五周年記念 買い物で遭遇しました
また遅くなりました……申し訳ないです。
「ハピネスちゃん、まずはソフィアさんから頼まれた買い物を済ませてしまいませんか?」
「そうっすねぇ、頼まれ事は早めに済ませた方が後々、慌てることないっすから」
「……余裕、持つ」
「隊長は予定外のことに首を突っ込むのが得意っすから」
「……同意」
面倒見が良いのはヨウキさんの長所でもあるのですが……二人も苦労しているようです。
私も似たような体験をしているので、気持ちは良く分かりますね。
「では、行きましょうか」
ハピネスちゃんのメモを見ながら、買い物を済ませていきます。
メモを見る限り、そこまで買うものは多くありませんでした。
店を回りながら商品の値段や質を見て、買い物を進めていきます。
こうして自分で商品を見て買うのは久しぶりなのですが……。
「なんというか……無駄なく、良いものを選んで買い物しているっすね。買い物を知り尽くしている感じがするっす」
「……達人」
「そんなにすごいことでもないと思いますよ」
「できる人はそう言うんすよ」
「……同意」
私としては普段通り買い物をしていただけなんですけど。
「……デート時」
「ハピネス。それは禁断の質問っすよ」
「……デートの時は効率重視ではありませんよ」
そもそもヨウキさんと出掛ける時はヨウキさんが引っ張ってくれますし。
「考えてみたら、隊長が考えてるんすよね。そういえば……隊長から昔、デートってどうすれば良いのかみたいな質問をされたことがあったんすよ」
「そんなことがあったんですか」
ヨウキさんからは聞いたことがないような……。
ハピネスちゃんも初耳みたいですね、首を傾げています。
「いやー、口で説明するって言っても無理じゃないすか。あの頃の隊長じゃあ、例え話したらその場所にそのまま行っちゃいそうな気もしていたし」
「……同意」
「まあ、セシリーさんのためってことで空回りするのはセシリーさんからしたら、嬉しい事だったり……」
「否定はしませんね」
私のために動いてくれていたというなら、嬉しいことですよ。
ただ、周りに迷惑をかけていたら別の話になりますが。
「ハピネスちゃんもレイヴンさんが自分のために……と聞いたら嬉しくないですか」
「……激しく、同意」
「でしょう?」
「おっと。これは女子の特有の会話が始まりそうな予感っすね。ここは離れた位置に……」
逃げようとしたデュークさんをハピネスちゃんが腕を掴んで阻止します。
護衛なんですから、逃げてはダメですよね。
「離すっす、ハピネス。最近、ピンク色のお花畑な会話がそこらかしこで多いんすよ。甘いのはもう勘弁してほしいっす」
「……拒否」
デュークさんは逃げようとしていますが、ハピネスちゃんは腕を離すつもりは全くないみたいです。
じゃれているんでしょうか、デュークさんならハピネスちゃんを簡単に振りほどけそうですが。
怪我をさせたら困りますから、そういうことなんでしょう。
このまま騒いでいたら周りから注目を浴びてしまいますし、そろそろ止めないといけませんね。
「ハピネスちゃん、このままだと勘違いされてしまいますよ」
「……!」
ハピネスちゃんが驚いた表情をすると共に掴んでいた腕が離されました。
「おっと」
急に腕を離されたにも関わらず、デュークさんは転ぶことなく踏みとどまりました。
転んで万が一があったら……大事件ですからね。
「目立たないよう、行動しましょう」
「……そうっすね」
「……了承」
静かになった二人を連れて買い物を続けます。
ソフィアさんから頼まれた物を粗方買い終え、買い漏れがないか確認していたところ。
「あれ、隊長じゃないすかね」
私とハピネスちゃんでメモと買った物を見ていたら、デュークさんがそう言って、指差しています。
そこには確かにヨウキさんの姿がありました。
行商に来ている異国の方と話しているみたいです。
「これは……偶然でしょうか」
「……奇跡」
「とりあえず、声をかけましょうか」
「いやいや、ちょっと様子見てみるっすよ」
デュークさんが私を止めます。
盗み見はいけないことなんですが……デュークさんもハピネスちゃんも顔を見合わせて悪い表情をしています。
ばれたら怒られるのではないでしょうか。
「ほらほら、静かに近づくっすよ」
「……接近」
考えている内に尾行が始まってしまいました。
買い物も終わりましたし……少しくらいなら良いですよね。
ヨウキさんには申し訳ないと思いながらも、こちらの姿が見えないように後を追います。
ヨウキさんは目的があって買い物をしに来たわけではないみたいですね。
敷物の上に並べられた商品を見て、次の店に移動を繰り返しています。
そんなことを続けていたヨウキさんですが、ついに興味が惹かれる物を見つけたようでした。
手にとって何度も頷き、お店の方と話しています。
「隊長が持ってる物って手甲っすよね。今更手甲買うんすか。魔法で腕を強化してるんだから、いらないと思うんすけど」
「……同意」
「いくら強化できるとはいえ、防具を着けておいて損はないと思いますよ」
ヨウキさんにも考えがあって購入を決めたのでしょうし。
「あっ、手甲から仕込み刃が出てきたっすね。多分、あれが理由っすよ。隊長、ああいうの好きっすもん」
「……笑顔」
私の眼にも手甲から刃が出てくるところを見てはしゃいでいるヨウキさんが映っています。
……ヨウキさんが必要なら購入しても良いかと。
「あっ、買ったっすよ。良い買い物したって感じですごくにやにやしているっす」
「そうですね……とても満足気な表情です」
手甲を手に入れたヨウキさんは次の店で物色を始めました。
今度は見たことがない異国の飛び道具に興味が集中しているようです。
「隊長は暗殺者にでも職業変える気なんすかね」
「……謎」
二人はそんなことを言っていますが、私はそういった理由ではないと分かります。
おそらく、ヨウキさんの中でああいった物がかっこ良く、使ってみたいという思いから購入しているのでしょう。
「あれはヨウキさんの趣味のようなものですよ。そこまで高額な買い物をしているわけでもないですし、心配する必要はないでしょう」
「趣味って……セシリーさんは理解があるんすね」
「私にも趣味はありますし、お互いにそこは理解し合わないと。押し付けや過剰な散財があれば話は別になります。一緒に暮らすとなると話し合う必要性が出てきますね」
「……同棲」
「まじっすか」
どうやら、口が滑ってしまったようですね。
気の緩みが原因でしょうか、良くありません。
「するとなったら、の話です」
「うわぁ、きっぱり言い切ったっすね。隊長が聞いてたら跳び跳ねて喜ぶっすよ」
「……絶対」
「そんなに変なことを言いましたか」
私の質問にハピネスちゃんは一言、現実味とだけ言いました。
……成る程、私とヨウキさんの関係では冗談に聞こえないということですね。
私もハピネスちゃんの短い言葉に込められた意味を理解できるようになったみたいです。
これは喜ぶべきことですね。
嬉しすぎて顔が赤くなったりするのも仕方ないですよね。
「……じーっ」
「な、なんですかハピネスちゃん」
「……黙秘」
「意味ありげな視線を送ってきてそれはないと思います。何を思っていたんですか、教えてください」
私が聞いてもハピネスちゃんは素知らぬ顔。
良く見たら顔は私を向いてますが視線は横です。
こういった状況は慣れていないので困ります……が、どう対応するか冷静に考えられている時点でまだまだ甘いですよ。
「あっ!」
「どうかしましたか、デュークさん」
「あー……いや、何でもないっす」
「……怪しい」
ハピネスちゃんと同じ気持ちです、怪しいですね。
二人でデュークさんに視線を向けますが、何も言いませんね。
視線が泳ぐこともない……おかしいです。
「俺なんかよりも隊長のことは気にしなくても良いんすか」
「大丈夫ですよ。ヨウキさんなら、ほら」
指差すと別のお店で物色を始めています。
私たちがいる場所に近いお店ですね、気づかれたのでしょうか。
「そうっすか、隊長なら大丈夫なんすね」
「は、はい、そうですね」
「いきなりっすけど、今の隊長についてどう想っているか教えて欲しいっす」
「えっ」
「以前も似たようなことを聞いたっすけど、隊長への信頼が思っていた以上に厚いんで何か特別な想いがあるのかと」
「特別な想い……ですか。今、私は複雑な事情でこのような忍ぶ形でないと町を歩けない状況です。こんな中、ヨウキさんは将来を考えて行動してくれています。自分で責任を取ると言ったら、中途半端に投げ出さないで行動するんですよ。特別な想いというと違うかもしれませんが……ヨウキさんのことは信頼してます」
「本人あそこにいるっすけど、もっと短い言葉で一言お願いするっす」
「……お願いするっす」
「ハピネスちゃんまで……そうですね。ヨウキさん、これからも一緒に頑張りましょう。こんなところでしょうか」
面と向かって言うのは恥ずかしいかもしれません。
一言で、というのは案外難しいものですね。
「うーん、今のセシリーさんの姿を隊長に見せたかったっすね」
「……残念」
「じゃあ、次の質問を……」
「えっ、まだあるんですか」
「はい。次は隊長と二人きりの時……」
「止めろや!」
デュークさんの肩が叩かれました。
頭だったら危なかったかもしれません。
まあ、事情を知っているからこそ叩くのは肩にしたんですよね、ヨウキさん。
「……出た」
「出たじゃねーよ。人のことなんだと思ってんだ」
「……」
ハピネスちゃんは無言で首を横に振り、ヨウキさんの方へ両手で壁を作って少しずつ後退します。
「そのあからさまな拒否反応は止めろ、傷付くから」
「えっ、隊長って傷つくんすか」
「お前は俺のことをなんだと思ってるんだ?」
「……甲斐性無し」
「ハピネスさんや、意味を分かってて言ってるんだろうな、それ」
ハピネスちゃんは自信満々に親指をぐっと立てます。
そんな行動を見たヨウキさんはハピネスちゃんのこめかみを指でぐりぐりと……大丈夫でしょうか。
「止めなくても良いのですか」
「いやいや、いつものことっすよ」
デュークさんは冷静に二人を見守っています。
……そうでしたね、シークくんを含めた四人は特別な絆があるんでした。
「……痛い」
「手加減はしたからな。安心しろ。彼氏に通報とかするなよ」
「……はっ!」
「いや、するなよ……で、何してるの?」
ヨウキさんは私を見て聞いてきます。
ばれてる……ほっとしました。
「気づいてくれたんですね」
「いや、気づくから」
「変装が甘かったんでしょうか。もしかして周りにもばれていたりしますか?」
「それはないんじゃないかな。変な視線を感じないし。ただ、俺は気づくって話だよ」
「そうですか……」
「買い物中だったんだよね。俺も混ざって良い?」
「……不許可」
「何でだよ。つーか、俺はセシ……」
「セシリーさんっすよ」
「あー、そっか。セシリーに聞いてるんだよ。良いよね」
「もちろん、良いですよ」
「よっしゃー。ほーら、セシリーは良いって言ってくれたぞ、ハピネスー……ぐへっ」
ハピネスちゃんの容赦ない一撃がヨウキさんの脇腹に入りました。
相変わらず……なんですよね。
買い物をしていても二人の攻防は続きました。
止めても無駄と思いつつ、少し羨ましく思ったりしています。
楽しそうなんですよね……三人とも。
ちょっかいをかけるハピネスちゃんもツッコミを入れるヨウキさんも傍観しているデュークさんも。
今はお守りを見ているようですね、隊長買ってほしいっすというデュークさんの声が聞こえてきます。
ハピネスちゃんも加わった結果、買わされてしまったみたいです。
「はい、セシリーの分」
「ありがとうございます」
「気前の良い隊長に感謝っす」
「……感謝」
「そうだ、そうだ。感謝を……ちょっと待て」
何か思い出したという顔をするとお店に戻っていったヨウキさん。
お守りをもう一つ買ってお店を出てきました。
「三人だけ買ったって言ったらシークがふくれるからな」
「さっすが、隊長」
「……ひゅーひゅー」
「何だろうな。お前から誉められてる気がしないんだけど」
相変わらず三人でわいわい盛り上がっています。
……私、忘れられてないですよね。
「ヨウキさんは優しいですね」
「えっ、ああ。ありがとう?」
ヨウキさんは少し困惑しているように、首を傾げています。
変ですね、私は誉めたつもりだったのですが。
おかしいですね、私の言い方に何かあったのでしょうか。
気になりますが、それよりもこの後どうするかですね。
「荷物もありますし、そろそろ帰ろうかと思います」
「そうっすか」
「……了承」
「じゃあ、行きますか」
ヨウキさんは当然のように荷物を持って歩き始めました。
「えっと……」
「えっ、どうしたの」
「これは隊長が悪い流れっすね」
「……最低」
「まじか。ごめん、セシリー」
「いえ、そんなことはないんですよ。その……私、今日暇なんです。屋敷に着いたら寄って行きませんか?」
「行く行く。じゃあ、お茶菓子買って行こうか」
「隊長、五人分っすよ」
「……全員分」
「分かってるっつーの。いつもの店に行きますか」
そう言ってヨウキさんは私の手を握って歩き出します。
あまりにも自然に掴まれたので、自分の手を見つめてしまいました。
私が言うのもあれですが……。
「ヨウキさん、変わりましたね」
「えっ、何が?」
「やっぱり気のせいだったみたいですね」
「いやいや、気になるって。教えて」
「秘密ですよ」
首を傾げるヨウキさんを引っ張り、私が先頭を歩きます。
疑問が解決しないからって考えて、私に先頭を取られるようではまだまだですね。




