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勇者と競争してみた

「魔剣士さん、魔剣士さん」



ユウガとの勝負が決まり、ストレッチして体を解していたらセシリアに呼び出された。



「どういうつもりですか。あのまま、勇者様との勝負を断ってミカナと二人きりにさせてあげた方が良かったと私は思います」



「今はふたりっきりでいるじゃないか」



「あれで良いわけがないでしょう!」



セシリアさん、語尾が強いよ。

まあ、新婚であれはないわな。



今の二人はカップルドリンクをミカナが二割、ユウガが八割の割合で飲み干し、ミカナがユウガのストレッチを手伝っているところだ。



いや、勝負したいのは分かるけど、もうちょっとさあ……考えろよ。

ユウガが飲んだ時、ズズーッて音が鳴っていたし。

雰囲気もへったくれもないぞ。

ちなみにユウガの目の前にいたミカナは目を丸くしてました。



「ミカナ、力が強い気がするんだけど。僕、そんなに体柔らかくな……ミカナ、話聞いてる? ねぇ、ミカナ……痛い、痛い痛い痛い!」



ミカナが冷めた目でユウガの背中を押している。

あれはかなり苛ついてるな。



「俺たちはあの二人の新婚旅行の護衛として付いてきたんだよな」



「はい、そうですよ」



「初日からあんな感じなんだけど」



「だから、そう思ってるなら、どうして勝負を受けてしまったんですか!」



ミカナのギスギスした感じがセシリアにも伝染してしまったか。



「まあまあ、落ち着けセシリア。俺にだって考えがあってこの勝負を受けたんだよ」



「考え、ですか」



「ああ。あの二人のためにも想い出作りに協力してやろうと思ってな」



ミカナからしたら、このままだと新婚旅行の想い出が夫が他の男に夢中だったという記憶しか残らないからな。

早めに手を打つべきだ。



「ここら辺でユウガの株を急上昇させようと思う。ユウガに敗けはしない……俺は汚い手を使って勝つ!」



堂々と最低な発言をする。

これもユウガとミカナのためとなるなら、今回は悪役に徹してやろうという俺の優しさだ。



「汚い手……ですか」



「ああ。そこで何とか物語を作ってあの二人をくっつける」



「……上手くいくでしょうか」



セシリアの心配は尤もだ。

勇者ユウガの行動は黒雷の魔剣士でも読むことはできない。

だが、必ずやり遂げてみせる。



「やらなければならないんだ。今回の依頼は新婚旅行の護衛だぞ。離婚寸前旅行じゃないんだからな」



やる気は充分、勝負だユウガ。

セシリアは最後まで心配していたが、俺は握り拳を作って海へと向かった。



「やあ……待って、その格好は何?」



「何って泳ぐ格好だが」



デュークとお揃いのウェットスーツ、頭まですっぽりと覆う特注の黒い水中眼鏡。

口元も隠れるように対策は万全だ。



どうせ、泳ぎの勝負に持ち込めば素顔を見れるという打算があったのだろう。

残念だったな、対策済みだ。



「……じゃあ、行こうか」



「ふっ、たとえ勇者と言えどもこの俺に勝てるかな」



「大丈夫さ。ミカナもいるし、この聖剣も力を貸してくれるだろうからね」



そう笑顔で言うユウガの腰には聖剣が装備されている。

待てや、競争で聖剣いらねえだろ。



「勇者殿、帯剣しているということは相手への妨害はありという意味合いとして受け取って良いのか」



「まさか。これは競争さ。妨害なんて無しに決まってるだろう」



「それもそうか」



何かやらかしたとしても臨機応変に対応すれば良いか。

こういう勝負時はどちらが勝つか、女性陣がドキドキしているものだ。

さて、我らの女性陣はどうだろうか、



セシリア、何か起こらないか別の意味でドキドキしている。

ミカナ、どうでも良い戦いなのだろうか。

コップの底に少しだけ残ってるカップルドリンクを飲んでいる。



イレーネさんは……砂で埋められていた。

やったのはおそらく、いや、絶対にデュークだな。

勝負の最中に新たな問題を起こされても困るという判断だろう。



「よそ見をしているなんて、余裕なんだね」



やべっ、女性陣を観察していたのがユウガにばれた。

……ここは黒雷の魔剣士らしく、スイッチを入れるとしよう。



「俺は勝負の行く末を見守ってくれるセシリアを見ていただけだ。セシリアが俺に力を貸してくれていると。そんな気がしてならない。勇者が相手であろうと負けるわけにはいかない、と言わせてもらおう」



「僕にだってミカナがいる。力を貸してくれ……あれ? ミカナ!」



お前の嫁はこんな勝負の行く末よりも、ジュースを飲み干すことの方が大事みたいだぞ。

ミカナはユウガの声に気づくと、片手を軽く振る程度の反応。



「……………………僕はミカナのためにも頑張るよ」



最初、顔が固まっていたが大丈夫か勇者よ。

まあ、幼馴染みの嫁にあんな反応されたら、ぐさっとくるか。



だが、同情はしないぞ。

お前も同じようなことをしているんだがらな。



「それじゃあ、合図するっすよー」



ユウガの心にひびが入ったまま、勝負はスタートすることに。

……まあ、作戦通りにするさ。

スタート位置に立って集中っと。



「よーい……」



いくっす、という声とともにデュークの腕が降り下ろされる。

海を華麗なフォームで泳ぐユウガ。

ここは勇者補正が働いてるのか、かなり速い。

一方、俺はというと……。



「さて、急ぐとしようか」



海を魔法で凍らせてその上を滑っている。

人が通れる道くらいは余裕で作れるからな、俺の魔法を嘗めるなよ。



「ちょっ、ずるくない!?」



泳いでいるユウガを抜き去り、ユウガが浮かべた目印へと向かう。

何がずるいだ、これは立派な作戦だ。



「勇者殿は泳いでとは一言も言っていなかったからな。これも作戦の内だ」



勝負を挑む時はルールをしっかりと確認しないとダメだぞ。

後ろには驚いた表情のユウガ、まさにしてやったりだ。

卑怯と思うなら思えば良い。

このまま、何をしてでも勝つという悪役を演じてやる。



お前は正々堂々と戦い敗北した勇者、しょげているところをミカナに慰めてもらえ。



あとは俺がああでもしないとお前には勝てなかった、勇者殿は何をしても優秀だからな……こんな夫を持てて幸せだと俺は思いたいんだ。

勇者よ、夫らしいところをもっと見せるべきではないか……と言ってやる。

これで上手くまとまる……はずだ!



セシリアやデュークのフォローも入れば上手くいく……そう思っていたのに。



「何故、お前は飛んでいる!」



ユウガのやつ、聖剣の力を使いやがった。

光の翼を生やし猛スピードで迫ってきているのだ。

海パン姿に光の翼って……。



「空を飛んじゃいけないなんてルールもないさ!」



勇者がそんな屁理屈みたいなことを言って良いのか。

想定外の事態だ、このままユウガが勝ったら……。



「ミカナ、僕が勝ったよ」



「……聖剣の力を借りて勝ったんでしょ」



みたいなことになりかねない。

このまま、株が暴落し続ける一方である。

そうはいくか!



「これが俺の本気の速さだ!」



海を凍らせている魔法と平行して肉体強化を発動する。

ぎりぎり人外レベルにならないように調整してだ。



「負けるわけにはぁぁぁぁぁ!」



ユウガが雄叫びをあげながら追ってくる。

やばいって早くゴールしないと。

焦りつつもゴール……結果は。



「同着っす!」



デュークの判定により場が静まった。

さて、今回の勝負で何がどうなったか。

まずは考案者の俺。



「魔剣士さん。次回はもっとお互いに話し合ってから、行動に移しましょう」



セシリアの信用度が減った。

これは仕方ない、ユウガの行動と速さを読みきれていなかった俺が悪い。

次にユウガがどうなったかというと……。



「ミ、ミカナ……ごめん。勝てなかったよ」



「そう……用事はそれだけ? なら、アタシはそろそろ部屋でゆっくりさせてもらうわよ」



「え、もう部屋に戻るの」



「ええ。ここにいてもやることがなさそうだしね」



株が急降下どころの騒ぎじゃないぞ。

ミカナが去っていくのを止めずにその場であたふたするユウガ。

後ろ姿がかなり情けない。

これはどうにかしないと不味いなって状況である。



「デュークさん。勇者様も黒雷の魔剣士さんもすごかったですね。私、感動しました」



「そうっすか。確かに速かったっすからね」



「はい。見ていてとってもわくわくしていましたよ。どっちが勝ってもおかしくないような闘いで……あれが二人の本気なんでしょうか。私、また二人の闘いが見てみたいです!」



キラキラした眼差しでデュークに話しかけるイレーネさん。

どうやら、イレーネさんの評価は上がったらしい。

……別の女性の好感度を上げてどうする!

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