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神父と話してみた

「ありがとうございました」



夕食の準備を終える前にセシリアは孤児院を後にした。

馬車に乗って帰って行ったのだが、俺は乗っていない。



話し合いをすると決めたんだが、具体的に何を話すべきか。

まずは謝った方が良いかな。

ストーキングしてごめんなさいと……違うな。



それではいつもと変わらない。

今話すべきことはさ、そういうことじゃないんだよね。



孤児院の近くで頭を捻らせていたら、透明化が解けてしまった。

まずいと思ったが、もう隠れる必要もない。



孤児院の近くで頭を捻らせるのは良くないから移動しよう。

そう決めて歩き出そうとしたら、なんか歩みが重く感じた。



おかしいなと後ろを振り向いたら女の子が俺の服を掴んでいる。

成る程、重く感じたのはこの子のせいか。



俺をじっと見て手を離そうとしない。

振り払うのは簡単だがそんなことできるわけもなし。

さて……どうしようね?



「ふぅふぅ、夕食の準備中に抜け出しては……おや、貴方は確かセシリア様と一度……」



「どうも」



この子を追いかけて来たのだろう。

ダバテ神父が息を切らせながら、声をかけてきた。



「たまたま通りがったらこの子に捕まってしまって」



「そうだったのですか。ほれ、離しなさい」



ダバテ神父が語りかけるもふるふると首を横に振る少女。

むしろ、服を掴む力が強くなった。



「なんか、離したくないみたいですね」



「実は今セシリア様が来ていてお帰りになったばかりなのです。きっと寂しくしていたところ、貴方を見かけて抜け出してしまったようです。これは困った」



少女は俯いたままで今にも泣き出しそうな感じだ。

無理に振りほどいたら泣くパターン確定。

もうストーキングの意味はなく、これからの予定はない。

だったら、少しくらいは……。



「帰るところだったんで少しくらいならこのままでも良いですよ」



「いえいえ、そんなご迷惑をかけるわけには」



「今日は予定ないですし……俺で寂しさが少しでも紛らわすことができるなら」



「……有難い申し出ですね。では、夕食を召し上がって行って下さい」



ダバテ神父がそう言うと服を掴んでいた少女が俺の手を握り歩き出した。

心なしか笑顔である。

これで良いんだよなぁと思いつつ、孤児院の中にはいった。



その後はまさに戦場だった。

セシリアが戻ってきたと思ったらよく分からん男が入ってきてがっかりしたところから始まり。



年配の子どもが幼子を注意しながら夕食の準備。

俺の手を引いてきた少女も準備をしていたが度々視線をこちらに向けてきた。

帰らないか気になったのだろう。



俺はそんな薄情な魔族じゃないから安心してくれ。

夕食が始まったら俺を連れてきた女の子に腕を引かれ隣に座り食事。



子どもたちと話していく内に俺が一度セシリアと来た男だということに気づいて質問攻めに遭った。

つーか、手を引いてくれたのはあの時、俺を慰めてくれた女の子だったという話。



気づくのが遅れてごめんなと優しく頭を撫でたら頰を赤らめていた。

いやいや……俺なんかにフラグは立たないっすよね。



ちょっと苦笑い気味になりつつ、夕食が終わり片付けへ移る。

女の子は名残惜しそうに口をとんがらせて食器を持ち、俺から離れて行った。



やっとひと息……かと思いきや今度はダバテ神父がやってきた。



「すみません、ずっと相手をしてくれたようで」



俺が質問攻めされていたところをずっと見ていたらしい。

まあ、こういうのも偶には悪くない。

昔からシークやハピネスに振り回されていたしな。



最近はハピネスにはレイヴン、シークにはティールちゃんとフィオーラちゃんが付いている。

振り回されるのもかなり減ったな……別に寂しいわけではないが。



「いえいえ、夕食もご馳走になりましたし。俺も楽しかったので気を遣わないでください」



「そう言ってくれますか……以前、セシリア様と仲良くされていたようでしたし、貴方は心優しい方のようだ」



セシリアに比べたら俺なんて全然だと思うが。



「貴方はセシリア様が婚約されたことはご存知で?」



「ええ」



俺です、なんて言えない。



「セシリア様はどうもお悩みになられているご様子。貴方は話し相手になったりはしていないのでしょうか」



ついさっきしっかり二人で話し合おうと決めたばかりです。

勿論、そんなことは言えない。



「今、セシリア様はお忙しいですし。俺が近づけるような時間はないかと」



こんな感じの断り文句でどうだろうか。



「いやいや、今のセシリア様には貴方のような人と話すことが必要ですよ。婚姻迫った少女には結婚もしていない老人よりも年の近い若者の方が良い話し相手になるでしょうから」



俺、若者って言える年齢でもないんだけどな。

話すことは確定だからこそ、どう切り抜けるか。



「セシリア様が俺と話すだけで助かると言うなら協力します。迷惑にならないように機会を作って会いに行きますよ」



「そうですか……貴方は優しい方だ。きっと、セシリア様の悩みは解決するでしょう」



それは本当に俺次第なんだよな。

ストーキングのことをどう詫びようか。



「そこまで悩むことはありませんよ。ただ、自分のことを話して今度は相手の話を聞く。そして、お互いのずれを無くせば良いんです」



「それが難しいんじゃないんですかね。ずれを無くすって簡単にはできないじゃないですか」



「どう無くすか、そもそも無くすべきなのかも話し合えば良いのです。貴方もセシリア様もまだ若いのですから。お互いを完璧にわかり合おうとするにはまだまだ……」



「でも……」



「焦る必要なんてないんですよ。相手のことを全て知ってしまうのはつまらない。少しずつ発見があった方が良いと、私は思います」



「話せっていったり相手のことは少しずつ知っていけば良いと言ったり、結局俺にどうしろと?」



ダバテ神父、俺とセシリアのこと知ってるわけじゃないよね。

すごく核心突いた感じで喋ってくるんだが。



俺もつられてしまったが……まだ決定的なことは言ってないから、セーフだよね。



「どうぞ、お好きなように」



「へ?」



「さて、私も子ども達ばかりに任せていないで働くとしますか」



そう言ってダバテ神父は子ども達の元へ行ってしまった。

この消化不良な感じのモヤモヤはどうすればいいのでしょうね。



結局、俺も片付けに参加した。

その後は自由時間らしいが、流石にこれ以上居座るのは良くないだろうと挨拶して孤児院を出た。



何だかんだで仲良くなった子どもたちからはまた来いよーと手を振ってくれた。



問題は俺の服を掴んでいた女の子だ。

無言で小さく手を振っていたのだが、俺と顔を合わせず下を向いていたのだ。



泣き顔を見られたくなかったのかもしれん。

色々と罪悪感を抱えた俺が向かったのは勿論、アクアレイン家の屋敷。


話すなら早めにだ。

まずはソフィアさんに許可を取らないとな。

いつも通りの方法で屋敷に侵入してソフィアさんを見つけ、声をかける。



まあ、やばい侵入者と思われたくないので部屋の外から透明な状態でだが。



「ソフィアさーん」



「……過労でしょうか。誰もいないのに私を呼ぶ声がします」



「いやいや、俺です。ヨウキです」



「おや、お嬢様を付け回しに行っていたヨウキ様ですか。どうぞ、部屋に入ってきても大丈夫ですよ」



がっつり棘のある言い方だが自分の罪は自覚しているので受け入れる。

部屋に入るとベッドメイキングをしているソフィアさんがいた。

仕事中のようだ、ものすごく邪魔だな、俺。



「普段は直接お嬢様のところへ行くか、ハピネスかシーク様のところへ行くことが多いですが。私に何か御用でしょうか?」



「今日、自分の行動を反省してセシリアと話をしに来たんです。ただ、このままセシリアと話してもいつもみたいな感じで終わりそうな気がして」



「それで私を頼ってきたのですか」



「すみません……」



「……先程、お嬢様もヨウキ様と似たような相談をしにきました」



「セシリアも?」



「私はヨウキ様が今日訪ねて来ると確信しておりましたので、直接二人で話し合った方が良いと申し上げました。お嬢様は私室にいらっしゃいますので、ご案内します」



というわけでソフィアさんの案内により、セシリアの私室へと向かう。

大丈夫、話すことは決まってる。

さっきまで緊張していたけど、会えばいつもの件だ。



「ヨウキ様をお連れしました」



ソフィアさんが先に中へ入り事情を説明。

許可が出たら俺も入室、ソフィアさんは退室、部屋でセシリアと二人きりと。



「……」



「……」



何故かお互いに一言も言わず。

シーン……という沈黙の擬音が流れている部屋の中、先に口火を切ったは俺だ。



こういう時は男から切り出すべき。

勇気を出すんだ、俺。



「あー、その……今朝はごめん。気分悪い想いさせたなって後悔してさ。謝罪に……きました」



「謝罪、ですか」



「やったことに関して理由がなかったわけじゃないんだ。最近、セシリアの能力が高いことに改めて気づいてさ。俺はどういう面でセシリアの役に立てるんだろうって考えたら、答えが出なくて。もっとセシリアのことを知らなきゃって焦って変な行動に出たわけで」



「……そうだったんですね」



「焦って相手のことを知らなくても良いかなって。投げ出すわけじゃないけど。そこは俺がやるよって生活していく中で見つけていければ良いかなって。勿論、手伝えそうなことはどんどん手伝っていくし」



自分の能力で勝てないなら伸ばす、自分にできそうなことは積極的に自分からやる。

……当たり前のことを言ってるだけだなぁ。



こんな当たり前なことを俺は悩んでいたわけだ。

さて、セシリアの説教かなと身構えていたが説教は始まらない。



「今回は私も良くない点がありました」



いやいや、セシリアに良くない点なんてないでしょ。

急に始まった反省に驚く俺を無視し、セシリアの話は続く。



「最近の私はのぼせ上がっていたというか……ヨウキさんの役に立てそうなことならどんどんやっていこうと行動していました。それがヨウキさんの不安に繋がっていることに気づきもせず」



「違う違う。勝手に俺が劣等感を持っただけだから。家事全般やってもらってそんなん失礼だし。気に病む必要ないって!」



「結果的にヨウキさんの暴走を止めねばならないはずなのに今回はそれを許してしまったのです」



ストーキングはやっぱり暴走扱いらしい。

付き合ってるとはいえ……それでもダメだよね。

本来なら断るべきだったのに了承してしまったことも後悔していると。



「だけど、今回は俺がきっかけで」



「いいえ、私がしっかりしていなかったからで」



「俺が悪い!」



「私の注意力が……」



どっちが悪かった、良くなかったという言い合いに発展し収拾がつかなくなった。

しまいには……。



「俺が家事できないせいでこうなった!」



「今後私が教えます。ですから、今回はヨウキさんに負担を強いた私のせいで」



「俺の方が沢山苦労かけてるんだから、我儘になったって良い。それを受け止められない俺が悪い」



「ヨウキさんはこっそり私を連れ出して色んなところに連れて行ってくれてます。私は充分願いを叶えてもらっていますよ」



「だったら俺は……」



こんな感じのやり取りが続いて平行線。

どれくらい時間が経ったのか、お互いに息を整えて時計を見る。



「引き分けだな」



「そうですね。これ以上言い争っても何も生まれないかと」



「今回のけじめはどうつける」



ここでセシリアからの説教を受けてオチがつくのだ。

何もせずに帰れと言うのか?



「……少しだけ時間をください」



セシリアは部屋を出て行った。

一人残された俺、何を考えているのか。



五分も経たない内にセシリアは戻ってきた。

特に何も持っていない……成る程、これは聞かずに察しろということか。



「それで、どうするんだ?」



「やはり、今回はお互いに相手のことをもっと考えて行動すべきだったと思うんです。普段ならできていたはずなのにどうも本調子ではなかったと思いませんか?」



「それは……」



いくらアホな俺でもストーキングするなんて結論に至っただろうか。

厨二関係なしの行動、暴走とはまた違った感があると。



「私もヨウキさんも正常な判断ができていなかった。そんな二人のどちらか一方が悪いという言い合いに決着はつかないということです」



「つまり?」



「なので今回はお願いすることにしました」



ガチャ、と扉が開くとソフィアさんが部屋に入ってきた。

……成る程、そういうことですか。



「……まさか、お嬢様から説教をしてくださいと頼まれるとは思いませんでした」



「でしょうね」



「奥様の許可も頂いておりますが、正直に言って気が進みません」



「お願いします、ソフィアさん。これは私とヨウキさんにとって必要なことなので」



確かに今回のけじめとしては必要なことだ。

ソフィアさんは俺とセシリアの事情も知ってるし、適役だろう。



俺が覚悟を決めて正座するとセシリアも隣で正座しだした。

おいおい……嘘だろ。



「セシリア、それはさ……」



「それでは仲良く一緒に怒られましょうか。ヨウキさん」



こういう時は勝てないって素直に負けを認めても良いんだろうなぁ……。



「こほん……それでは始めましょうか」



ソフィアさんの目が怪しく光る、これはやばいやつだ。

だが、これもまたセシリアと結婚するためには必要なことなんだろう。



既婚者であるソフィアさんの話はとても胸にくるものがあり、俺とセシリアは黙って頷くだけだった。



その後変わったことと言えば、俺がセシリアと一緒に料理を作るようになった。



まずは一歩目といったところだ。

結構、ビシバシと指導が入ってくるので気を抜けないがな。



あとクレイマンの愚痴から始まったのもあったのでソフィアさんに話しといた。



後日、クレイマンの弁当箱には今日も仕事を頑張ってくださいというメモが入っていたらしい。



その日はクレイマンがやる気を出して職員が動きについていくのに必死でひいひい言っていたらしい。



忙殺されて真っ白になったシエラさんから聞いた話である。



本気になったクレイマンの動きについていった受付嬢として注目され、少しモテるようになったらしい。



まあ、働きっぷりを評価されて任される仕事も増えたんだとか。

お疲れ様です、シエラさん……。

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