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記者を振り切ってみた

一ヶ月以上も更新空けてすみませんでした!

どうしてこんなところにウッドワンがいるんだ。

黒雷の魔剣士の状態ではなかったら、頭を抱えたくなる状況だ。

しかし、俺に考える時間はない。



「情報提供をお願いします。黒雷の魔剣士さんに限って誘拐はないですよね。これはそちらのお嬢さんの護衛とかそういった依頼なんでしょうか」



依頼だとしたらそんな情報漏らすわけにいくかという話だ。

それよりもどうして……。



「何故ここにいる」



「それはほら……黒雷の魔剣士さんに言われた通りに足を頼りにして情報を仕入れたんですよ」



余計な助言のせいで面倒なことになったのか。

しかし、俺の情報が漏れていただと?

いつも最大限に注意をしているはずなんだが。



「夜通し走り回ってこの(あた)りに勇者パーティーの誰かが来ているっていう情報を仕入れました」



どうやら俺の余計な一言がウッドワンの記者魂に火を点けてしまったようだ。



「まさかここで黒雷の魔剣士さんに会えるとはおもってなかったですよ。さあ、取材させて下さい!」



ここでこんな障害に当たるなんて想像していなかったぞ。

この隙にでもハピネスは逃げようとしているし。

あーもう、面倒くさい!



「……ふっ。悪いが今回は依頼ではない。偶々、私事でこの街に来ていただけだ。この娘はあれだ……こういう関係だ」



嫌がるハピネスを押さえて何とか連れ戻そうとしているところを見ればある程度親しい関係ということがわかるだろう。



というかハピネスもいい加減、抵抗しないで欲しいんだが。



「こういう関係……やっぱり誘拐なんですね!」



「この黒雷の魔剣士がそのようなことをするわけがないだろう。……ええぃ、今日は街中でコントをしに来たわけではないんだ。これで失礼する!」



逃走用の風魔法を発動!

風で土煙を上げて目眩ましだ。

その間にハピネスを抱えて逃走……逃げようとしないで大人しくしてほしい。



このままではレイヴンのところに行けないな。

別方向から攻めてみるかな。

考えが決まったので……近くの森へと向かった。



「着いたぞ」



「……誘拐」



「気心の知れた仲だろ」



「……寝言」



「はいはい」



ハピネスとコントをするつもりはないので軽く流す。

その場に降ろしてと……近くに誰もいないことを確認。



これで遠慮なく黒雷の魔剣士からヨウキに戻れる。

装備を一式を脱いで持ってきていた袋の中入れてと。



「さて、準備も出来たし。……構えろ」



俺に言われてもピンと来ていないようで頭を傾ける。

構えろって言われたらわかるだろうに。

わかりやすく説明しないとダメか。



「今から戦闘訓練を開始する」



「……何故?」



「心がモヤモヤしている時はおもいっきり動いたらスッキリするだろ」



「……発想、幼児」



「ハピネスはまだ大人になろうとしている途中だからな。こんな対応が合ってるって」



子ども扱いにカチンと来たのか、自作の扇を構えるハピネス。

どうやらやる気になったらしい。



「……剃る!」



「何をだよ、全く……ってうお!?」



切れ味鋭い攻撃で頭を……正確には髪の毛を狙ってきやがった。

ちくしょう、嫌なところを狙いやがって。



「こらこら、セシリアとのデートに支障が出るだろうが。そこを狙うのはやめい!」



「……作戦」



「計算高いやつだな!」



危なげなくハピネスの髪の毛を狙った攻撃を避ける。

表情に迷いがない。

いつもの調子に戻ってきたようだ。

攻撃を避けながら話してみるか。



「レイヴンのことはどう思ってる」



「……好き」



「そうか。はっきり言えるんじゃないか」



「……当然」



「そんなはっきりと好きって言えるなら、レイヴンに会いに行こうぜ」



「……拒否」



「そうか。…….なあ、レイヴンがハピネスと、一線を越えようとしているとしたら、ハピネスは気持ちに応えられるか?」



攻撃が止まった。



「……応えたい」



「応えるって言わないのな」



「……」



俺の質問に黙るハピネス。

好きだって迷いなく言えるなら、そこもはっきりと言えるもんじゃないか?

女心って難しい。



だが、俺には友人にも元部下にも幸せになってほしい。

部外者がどーのこーの言うのは良くないとは思う。

それでも……もう秒読み段階みたいなもんなんだし、後押しくらいはして良いよな。



「レイヴンは良い男だよ。ハピネスのことよく考えて行動してる。忙しくて会えないっていうのもかなり心痛めてた。そのためにこの旅行を計画したんだし」



「……理解」



「まあ、ハピネスがレイヴンに対して不満があるなら、俺が伝えてやるが……」



「皆無!」



ハピネスにしては返事が早い。



「なら、こう……受け入れてやったら?」



「……相談」



「聞こうじゃないか」



やっとハピネスから話してくれる気になったか。

早速、聞き込みを開始。

時折顔を赤くしながら、いっぱいいっぱいの様子で話してくれたよ。



「しっかし、ここまできて男を見せたレイヴンにびびってしまったとは……」



昨夜のレイヴンからのアプローチが普段よりもぐいぐいきていたため。

一緒の部屋で寝ると確実に何かが起きると思い、考え過ぎて頭がパンクしたらしい。



もう大人になるって割り切るしかないんじゃないか。

まてよ……主導権をもぎ取るってのもあるな。



「ハピネス……はっきり言おう。お前もわかってるとは思うがレイヴンはお前と共に暮らすこと考えている」



「……同棲」



結婚って言ったら意識させてしまってレイヴンに悪いかなって思って濁したけど。

ハピネスは同棲と受け取ったか。

結婚のイメージ湧いてないのか……まあ、深くつっこむのはなしだ。



「……何かが起きてしまうのは好き合った男女二人。一夜を過ごすとなるとそれも仕方なしだ。まあ、レイヴンなら、きちんと説明したら何もしないだろうよ。ただ……ハピネスはそれで良いと思うか?」



少し考えて首を小さく横に振った。



「なら覚悟を決めるしかないだろう」



「……覚悟」



「そうだ。レイヴンのやつに見せつけてやれ。ハピネスの覚悟を!」



拳をぐっと握りしめてハピネスに突き出す。

ハピネスも真似をして拳を突き出してきた。

目には覚悟の炎が宿っているように見える。



「今夜が勝負だぞ」



「……承知」



案外あっさりとやる気を出してくれた。

まあ、ハピネスも嫌がっていたわけではないし……。

その辺は余計なことなのでつっこまない。



本人のやる気が出ている内に戻れないところまで追い込んでしまおう。



「それじゃあ、レイヴンが帰ってくるまでに準備をしようか」



「……準備?」



「金は俺が全部出してやる。レイヴンが最高だと。見たら目を見開くような姿に変身するぞ」




今から服やら何やら手配して夜に間に合うかは分からんが。



「……隊長、太っ腹」



「ふっ、これも友人と元部下に贈る婚約祝いのプレゼントみたいなもんさ」



「……婚約、まだ」



まだって言うことはされるってわかってるな?

その辺のツッコミもしたら、蹴りをくらいそうなので言わないけど。



「それじゃあ、早速街に戻るぞ」



「……おー」



ノリノリなハピネスを連れて街へと戻った。

ウッドワンに会ったら面倒だな。

索敵しながら街を散策しよう。

まずは服屋だ。



「普段着と寝間着とドレスだな」



「……必要?」



「普段着は明日以降のデートに使え。寝間着とドレスは……いつ使うかは二人次第だ」



「……隊長」



ハピネスは小さく口を開けて尊敬、と呟いた。

うーむ、ここは聞こえないふりをしておくか。



本当に珍しいハピネスからの尊敬発言だからこそ、何も言わない。

黙って俺からのプレゼントを受け取っておけ。



索敵をしていたのでトラブルなく服を購入。

背中が見えるドレスとか買っていたように見えたけど知らない知らない。



ハピネスが自ら選んだものだ。

今日は勝負の日と女性の店員に話したらきゃーきゃー言いながら複数の店員がハピネスを着せ替え人形にしていた。



ちなみに店に入ってすぐに兄です妹の服を選んでくださいと言ったので、俺たちが付き合っているとかいう変な勘違いは起きていない。



ハピネスが着せ替え人形にされている間はセシリアに似合いそうな服を物色していたよ。

何着か見つけたから、滞在中に二人で来れたら良いなぁ。



そんなんで会計したわけだが、思った以上の金額になった。

まあ、黒雷の魔剣士の稼ぎを舐めないでもらいたい。

支払いを終わらせて店を出たら夕方になっていた。



「もうこんな時間になっていたのか。服選びに相当時間かけていたんだな」



「……満足」



買った服の入った袋を抱えて笑みを浮かべるハピネス。

ほくほく顔である。



「……感謝」



「んー……まあ、頑張れ」



「……勝負」



「勝ち負けはあるのかね」



「……存在」



「それじゃあ、負けんなよ」



何がどうなったら勝ちなのかはわからんけど、応援はしておく。

普段感情を表に出さないハピネスがメラメラと燃えているんだ。

盛大に油を注いでやろう。

レイヴン、今夜は眠れないかもな……。



「さて、飯食って帰るか」



「……賛成」



適当な店に入って夕食を済ませることに。

まだ早い時間帯だからか、客は少ない。

さくっと席に座って注文する。



ハピネスが肉料理ばかり頼んでいたのでサラダを注文。

どんだけ準備万端にする気なのか。



「今頃、レイヴンは仕事中かな」



「……仕事」



「遅くなっても待つのか?」



「……待機」



「そうか」



どうやら帰ってくるまで部屋で待つ気のようだ。

帰りに夜食として持って帰る分を確保しておくかな。

そんなことを考えつつ索敵していたら、知り合いの反応が。



ウッドワンじゃないな……これはレイヴンか。

複数の騎士と一緒にいる、見回りか?

店の中の俺たちに気づくことなく素通りしそうだ。



サプライズが薄れるしやり過ごした方が良さげ。

寄らないよな、念の為に会話を聞いてみよう……。



「レイヴン団長と見回りができるなんて感激です」



「治安は悪くないのであまり変なことは起きないんです。どうですか、この街は」



「……王都は人が多い分、日常的に問題が起きているぞ。この街は……そうだな。見回りの時間帯、経路の変更を考えた方が良いかもしれん。治安が悪くないと言っても見えにくい場所があるだろう。開けた場所だけでなく路地裏も通るべきだ。あとは観光客が泊まる宿付近……」



「レイヴン団長、どうかしましたか?」



「いや、ちょっとな……」



「何かあったんですか?」



「私用だ。気にするな」



「気にするなって……いや、すみません」



「レイヴン団長……」



「止めろ。団長がいいって言っているんだ。そっとしておこう……」



レイヴン、周りの騎士団員から気を遣われてるな。

うーむ……まあ、拒否られたのが自分のせいだって考えたら気持ちも沈むわな。



「……準備、準備」



目の前にいるハピネスはもぐもぐと一生懸命肉料理を口に詰めている。

野菜もちゃんと食えって。



この二人、今日は上手くいくよな?

自分も他人のこと言えないんだけどな。



指のサイズ調べないとなぁ。

俺も自分のことが上手くいくように祈って肉を食おう。



途中でフードファイト化してねーか? とレイヴンとの昔話を思い出した俺は腹が重くなる前にハピネスを連れて脱出。



準備、準備って言いながら暴食してたよ。

危うく買ったドレスが着れなくなるところだったなとハピネスに言ったら蹴りをくらった。

気をつけていたんだけどなぁ。

まあ、ハピネスらしいから良いか。

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