少年を案内してみた
セシリアと別れてクインくんを迎えに行くとすでに旅支度を終えて玄関で待っていた。
ソフィアさん、旅支度を終えるの早すぎないですかね……。
「よし、行こうか」
「はい。ご迷惑をかけないように気をつけます」
こうして屋敷を出たわけだが街を出る前に寄るところが一箇所ある。
「一応クレイマンにも一言言ってから出よう」
「父は特に気にしないと思いますよ」
クインくんの予想通り。
「おー、行ってこい行ってこい」
特に気にする様子はなく、受付で突っ伏しながらの返事で終了。
適当過ぎるだろう、もう少しなんかないのか。
「だから言ったではないですか。父は特に気にしないと。むしろ家での力関係が傾いて嬉しく思っているんじゃないですか」
「力関係?」
「だらけたい父とフィオーラ。それを叱る僕と母。僕がいなくなれば母一人で二人の面倒を見なければなりません。出かけるにあたって非常に心残りです……」
こんな幼い息子に気を遣わせて何も思わないのかこの男。
シエラさんに目配せすると首を横に振っている。
事情は何となく察してそうだ。
ソフィアさんに仕事中だらけていましたと密告してもらおうかね……ん?
「これは……」
「どうかしたんですか、ヨウキさん」
「いや、何でもない」
クインくんに言ったら何でわかったんですかって言われるし。
だらけたままのクレイマンに今夜から大変だぞと言い残してギルドを出た。
そこからは乗合馬車に乗って旅の始まりだ。
ブライリングって馬車でも四日かかるからなぁ。
「さてと」
俺は聴覚を強化して馬車の後ろを走ってくる者たちの声を盗み聞く。
「行けー、走れー」
「守り神様を一人にして大丈夫でしょうか。伝言は頼みましたがしっかり伝わるでしょうか。守り神様に妙な勘違いをされないでしょうか。やはり、今から戻る……いいえ、私には目的があるのです。会えないのはほんの少しの間。ああ、守り神様……」
「どのくらい走るの……頑張れるまで走るの。うん、頑張るの……」
ちゃっかり三人付いてきているよ。
いやいや、フィオーラちゃんに負担かけすぎ。
式神がどれだけ保つのか知らないけど、四日かかるんだぞ。
「全く……」
「どうかしたんですか?」
「次の休憩地で旅仲間が三人増えるから」
「はい?」
ソフィアさんに任されたし、三人増えても構うものか。
休憩地に到着した瞬間、さくっと走り込んで三人を捕獲。
シークの首根っこを掴んで事情を聞いたらクインくんだけ旅行に連れて行ってもらえるのが羨ましいと。
傷心旅行だぞ、羨ましいか?
できれば体験したくない経験だろうに。
シークが行くと言うともれなく二人も付いてきたと。
ソフィアさんには報告済みらしいし、いいや。
クレイマンも久々に夫婦水入らずの生活ができて満足だろ。
四人の子守をしながらの旅路は経験がなく、不安だったが実質シーク一人の子守みたいなものだったので負担はいつも通り。
珍しい薬草がありそうだからって森の中に入るの止めような。
そんな感じで旅は続いたがクインくんは上の空状態が目立ちフィオーラちゃんを支えられていなかった。
ツッコミが遅いの、精進するの! と言われていたなぁ。
今はそっとしておいてやってくれ……。
そんな感じで旅は進み、ブライリングに到着したのは予定日の昼過ぎだった。
「本当は昼に到着するはずだったんだけど」
ブライリングへ近づくにつれて道が混んでいったからな。
何でこんなに混んでいるんだ。
恋のキューピッド大忙しとかじゃないよな。
「さっき軽く済ませたけど改めて飯食いに行くか?」
道が混んでたから保存食で済ませたんだよな。
「私たちは大丈夫なの!」
「ヨウキさんはクインくんと用事があるんですよね。では、日が落ちる頃に町の広場で集合ということで」
シークはぶーぶー文句を言っていたが二人に腕を取られて引きずられていった。
片方はガーゴイル信者、片方は知識欲満載か。
まあ、両手に花とも言えるから……。
「はぁ……」
三人の後ろ姿をクインくんが何とも言えない顔で見送っていた。
シークと比べると対照的に見える。
モテモテ……というわけではないけど思うことがあるだろう。
一刻も早くカイウスのところへ連れて行かねば。
テンション低めのクインくんを連れてカイウスのいる廃城へ。
「ここは……廃城ですか。こんなところで何をするんです」
「ここでクインくんは何かを掴むことができるはずだ」
早速中へ入る。
相変わらず廃城なのに綺麗に掃除しているな。
クインくんは落ち着かないのかキョロキョロと周りを見渡しながら歩いている。
良いぞ、気分転換になってるな。
廃城なんて歩いたことないだろうし、年相応の好奇心が反応しているのか。
計画は順調……ついにカイウスのいる最上階の部屋へ到達。
「さて、着いたぞ。カイウスー」
部屋の扉を開ける。
そこには外出の準備をしているカイウスとシアさんの姿があった。
この二人の外出準備……うん、カイウスがシアさんを縛り猿轡を噛ませて棺桶に入れようとしているところに遭遇。
慌てて扉を閉めるも時すでに遅し。
「ヨウキさん……これが僕に教えたかったことなんですか」
「いや、違う」
「僕はハピネスさんの幸せを奪うような選択はしたくありません」
「そうじゃないって。君は今とても誤解をしている」
目に見えたものだけが真実とは限らないからさ。
事情を知らないクインくんにとっては衝撃映像だったけども。
俺もどうして確認してから扉を開けなかったんだ。
後悔してももう遅いし、カイウスも交えて説明しよう。
もう一度扉を開けると。
「やぁ、今日は一人ではなかったようだね」
「こんにちは」
何事もなかったかのように二人が挨拶してきた。
いやいや、ついさっきまで拘束されていたはずだよな。
「えっ、えっ!?」
クインくんもパニクってる。
俺もよくわからないから説明できない。
「さて、今日の相談は……」
「待てや。どういうことだよ」
「どういうこととは?」
カイウスは俺とクインくんの疑問が本気でわかっていないらしい。
どう考えてもおかしいだろう。
再度部屋に入るまで三十秒も経っていなかったのに。
「あの、僕にはそこにいる女性が縛られて棺桶に入れられそうになっているところを見たと思うんですけど」
「ああ、そういうことか。それでは一度後ろを向いてくれ」
言われるがままに後ろを向く俺とクインくん。
二十秒程でもういいと許可が出たので振り返る。
そこには先程までいたシアさんの姿はなく、棺桶がガタガタと揺れているだけだった。
……うん、そういうことか。
「それじゃあ、相談なんだが」
「えっ、話を進めるんですか」
「良いんだ。ほら、棺桶を見てみろ」
俺が指差すと棺桶からマルの書かれた札が出てきた。
シアさんからの了承を得られているから大丈夫。
「ヨウキさんの紹介で申し訳ないんですけど不安になってきました」
「安心してくれ。カイウスはその道のプロだから」
「はっはっは。私の名はカイウス。この廃城で迷える子羊を導く恋のキューピッドをしている者だ。少年、君の悩みを聞こうじゃないか」
「えっと……」
最初の出会いから失敗したせいか不信感があるみたいで話そうとして止まってしまう。
偶然とはいえ強烈過ぎたか。
「ふむ……まあ、座るといい。立ち話で終わるような相談ではないだろう。それならここには来ていないはずだからね。私は君とは初対面だ。話しづらいこともあるだろうから、自分の話せる範囲で話すといい」
「あの……僕……」
「君のような年の子でも恋に悩むことはある。恥ずかしいことじゃない。誰もが通る道、早いか遅いかの違いしかないんだ」
「実は……」
クインくんがゆっくりと今の心境について語り出した。




