元部下から事情を聞いてみた
首だけのデュークから詳しく事情を聴かねばならない。
「ヨウキさんそれは……ってデュークさんではないですか。何故首だけの状態なんですか」
「ああ、俺もわからん。宿に戻って事情を聴かないと」
「いやいや、すぐに助けて欲しいんすよ!」
「この状況で俺らに事情を聞けと?」
嵐なんだよ、寒いんだよ、風が強いんだよ。
わめくデュークを無視して……どうしよう。
「出て行く時は何も持ってなかったのに帰ってきたら兜持ってるって宿の人から見たらどうかな?」
「戦帰りではないですよね」
落ち武者狩りでもしたのかと言う話だ。
兜の中を覗かれたらアウトである。
「しゃーない。少しでも雨風がしのげそうな岩陰にでも避難して話を聞くか」
俺とセシリアと……首だけのデュークを持って岩陰へと移動した。
正直、風が強いので完全にしのげているわけではないが……。
「ここでいいだろう。デューク何があった」
「えっと……まずは俺とイレーネがいなくなったところから説明するっすよ」
首だけのデュークが朝の出来事を話し出した。
「昨日寝る直前にイレーネの様子がおかしくなったんすよ。聞いても何も答えてくれなくて。問い詰めたらボートに聖剣じゃなくて普通の剣を間違って入れたって言い出したんすよね」
犯人イレーネさんかよ。
まあ、大事な聖剣を準備したか確認してなかったユウガも悪いからその辺は責めづらいな。
「俺としては隊長が何とかしてくれると思ってたんで、大丈夫って励ましてたんすけど……少し目を離した隙にメモを残していなくなりまして」
「目を離した隙に……って、イレーネさん何者なんだよ」
デュークの目を盗んでいなくなるとか。
油断していたわけでもないだろうに。
普段の姿から考えてデュークを出し抜くなんて考えにくいんだがな。
セシリアも驚いてるし、俺と似たような考えなんだろう。
「残されてたメモがまた……穴があったら入りたい気分です。でも、穴がないので洞窟に行って反省してきます。なんて書かれてたら、飛び出すっすよ」
俺とセシリアは顔を見合わせ、大きくため息をついた。
「飛び出さないで頼ってくれよ」
「いや、夜遅かったしすぐに連れ戻す予定だったんすよ。イレーネの脚が思っていたより速くて。いつも騎士団の鍛錬で走ることあるんすけど……記録更新っすね」
土壇場で覚醒とかユウガかよ。
「記録更新じゃねぇよ。それでこの状況って何?」
「結局追いついたのは洞窟に入ってからだったんすよね。それで説得してたらその……洞窟が崩れるということが起こったんすよね。海水も浸水してきてイレーネがおろおろし出すし。俺だけじゃあ解決できなくなったんで頭だけなら脱出できそうな隙間があったんで隊長を呼びに来たんすよ」
この嵐なら目撃者が出る可能性も少ない。
見られたらまあ……海の怪談が一つ増えました的な感じで誤魔化しもできたと思う。
「しかしなあ……ばれたろ」
「まあ、ばれたっすね。でも、時間がなかったんで仕方ないかなって。大した説明もせずに飛び出してきたっす。感覚的に身体揺さぶられてるっすねー」
簡単に言ってるけど良いのか。
……デュークのことだしもう決めているんだろうな。
なら、何も言わないでおくか。
「事情は大体わかった。洞窟に案内してくれ。助けるから」
「頼むっす」
デュークに案内してもらい洞窟へと向かう。
現場に着くと崩れた洞窟の奥からイレーネさんの声が。
「デュークさん、デュークさーん」
デュークの名を何度も呼んでいるようだ。
「デュークさーん。戻ってきてくださーい。寂しいです、寂しいです。首がないと話せないじゃないですかぁ!」
なんか可愛いパニックを起こしてるよ。
隣のセシリアもにこにこしてる、状況的にはシリアスな場面だぞ。
「とにかくこの瓦礫なんとかしないとな。魔法で一気にドーンとやっちまうか」
「そんなことしたらこの洞窟が崩れますよ!」
ですよね。
「あそこに俺が首を通した穴があるんで上手く広げられないすか」
デュークが首だけで指示を出す。
やってやろうじゃないか。
黒雷の魔剣士に不可能は……ないっ!
「まあ、こんなものかな」
強化した腕をねじ込み、風の魔法で調整して綺麗に螺旋状の穴を開けた。
道が開くとすぐにデュークの首が穴の中へと飛んでいく。
イレーネさんがかなり心配だったのか。
「あー、ようやく身体に戻ってこれたっす」
「え、えー!? デュークさん、第一声がそれはあんまりです」
「いやいや、首だけで移動って疲れるんすよ。魔法で浮いてたんすから。良かった、良かった」
「良くないですよ。急に助け呼んでくるっすー、なんて言って説明もなしに行っちゃうんですから。私がどれだけ心細い思いをしたか……」
「はいはい、悪かったっすよ。話は後で聞くっすからさっさとここから脱出するっす」
仲がよろしいことで楽しそうな会話が聞こえてくる。
おかしい……イレーネさんの追及、首のことに関してあまり触れてない。
勝手に自分だけ残してどこかへ行ってしまったことについて怒っているみたいだ。
「こんな暗い洞窟に女性一人にするなんてひどいと思います!」
「イレーネが洞窟にこもり始めたんじゃないすか。俺は巻き込まれたようなもんすよ。大体、一人じゃないすよ、身体残して行ったっす」
「身体だけ残されても意味ないです。話しかけても返事ないし、身体揺さぶったら反応してくれましたけど」
「やっぱり揺らしてたんすね。見えてないんだから止めてほしかったっすよ。割と不安なんすからね、見えてない状態で身体揺らされるの」
「わかりませんよ、そんなこと! だって私……首だけで動くことなんて、できないです……よ?」
「……そうっすよね」
「教えてほしいです。デュークさんのこと。私……デュークさんのこと知りたいです」
「イレーネ……」
なんか始まろうとしてるんだけどさ。
ここじゃねぇだろ!
いつ崩れるかわからない、浸水してて脚は冷たい、外は嵐。
シリアスをぶち壊すかもしれないがはっきりと言ってやろう。
「置いて帰るぞ!」
「さぁさぁ、俺が先行するんで後に続くっすよイレーネ。とっとと脱出するっす。セシリアさんもいるんであの声は本気で俺たちを置いて行きかねないっすから」
「えっ、でもデュークさん」
「えっ、はなし。返事はわかりましたのみ許可するっす。さあ、返事!」
「わかりました、デュークさん!」
何なのこの軍隊方式な会話。
イレーネさん、君、デュークより先輩なこと忘れてない?
本人が良いなら良いんだけど。
ほふく前進で無事に穴から脱出した二人を連れて洞窟を出る。
外はやっぱり嵐で濡れること間違いなし。
しかも一息つく間もなく、嫌な物を発見してしまった。
「あれは……勇者様とミカナが乗っていったボートですね」
「だよなぁ」
海岸にボートが流れ着いていた。
青い顔してるイレーネさんはデュークとセシリアに任せてボートの状態をチェック。
穴が空いては……いないな。
ボートを繋げておく用のロープが古かったのか。
切れたというか千切れたのかね。
転覆の可能性は低いかな。
一通り調べたので3人のところへと戻ると、イレーネさんが座り込んでいた。
「は、ははは……どうしましょう。これ、私のせいですよね。私が間違って普通の剣をボートに載せたせいで。護衛として付いてきたのに何をしているんでしょう」
かなりの落ち込み具合だ。
いやいや、最悪を想定するの早いって。
聖剣なくてもユウガ……うん、ミカナも一緒だし大丈夫っしょ。
「イレーネさん、元気を出して下さい。勇者様とミカナは無事です」
セシリアがしゃがみ込んでイレーネさんの目線に合わせ励ましにかかる。
「一緒に旅をしていた私にはわかります。このような嵐以外の脅威に晒されながらも私たちは旅を終えたんです。これくらいで勇者様や、ミカナに万が一のことが起こったりしませんよ」
セシリアの言葉と優しい笑みによりイレーネさんの顔が明るくなっていく。
こういう時、セシリアには敵わないなーって思う。
「だから、安心して下さい、イレーネさ……」
セシリアの言葉が一際強い波の音でかき消された。
ザパァン、という音と共に何かが宙を舞う。
それは……ミカナが着ていた水着だった。




