表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
286/420

恋人と頑張ってみた

俺はウッドワンという記者を過小評価していたらしい。



「待ってくださーい! 是非……是非取材ぉぉぉぉぉぉ!!」



「まだ追ってくるだと!? この黒雷の魔剣士とセシリア名物。お姫様抱っこ屋根伝い走法を見ても諦めないとはどういうことだ」



「この状況では何からツッコミを入れるべきか判断に困りますね」



こんな状況でもセシリアは冷静である。

どうしてこんなことに……って考えるまでもないくらい簡単な話。



レイヴンとハピネスから遠ざけるため、わざとウッドワンの前に現れたらこうなった。



適当に撒いて終わりにするはずだったのに凄まじい持久力と脚力で追いかけてきている。



偶然会った……ということにしているので取材はなしでと言ったのにな。

聞いちゃいないよ。



「お願いです。五分でいいですから取材を……お願いしますからー!」



「諦める気が全く無さそうなんだが」



「そうですね。もう取材を受けてしまっても良いのではないですか?」



「いやいや、まだ黒雷の魔剣士とセシリアの関係を世間に語るのは早い」



「………………そうですか」



その長い沈黙はどう捉えれば良いんだろうか。

リアクションに困るなぁ。

なるべく早く要望に応えないとならないとはわかっているんだけど。



「それでこの状況はどのようにして収拾をつけるのでしょうか」



「それは……うむ」



驚異的なスタミナは衰えを知らないのかまだ追いかけてきている。

その脚は他の仕事に役立つのではないか。



俺は別に疲れていないけど変に周りから注目を浴び続けるのも嫌だな。

仕方ない、セシリアには少し我慢してもらおう。



「ごめん、セシリア。一旦、路地裏に入ろう。そしたら魔法で姿を消すよ」



「わかりました」



「そしてウッドワンを何とかしてくる」



「何とか?」



作戦を話す前に路地裏に降りたので魔法でセシリアの姿を消す……前に黒雷の魔剣士の衣装も脱いで渡した。

今の俺はヨウキだ。



「待って下さいっ……あっ、あれ?」



何も知らずに路地裏に来たウッドワン。

黒雷の魔剣士とセシリアを見失って困惑しているようだ。



「すんません、そこのお兄さん。屋根伝いに走っていく黒雷の魔剣士さんを見ませんでしたか。おそらく聖母様を横抱きにしていたかと……っ!? なんか急に寒気が」



その寒気は目の前に姿を消しているセシリアがいるからだろうな。

その二つ名、セシリアには禁句だから。



寒気を我慢するかのように自分の身体を抱きしめるウッドワン。

それでも取材は続行するらしい。



「そっ、それで二人の姿を見かけたりは」



「あー……見かけたけどさ。なんか二人で急いでる様子だったぞ」



「急いでる……?」



「なんか今日しかないとか、せっかくのお忍びだとな」



必殺、やっとの休暇だから横槍はやめてね作戦だ。

見えていないはずなのに、セシリアからのそれ通用するんですかという視線を感じる。



大丈夫、ウッドワンだってこれくらいの気持ちはわかるはず。



「お、お忍び……それはやっぱり他の記者も入手していない。今日しかないってことは次に二人が揃ってデートする日は遠い。つまり……今日を逃したら、次の機会がいつになるかわからないってことじゃないですか! こうしちゃいられない。二人は、二人はどっちの方向に!?」



作戦失敗の結果、状況が悪化した。

俺の肩を掴んで揺さぶってくるウッドワン。

脳が揺れるから止めてほしい。



セシリアのため息をついている姿が目に浮かぶ。

くそっ、俺はこんなもんじゃ終わらないぞ。



「あー、実は俺も何処に行ったかわかんなくてさ」



秘技、すっとぼける。

これには何も言えないだろうよ。



「いやいや、そんなことあるはずないじゃないですか。さっき見かけたって言いましたよね。それに少なくとも声だって拾っているわけだし方向くらいはわかるはず。知ってるのに教えないのか ……お兄さんまさか!?」



益々状況が悪化しました。

このままじゃ最低でも関係者って思われちまう。



どうしようセシリア……ってセシリアの姿は消しているんだった。



俺を掴んで離さないウッドワンの前では逃げることもできないし。

絶対絶命の中、路地裏の奥から何かが倒れる音と共にそろそろ降ろしてください魔剣士さん、と言うセシリアの声が聞こえた。



「今のは聖母様の声。すんません、失礼します」



待って下さーいと声の聞こえた方向へ向かってウッドワンは去っていった。



「ありがとうセシリア。助かったよ」



魔法を解除すると黒雷の魔剣士装備一式を抱えたセシリアが姿を現した。

ちょっと怒ってるっぽい。



「全くもう……私が機転を効かせて声を上げていなかったらどうしていたんですか」



「本当に助かったよ。ありがとう」



「……まあ、良いです。ほら、着替えて下さい。デートの続きをしましょうよ」



「了解です」



セシリアから黒雷の魔剣士装備一式を受け取り急いで装着。

それにしても、デートの続きをしましょうよ……か。



「私の顔に何かついてます?」



「いや、何でもない」



そんなこと言われたら可愛いって思ってしまうじゃないか。

ヘルメット、今日は大活躍しているな。

素顔を見られていたら誤魔化せなかっただろう。

危ない危ない……。



「今、何か誤魔化しましたね」



「はっ!?」



「ヨウキさん、わかりやす過ぎですよ。もう少し隠す努力をしないと」



どうやら、ヘルメットだけでは動揺を隠し切ることはできなかったようだ。

セシリアに笑われてしまい思わず天を仰ぐ。

努力して何とかなるもんなのか。



「修行しよう」



「まあ、私はヨウキさんが努力してもその努力を水の泡にしてしまうでしょうね」



「酷くないか、それ」



「悔しかったら精進して下さい。これのことだってあからさまでしたし」



目の前に広げた手を見せてくるセシリア。

やたらと薬指を主張しているので言いたいことは昨晩のことだろう。



「それに関してはもっとやりようがあったと反省している」



「その反省を次回は活かせると良いですね」



「はい……」



セシリアの前では黒雷の魔剣士も形無しだな。

改めてセシリアのすごさを知ったな。



「それじゃあ、行きますか」



着替えも終わったところでセシリアとのデートに戻った。

その後もウッドワンから追いかけられては黒雷の魔剣士の能力と偶々通りかかったヨウキとを使い分けて突破。



ウッドワンも諦めるということを知らないのかね。

追いかけられて気がつけば夕方だよ。



「もうそろそろ諦めるかな」



「そうですね。夕食時ですし。ずっと走り回って体力の限界もあるかと」



二人でそんなことを話していたら、ウッドワンの声が聞こえた。

まさか……な。



「本当に……本当に少しで良いんで……」



フラフラな状態で走ってくるウッドワン。

もう限界は近そうである。

それでも諦めないようだ。



「なんか……悪いことしている気分になってきた」



「私もこのまま彼が何も得ることが出来ずに一日を終わらせてしまうのかと思うとちょっと……」



よくわからない罪悪感に悩まされる羽目に。

無視して良いんだろう……けどなぁ。



「根負けしちゃおうか」



「そうですね……ただ、発言には注意して下さいよ。一度言った言葉で何がどうなるか分からないのですから。私でも挽回できることとできないことがあるので」



「わかってるって」



半日追いかけ回された結果、取材を受けることにした。

了承したらウッドワンが半泣きしつつお礼を言ってきた。



拭くものは持ってないのに……あっ、大事なメモ帳で拭きやがった。

取材道具で鼻噛むなよ。



「そっ、それでまずは二人の関係がどこまでなのか」



「恋人です」



セシリアがはっきりと答える。



「えっ、えっと。公の場では黒雷の魔剣士さんがパートナーと話していたと思われますが」



確かにそれだと仕事上の付き合いと思う輩がいるかも……俺として恋人宣言だったんだが。



「仕事上のではない。人生のパートナーだ」



「ま、まじっすか。あっ、すんません、つい……」



「大丈夫ですよ。落ち着いて下さい。まだ時間はあるので」



セシリアの溢れる良い人オーラがウッドワンを包んでいる。

その姿はやはり……。



「魔剣士さん?」



「いや、何でもない」



本当、頭が上がらなくて困るな。



「今のやり取りについて詳しく聞かせてもらっても……」



おい、そこは深く掘らなくても良いところだよ!

セシリアの目が笑っていないから止めてくれ。

はらはらしながら取材に応じていると。



「……俺たちも混ぜてもらっても良いだろうか」



「……追加」



何故かレイヴンとハピネスがやってきた。

いやいや、何で合流したんだよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どうしてもゴシップを書く人間は人のプライベートを覗き見て周りの人に広めたい性根の悪い人間にしか思えない……
[気になる点] マスコミを通じて世論を動かすつもりなら止めといた方がいいと思うがなぁ……どうも胡散臭いし。
[良い点] ウッドワン執念の勝利! さあ色々聞いてある事を書きましょう! ない事は書いちゃダメよ? ・・・意味の曲解もダメよ? [気になる点] お、まさかの2人も取材に合流とは セシリア達と同時にばら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ