恋人に遊ばれてみた
買い物も無事に終わり準備は万端……なんだけど。
ハピネスの着替えが一人ではできそうにないことが発覚。
化粧とかしたいらしいんだけど……俺では全く持って戦力外。
宿に戻ってきたは良いけど、どうしようか。
「いつもの感じじゃダメなのか?」
「……今日、特別」
「そうだよな。今日は勝負だった。がっつり変身くらいしないとレイヴンにも申し訳ないよな。妥協無しでいこう」
そうなると頼れるのは一人しかいなくなる。
俺とハピネスは頼りになる人物……セシリアの帰宅を待った。
そして……。
「ハピネス、セシリアの帰宅の気配を感じ取ったぞ」
俺の強化された聴覚と嗅覚が反応した。
ハピネスが気持ち悪い物を見る顔をしているが気にしない。
こちらから用事があるのだから迎えに行かねば。
ハピネスは部屋で待たせておいてセシリアの元へ。
「ただいま戻りました。……お迎えですか?」
ちょっと嬉しそうなセシリア。
お迎えだけども……頼み事があるんだ。
「実はセシリアに頼みたいことがあって」
「何かあったんですか」
嬉しそうな顔から変わって険しい表情になる。
そこまで深刻な何かが起きたわけでもないぞ。
「詳しくは部屋で説明するよ」
セシリアと一緒にハピネスの待つ部屋へ戻る。
そこでハピネスと共に今回の計画について説明。
「成る程。ハピネスちゃんも覚悟を……」
「俺にはハピネスを着飾るなんてことはできない。今はセシリアが頼りなんだ」
「……懇願」
「わ、分かりましたから。二人とも一度離れて下さい」
つい前のめりなってしまったようで、セシリアから離れるように言われた。
というか両手で押しのけられた、悲しい。
「何年も令嬢をやっているんです。おめかしは任せて下さい」
「さすが、セシリア」
「……信頼」
やはり、頼りになるのはセシリアである。
「それでは早速始めようと思うのですが……」
「ああ、頼む」
「……ここからは男子禁制です」
というわけで部屋を追い出されました。
そりゃあ、女性だけの空間になるわな。
自分の部屋に戻った俺はセシリアを待つ。
三十分くらい時間が経っただろうか、セシリアが部屋に入ってきた。
「お疲れ様、どうだった」
「ハピネスちゃんの話を聞きながら、やれることはやってきました。ヨウキさんがたくさん服を買ってあげたんですよね?」
「選んだのはハピネスだけどな」
「ヨウキさんの懐の深さもあって、普段見れないハピネスちゃんの完成です。レイヴンさんもきっと驚くに違いありません」
やり遂げた顔をしている。
相当自信があるようだ。
セシリアに頼んで正解だったな。
「ところでヨウキさん」
「ん?」
「昼間はハピネスちゃんとデートを楽しんでいたみたいですね」
セシリアがじと目で俺に言ってくる。
いやいや、ハピネスとはデートじゃなくてさぁ……。
「ハピネスちゃんにプレゼントも沢山買ってあげたんですよね」
セシリアの責めは続く。
確かに女性と二人で出かけてプレゼントも買った。
飯も行った……これって浮気?
しかし、ハピネスは妹みたいな関係で。
どうなんだろうと考えていたら。
「そんな真面目に考えないで下さいよ。冗談に決まっているではないですか」
「あっ、そう……」
俺の焦った様子が面白かったのか、セシリアが声を殺して笑う。
うーむ……本気で怒っているわけないとは思ったけど。
事実が勘違いされても仕方ないことだったから、慌ててしまった。
これから考えて行動すべきなのか?
「ヨウキさん。本気でどうしようかとか考えてませんか。私は頼み事を断らず、何だかんだで巻き込まれても解決しようとする姿が好きになった要因の一つでもあるんですからね」
私の好きなところを無くさないで下さいよと言うセシリア。
俺はそういう優しさに惚れたんだよなぁ……。
今こそ言葉にして伝えねば!
「俺はセシリアのその優しさが好きだ!」
「ありがとうございます。でも、私の優しさに付け込んでやりたい放題したら……わかりますよね?」
「そういう意味で言ったわけじゃないから。純粋にセシリアの好きな部分を俺も言いたかっただけだから。決して優しさに甘えて好き勝手やろうなんて考えてないから」
セシリアの瞳が怪しく光ったように見えたので必死に言い訳を……あれ、言い訳じゃ駄目じゃね?
そんな必死な俺の姿を見てセシリアはまた笑っている。
「私の冗談に簡単に引っかかり過ぎですよ。そんな頑張って否定しなくても」
「いや、だってさ。セシリアの説教を考えるとね。やり過ぎたらまずいかなって」
今までやらかしてどうなったかを思い出すと気をつけなきゃならないってなるよな、うん。
「……それは説教中の私が怖いということでしょうか。そう受け取って良いんですよね」
セシリアが小さく震えている。
表情が見えない、これは……冗談ではなく本気のやつだ。
「私はヨウキさんのことを思ってお話しをしていたんですよ。そうですか、怖いですか。成る程……」
セシリアの背後からゴゴゴ……というオーラが見える。
これは正座パターンだな。
大人しく正座して話を聞く姿勢になると優しく抱きしめられた。
「は?」
「やはり、まだまだですね」
いたずら成功ですと耳元で言われてしまった。
セシリアってこんなキャラだったっけ?
昨日不完全燃焼で終わってもやっとしていたのは俺だけではなかったということか。
セシリアがその気なら……俺も本気出すぞ。
抱きしめ返して一言。
「ご飯まだなら、二人で出かける?」
俺はハピネスと食べてきたけどセシリアと一緒ならまだ腹に入るぜ。
この状況で食事の誘いを断りは……。
「私も食事には賛成したいところですが。レイヴンさんに事情を説明するためにも待っていた方が良くないですか」
「……なぬ?」
「今朝のレイヴンさんの様子から考えてハピネスちゃんのいる部屋には行かないと思いますよ」
「確かにそうだな」
昨日の夜もかなり凹んでいたから、自らもう一度アタックしに行かないよなぁ。
メモを残していくっていう方法もあるけど……直接説得しないとダメな気がする。
「私は食事を済ませてきたので特別出かける必要もないです。ヨウキさんもハピネスちゃんと済ませてきたのではないですか。ハピネスちゃんの部屋に今日買ってきたと思われる夜食がありましたよ?」
「あー、見ちゃったか。レイヴンが遅くなるだろうってことで一応包んで貰ったんだよ」
「やはりそうでしたか。では、レイヴンさんを待つということでよろしいですね」
また二人がすれ違ったら良くないしな。
レイヴンは意気消沈していて、ハピネスはやる気を出してる。
昨日は良くなかったが今夜は……な?
「それではレイヴンさんを待っている間に明日の予定を決めてしまいますか。私は明日一日休みなので二人で出かけましょう」
「デートの誘いは俺からしたかった……」
そういうのは男が言うもんだよね。
私の予定に合わせてもらっているんですからとセシリアが言ってくれたので救われた。
デートの行き先は男らしく意見を出さないと。
昔みたいにデュークに助けてもらって尾行デートとかしない。
ハピネスと行った服屋、見かけたカフェにお土産屋さん等。
今日出かけた時にセシリアと来たいと思った場所を記憶していたのだ。
セシリアも帰りがけに行きたい店を何ヶ所か見かけたのだとか。
二人でデートの予定を立てるのは楽しく、時間があっという間に過ぎ……。
「セシリア」
「どうかしましたか」
「レイヴンが帰ってきたみたいだ」
日をまたぐことはなかったな。
さて、サプライズ感がなくなるから深く説明しないでハピネスのいる部屋に投げ込まないとな。




