友人の計画に乗っかってみた
天気 晴れの旅行日和。
日頃の行いが良いおかげだろうな。
今回は急に嵐とか来ないことを願う。
まあ、あの嵐はユウガが呼んだものということにしよう。
さて、今回の旅行はレイヴンとハピネスの白熱しただって久々に会ったから……を理由に大胆な行動に出ようがテーマだったな。
果たして公衆の面前でぐいぐい行くのか、二人きりの時に仕掛けるのか。
二人の攻防に期待である。
……レイヴンもさすがに指輪は渡さないよな。
あり得なくはないが……ハピネスの心の準備が整っているか心配だ。
俺は俺でやらねばならないミッションがあるし、気を抜けない旅行になりそうである。
「さて……行くとするか!」
黒雷の魔剣士として集合場所へと向かった。
今回の旅行は馬車を貸し切っての旅行だ。
セシリアの伝手で馬車を用意してもらった。
毎回のことなので感謝しかないな。
今回は旅行半分仕事半分という感じの計画だ。
偶々行き先が一緒ということで……ちょっと無理があるかもしれないが。
レイヴンが行き先の街の騎士団へ行き、セシリアは教会へ。
ハピネスはセシリアの身の回りの世話をするため、使用人として付いていく。
そして、俺はセシリアの護衛と。
やっぱり周りを納得させるには少し無理がある気もするが……これなら街中を歩いていても言い訳が効く。
レイヴンのやつ……俺並みに良い作戦を考えたじゃないか。
俺としては事情を把握しているデュークも連れて行ったほうが良いんじゃないかと話したんだけど。
どうも最近、イレーネさんの相手で手一杯らしいから無理と。
イレーネさん……最初はただのドジっ娘かと思っていたのに。
エルフは見かけによらないという話だ……色々な意味でな。
そんなことを考えていたら待ち合わせの場所に着いた。
まだ、誰も来ていないな。
周りの視線があるが……俺は黒雷の魔剣士。
これくらいの視線で萎縮したりなどはしない。
ちょうど良いところにベンチがあったので、座って三人を待つ。
周りの視線が刺さるが気にしない。
俺は黒雷の魔剣士、言いたいことがあるならいくらでも受けて立つぞ。
「あの、すみません」
まさか、本当に声をかけてくる者がいるとはな。
知り合いではない。
見た感じだと情報屋だろう。
ただ、駆け出し感のある青年だ。
まだ仕事着に着られているイメージがある。
ちらりと見ても素通りされるこの黒雷の魔剣士に声をかけて来るとはな。
若さ故の怖いもの知らずというやつか。
「僕、ミスチーフ所属の情報記者なんですけど。黒雷の魔剣士さんですよね。少しだけ取材頼めませんか?」
ミスチーフ……おそらく情報誌を扱っている店の名前なんだろうけど聞いたことないな。
酒場で色々な情報誌を見かけるけど、ミスチーフの情報誌なんて聞いたことないぞ。
「聞き覚えのない名だが」
「はい。まだ設立してから日が浅くて記者が僕含め数人しかいないんですよ」
「そうか」
妖しさがないかと言えば嘘になるけど、悪い人には見えないな。
まだまだひよっこといった初々しさを感じる。
「そのミスチーフの記者が黒雷の魔剣士に何の取材だ」
「なんかミネルバ中を驚かす良い情報をくれませんか」
いきなり何を聞いてくるんだ、こいつは。
「……悪いが俺も暇ではないのでな。他を当たってくれ」
こんな聞き方されても答えられることはない。
「そんな、また。黒雷の魔剣士さんなら誰もが驚くような情報を持っているんじゃないですか。世間を揺るがす黒雷の魔剣士。今が新しい嵐を生む時期ですよ」
新人とはいえこれくらいで引き下がらないか。
しかし、黒雷の魔剣士はそのような誘導に引っかかる程甘くはないぞ。
久々に入れてやろう、厨二スイッチを!
「ふっ、嵐を生む……ね。言わせてもらうが嵐を呼ぶ時期は俺が決めるものだ。多少の口車に乗るような黒雷の魔剣士ではない。仮に俺が口車に乗り良い情報を話したとしてだ。貴様はそんな簡単に起きた嵐で満足するのか?」
「僕は良い情報が手に入れば……」
「甘いな。俺の見たところだと貴様は良い脚をしている」
仕事着に着られていても、その走ることに特化した脚は隠せない。
盗賊とか向いてるんじゃないかと思ったが口には出さん。
「俺の情報は安くない。新人だろうが容赦はしない。俺から何かを聞きたいならば越えるべき壁を越えてから来るんだな」
「僕に越えるべき壁なんてないですよ」
「俺から話せる情報は何もないと言った。次にすべき貴様の行動はなんだ。こんな所で入らない情報のために立ち止まって粘るのか?」
「……ここは諦めて別の場所に行けば良いんだ」
「その通りだ。手に入らない情報よりも手に入る情報を探せ。そして実績を上げて信頼を得ろ。そうして成り上がれば……再び俺の前に現れる時が来るさ」
「それが黒雷の魔剣士への取材への道なんですね。分かりましたぁ。今回はこれで失礼します」
目をキラキラさせて何度もお辞儀をしてくる。
ふむ、話のわかる青年で助かった。
「俺の名前、ウッドワンて言うんです。実績積みまくったら……今度こそ情報下さい!」
取材ありがとうございましたと礼を言ってウッドワンは走り去った。
やはり、脚は速かったな……ってちょうど見覚えのある馬車が来たな。
俺の目の前に馬車が止まると窓からセシリアが顔を覗かせた。
ハピネスも乗っているな、よしよし。
「お待たせしました……魔剣士さん」
「いや、俺も今来たところだ。レイヴンはまだだな」
集合時間を過ぎているわけでもない。
むしろ、早いくらいだ。
これは待つことになるか……と思ったがその必要はなさそうだ。
もう、レイヴンのやつ馬車に乗ってやがる。
「……レイヴンさんはもう乗車しています」
「ああ、そうみたいだな」
近くにいるのか感覚強化して調べたら馬車の中から気配がしたし。
まあ、これで役者は揃ったので俺も乗車した。
座り順は俺とセシリアが隣でレイヴンとハピネスが隣だ。
まあ、当然の組み合わせである。
馬車内なのだから、イチャついて良いのに……レイヴンは窓の外を見ていてハピネスは素知らぬ顔。
何かあったのかと思ったら、手はしっかりと繋いでいた。
どっちから仕掛けたのかは知らないが、これ照れて何もできなくなってるだけだ。
「というかレイヴンのやつは何でもう乗っていたんだ」
率直な疑問をひそひそとセシリアに聞いてみた。
「それが……屋敷を出たら草陰で待ち伏せていまして」
何やってんのさ、レイヴンよ。
待ちきれなかった……で済む話かね。
「どうやったのかは謎なんですけど。屋敷の周りにいた情報屋は全員追い払ったから迷惑はかけないと」
力ずくとかはハピネスが嫌うだろうし、何かしらの方法を使って一時的に追っ払ったと。
「それでいつからあんな感じなんだ」
「レイヴンさんが一言……お待たせ、と言ってハピネスちゃんの手を握ってからです」
つまり、屋敷を出てから待ち合わせの場所までの道中
あのままということか。
……セシリアが一番辛かったんじゃないか、この空間にいて。
「ハピネスも俺を見て珍しく弄ってこないからな。今は相当自分のことで精一杯と見える」
「そうですね……。声をかけるべきなんでしょうか」
「いや、このままでいいんじゃないか。目的地に着くまでゆったりと二人でどう仕掛けるか悩むっていうのもさ。馬車の中でやれることって少ないし」
街に着いてからが勝負だろう。
まあ、俺は馬車の中でも勝負なんだけど。
俺のやるべきことは一つだ。
セシリアへ渡す指輪を買う前にまず……セシリアの指のサイズを調べねばならない。
レイヴンはハピネスから聞いたのか知らないがイケメン店員にサイズ聞かれて普通に答えていたし。
俺はセシリアの指のサイズを知らない。
聞いたらセシリアに意識されてしまいサプライズが失敗してしまう。
だったらやることは一つだ。
俺の得意な魔法である感覚強化。
どうにかセシリアと恋人繋ぎをして指を絡ませ指のサイズを計る。
大丈夫、俺とセシリアは恋人なんだから恋人繋ぎをしても良いはずだ。
レイヴンのように……自然に行けばいける。