恋人にばれてみた
今、俺はピンチを迎えている。
指のサイズを測らねばと考えすぎていたからか、手を握ったら無意識に薬指のサイズを測っていた。
それも絶対にばれるだろうという薬指を人差し指と親指で輪を作るやり方。
セシリアに鈍感というステータスはない。
むしろ俺の知り合いの中で常識人の最頂点に君臨しているレベルだ。
もう正直に言うしかないよねという状況。
誤魔化せるなら誤魔化したいところだが……一応やってみるか?
「ふっ、これは俺が流行らそうとしている恋人の絆がより深まりそうな手の繋ぎ方……」
「嘘ですね」
即バレ。
いや、いくら何でも結論付けるのが早すぎないか。
「ふっ、とヨウキさんが前置きを入れるタイミングは限られていますから。この状況だと自分の意見を無理矢理押し通すため、自分なりに心のスイッチを入れようとした、といったところでしょう」
馬鹿な、そこまで読まれているだと。
これでは厨二スイッチが永遠に封印されたも同然ではないか。
まあ……そろそろそういうのは卒業しないといけない時期だけども。
勢いに乗り出す前にぶった切られるとは思わなかったなぁ。
「俺の負けだわ」
「私の勝ちですね」
「いやー、さすがセシリア。今後が心配になるよ。隠し事とかできなさそうだ」
「私に隠し事をする予定があるんですか?」
「いやいや、そんなまさか」
変な意味で受け取らないでほしい。
「ですよね。……それで、先程のあれなんですけど」
このまま話を脱線させられないかなって思ったけど現実はそんな甘くない。
セシリアの責めからは逃れられないようだ。
だったら男らしく開き直ってみるか。
「ああ。あれはセシリアの指のサイズを測っていたんだ」
ストレートに白状する。
これにはセシリアも少し驚いたようだ。
だってもう誤魔化せそうにないし、下手な嘘をつくのも悪いし。
サプライズ感が無くなるけど言い訳ばっかする男になりたくないという話。
「指輪を買いたくても指のサイズがわからないとダメだろう。せっかくプロポーズしたのに指に合わないなんて最悪じゃないか。というわけでセシリアの指のサイズが知りたくて行動に出たわけだ」
「そ、そういうことだったんですね」
言い切ってやったぞ。
言い訳なし、気持ちをぶつけたのが良かったのか?
セシリアが動揺している。
これは貴重なシーンだ。
畳み掛けるべきか引くべきか……。
いつもならこの後はセシリアのターンだが。
「ヨウキさん……ちゃんと考えてくれていたんですね」
「えっ」
セシリアの中の俺ってそんな評価だったのか。
「いやいや。誤解しないで下さいよ。ヨウキさんが何も考えていないとかそう意味じゃなくて。その……ギルドでパートナーだって宣言したじゃないですか。私はあれがそういう意味だと捉えていたわけです」
「あれだけじゃ物足りないだろう。そこは普通、景色の良い場所で二人きりの時に指輪を渡してプロポーズ……」
言っちゃったよ。
何してんだ俺、何してんの本当に。
思わずこうしよっかなって考えていたプランを口に出してしまった。
俺の表情を見て察したのかセシリアも固まってしまい微妙な空気になる。
沈黙……こういう時には何を言えば良いのやら。
必死に頭を回転させる。
「……ふふっ」
「へ……?」
このタイミングでセシリアが笑った。
何か可笑しなことがあったか。
ただ、二人で気まずくなって黙る。
そんなシーンだったんだけど。
「本当にヨウキさんらしいですね」
「あー……そういうことね」
セシリアが笑ったのは俺らしい行動だと思ったから。
俺としては反省しなくてはならないことなのに、セシリアはこの状況が楽しいらしい。
「私の指のサイズなんてソフィアさんやお母様にこっそり聞けば解決したのでは?」
「あっ……」
確かにソフィアさんやセリアさんなら知っていただろう。
装飾品の管理とかあの二人ならばしっかりしてそうだし。
無理して自分で調べなくても良かったんだ。
「そういうところですよ、ヨウキさん」
直さなくてはならないはずの俺の空回りな行動。
直せと指摘されているのにどうしてセシリアは笑顔なのか。
「それは……どういう意味?」
「そこは自分で考えて下さい。全部教えたらつまらないではないですか」
女心って難しい。
ハピネス、今度は俺を助けてくれ。
「私だってヨウキさんの知らないところはまだまだあります。これからお互い探り合っていきましょうね」
「それは……楽しそうだ」
「でしょう? 今回私はヨウキさんが私にプロポーズの計画を立ててくれていることがわかりました」
「俺としては驚かせてみたかったんだけどな」
「今、充分驚きましたよ。……でも、ヨウキさんがそう言うのなら。私がプロポーズされると知っているにも関わらず驚いてしまう。そんな計画を立ててみて下さい」
これはセシリアからの挑戦状というやつか。
知られている上でのサプライズ。
頑張ってみるか。
「いつ、行われるかわからないぞ?」
「待ちますよ。何年でも」
「それは待ちすぎ」
「ですね」
最後は冗談を言って笑い合った。
何はともあれ、セシリアの指のサイズを知ることができた。
プロポーズのハードルは上がったけどな。
セシリアが嬉しそうだから、良いか。
隣の部屋でもきっと幸せな思い出を作っているんだろうな。
「セシリアも連日で仕事したようなもんだし。明日に備えて今日はもう寝ようか」
「そうですね。ちょっと眠たい……かもです」
「このまま起きてたら隣の部屋の様子が気になるし」
「探ったら……分かってますよね?」
「それはもちろん」
良い雰囲気で一日が終わりそうなのに好奇心を働かせてぶち壊す気はさらさらない。
それに……もしかしたらレイヴンとハピネスにとって今日は忘れられない一日になるかもしれないからな。
寝る準備をしてベッドに入った。
「ところで指のサイズを測るのはあの方法しか考えてなかったんですか?」
寝る直前にセシリアが疑問をぶつけてきた。
あの時は思わず……って感じだったからな。
もっと気づかれないようにするために何個か候補はあった。
「そりゃあ、寝ている隙に測るとか」
「良い方法ですね。私が寝ていることをちゃんと確認すれば良いわけです。実行しなかった理由は?」
「寝顔見たら俺がノックダウンすると思う」
「……そうですか」
呆れたのか照れたのかどっちだろう。
「他にはなかったんですか」
「何個か手袋をプレゼントして一番しっくりくる物はっていう作戦もあったかな。サイズの違う手袋を突然大量にプレゼントされたら、不思議がるだろうから、すぐにボツ案になったよ」
「それは私も疑問に思っていたでしょうね」
「やっぱり指で測ることを考えていたからさ。歩きながら恋人繋ぎして」
「手を繋ぐだけだと測れませんよ?」
「そこは俺の薬指と小指を無理矢理曲げて輪を作ってさ」
「先程、気付いて本当に良かったです!」
寝ると言ったのに夜遅くまで話し込んでしまった俺とセシリアであった。