友人の後押しをしてみた
ちょっと中途半端ですが投稿します
「おかえり」
部屋の前で待っていたら疲れた様子のレイヴンが歩いてきたので声をかける。
ここは男同士でけりをつけたいので、セシリアは部屋で待機中だ。
おかえりは俺からじゃなくハピネスから言ってもらいたいだろうなぁ。
ぐったりして俺を見る動きもゆっくり……仕事だけが原因でないのは明らか。
やはり重症だな。
「……ああ、ヨウキか。わざわざ、出迎えてくれたんだな。ありがとう……」
渇いた声でお礼を言われてもな。
さっさと部屋に入ってもらおうか。
「出迎えたのは理由がある。レイヴンには今夜、そっちの部屋で寝てもらう。そのことを伝えるために待っていたんだ」
「……何を言っているんだヨウキ。こっちの部屋はハピネスとセシリアが使っているだろう」
「俺はセシリアと一緒の部屋で過ごすから……さ。分かるだろ?」
お互い恋人同士で泊まろうぜと言う話だ。
こんなにわかりやすい説明もないだろう。
しかし、ネガティブモードなレイヴンには伝わらず。
「……そうか。俺みたいなやつは野宿をして反省しろということだな。一人、夜空を見上げて寝れば己の短慮な行動について深く考えることができる、と」
「違うわ!」
友人が恋人とすれ違っている中、部屋を追い出して自分だけ恋人とイチャイチャする奴が何処にいるんだよ。
探せばいるかもしれないけど、俺はそんな薄情な奴じゃないぞ。
「いいか、レイヴン。その部屋にはお前が望んでいて、お前を望む人が待っている。ずっと待ってたんだ。早く入ってやってくれ」
「……俺を待っていた、だと?」
「ああ。昨日の件については俺から話しておいたから。許してやってくれとは言わない。ハピネスにも心の整理が必要だったんだ」
もう整理は済んで準備万端だから。
そんな説得で行けるかと思っていたんだが。
どうしてため息をついているんだ、レイヴンよ。
「……ヨウキはすごいな」
「は?」
「そういう気遣いは俺がすべきことなんだ。俺はハピネスの恋人、そういうのは俺が感じ取って気づいてやらないといけないことだろう。付き合ってもヨウキに頼っているようじゃ、俺は……ハピネスに合わせる顔が」
「ない、と。そんなこと言わないよな、レイヴン」
俺はそんな情けない台詞を聞きたくないぞ。
「俺がハピネスと何年の付き合いだと思ってんだ。一緒に修行して口喧嘩してさ。家族同然の付き合いなんだ。妹みたいな存在なんだよ」
ハピネスが聞いていたら露骨に嫌そうな顔するだろうけど。
「さすがに俺だって付き合い始めて一年も経ってないレイヴンに、ハピネスの扱いで負ける気はないからな」
「……それは、そうかもしれんが」
「いや、納得するなよ」
「……どっちなんだ」
「そこは恋人なんだから、俺の方がハピネスのことをよく知ってるって言う場面だろうが!」
何、家族だしな……みたいな雰囲気で仕方ないなって諦めてんだよ。
もっとぐいぐい来いよ。
「お前の気持ちはその程度か、一度の失敗でアタック終了か? 相手に合わせて身を引くのも立派な選択の一つだろう。しかし、相手は気が変わって戦闘準備万端と来てる。都合が良い……なんて考えてしまうかもしれん。たださ……一回くらいは都合の良い男になってみないか?」
「……都合の良い男、か。本当に都合の良い話だな」
「我儘なやつで悪いな」
完全に兄目線での物言いであるが、別に良いだろう。
二人で笑い合って部屋へと向かい、部屋の前へ着いた。
「こっちの部屋に入るか?」
俺とセシリアが泊まる部屋を指差して言う。
勿論、冗談なのだが。
「……ハピネスが俺の帰りを待ってくれているみたいだからな。失礼する」
「だよな。……良い夜を」
最後の言葉はボソッと呟いたのでレイヴンには聞こえていないと思う。
良い宿だけあって防音設備がちゃんとあるはずなのに、レイヴンの驚いた声が聞こえたような。
俺は俺でセシリアに用事があるからさ……頑張れ、レイヴン。
「上手くいきましたか?」
部屋に戻るとセシリアが俺に駆け寄ってきた。
セシリアも二人のことを心配してくれていたからな。
「あとは二人次第かなぁ。どうしても気になるなら俺の聴覚強化を……」
「今日は禁止です。もし使ったら……分かっていますよね」
恋人の笑顔が怖い。
絶対に使わないと約束した。
破ったらどうなるか……考えるだけでも恐ろしい。
「それで明日の話ですが」
そういえば話の途中だったな。
セシリアが明日一日中休みと。
二人でゆっくりと観光なんて……できたら良かったんだけど。
「出かけるのは良いんだけど、面倒事があって」
「面倒事……ですか。また何かに巻き込まれたのでしょうか」
セシリアの俺のイメージってそんなんなのね。
今回は違うから安心して欲しい。
「いや、ここに来る前に新人の記者と知り合いになってさ。そいつがこの街にいるんだよ」
「どうして記者の方と知り合いになったのでしょう」
「黒雷の魔剣士の時にちょっとな。どうやら、記者としては新人みたいだけど。ここにたどり着いたっていうことを考えたら、只者ではない気がしてさ」
「確かにここに来ることは、レイヴンさんも誰にも漏らさないようにしていたはず。侮ると最悪ヨウキさんが黒雷の魔剣士だとばれてしまうかもしれません。そして、レイヴンさんとハピネスちゃんのことも……」
「そうならないためにも、明日は動こうと思ってる」
どうにかウッドマンをレイヴンたちから引き離しつつ、デートを楽しむ作戦だ。
いつもこんなことをしていて、結局ゆっくりできない。
セシリアには迷惑がかかるが、この埋め合わせは……絶対にする。
「すまない、セシリア。明日はばたばたすると思う。でも、デートはちゃんとするから」
「謝らなくても大丈夫ですよ。記者さんの目を引きつけながらのデートですか。経験がないのでドキドキしますね」
気を使っているのか……ありがたいな。
自然と手を握ってありがとう、ありがとうとお礼を言う俺がいた。
「そんな。私とヨウキさんは恋人なんですから。力を貸します。……もちろん、今後の埋め合わせにも期待しますけどね」
「ああ、任せてくれ」
「……ところで一つ聞いても良いですか。先程から手の握り方がおかしいと思うんですけど」
セシリアに言われて握っていた手を見る。
セシリアの両手を包み込むように握っている俺の手。
明らかに人差し指と親指で輪を作り、セシリアの薬指に填めている。
……ずっと測らないと測らないとと思っていたから、無意識にやっちまったようだ。
もっとばれないやり方があったろうに!
「これは……その……」
「もしかして、ですよ? ……指のサイズを測ろうとしていたなんてことは」
ばれたぁぁぁぁぁぁぁ!
どうしよう、どう誤魔化すよ俺。




