勇者に期待してみた
「旦那として……」
「結婚したことない俺が大口叩くのも変な話だけども。優先しないといけないことぐらいは分かれよ」
俺とセシリアのことを心配してくれるのは嬉しいけど、そうじゃないんだって。
外堀を埋めまくってまでプロポーズしたじゃんか。
結婚式滅茶苦茶にされそうになったら、キレだろう。
だったら、新婚旅行でもミカナラブを見せてくれよ。
「……そうだね。今日のために必死になって二人で計画したんだ。仕事の調整にだって苦労した。このままじゃ……」
「ユウガってそのパターンが多いよな」
「……」
何も言えねぇって顔をしないでくれ。
誰かに言われる前に自分で気づかないといけないからな。
「うぅ……こんなんで今後大丈夫かな。僕は立派な旦那さんになれると思う?」
「知らねぇよ」
そこは自分で頑張るしかないだろう。
今の時点じゃ、無理な感じがするけど。
「とにかく、ミカナに謝らないと……」
「おい、ノープランで行く気かよ」
「だって、このままにしておくのもダメでしょ!」
俺の静止も聞かずにユウガは部屋を出ていってしまった。
いやいや……中途半端な決意のまま行ってもろくなことがないぞ。
「ミカナー!」
力付くで止めようとしたが時既に遅し。
聖剣の力を使い飛んで行きやがった。
「ちょっ、何があったんすか」
デュークが走ってきた。
飛んでいったユウガを見て何事かと思ったのだろう。
「説得の途中で飛んでいったんだよ。無駄に行動力があるから、質が悪いわ」
「そうなんすね。……あれ、なんか落ちていってないすか」
「へ?」
デュークが指差す方を見ると光の翼の出力が減って失速し、墜落するユウガの姿が。
何かあったのか。
「行ってみるか」
「了解っす」
ユウガが落ちた場所へと向かった。
「いたたた……急に翼が消えるなんて一体どうして……」
「おい、大丈夫か」
「あ、ヨウキくん。何とかね」
木がクッションになってくれたらしい。
「何故か翼が消えて飛べなくなっちゃって。あれ、発動しないな」
飛ぼうとしても聖剣が機能せず、不思議そうな顔をしている。
……聖剣には意思があるのかね。
俺には今のユウガには力を貸せないと言ってるように見える。
「こうなったら、走って行くしかないね!」
「ちょっと、待てや。ノープランは不味いって言ってるだろう」
「だって、こうしている間にもミカナが寂しい思いをしているんだよ」
「寂しい思いをさせたのは誰だよ」
「それは……僕だけど」
「あー、はいはい。二人がけんか始めてどうするんすか。一旦、座るっす。気持ちを整理するためにも」
デュークの一言により、全員がその場に座った。
気持ちの整理が必要なのは一人だけだと思うけど。
「……ダメだ。やっぱりじっとしてられないよ!」
一分も経っていないのに立ち上がるユウガ、堪え性が無さすぎる。
もう少し気持ちの整理をしようと努力してくれ。
「ダメっすね、それじゃあ。何も考えずに突っ走るだけ。それで傷ついた心が癒されるんすか。新婚旅行って夫と妻が主人公とヒロインなはずなのに、ヒロイン役を男に取られてるんすよ。そこから、修復するのってもう、無理に近いレベルっすよね」
「……それでも僕は行くよ」
「調子が良いっすね。今まで何をしても最後は甘い言葉と勢いのある演出で許されてきたんすよね。羨ましいっす。俺じゃあそこまでできないっすね。相手の気持ちを考えたら、適当なことできないっすから。自分が許されたいだけじゃないなら、きちんと考えて行動した方が良いんじゃないすか?」
デュークがここまで言うのも珍しい。
つーか、デュークに役目を取られた感じがする。
ユウガはデュークの言葉がぐさりと胸に刺さったのか、意気消沈。
かなりきつめに入った一撃だったな。
「……まだ間に合うって僕は信じたい。これからどう行動しようか、考えてることはあるんだ。聞いてくれるかな」
渇いた笑いをこぼしながら、こちらを向くユウガ。
新婚旅行中の夫の表情とは思えない。
ハッピーエンドな感じでプロポーズしたのにさぁ……。
これからも幸せに過ごせるように頑張ってもらわないと。
そのためには聞いてやらないとな。
「どんなプランを立ててるのか知らないけどさ。それが、今のユウガに出せる最高の選択なんだろ。何も言わずに最後まで聞いてやるよ」
その場にあぐらをかいて座る。
デュークもやれやれといった感じで座った。
「ありがとう……二人とも」
ユウガは口を開いて、自分のしようとしていたことを語った……。
俺とデュークはユウガが話し終えるまで何も言わなかった。
ただ、ユウガの話をうんうんと頷きながら、聞いていた。
そして……。
「……つまりだ。ミカナに謝って二人きりになりたいと」
思ったよりも内容はシンプルなものだった。
ユウガらしくない、もっと派手なことをするのかと。
「本当は飛んでいってそのままミカナを連れ去るような形にしようと思っていたんだ。少しくらい強引にいった方が良いかなって思って」
「無理矢理は良くないっすねぇ」
「そしたらもう一度海に……」
「昨日やらかしたばかりの場所だろ。同じ場所をもう一度選ぶのかよ」
「プ、プレゼントを……」
「物で釣る感じかー」
「タイミング的にご機嫌取りにしか見えないっすよねー」
「じゃあ、どうしろって言うのさぁぁぁぁぁぁ!」
そんなに嘆くなって。
ことあるごとにダメだしし続けた結果、ご乱心のユウガが出来上がった。
意地悪を言ってる訳ではない。
ただ、俺もデュークも何故か駄目じゃねって思ってしまうのだ。
叫び疲れたのか、ぜーぜーと肩で息をしている。
「くっ、こうなったら最終手段だよ」
「勇者の最終手段をここで使って良いのか?」
「勇者は関係ないよ。今の僕は新妻に逃げられかけてる駄目夫だから!」
自信を持った感じで情けないことを言わないくれよ……。
ユウガ的にも自覚はあるってことなんだろうけどさ。
ここまで必死になれるなら、最初からなれば良かったのに。
「うーん……とりあえず、このまま話してても埒があかないんで、三人がいるところに行かないっすか。こっそりと見守る感じで」
「そうだな。このまま男三人で話し合っていても解決しないし。結論、俺とデュークがあーだこーだ言っても実際に動くのはユウガだから、頑張るしかない」
「それは酷くない!?」
「……ま、半分冗談だよ。こうなった責任は俺にもあるんだ。頂いた気持ちの分、返さないとな」
「ヨウキくん……」
「いや、ヨウキくん……じゃねーよ。ぞわっとしたわ」
何、キュンとしましたみたいたリアクションしてんだよ。
男から……いや、セシリア以外からされても困るわ。
「ほら、行くって決めたんすからさっさと出発するっすよー。……ちょっと、嫌な予感がするんで」
少し焦った様子でデュークは走っていった。
イレーネさんが心配なのだろう。
過保護……になるのかな、イレーネさんのやらかし具合を知らないからピンとこない。
何かやったかは行けば分かることだ。
「それじゃあ、俺らも行きますか」
「うん」
デュークを追いかけて俺たちは走り出した。
セシリアたちは馬車、俺たちは足というハンデありな状況。
それでも俺たちは走って目的地を目指した。
ユウガは飛べなくなっても速かった。
そんなわけで夕方には目的地に到着できたのである。
「はぁーっ、はぁーっ……やっと、着いたね」
「そ、そうっすねぇ。ふぅー」
「もう、満身創痍だよなぁ」
男三人、ガス欠寸前である。
少し、休憩したいところだがそうもいかない。
予想以上に町や祭りの規模が大きいからだ。
小規模な祭りならこのままでも良かったけど、このままユウガが目立ったら大混乱になる。
「ちょっと待ってろ。変装に使えそうな物を調達してくる!」
祭なら異国の被り物とかレアな物を売ってる出店とかもあるはず。
変装の選択肢が増えて助かるな。
非常事態とはいえ、こういう時はわくわくしてしまう。
そう、はりきった結果。
「お面かぁ、考えたね。これなら僕だって分からないだろうから、注目を浴びずに済むよ。ありがとう、ヨウキくん」
「いや、別の意味で注目を浴びることになるっすよ。なんなんすか、これ」
「いやー、ひょっとこがあるとは思わなかったわ」
絶対俺以外に転生者っているよね。
見つけた瞬間にキタコレって思ったわ。
抹茶色の浴衣にひょっとこのお面、片手にいか焼き。
誰もこいつを勇者だなんて思わないだろう。
俺は灰色の浴衣に狐のお面、片手に串焼きという普通な格好。
そして、デュークはというと。
「なんで俺だけこんな沢山武器を背負わなきゃいけないんすか!」
デュークは鎧を脱がすわけにはいかないので、ボロマントを羽織らせて、兜の上から目元に穴を開けた布袋を被せた。
さらに木刀、大木槌、鎌という適当な武器とデュークの剣、ユウガの聖剣を背負わせている。
ユウガに聖剣持たせたらばれるかもしれないからな。
木を隠すなら森の中ということで、デュークには武器商人役を演じてもらうということで。
「それじゃあ、こんな感じで出発だ。三人を探すか」
「うん、まずは何をしてるのか知りたい。様子もね」
狐とひょっとこと荒くれ者という異色の三人で女子を探すという妙な絵面になった。
これ、新婚旅行の最中なんだよな……。
 




