揺れている。
シアさんはそこまで思ってないみたいだぞ。
まずは嫁に理解してもらわないと。
俺に同意を求めてきているように見えたので棺桶から出ているバツの札を見るように指差した。
特に驚くことなく、カイウスは笑みをこぼす。
「ふっ、そう言って君もアクセサリーのデザイン決めを楽しんでやっているじゃないか」
棺桶から!?の書かれた札が出てきた。
新しい札作ったのか。
直接話した方が早いだろうに。
「私は知っているんだよ。君が夜な夜なこっそりと机に向かって頑張っているのをね。そんな君の姿がとても可愛らしくて……」
棺桶がガタガタと激しく揺れ出した。
恥ずかしがっているのかわかんないけど出してあげたら良いのではないか。
しかし、カイウスは棺桶に語りかけるだけでシアさんを解放する気はないらしい。
「君の考えたもののいくつかは商品化が進んでいるんだ。黙っていてごめんね。ショットくんに協力してもらっていて宣伝もこっそりしているから」
さらに激しく棺桶が揺れ始めた。
事情わかってるから別に良いけど、何も知らない人から見たらかなりホラーな状況だよな。
激しく揺れる棺桶に笑顔で話しかける吸血鬼。
実際は旦那が嫁に嬉しいイタズラしてたよって話。
これは一応声をかけて立ち去るのが良さげか。
「じゃあ、俺は帰るわ……」
「ああ。また、恋の道に迷ってしまったら私を頼ると良い。結婚後の相談も承っているから気にするな」
「もう少しかかりそうだよ」
「頑張りたまえ!」
はっはっは、と高笑いするカイウスに後ろ手バイバイで別れて廃城を出た。
「さて、思ったよりも早く用事が片付いてしまったな。どうするか。腹減ったしその辺の店で軽く食べるか」
一人行動は少し寂しい……そんな思いが通じたのか。
飯屋を探していると知り合いに会うことができたのだ。
初めてブライリングに来た時、馬車で知り合った老夫婦の夫グラムさんだ。
「久しぶりだのぅ、ヨウキくん。元気だったかい?」
「はい。まさか、グラムさんに会えるなんて」
「わしもヨウキくんに会えるとは思っとらんかったよ」
ちょうどいいので店に入って軽く話すことになった。
グラムさんも聞いてもらいたい話があるみたいだし。
内容は孫娘のことだ。
なんと、ショットくんはまだ諦めていないらしくアプローチを続けているらしい。
「わしらの可愛い孫娘にしつこく付きまとっていてのぅ。その内、孫娘もころっと付いていかないか心配でのぅ」
「成る程」
「最近はあの領主の馬鹿息子も馬鹿とは呼べなくなってきたがのぅ。廃城の伝説は存在したと公言して新たな商売をしていてのぅ。花を扱うから手伝ってほしいと頭を下げて来た時は驚いたわ」
ショットくん、真面目に更生しているじゃないか。
カイウスも言っていたし、来る時に道が混んでいた原因はこれか。
「それでどうしたんですか?」
話の流れ的にくわで追い返したが妥当だと思っているけど。
「何度か追い返したんだがのぅ。それでも誠心誠意頭を下げて孫娘の力が必要だと言われたらのぅ……こんなじじいがとやかく言うもんではないと。孫娘の判断に任せた。女性にだらしない噂もなくなったこともあって孫娘も手伝いを快諾したわ」
ショットくんの裏にはカイウスがいるからな。
グラムさんの孫娘にその気があるなら……わからないぞ。
「わしは孫娘が幸せになるならそれでいいのぅ。わしもオリエと苦労した。だが、苦労した分幸せだった。苦労だけして終わりなんてことになってほしくないのぅ……」
過去に色々あったと聞いたことがある。
一歩間違えたらグラムさんはオリエさんと引き裂かれていたかもしれないんだ。
そのことを考えたら……。
「まあ、あの馬鹿息子が孫娘を不幸にしたら、わしが死んでいてもくわを持って襲いに行くがのぅ」
「なんてことを考えてるんですか」
孫娘大好きなのはわかるけど、それは止めましょう。
「わしは孫娘の幸せを第一に考えているからのぅ。絶対に幸せにするという気概を見せないと。わしの目が黒いうちは許さんのぅ」
「幸せにするという気概ですか」
俺、セシリアに見せられているだろうか。
いや、この場合はセリアさんか。
許してもらったとはいえ甘えていたりしてないよな。
「ヨウキくんも男なら覚えておくべきだのぅ」
「はい、ちゃんと幸せにしてみせます……あっ」
俺は飯屋で何の誓いを立てているんだ。
周りが俺を見てにやにやしている。
変な誤解を生んでないか、これ。
「いくらヨウキくんでも孫娘は簡単にやらんのぅ」
「いや、グラムさん。にやついてるの丸わかりですからそういうの止めてくださいよ……」
その後、セシリアについて聞かれたので名前は出さず。
大切な人だと伝えたら、優しい笑顔で何度も頷かれた。




