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新婚夫婦を迎えてみた

「これで全部解決するな」



聖剣はユウガの手元へ行ったのだ。

心配することはもうない。



「デュークさん。ほらほら、早くボートを借りに行きますよ。勇者様たちを救出に行かないと」



「あー、そうっすけど。今は余韻を感じていたいというか」



「何を言ってるんですか。勇者様たちが待っているんですよ。お腹を空かせて待ってるんですよ。もしかしたら、何も着ていない状態で待っているかもしれないんですよ!」



新設カップルなのにイチャイチャゼロかよ。

二人は聖剣が消えたこと知らないからな。

さっさと教えて安心させてやろう。

じゃないとデュークが可哀想だ。



「二人に説明してくるよ」



「その必要はなさそうですよ」



セシリアが海の方を指さす。

目を凝らさずとも分かるくらいに眩い光がこちらへと向かってきていた。



「ようやく帰ってきたか」



「ミカナが心配です……」



そういえば水着が打ち上げられたんだったな。

一応後ろ向いておいた方が良いかも。

ユウガが無駄に速いので行動は迅速に行わないとならない。



見てはいけない物を見てしまったら俺とデュークは色々と失ってしまう。

こんな時に使う肉体強化。



「ちょっ、隊長!?」



デュークの身体を掴んで地面へとダイブ。

ビーチフラッグしているわけでも狙撃されたわけでもない。

抱き抱えるようにして地面に落ちた。



カップル成立したばかりなのにデュークには申し訳ないと思う。

だが、見てしまったらそれ以上の何かを失うのだ。

背に腹は変えられぬ、許せよデューク。



「顔が見えない男同士で抱き合う……なんの意味があっての行動なんすかね。恋人できた直後に男に抱かれるとか。隊長は俺の思い出を汚そうという考えなんすかね」



「いや、そういうわけじゃない。緊急事態だ」



「俺からしたら既に緊急事態っすよ。早くどいてくれないすかね」



「いや、もうすぐ……」



「みんなー!」



ユウガの声が響き渡る。

遭難していた割に声が元気だな、心配するだけ損だったか。

ちらっと声のした方へ視線を向けると海パン一丁のユウガがミカナをお姫様抱っこしていた。

服は一体何処へ行ったんだ?



「いやー、ようやく帰ってこれたよ」



「ゆ、勇者様。無事だったんですね!」



「全然無事じゃないわよ……」



ユウガから解放されたミカナがぐったりした様子でぼやく。

上下……葉っぱだ。

成る程、代用したのか。



「そこの二人は男同士で何をやってるのかしら。アタシとユウガがいない間に何があったらそんなことになるわけ?」



俺とデュークを見てミカナがとても微妙な顔をしている。

……うん、さっさとどこう。

素早く立ち上がり服に付いた砂を払っていると、ユウガがぶっちゃけた。



「ダメだよヨウキくん。それはセシリアを裏切る行為だ!」



場が静まり返った。

この場にいるのは俺とセシリアとユウガとミカナとデューク……そして。



「えっ、えっ、ええぇぇぇー!?」



事情を知らないイレーネさんである。

お前の行為は見事に俺を裏切りやがったな……。



「デューク。イレーネさんに説明頼む。こうなったら俺のこととか全部話しても良い。中途半端に知らないことがあって後々知ってから説明するのは面倒だ」



静かに剣を抜きながらデュークに指示を出す。



「了解っす。……隊長は何をするつもりすか?」



「決まってるだろ」



肉体強化を発動し、軽く首と腕を回す。



「あの口の軽い勇者へ説教してくる。口だけじゃ分からないだろうから……身体に刻んでやる!」



「うわぁぁぁぁー!?ごめん、ヨウキくん!」



「ごめんで済むかアホ勇者」



逃げるユウガを追いかける。

海辺で男と抱き合って男と追いかけっこして……何なんだろうな。



悲しい気持ちになったが事が事なので有耶無耶にするわけにはいかない。

しぶとく逃げるユウガとの追いかけっこは勿論、俺の勝利で幕を閉じた。



「悪気はなかったんだよ!」



ユウガを引っ捕まえて宿へと帰還した。

部屋に連れてきて正座させたら第一声がこれである。



「あったら問題だろーが」



「つい言っちゃったんだよ」



「ついで許されると思ってんのか」



「僕は二人を心配して……」



「お前の中の俺とセシリアはどれだけ薄っぺらい関係なんだ?」



今まで何を見てきたらあんな発言ができるんだよ。

これは説教が長引くなぁと思っていたら、セシリアとミカナが部屋に入ってきた。



「失礼します」



「デュークとイレーネさんは?」



「別の部屋で説明中です。今日一日で色々なことがあり過ぎて頭の中で処理が追いついていないようでした」



「ああいうのを頭から煙が出てるって言うのね……」



イレーネさんは現在進行形でパニックを起こしているらしい。

それもそうだろう、彼女にとって色々なことが一気に起こり過ぎた。



勇者夫妻行方不明、同僚が魔物、同僚から告白、しかも初めての告白、初めての恋人が男と抱き合う、聖母様の恋人本名発覚。



これ以上のびっくりはいらないだろうな。

デュークも恋人との時間を味わえるとはいえ、複雑な気持ちだろうに。



「さて、現在の状況確認が終わったわけだ。改めて……覚悟はできているな?」



「ヨウキくん、目が怖いよ!」



「当たり前だ。ごめんで済ませていい簡単な話じゃねーんだよ」



これでもユウガのこと少しは信用して事情を話したんだぞ。

それが一週間足らずでこの状況だ。

簡単に許せるわけがない。



どうしてやろうかと考えていたが……俺が出る幕はないようだ。

俺には分かる、セシリアから放たれている慈愛に満ちたオーラが。

薄っすらと微笑みを浮かべ、一歩ずつユウガへと近づいていく。

その姿はまさに聖……。



「何か?」



「いや、何でもないです」



標的が俺に変わるところだった。

危ない危ない。

セシリアの目にはユウガのみ映しておかないと。



「行きますよ、勇者様」



「い、行くって何処に?」



「ミカナ。新婚旅行中、大変申し訳ないのですが……少しの間、勇者様と二人きりにさせてもらえますか?」



「良いわよ」



「ありがとうございます。なるべく早く済ませますので」



ミカナの了承をもらったセシリアはユウガの首根っこを掴む。

どうやっているんだろうか、ユウガが正座した状態のまま引きずられていく。



しかし、この場で驚いているのは俺だけらしい。

俺も引きずられた経験あるけどさ。

セシリアってあんなこともできるんだ。



「終わり次第戻ってきます」



「ミ、ミカナ……」



ユウガが最後の抵抗と言わんばかりに新妻の名を呼び手を伸ばす。

うーん……これまでに至る理由が違っていたら、ミカナも手を伸ばしていたかもしれないが。



「今回はユウガが悪いんだから。セシリアの話をちゃんと聞いてきなさい。同じことしたら二人に迷惑かけるんだから。これを機に学んだ方が良いわよ」



「そういうことです、勇者様」



「わかった。学んでくる……」



嫁にまで言われたら抵抗する気も失せたらしい。

ユウガは大人しく引きずられ、二人は部屋を出て行った。



こうしてミカナと二人きりになるという奇妙な空間になる。

ユウガには用があったがミカナには特に用事は……。



「そういや無人島暮らしはどうだった?」



「聞きたいわけ?」



「今後の参考になるかもしれんし」



「はぁ……。まあ、ユウガとセシリアが戻ってくるまで暇だし、構わないわ」



「じゃあ、頼むわ」



「そうね。まずは……」



初日は晴れていたので、楽しかったらしい。

二人で海ではしゃぎ寝床を探し、夜は二人抱き合って寝たんだとか。

そこまで詳しい情報はいらん。



二日目、起きたら嵐でボートを見に行ったら既に流された後だったと。

ユウガが布に包まれていた聖剣を取り出すと……ただの剣だったと。



イレーネさん、聖剣だと思って布に包んでいたのか。

その気遣いが逆に普通の剣だと気づかせなくなってしまったんだな。



その後、不幸は続き荷物を入れていた鞄を誤って海に落としてしまったらしい。

何やってんだよと思ったら、転びそうになったミカナを庇った結果だという話。



うん、それは仕方ないね。

ごちそう様です。

夕食はミカナが旅の時に得た知識を利用し、食べられる植物を見つけたんだとか。

それで食いつないだとか逞しいな。



三日目、ミカナの表情を見てユウガが焦りを覚えたらしい。

言い出しっぺは自分、迷惑をかけサバイバルでは大した役に立たない。



「『このままじゃダメだ。僕が何とかするよ。ミカナ』って言って晴れてきた空に向かって手を伸ばしたら……」



「ユウガの手に聖剣があったと」



「そういうことよ」



勇者すげぇとしか言えない。

愛のためならどこまでも強くなるのがユウガなのか。



あり得ないけど、俺がミカナを誘拐したら俺以上の力を発揮するようになるのだろうか。

少しユウガが怖くなったわ。



「ところでさ」



「何よ」



水着が打ち上げられた理由を聞いてない。

これは聞かない方が良いのか。

しかし、俺の表情からミカナも悟ったのだろう。



「あー……水着はね」



「いや、その……すまん」



「転んだ時に庇われたって話したじゃない。その時、ユウガのやつ無意識に外しちゃったみたいで」



「は?」



「そこから落ちていく荷物に手を伸ばしたもんだから、水着が風で……ってことよ」



「そんなこと有り得るのか……?」



「あったからアタシは葉っぱ巻きつけて帰ってきたのよ!」



いや、そうなんだろうけどさ。

ユウガのやつ……別の部分でも進化を遂げてしまったんじゃないのか。



「公共の場では気をつけるようにな」



「何によ?」



ユウガにだよ。

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