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恋人と夜を過ごしてみた

目的地の広場にようやく着いた。

ここも人が少ない……いないわけではないんだ。

ただいるのは飲み過ぎた酔っ払いと派手な服を着た女性……うん、夜の光景だわ。



わざわざカップルを冷やかすような連中はいないと思われる。

まあ、いざとなったら俺がセシリアを守るさ。



「なんて言ったって俺は黒雷の魔剣士だからな!」



「急にどうしたんですか」



「決意表明だ!」



「そうですか。何のかはわかりませんが頑張って下さい」



セシリアも俺の扱いが上手くなったものである。

……いかん、これではいつもと一緒だ。

厨二は封印、雰囲気大事に。



「ベンチがあるな」



「そうですね。座りましょう」



さすがにベンチに座る時は腕組みを止める。

そう……手を繋ぐチャンスだ。



「いつだったか。二人で夜道を歩いたことがあったっけ」



「そんなこともありましたね」



あの時は手を繋ぐことすらできなかったような。

だが、今は違う。

もう俺たちは恋人同士なのだから、手を繋いだって問題ない。



「何だかんだで出かけた場所は多いですよね。ガイさんのために魔鉱石をソフィアさんとクレイマンさんと取りに行ったり」



「あー……ティールちゃんに懇願されてな。そんな二人も今じゃお似合いの身長差カップルに……なってないか」



ガイがいたらそんなことはないと否定しそう。

ティールちゃんは嬉々として腕を絡めていそうだけど。



「あの頃に魔剣士さんは目覚めてしまったんですよね」



目覚めるって言い方は止めてくれよ……。

あの時は市場が開かれてるって聞いて行ったらこれだ! って思える物に出会ってしまったんだよ。



テンションの赴くままに依頼を達成していったあの日々は立派な黒歴史認定されていたりする。

まあ、そのおかげでこうしてセシリアと出歩けているというのもあるか。



黒雷の魔剣士は黒歴史であり、俺のもう一つの姿でもあるわけだ。

頼りにする時は頼りにしている。



「あの頃は正座することも多かった」



「それはヨウキさんが色々と好き放題して心配かけるからですよ……」



そう言われたら何も言えない。

いや待てよ……そんな頃から俺は心配されるような存在だったと。



「目を離してはいけないと常日頃思っていましたから」



「まるで危険物を見るような視線だな」



「いつも想像の斜め上の行動をされていた私の身にもなって下さい」



「それはまあ……黒雷の魔剣士だからな」



「その理由便利ですね」



大体、黒雷の魔剣士で通るからな。

黒雷の魔剣士はいつも俺を助けてくれるのだよ。



「まあ、ヨウキさんと一緒に出かけて何事もなく終わること自体が少ないですからね……」



「いやいや、一緒に遺跡探索へ行った時なんかは何もなかったよ」



何もなさ過ぎてギルドに報告して終わったけど。

野宿もしたけどそっちも何もなかった。



「懐かしい話ですね。こうして考えるとヨウキさんの行く先々には色々なことが……」



「蒼炎の鋼腕事件も?」



ソレイユは元気にしているかね。

最初はあんな真面目そうなイケメンが……なんて思ったよ。

事件を捜査していったらたどり着いてしまったんだよね。



「……それも魔剣士さんに憧れを抱いてという話ではなかったですか」



「うーん、どうだったかな……」



セシリアの視線が痛い。

解決したことだし、もうソレイユは蒼炎の鋼腕をやっていない。

掘り起こすこともない事案だったな。



「でも、正直に言って蒼炎の鋼腕は俺にとって忘れられない事件なんだよなぁ」



「魔剣士さんに憧れて……という話だからですか?」



「違うよ」



あの一件がなかったら、セシリアに告白するのはもっと後になっていたと思う。

我ながら情けない話だけど、ソレイユは俺の方に火を点けたと言ってもいい。



ライバルがいないと告白しないとか本当にダメだなって言われるかもしれないが……。



「顔は見えなくても何となくヨウキさんが考えていることわかります」



「それって何かしらの能力的なやつ!?」



「違いますよ……」



呆れられてしまった。

でも、この世界に魔法はあっても人の心を読むなんて魔法はないはず。

どうして俺の考えていることがわかるんだ。



「ずっと一緒にいたら顔が見えてなくてもわかるようになるものですよ。ヨウキさんは特に」



「まじで?」



「今度、癖とか教えてあげましょうか。デュークさんとか付き合い多い方も知っていると思いますけど」



「デュークもかぁ」



なんかちょっと残念な気持ちになった。



「今のは声でわかります。……別にデュークさんやハピネスちゃん、シークくんが知らないようなヨウキさんの一面くらい。……私は知っていますから」



「よしっ!」



「素直に態度で出ますよね」



「誰も知らない一面を恋人だけが知っている……なんて言われて嬉しくない奴なんていないよ?」



思ったことを口に出しただけなのにセシリアが黙ってしまった。

……俺、変なこと言ってないよね?



しーん……と静かになったことで周りに誰もいなくなっていたことに気づいた。

そんなに話し込んでいたイメージはないんだけどな。



そろそろレイヴンとハピネスも宿に行っている頃かもしれない。

良い雰囲気……なはずなのでミッションを決行しよう。



内心ドキドキしつつも自然な形で手を握……ろうとしたら逆に手を掴まれた。



「あの……今って誰もいませんよね」



「え、ああ……そうだと思うよ?」



念のために確認したが隠れて俺たちを見ている輩はいない。

これは二人の世界というやつだ。



「……仮面を取ってくれませんか」



「真面目に言ってる?」



「はい」



仮面だけ取るって格好は黒雷の魔剣士だぞ。

変身ヒーローが素顔だけ見せるっていう光景だよね。

セシリアにしか見られないとはいえ、それは……。



「駄目でしょうか」



「いや、えっと……」



「やはり……駄目ですよね。ヨウキさんは黒雷の魔剣士と自分を分けて生活しているんですし」



そんながっかりした顔されたら、素顔晒さないわけにはいかないよね。



きちんと確認してから仮面を勢いよく取った。

ヘルメットごしよりもセシリアの顔がはっきり見える。

昼ならもっとはっきりと見えるのに。



「それでは目を閉じて下さい」



仮面を取ったらすぐに残酷な指令が出た。

せっかくセシリアの顔がはっきり見えるようになったのに!



でも、後ろから手で目を隠されてだーれだ? ってやるような感じのノリだと思ったらイチャつきの一部に感じてきた。



ここは無言で頷いて目を閉じる。

さあ、次に何を……そう身構えていたら唇が塞がれた。



驚いて目を開けそうになったが男として我慢。

流れで腕をセシリアの背中に回して軽く抱き締める。



何も考えずに身を任せて……誰か近くにいるとかは無視。

何秒、何分と……時間の感覚が曖昧になる。



実際は数秒とか何だろうけど。

とても長い時間を感じた。

セシリアを抱きしめていた腕の力が緩むと自然にお互いの顔が離れる。



今が夜で良かったわ……まともに顔が見れません。

こんなんで恥ずかしくなってちゃ駄目だ。

もっと男の余裕を見せてセシリアを安心させないと。



「あー……うん、その……えっと」



こういう時って何て言えば良いの?

経験がないからわからない。

いや、セシリアが初めてだから。



経験とかなくて良いんだよ。

今の気持ちを率直に言えば!



「し……幸せだな!」



黒雷の魔剣士も力を貸してくれず。

厨二にもなれない……こんな直接的な感想を言ってしまうなんて。



「……私もヨウキさんと同じ気持ちです」



か細い声だったが、確かに聞こえたセシリアの言葉。

気がつけばセシリアをもう一度抱きしめていた。



「……少しの間、このままでも良い?」



「仕方ありませんね」



「えっ、そんな感じのなの?」



「さあ、どうでしょうね」



駆け引きはセシリアの方が上手いのかもしれない。

それでも許してくれているなら、甘えても良いだろう。

邪魔は入らないでくれ……今だけは。

これくらいでR15とかいらないですよね?(焦)

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