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見送ってみた

「いやー、無事に収まって良かったっすねぇ」



朝、起きたらデュークが部屋を訪ねてきてこの一言。

無事収まったと言うにはまだ早いと思う。

第一、ユウガたちが解決したからとはいえ……。



「お前はどうなんだよ」



「……」



「黙るなよ」



「いやー、昨日は祭りちょっとタイミングが悪かったっすよ。イレーネは人がいすぎるとダメっすね。何かを吸い寄せてるわけじゃないんすけど、自分から起爆剤になってるんすよ」



「ユウガとは違うタイプか」



それじゃあ、ムードなんて作れないわな。

どっか閉鎖空間にでも閉じ込められるとか良いんじゃないかね。



強制的に二人きりになるにはこれしかない……なんてな。



「さて、準備しますか」



俺は黒雷の魔剣士セットに手をかける。



「……もう勇者には正体ばらしたんすから、わざわざその格好しなくても良いんじゃないすか」



「何を言ってるんだ、お前。イレーネさんがいるだろうが。それに今回の依頼は黒雷の魔剣士が受けた依頼なんだぞ。俺がいるのは本来間違ってるんだよ」



「あー、成る程っす。流石にイレーネに正体ばらすわけにはいかないっすよね」



「……俺の正体を知るものはなるべく少ない方が良いからな。まだ、その時ではないということだ」



デュークと話している内に着替えが完了した。

ユウガにはばらしたし、これで無駄な視線を浴びなくて済むので、気が楽だ。



「さあ、朝食だ。行くぞ、デューク!」



「了解っす」



俺はデュークを連れて部屋を出た。



「今日は何するんすかね」



「予定は未定というものだ、デュークよ。何が起こるか分からない状況の中で最善の手を尽くす……それが一流の仕事だろう」



「本当、いつもと違うんで調子狂いそうなんすけど、なんとかならないっすか」



「残念ながら、今の俺は黒雷の魔剣士だ……」



これが黒雷の魔剣士のいつもなのである。

俺が言い切るとデュークはそれ以上何も言わなくなった。



「さて、部屋を出たんだ。もう油断は許されない状況となった。気を引きしめろ」



「まだ、外にすら出てないのに何が起こるって言うんすか」



デュークは意味が分からないといった感じだ。

甘いな、それではユウガに対応できないぞ。



「そうだな。ほら、ちょうど良いところにユウガがいた」



こちらには気づいてないらしい、朝から上機嫌な様子で歩いている。



「ただ歩いているだけに見えるので、何も起こらない……と思うのは三流だ」



「いやいや……おかしいっすよ。ただ歩いてるだけなのにどんな先読みしようとしてるんすか」



「そうだな……部屋に戻ってからが勝負だろう」



ユウガの後ろをこっそり着いて行くと、予想通り部屋へと入っていった。



「まあ、ミカナが着替え中って状況なのは間違いないな」



俺が言うと部屋からミカナの声が聞こえてきた。



「予想的中っすね。この後はどんな展開が待ってるんすか」



「夫婦なんだからって良いじゃないか、というユウガの言い訳が始まる」



案の定、どうしてそこまで怒るのさという声が聞こえてきた。



「確かにそんな気もするっすけど」



「なんか理由があるとして……ここでさらに余計なことを口走るのがユウガだ」



「せっかく僕がミカナに似合うだろうって一生懸命考えながら、買ってきたのに……ぐえっ!?」



ユウガが部屋から吹っ飛んできた。

枕を投げつけられたようだ。



「選んで買ってきたって……なんすか」



「さあな。もう少し情報が欲しいところだ」



成り行きを見守っていると、部屋の扉が閉められた。

鍵もかけられたっぽい。

完璧に閉め出されたな。



そのままがっくりと項垂れていれば良いのに、こっちに気づいたようだ。

手を振って向かって来たな。



「や、やあ。ちょっと恥ずかしいところを見せちゃったね」



ユウガは、はははと笑い頭をぽりぽりと掻いている。

ちょっとじゃねーだろ。

全く、今度は何をしたのやら。



「ようやく落ち着いたというのに何をしたのやら。依頼は護衛だ。夫婦仲の修復は依頼内容に含まれていないのだがな」



「あ、あはは……そうだよね。ふふっ……」



こいつ俺を見て笑いをこらえているな。

黒雷の魔剣士を見て笑うは……無礼なやつめ。



「何がおかしいんだ」



「いや。この前までは正直良く思っていなくてさ。セシリアとの関係とか気になって気になって。仮面も取らないし、セシリア絶対騙されてるか、脅されてると思ってたのに。ヨウキくんだったんだって分かると……ふふっ」



また笑いやがった。

よし、斬ろう。

背中の剣に手をかけたところでデュークに止められた。



ホテルの中で騒ぎを起こすのは良くないとのことだ。

成る程、外でなら良いんだな。



「僕、護衛対象なはずなんだけどさ。その護衛からの殺気が凄まじいんだけど」



「自分が招いたことに関しては自分で責任を持つっすよ」



「そういうわけだ。まあ、安心しろ。起きたら嫁のふとももの上にいれる様に手配してやる」



黒雷の魔剣士はアフターサービスも万全だ。



「そうしてもらえるのは嬉しいんだけど、今は無理かも。ミカナの機嫌が良くなくて」



「そんなことは知っている。どうせ着替えを見て興奮し、抱きついた結果、飲み物を零してしまいミカナの怒りを買ったんだろう」



「やけに具体的な推理っすね」



「え……覗いてたの?」



「当たってるっすか!?」



「ふっ……黒雷の魔剣士にかかればこの様なことは簡単に想定できる。だが、完璧ではないだろうな。勇者ユウガの行動は俺の想像の上を行くはず……そうだろう?」



あのユウガの行動だからな。



「うん。抱きついて飲み物を零したのは合ってるよ。それでさ、零した飲み物がミカナだけじゃなくて持ってきた着替え全部にかかっちゃって。お詫びに僕が近くの店で買ってきたんだけど、お気に召さなかったみたいなんだよ」



「お前、一人で女性用の服買いに行ったのか」



かなりハードル高いことやってるよな。

イケメン勇者だから許される行為だと思うんだけど。

常人じゃあ無理だぞ。



「もちろん、下着も買ってきたよ」



「勇者だな」



「勇者っすね」



もう本当、ユウガって勇者だわ。



「セシリアさんから借りれば済んだことなんじゃないすかね」



「……そうだな」



このデュークの一言により、ミカナの着替え全滅事件は幕を閉じた。

ユウガが、買ってきた服はうん……気合い入れすぎたんだね。



パーティーにでも行くのかって聞きたくなる様な服を買ってきてたわ。



……ミカナがサイズがぴったりなんだけど、と呟いていたが聞こえなかったことにした。

うん、勇者が夫になるとこうなるんだな。



渇いた笑いが出そうになったが、こらえておいた。

勇者なユウガとデュークを引き連れ、いざ朝食。



大部屋貸切で朝食とかビップ待遇である。

昨日までぎすぎすしていて、個人で食べていたからな。



「うん。そりゃそうなるだろうな」



ミカナはセシリアに服を借りたらしい。

懸命な判断である。

一方、ユウガはなんでといった表情。



「ミカナ、僕が買ってきた服は……?」



「着るわけないでしょ。何処のパーティーに参加する気よ」



ごもっともな意見である。



「ミカナがドレスを着て訪ねて来たので何事かと思いましたよ」



「そうよ。着る服がなくて仕方なく海の旅館をドレス着て歩いたんだからね。全く……」



ミカナの機嫌は良くないと。

仲直りしたのにこれか、大丈夫なのかね。



「それで勇者殿。今日の予定はどうなっているのか聞きたいんだが」



「あ、そうだねヨウキく……じゃなかった。黒雷の魔剣士……さん」



おい、もうほぼ正体ばらしてるじゃねーか。

ヨウキく、で止めても意味ないからな、ばらしてるからな。



この中で唯一黒雷の魔剣士の正体を知らないイレーネさんに注目が集まる。



「ほぁ、何でしょうか」



もぐもぐしながら、こちらを窺うイレーネさん。

うん……全く気づいてないわ、この人。



「食べれる時に食べといて体力をつけるのは騎士としての基本だと教えられてるっすから」



横からデュークの補足情報が飛んできた。

イレーネさんが教えに忠実で助かった。

つーか、ユウガふざけんな。

怒ってやりたい……あ、ミカナとセシリアから挟まれてる。



多分、俺の代わりに注意してくれているのだろう。

二人の顔が険しいので、割と本気で怒られてるな。

自業自得なユウガはダブル説教をくらうことになった。

まあ、すぐに復活するけどな、勇者だから。



「……で、再度勇者殿に聞きたいんだが、予定は?」



もう折り返し地点に入ってるんだから、頼むぞ。



「実はね。ミカナと二人で無人島に行こうかなって」



……新婚旅行に来ていて、何処に行くかを聞いたはずだよな。

俺が、質問を間違ったのだろうか。

いや、ユウガの表情はガチである。

何故、そうなった……,



「僕のせいで中々、思い出が作れてないからさ。あそこなら、二人きりで思いっきり遊べるかなって」



二人っきりという言葉が強調されている。

まあ、無人島ならそうなるけどさ。

遭難フラグがあるからなぁ、ユウガだし。

ミカナが何と言うかだが。



「アタシは……ユウガがどうしてもって言うなら」



まさかの承諾である。

えっ、遭難する気なのか。



「ここから、ユウガがどう楽しませてくれるのか、見せてもらうわよ。……それに、アタシが勝手に不安になって悪いことしたかなっていうのもあるから、一度くらい我儘を聞いてあげても良いかなって」



「ミカナ……よし。じゃあ、早速準備しよう。手伝ってくれるよね、皆?」



嫌だ、なんて言うやつはこの中にはいない。

というわけで、勇者夫妻は無人島へ行くことに。

遭難しないよな、してもユウガなら何とかできるだろうが。

心配したりしなかったりとしながら、準備を手伝う。



二人乗りのボートに食料、着替えなど必要そうな荷物は詰め終えた。

あとは行ってらっしゃいするだけ、完璧。



それじゃあ行ってくるよ、と爽やかな笑顔で勇者夫妻は旅立っていった。

そして、翌日、嵐が来た。

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