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勇者に説教してみた

「どうしますかね、ほんと……」



与えられた部屋の中で俺は頭を抱えていた。

正体さ、ばらそうよ。

ここまできたら、ばらしてユウガが気になっている問題を解消した方が良いんだよ。



そうしないとさ……取り返しがつかないことになりそう。

いや、もうなってるかも。

ユウガとミカナの関係に亀裂が生じているのは間違いない。



関係が修復する方向へ向けないとやばい。

……そのためにも。



「ふんっ!」



「うわぁっ!?」



部屋の扉を勢い良く開けると情けない声を上げながら、ユウガが倒れてきた。

このストーカー勇者をどうするかだな。



「座れ」



「……はい」



大人しく座ったユウガだが、視線がヘルメットにしか向いていない。

こんな状況だというのにまだ、俺の正体を優先するか。



「……さて、今回の依頼の内容の確認をさせてもらおう。依頼は新婚旅行の護衛だったな。俺は未婚の身。新婚旅行がどんなものか、実際に行ったことがない。強く言える立場ではないが……果たしてこれは新婚旅行と言えるのか?」



「……ミカナ、怒ってる、よね」



「そう思ってるなら、来る部屋を間違えてるんじゃないのか」



「それでも、僕は友人のために動きたいって思ったんだ。ミカナも二人のことは心配してるだろうし、分かってくれるかなって」



ミカナなら分かってくれるか……聞きたくなかった台詞だな。

ミカナがユウガのことを良く理解してくれているからとはいえ、ないがしろにして良いのかという話だ。



色々とぶつけたい言葉があるが、黒雷の魔剣士の言葉がこいつに届くのだろうか。

反発はしなくても素直に頷きもしないと思う。

ここはユウガの友人が必要だろうな。



「……本当にそう思っているなら、残りの日を好きなように過ごすと良い。護衛の依頼はこなす。以上だ」



言い終えるとユウガを部屋からつまみ出した。

まあ、何かしらの行動は起こすだろうが……あの感じでは空回りするだろう。

明日、勝負に出るぞ。



「離婚旅行なんかにさせるかっつーの」



決意を胸に抱いて就寝。

ベッドはとても柔らかかったので、ぐっすりと眠ることができた。



翌朝、皆よりも早く起きた俺は行動を開始する。

宿から抜け出して、黒雷の魔剣士からヨウキへとチェンジ。

こっそりと宿へ戻る。



ヨウキの説得の方が心に響くだろう。

セシリアには……黙っておきます。

そのためにユウガ以外には気づかれないように侵入しないと。



「……って、ユウガとミカナの声がするな」



声のする方へと向かう。

そこには口を尖らせて出掛ける準備をするミカナと焦りの混じった表情で説得を試みているユウガの姿が。



「悪いけど今日は女性だけで買い物に行ってくるから」



「えっ……いや、僕も一緒に」



「男子は男子で行動すれば良いと思うわ」



「その、ほら。護衛としてさ……」



「セシリアとエルフ騎士に頼むから大丈夫よ」



「でも、女性だけだと色々、大変じゃない。男手がいた方が良いよね」



「……今言った面子で何か問題があって対処できないと思う?」



「あー……うん、そうだね」



見ていてとても辛い光景である。

あの二人、新婚旅行に来てるんだよな……。

妻が旦那じゃなくて女友達を優先した瞬間か。



昨日のユウガも似たようなことをしていたんだから、仕方ない。

その後、ユウガの説得を虚しく、ミカナはセシリアたちと出掛けていった。

項垂れてとぼとぼと歩いて宿へと戻っていくユウガ。

哀れで見てられないぞ……。



「……行くか」



さっさと甘々な新婚旅行を過ごしてもらわないとな。



「まずはデュークに一言言っておこう」



昨日失敗したんだし、念のために周りから助言をもらわねば。

誰にも気づかれないよう、こっそりと宿へと侵入開始。

毎度毎度のことなので従業員には気づかれない。



……俺って冒険者よりも暗殺者の方が向いてるんじゃないかね。

ありえない転職を考えつつ、デュークの部屋に到着。



やることがなくて暇なのか、ベッドの上に座ったまま動かない。

何か考え事でもしているのかね、やる事がないなら寝れば良いのに。



そういうわけにはいかないんだよな、仕事中だし。

さてと、姿を現しますか。



「よう!」



「うわっ……って、隊長すか。驚かせないで欲しいっす」



「悪い悪い。……ちょっとユウガのところへ押し掛ける前に相談しようと思ってさ」



「あー……そういうことっすか。黒雷の魔剣士としてじゃなく、ヨウキとして会いに行くんすね」



「おう。偶々近くに来ていたって理由つければ良いし。ガツンと言ってやろうかと。……置いてかれた姿とか見てられなかったし」



「見てたんすね、あれ。セシリアさんも今は勇者様と距離を置いた方が良いって賛成だったんすよ。イレーネは……気付けば逃げ場を失ってしまったって顔をしてたっす」



「あ、そうなのね」



「あの状況じゃあ、助けを出せなかったっすね。心配っすけど……俺も着いていくって言える空気じゃなかったっす」



俺がいない間に中々の修羅場を体験したようだ。

イレーネさんはまあ……自力で頑張って下さいとしか言えない。

今はユウガに説教をしてやらねばならん。

俺の声、というか一般的な話をしてやる。



「そうか。悪かったな、重要な時にいなくて。あとは俺に任せろ。あの勇者に言ってくるから」



「正体はばらす感じすか?」



「いや、ばらさない。ばらして大人しくなるんじゃあ、ダメだろ。また似たようなことが起きるぞ」



今回は俺とセシリアのためにやったこと。

俺たちだったからとは限らない。

これからはミカナを中心に物事を考えていかないとダメなんだよ。



「ユウガには勇者って立場を捨てないといけない時もあるってことを教えてやらないとな」



「……今の隊長ならやってくれそうっすね」



「おっ、期待されてるのか、俺」



「解決してくれないと、俺を含めて全員が大変なんで。ま、隊長なら何とかしてくれるっすよね。これまでも似たようなことがあったんだし。だから、頼むっすよ」



「そういうことか。なら、これまで通り、解決してみせますか」



意気込み充分にユウガの部屋へと向かった。

誰にも見つからないよう、目的地にたどり着く。

慎重に周りに誰もいないか確認してから、扉を三回ノックした。

返事がない、どうやら部屋の中で屍になっているようだ。



このまま、扉をぶち破ることはできるが宿の人に迷惑、セシリアからのお説教コースになるので却下。

だったら、侵入経路を変えるだけだ。



「参上!」



「うわぁっ!?」



天井から現れてみた。

忍者チックなことをしてみたんだが、狭いし埃っぽいしで最悪。

もう二度とやらないと思う。



いきなり現れた俺に驚き、ベッドから飛び起きるユウガ。

……ダブルベッドの枕の距離が離れている。

心の距離も離れているからな、枕も離れてしまったのだろう。



「ヨウキくん、なんでそんなところから……」



「ちょっと依頼で近くまで来ていてな。なんか心配だったんで様子を見にきたんだよ。セシリアから事情は聞いた」



「事情って……」



「……俺とセシリアのことは気にするな。決着はつける」



「それは聞いたよ。でも、放って置けないよ。二人には沢山、お世話になったし」



「それでもお前は優先すべきことがあるんじゃないのか。新婚旅行に来てるんだろう。何で隣に嫁がいないんだよ」



「それは……僕がミカナよりも黒雷の魔剣士に執着したからだと思う。ミカナと楽しむってことが少なかった。でも、そのために長い休暇を取ったんだし」



「はい、ばーつ」



俺は腕をクロスさせてばつ印を作る。

元々、ミカナと遊ぶ日は別の日程だったと主張してきやがった。

苦し紛れの言い訳だろうな、目が泳いでいたし。



「新婚旅行は終わり良ければ全て良しにはならないんだぞ。過程も含めて全部が想い出になるんだからさ」



「うん、そうだね」



「結婚式を思い出してみろよ。ミラーのせいで滅茶苦茶にされたけど、ミカナは笑ってたろ。ユウガと結ばれて嬉しかったんだろうな。だから、あんな風になっても幸せそうにしていたんじゃないのか」



「そう……だね」



「昔から色々我慢させていたみたいだけど、今回も我慢してもらう感じで良いのか?」



「……」



虐めすぎてないよな、生温いくらいだろう。

これくらい言わないと分かんないじゃないかって。

俯いてるけど、拳を握って震えている。

その感情はどんな物で誰に向けているのやら。



「勇者ユウガはさ。仲間のためとなると周りを見ないで一直線に進むアホだけど、憎めないやつなんだ。でも、今回……いや、これからはミカナの旦那として行動しないと駄目なんじゃないか」

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