決心してみた
「ひたすらに働く……それが彼女のためにできることだと……本当に君はそう思うのかな」
「いや、俺って戦闘力ならかなりの自信あるし」
やらないし言わないけど勇者にも勝つ戦闘力をもってるんですよ俺。
セシリアのために力を使うのは全然構わない。
「腕っ節だけで何でも解決できるほど世の中は単純じゃないっすよ。実際、解決できなくてこうして人を集めたんじゃないすか。大体、働いて頑張るってのが筋違いっすよ。隊長怠けずに働いてるじゃないっすか。これからも頑張って働くじゃ絶対同じ悩みにぶち当たるっすよ」
「……デュークの言う通りだ。今回の悩みをセシリアに打ち明け出した結論を伝えて……本人が喜ぶと思うか?」
デュークとレイヴンの話を聞いて黙り込む俺。
確かにと思ってしまったのだ。
事情話したら良い反応をされないのは確実である。
「……俺も同棲していないので上手く言えるかはわからないが……」
そうだ、レイヴンも同棲経験なかったんだ。
俺の家を貸したことはあったけど同棲ではない。
「……ハピネスは発展途上、と言って弁当くれたり手編みの物をくれたりする。俺はどう返せば良いのかと悩んだ時期もあった。本人が好きでやってると言っても何か俺もしてやらないと、と考えた」
「それで何をしたんだ?」
「考えて思いついたことを片っ端からやっていった」
「慎重派で予定をしっかり立てるイメージのレイヴンがか」
付き合う前からちょいちょい相談を受けていた者としては意外である。
「……確かに俺は何かをする前に自分の行動がどんな結果を招くのか常に考える。それは仕事での立場だけでなく、己の性格もあってのことだ。……だが、先の結果を考えて過ぎて何もしないのは愚かなことだと」
「そうか……」
レイヴンもそんな考えになって行動するようになったのか。
悩みまくっているのは俺だけなのかと思っていたら、レイヴンが俺の顔を見て笑った。
「何だよ」
「……いや、俺がハピネスと上手くいってるのはヨウキのおかげでもあるんだぞ」
「俺?」
「ヨウキは俺の相談を何度も受けてくれただろう。おかげで救われた時もあった。まあ、思いもよらないことをされて焦ったこともあったけどな。それもこれもハピネスとの良い思い出になっているんだ」
思いもよらないこと……二人をベッドに縛りつけて外出したことだろうか。
それともレイヴンに黙ってハピネスを依頼に連れて行ったことだろうか。
良かれと思ってやったことだからな。
うん、良い思い出になっているなら良いよね。
「……何が大切なことになるかなんて分からない。ただ、何もしなければ何も生まれない。ヨウキ、何かきっかけが必要なら俺が手伝おう」
俺はヨウキのようにベッドに縛り付けたりはしないがなと言われたので目を逸らした。
やっぱり、あれはダメだったのか。
「さて、私が語る番かな」
最後はカイウスか。
棺桶がガタリと一度揺れた。
カイウスが何を話すのか気になるのだろう。
「……?」
ユウガが棺桶を見て首を傾げている。
やはり怪しんでいるようだ。
シアさん、どうか我慢してくれ。
「私が大事にしているのは彼女を飽きさせないことさ。彼女が退屈を感じないようにどうすれば楽しんでくれるか。日々考えて生活しているよ」
恋のキューピッドだけあってまともな意見だ。
ちなみに棺桶の反応はない。
「彼女に寝癖がついていたら直してあげるし、彼女の服に穴が開いていたら縫うし、彼女の就寝中に布団の掛け直しもしているんだ」
カイウスがそう言うとまた棺桶がガタリと揺れた。
今の話に反応したのか。
別におかしい話ではないんじゃ……。
「彼女の気がつかない内にね」
カイウスが良い笑顔で言うと棺桶の揺れが激しくなった。
おい、ここでその暴露をするんじゃねぇよ。
シアさんの動揺が棺桶ごしに伝わってくる。
「うん……?」
ユウガも完全に怪しんでるって。
棺桶をガン見してるよ。
レイヴンは事情を半分知っているから特に気にしていない。
デュークは……初見なはずだが空気を読んでスルーしているのだろう。
あとで事情を説明しないとな。
俺も気になるけど反応しているな程度だ。
カイウスのシアさんへの悪ふざけは今に始まったことじゃないし。
ユウガにばれなきゃ大丈夫、最悪そういう趣味って感じで誤魔化せる。
ユウガは自分以外が棺桶に対して反応しないので不思議がっているようだ。
そんなユウガを置いて話は進んでいく。
「さりげなく彼女の手助けをするんだ。できないとは言わせないよ。彼女の普段の動きを見てどんな動きをすれば良いか予想して動くんだ。まずは見て情報を得る。そして行動するんだよ」
「成る程な」
「私の場合は彼女の好みを知るところから始めたね。何種類かのタオルを用意して好みの柄を見極めて少しずつ彼女の好みそうな物を増やしたりとか」
「直接聞かずに調べるのか」
「すぐに答えを知るよりもじっくりと相手のことを知っていった方が楽しいんじゃないかと私は思うんだ。それがじれったいと思う者もいるだろうけど……相手のこんな一面もあるのかと発見の喜びを感じられるからね」
「あー、それちょっとわかるっすよ。付き合ってから意外な一面が表れたりするっすからねぇ……」
「これは私の持論だから参考にする程度にね。あとは……彼女の寝る時間を計算して声をかけるんだ。そろそろ眠たくなってきただろう、ベッドまで運んであげようとね。彼女の目をこすりながら素直に頷く姿なんて可愛くてもう……」
バンバン、と一際大きい音が棺桶から聞こえた。
それ以上話すのは止めろというメッセージだろう。
「えっ、えっ!?」
ユウガがかなり狼狽えている。
ユウガだけホラー体験になっているからな。
野郎が集まって嫁自慢大会になるかと思ったら一人だけ怖い目に遭うとか。
説明が面倒なのでしないが。
「全員、それぞれでやることやってるってことか」
「まあ、好きな相手のためなら動くっすよ。隊長だってセシリアさんに全部やらせるわけにはいかないって考えて人を呼んだんじゃないすか」
「……何もしていないわけではないぞ」
「二人で一緒に暮らすことを考えてこうして行動できている。それは間違いない事実さ」
棺桶から丸のついた札が出てきた。
シアさんも……励ましてくれているのか。
「うわっ、何か出てきたよ!?」
「目の錯覚だ」
「嘘だよ。今あそこから……あれ?」
ユウガが俺に気を取られている間にシアさんは素早く札を戻したようだ。
ユウガは納得いかない表情で目を何度もこすって棺桶を見ている。
「それで隊長は話を聞いた結果、どんな行動に出るんすか」
「そうだなぁ。分担、思ったら行動、様子見からの手助け、身体で払う……」
「俺の意見がおかしいっす!」
喚くデュークを無視して考える。
みんなのやり方は間違っていないのだろう。
それで上手くいってるんだしさ。
「頑張ってみるよ」
「答えが出たのかい?」
「ああ、やってやるさ」
「……どうするんだ?」
「思いついたことを片っ端からやって、セシリアの動きを観察して、仕事を分担して、身体で払う」
「混ぜただけじゃないっすか!」
「そこから俺なりにやれることを見つけるんだよ」
セシリアという高い壁を前にどこまで役に立てるのかわからないけどさ。
「……あまり難しく考えないようにな。いや、セシリアが相手だとそうも言えないかもしれん」
「そうっすけど……セシリアさんが何を求めるかも重要じゃないすか」
「考えること多いな」
「でも、やらないとね」
「当たり前だ」
こうして男子会は終了し集まってくれた有志たちは帰っていった。
「うーん……」
ユウガは棺桶を見て首を傾げつつ帰っていったがな。




