祭りを回ってみた
ひょっとこパワーはすごい。
ユウガのイケメンだけではなく、勇者パワーも消しているようだ。
誰も寄ってこないので自由に動ける。
「ヨウキくんのおかげで騒ぎにならずに済んでるね。ありがとう、助かったよ」
「おう。変装なら任しとけ。こういうことは前からやってるから」
「……納得いかないっす」
荒くれ武器商人が気に入らないらしい。
格好良いと思うんだけどな。
「それで、これからどうするの?」
「まずは三人を探してみよう」
「そうっすね。二人の身に何か起きていないか心配なんで」
「何か起きてないか心配って、何でさ!?」
そりゃあ、イレーネさんがそういう属性を持っているからだろう。
セシリアがいるから大丈夫……なんて思えない。
セシリアは何か起きてからのフォローは上手いけど、事前対処まで手が回らないと思う。
ユウガだけ意味が分かってない状況だが、説明しなくても良いか。
「それにしても、どうやって三人と合流するんすか。この人混みっすよ」
デュークの言う通り、周りには人、人、人。
この中から、歩き回って三人を見つけるのは至難の技だろう。
普通なら……な。
「そうだね。三人で手分けして探した方が……」
「それはないな。連絡手段もないのにばらけてどうするんだよ。探し人が増えるだけだ」
「それじゃあ、どうするの」
「……ユウガ、俺は人探しの才能があるんだ。俺に賭けてみてくれないか」
もちろん、そんな才能はない。
あるのは、感覚強化という常人にはできない魔法だ。
デュークの視線からそんなこと言って信じてもらえるんすか、と俺に訴えてきているのが分かる。
安心しろ、今のユウガなら……。
「闇雲に探すよりも良い方法なのかもしれないね。失敗ばかりな僕だけど今回は成功しそうだ。……ヨウキくんの才能を信じてみるよ」
信じちゃったよ。
きっとデュークは兜の中で微妙な顔をしているだろうな。
俺は任せろと大見得切って感覚強化を発動、三人の行方を捜索する。
「よし、こっちにいる気配がするぞ」
狐を先頭にひょっとこ、荒くれ者が続く。
すれ違う人たちからの視線を感じるが無視する。
まさか、ひょっとこがユウガだとは思いもしないだろうな。
「視線は感じるけど、僕に気づいてないみたいだね。皆、少しだけ見てくるけど、それだけだし。ヨウキくんのおかげだね」
「なんだあいつら……関わるのは止めとこうにしか見えないのは俺だけっすかね」
デュークが百人中、九十九人がその通りだと言いそうな意見を出してきた。
良く分かってるなデューク、選んでおいて悪いけど俺もそう感じでしまったよ。
去ってった後にひそひそと話されたらね、気づくわ。
「えっ、そうなの」
百人中の一人がここにいたわ。
「……まあ、そのおかげでこうして自由に動けているんすから、良しとするっす」
「そ、そうだろう。やっぱり、俺の選んだ衣装は間違ってなかったな」
「そういうことにしておくっすよ」
デュークから諦め混じりの一言が出た。
……まあ、いい。
結果オーライということで、嗅覚、聴覚を頼りに進んでいくと三人を視界にとらえた。
「すごいね。ヨウキくんに付いていったらこんなに早く会えるなんて。変装も完璧だしさ。こういう仕事、向いてるんじゃないのかな」
「俺は諜報系の仕事に就く気はないぞ」
そんなところで働き出したら、真っ先に俺の秘密が探られる。
叩いたら埃が出てくる身なので、勘弁してもらいたい。
付きまとってこられるのは黒雷の魔剣士時だけで充分だ。
「そうなんだ……あれ、三人とも出ていった時と服が違うね。どうして、着替えたんだろう」
「本当だ」
三人が宿を出ていった時は私服だったはずだが、今は浴衣を着ている。
祭りに合わせた格好にしたかったのかね。
うーん……なんでだろう。
「それよりも……イレーネがなんか怒られてるように見えるのは俺の気のせいっすかね」
「ん?」
確かにミカナがイレーネさんに何か言っていて、セシリアがまあまあと止めに入ってるような……。
ミカナがガチギレしているわけではなさそうだけど、気になるな。
ちょっと、会話を聞いてみよう。
「はぁ……本当、最悪ね」
「まあまあ、ミカナ。その辺にしておいてあげましょうよ。イレーネさんも悪気があったわけではないですし」
「まさか、飲み物を率先して買いに行った帰りにすっ転ぶなんてね。まあ、わざわざ買ってきたのが水で助かったけど」
「すみません、すみません。ミネルバでも愛され飲まれている天然水に目がいってしまったんです!」
「帰ってから、いくらでも飲めるじゃないのよ。旅行先で住んでる町の水を買ってどうするのよ」
「す、す、すみません~」
……イレーネさん、水チョイスはユウガと同じだぞ。
「どうっすか、隊長。イレーネ、変なことしてないっすよね」
「あー……なんか水ぶちまけたっぽいな。それで三人仲良く着替えるはめになったみたいだ」
「……え、なんでヨウキくん会話内容が分かるの?」
しまったぁぁぁぁぁあ。
ユウガの前で聴覚強化して盗み聞きした内容しゃべっちまった。
デュークは手を合わせてぺこぺこと頭を下げている。
……誤魔化すしかないな。
「実は俺さ……読唇術が使えるんだ」
かなり無理な言い訳だが、無理矢理にも通さないとならない。
「へぇ~、そうなんだ。僕も少しだけ使えるけど、完璧には読めないよ。追跡に読唇術。やっぱり、諜報に向いてるよ」
「お前も使えるのかよ!」
「使えるっていうか、セシリア、ミカナ、レイヴン限定だけどね。ほら、戦い中、連携は目配せと口の動きだけでやっていたことが多かったからさ。内容までは分からないけど、表情とか見たらどんな話してるか想像できると思うよ」
かなり限定的な物のようだし、表情見たらって……それは誰でもできるような。
いや、過ごした時間が長く死地を乗り越えたからこそ培ったものなのかもしれない。
まあ、結果的に誤魔化せたから良いや。
「あっ、なんか怪しいっすよ」
「何!?」
デュークの言う通り、チャラそうな四人組がセシリアたちを囲んでいる。
ナンパってやつか……許せねぇ。
「ヨウキくん、このまま見守ってるなんて僕には無理だよ」
ひょっとこから怒りのオーラが出ている。
夫らしく救出に向かう気か。
しかし、このまま身ばれして良いのかね。
許してるかも分からないのに、堂々と出ていくのはな。
「このまま行くか?」
「……うん。ミカナはもう少しセシリアたちと一緒に遊んでいた方が良いかなって。本当は僕が笑顔にしなきゃいけないんだけど……ミカナ、楽しそうだからさ。だから、行くよ」
「そうか。ばれるなよ」
「大丈夫だよ。勇者らしくない感じで行くから」
ユウガはぐっと親指を立てて、がに股で走っていく。
成る程、あれなら勇者とは誰も思わないだろうなぁ。
「デューク、俺たちも動くぞ」
「了解っす」
さてと、働きますかね。
俺はユウガを追いかけ、走り出した。
あ、ミカナたちはどうなってるかな。
「だーかーらー、行かないって言ってるじゃないの」
「えー、いーじゃんよ。俺ら地元の人間よ?」
「君たち旅行者でしょ。俺らがさ、祭り案内してあげるって」
「すみませんが、今日は三人で回る予定なので、気持ちだけ受け取って置きます 」
「つれないなー。行こうよ、一緒にさ」
「あ、あの。すみません。ふ、二人には手を出さないよう、お願いしたいのですが」
「いやいや、手を出すとかそんなんしないって。君、心配性? かっわいいー」
うざいナンパ野郎どもだな。
嫌がってんなら諦めろよ。
そんなやつらへ贈る言葉を用意してやる。
近場の店で念のために小道具を仕入れておいて助かったな。
小道具の準備をしていたら、ユウガがミカナたちに合流。
ミカナの腕に絡めようとしていたナンパ野郎の腕を掴んでいた。
「ちょっと、あんた何? ふざけたお面被ってけど。今この娘たちと大事なお話中なんだよね」
「そうそう。邪魔しないでくんない」
ユウガは何も言わない。
声を出したらばれると思っているのか。
そこは俺がフォローしよう。
狐面の俺も参上、片手に持った扇子を開くと、そこにはしつこいナンパは許さない、という文字が書かれている。
走っている途中で書いてみた。
「俺らは親切に案内しようか~って誘ってただけだけど。しつこいナンパとか、痛い勘違い止めてくんない?」
引くわーとか正義感振りかざしてだせーとか言ってくる。
お前らの考えの方が引くわ。
腕掴んで強引に連れ出そうとした時点でアウトだよ。
俺は持っていた扇子を裏返す。
書かれている文字は有罪。
はぁ!? とナンパ野郎どもが声を上げるが有罪は有罪だ。
嫌がっている女性を無理矢理連れ出す、許さない。
「旅行者に迷惑をかけているという通報がありましたー!」
「祭りで羽目を外し過ぎてはいけませんよ!」
タイミング良く、荒くれ者が騎士を連れて走ってきた。
はい、今の内っと。
俺はセシリア、ユウガはミカナ、デュークはイレーネさんの腕を掴んで逃走。
騎士に事情聴取されたら面倒だからな。
三人とも特に抵抗なく付いてきてくれたから、助かった。
多分、正体分かってるんだろうな。
「あ、あの。ありがとうございました。私だけではとても対応できなくてですね……うぅ……」
イレーネさん、気づいてないな。
荒くれ者スタイルのデュークにびびりながら、お礼言ってるよ。
デュークは複雑そうだ……気づいてほしいよな。
「……困っていたところを助けていただいて、ありがとうございました。感謝します」
思いっきり他人行儀なセシリア。
えっ、他人の振りするの。
とりあえず、これにて解決と書かれた扇子を開いて見せた。
念のために色んなバージョン用意しておいたんだよね、
裏には御免、と書かれていたりする。
セシリアはそれで良いですという意味だろう、こくこくと頷いた。
「ふん……ありがと」
ミカナからお礼を言われたユウガは……去っていった。
がに股なのに速い足取りだ。
正体をばらす気はないということか、なら乗ってやるか。
俺は御免と書かれた扇子を見せてひょっとこを追いかけた。
「これで良いんすかね」
「知らん。ユウガがこうしたいなら、良いんじゃないか。もう少し付き合おう」
「イレーネ、俺のこと分かってなかったっすよ……」
「……がんばれ」
しょげてるデュークには慰めの言葉を贈る。
路地裏に入るとユウガが待っていた。
「いやー、自然にミカナたちを救えて良かった。腕を掴んだまでは良かったんだけどさ、ばれたらまずいからどうしようって思ってたんだよ。まさか、実力行使に及んで騒ぎを大きくするわけにはいかないしさ。二人のおかげだよ、ありがとう」
「ん、ああ……そうだな」
「この調子で三人が楽しく無事に祭りを過ごせるように頑張ろう。もちろん、正体がばれないようにね」
もう、二人にはばれてるけどな。




