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恋人を見守ってみた

俺は魔法で消えている。

だが、堂々と屋敷を歩くのはどうも忍びなく……こそこそとなるべく人がいないところを狙って歩いている。



大丈夫とわかっていても人前に出るのはな。

セシリアが相手のストーカー行為だし。

使用人を見るだけで申し訳なくなる。

しかし、止めない。



ばれたら周りからドン引き必至、あいつやべぇの烙印を押されるだろう。

でも、やると決めたんだ。

今更引かないぞ。



ソフィアさんのメモによると朝食後は馬車に乗って移動。

教会で仕事をして昼食を食べ孤児院に寄って子どもたちに勉強を教えて帰宅と。



治療院での仕事もしているらしいが今日はないみたいだな。

邪魔にならないようにを心がけて行動しよう。



というわけで馬車の屋根に張り付いてセシリアを待つ。

朝食は……最近一緒に食べることが多いからさ。



セシリア手作りの朝食を食べてるとか……言いふらしたら多くの敵を作りそうである。



「それでは行ってきますね」



「お嬢様、お気をつけて」



使用人に見送られたセシリアが屋敷から出てきた。

御者に今日もよろしくお願いしますねと微笑みながら頭を下げている。



御者も慣れた感じでかしこまりましたと言い、馬車が出発した。

特にトラブルが発生することはなく、教会に着く。



あの馬車にはセシリア様が乗っているぞー、と人が集まったりするのかと思ったりしたがそんなことはなかった。

アイドルの追っかけ的な考えがあったのだが、そこまで熱心なファンはいないらしい。



隠れてセシリアの動向を探ろうとしている輩は何人かいるみたいだけどな。

隠れてセシリアを見ている奴らはきっとスキャンダルがないか探っているんだろう。



全員排除してやりたいが今日は見ているだけ、セシリアとの約束だ。

今までも無視してきたしな。



いちいち構っていたらそれはそれで変な噂が立ってしまう。

セシリアが教会に入るのを確認すると俺もこっそりと教会へと侵入した。



天井に張り付いたり、人のいないところを通ったりと姿を消していても隠密行動は忘れない。

セシリアはというと神父と今日の日程について確認を行っていた。



「本日もセシリア様から是非指導を受けたいというシスターたちが各地から集まって来ています。一般参加者の数も多く……」



まじかよ、さすが聖……危ない危ない。

セシリアは自分の二つ名に敏感だからな。

二つ名の気配を感じて俺が来ていることがばれてしまうかもしれない。



まあ、ばれることはないだろうけど……セシリアの嫌がることは思うのも禁止だ。



「分かりました」



「シスターたちは既に講堂に集まっております。よろしくお願いします、セシリア様」



教会の講堂って……結構広い部屋じゃなかったか。

珍しいことではないのか神父もセシリアも落ち着いて打ち合わせを行なっている。



本日もって言っていたからな、これが最初ではないんだろう。

打ち合わせを終えるとセシリアは退室した。

毎回準備とか大変なんだろう。



セシリアの後をつけようと思ったが……見送った神父がどうもセシリアが出て行った扉をじっくり見ている

んだよ。

ちょっと気になったのでその場に残る。



神父の年齢は五十を過ぎたくらいだろう。

ベテランの域に達している神父がセシリアをどういう目で見ているのか。



「彼女にはいつも助けられていますね」



人柄の良さそう笑みを浮かべつつ、神父は椅子に腰を下ろした。



「まさか、彼女が聖母と崇められるような子に育つとは。見習いとして入ってきた頃が懐かしく感じますよ」



一枚一枚教本のページをめくりながら昔を思い出しているようだ。



「最近、彼女にも大切な人ができたようです。周りが何を言おうが……決めたのは彼女自身だというのに。あんなに頑張っているのですから、自分の幸せを祈っても良いでしょうに」



祈りを始めた神父を見て俺はそっとその場から離れた。

見て良かったものなのか……自らストーキングすることを選んだとはいえやるせない。



しかし、ここまで後悔するのは許してくれたセシリアに失礼だろう。

神父には心の中ですみませんという謝罪。

そして、セシリアの期待に応えられるように努力しますと誓い部屋を出た。



セシリアの声を頼りに居場所を探す。

おそらくもう講義は始まっているのだろう。

沢山の人の気配があるのにセシリアの声しか聞こえない場所があるからな。



こっそりと部屋に侵入すると老若男女問わずにセシリアの講義を聞くために集まっているようだった。



柱に張り付いて様子を伺うとセシリアの講義を皆真剣に聞いている。

メモを取りつつ、感心している人もいた。



話が一段落すると質問はありませんかとセシリアが聞く。

すると多くの人が手を挙げて質問攻めに入る。



誰もがセシリアからの返答をもらいたいようで我先にと自己主張する者が多い。

おいおいこれじゃあ収拾つかないだろう……と思ったがセシリアは慌てず質問の受け答えをしていく。



人数が多い中、丁寧に素早く的確にだ。

慣れなのだろうな……俺には絶対無理である。



休憩を挟みながらの講義は何事もなく進んでいき、昼頃になると終わりを迎えた。



「……それでは本日はここまでと致します。皆さん帰りの際はお気をつけて」



セシリアが締めの挨拶をしてその場から去ろうとするとこんな声が。



「セシリア様、婚約の件に関して質問よろしいでしょうか!」



一人の若者の質問に周りがざわついた。

その質問をここでするのか。

講義に関係した質問をしろよ、セシリア個人への質問じゃないか、それ。



これは無視して良いんじゃないかな。

講義の助手をしていたシスター二人も良い顔をしていないぞ。



「……わたし個人への質問ですか。申し訳ありませんがこの場でお答えすることはできません」



セシリアもそういう対応になるよね。

ただ、質問した若者が納得いかない感じなんだよ。



「一つだけでもいけませんか。僕はセシリア様がどうして黒雷の魔剣士を選んだのかが知りたいんです。セシリア様は正体を知っているのでしょうが世間では一度もその正体を露わにしていないんですよ。人前に顔を出せないなんて、セシリア様が知らないだけで良からぬ秘密を持っている可能性があるのではないですか」



若者の言っていることが微妙に合っているのが辛い。

つーか、不安を煽るようなことを言うなよ。

ざわつきが増したぞ、どう収拾つけるんだ。



「……そんな可能性はありません」



セシリアの一言にざわつきは止まった。

表情を変えず、淡々とした返答にはそれだけの力があったのだろう。



「魔剣士さんのことは私が良く知っていますから。それでは失礼します。皆さんお疲れ様でした」



セシリアは今度こそその場を離れた。

質問した若者はまだ何か言いたがっていたが、言葉が出ないようだった。



別にセシリアも声を荒げたりしたわけじゃないのに。

重みのある言葉ってああいうのを言うんだろう。



未だに言葉を発しない講義を聞きに来た人たちを尻目に俺は部屋を出た。

セシリアに追いつくと一緒に退室した助手のシスターと会話中だった。



「聖母様。お疲れ様でした」



「私たちも勉強になりました」



二人のシスターから尊敬の眼差しを向けられている。

聖母様呼ばわりに少しも反応していない。

俺が言ったら連れてかれるのに……二人きりになれるけどあれはダメだ。



「先程の聖母様とっても素敵でしたよ」



「はい。誰もこれ以上は踏み込めないなって思いましたもん」



二人のシスターの興奮は止まらないらしく、きゃっきゃっと騒いでいる。

シスターとはいえ年頃の女の子だ。

恋関連の話は気になるんだろうよ。



「聖母様があそこまで言い切る黒雷の魔剣士様とは……どのような方なんでしょうか」



「私も気になります」



この二人のちょっと踏み込んでないか。

遠回しに質問してるだろ。



「二人とも。私が本人の許可無く、ぺらぺらと人の情報を話すと思いますか?」



またしても重みのある言葉。

さっきまで乙女モードだった二人は正気に戻り、すみません聖母様と頭を下げていた。

まあ、そうなるよなぁ。



「私にとって大切な方なんです。気になるようですが、そこは私にとっての特権みたいなものもあるので」



「特権……ですか」



「はい。魔剣士さんとお付き合いしている私だけの特権ですね。今はそれを楽しませてください」



「聖母様だけが黒雷の魔剣士様のことを知っている、と」



「どう解釈するかは二人にお任せします」



シスター二人のセシリアへの羨望の眼差しがすごい。

俺は口を押さえて喜びを堪えている最中だ。

特権……良い響きだな。



もうこれ聞けただけで帰っても良いくらいのレベルだが、まだ昼になったばかり。

俺は引き続きセシリアの後を追うのであった。

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