元部下の悩みを聞いてみた
「最近はどうっすか」
久しぶりに俺はデュークと昼食を共にしていた。
男二人でのランチ……もう慣れたな。
周りにはカップルもちらほらと伺える。
俺だってあと少しで……。
「向かいにいるのが俺で悪かったっすね」
「いやいや……顔に出てたか、俺?」
「それはもう露骨に出ていたっす」
やべえ、デュークに悪いことしたな。
「すまん」
「良いっすよ。隊長は今、大変っすからね」
「いや、大変なのは俺じゃなくてさ」
「大変じゃないっすか。今、世間を騒がせてるんすよ。かなりの神経を使ってるんじゃないすか」
「まあ、な」
正体を暴いてやろうというやつが追跡してくる。
俺にかかれば追跡から逃れるなんて簡単だが、毎回だからな。
そのせいでセシリアの周りに情報屋が多くなったし。
セシリアと一緒にいる時なら、素顔を出すことがあると考えてだろうけど。
「なんか手伝えることがあったら、言ってほしいっす。協力するんで」
「分かった。その時は頼りにさせてもらうよ」
「……最近は隊長もレイヴンも愚痴ってこなくなっす。俺があたふたすることも減ったし、嬉しいんすけど。どこか寂しいな思う気持ちもあるんすよ」
「おかんか」
デュークの目線が子の成長を感じる母なんだが。
思えばデュークにはよく相談にのってもらったり、協力してもらったりと苦労をかけていた。
レイヴンも騎士団ではデュークしか事情を知ってる者はいないから、相当愚痴を聞いていただろうし。
でも、最近は自分たちの力で乗り越えようとしている。
デュークからしたら、それが嬉しくもあり寂しいと……うん、おかんだわ。
「デューク。お前の助力がなかったら、俺はセシリアを失望させ、怒りを買い、お説教を受けていたことだろう。こうしていられるのはお前のおかげでもあるんだ」
「隊長……」
「……まあ、こんな感じで」
「それ言ったら台無しっす」
「いや、俺らで感動する件とかいらないと思う」
特に必要性を感じない。
無表情で言い切ると、デュークは軽く笑っていた。
「ははは……隊長らしいっすね」
「結局、今日はなんで呼んだんだよ。お前は意味もなく呼んだりしないだろう。あれか、恋愛相談か?」
イレーネさんと上手くいってなかったりするのか。
大暴走した後から、何があったのか知らないのよね。
「いや、実は……」
「まじか」
デュークから恋愛相談がくるかね。
まあ、俺も彼女持ちだし。
助言とか言えたり……いや、調子にのるのは止めよう。
何故かって、俺の脳内でセシリアがブレーキをかけてきてるから。
この場にいなくても、セシリアは俺を支えてくれるんだ。
……将来、心配なくて助かるね。
「そろそろ俺もイレーネに正体をばらそうかと」
「そっちか。てか、ばらしてなかったんだな」
デュークのことだから、てっきりもう話しているのかと思っていた。
あんなに仲良くしているしさ。
手を横に振るデュークだが、思うことがあるようだ。
「いや、大分怪しまれてるっすよ。色々なところに連れていってくれるのに、どうして海と温泉はダメなんですかと言われて言い訳ばっかしてるっす」
「そういうことね」
顔出しをしなければならないところへは行けないんだよな。
海は水着でなんとかなるとしても、絶対じゃない。
温泉とかどうしろと、首にタオルを巻けってか。
下はどうする気だ、下は。
デュークもそういった事情から、断りを入れ続けているのだろう。
しかしなあ……。
「二人で仕事をする機会が多いし、そろそろ限界かなって思うんすよ」
「でも、それは他の騎士も一緒じゃないか」
行動しているのが最も多いのがイレーネさんだとしても、他の騎士とだって職場は一緒なんだし。
「俺の顔が気になるなんてやつは一人もいないっすよ。まあ、聞かれたら、そんなに気になるんすか、俺の素顔って聞き返してるっす」
「聞き返すだけで納得するものかね」
「大丈夫っすよ。わざと腰を落とし、上目使いの視線で言ったら顔を青くして逃げていくやつがほとんどっす」
「お前悪いやつだなぁ」
誰が得する展開に持っていこうとしているのか。
聞いてきた騎士も周りにいた騎士も気の毒なんだが。
「最近はやってないっすけど。自分へのダメージが大きいんすよねー、あれ」
「そりゃそうだろ」
何が悲しくて男に上目使いをしなきゃならんのだ。
「あと、イレーネにその現場を見られちゃったんすよ。あの時は変な誤解をされて大変だったっす」
「ちゃんと考えて作戦を立てないからだ」
「いやぁ、隊長さんてそっちの隊長だったんですね。なんて顔を真っ赤にして慌てたイレーネへの説明がすごく時間がかかって……」
「なんで、そこで俺に飛び火するかな」
本人がいないところで有らぬ疑いかけるの止めてくれないかな。
そっちの隊長ってどんな隊長だよ。
おっそろしい疑いをかけないでほしい、俺はセシリア一筋だ。
「まあ、てな感じで厳しいんすよ、正直。隊長もハピネスも前に進もうとしてるし、俺も続かないと」
「……無理してないか」
俺とハピネスに合わせようとしているなら……止めるべきだ。
そういうのは誰かに合わせてすることじゃない。
上手くいかなかった時、後悔してしまう。
「なーに、言ってんすか。無理なんかしてないっすよ。大体、決心がついたから隊長を呼んだんすから。近々、告白するっす。隊長たちには迷惑かけないようにするんで」
「デューク……」
「万が一俺が姿をくらましたら、その時はレイヴンのところに行ってほしいっす。荷物とかあるんで処分とかは隊長に任せるっすよ。そんじゃ、ここの支払いは俺がするんで」
用事は終わったと言わんばかりに席を立つデューク。
……言い逃げは良くないな。
「やばくなったら、俺のところに来いよ」
「はいはい。その言葉は頭の片隅にでもしまっておくっすよ」
デュークは店から出ていった。
あいつの覚悟……しっかりと受け取ったぞ。
どんな結末が待っていようと、俺はデュークの味方だからな。
ハピネスの時みたいに上手くいくことを祈る。
俺は俺でやることをやらないといけない。
自分のことをないがしろにしてまで、デュークは自分のことを気にしてほしくないだろう。
俺はデュークならやれると信じて店を出た。。
そして、数日後……。
「ふっ、俺たちをわざわざ指命し依頼を出してくるとはな。分かっている客がいるじゃないか。迅速に完璧に依頼をこなす俺たちに依頼を出せば成功間違いなしだからな。はーっはっ……っ、ごほん」
俺はセシリアと依頼を受けるためにギルドを訪れていた。
いつものようにクレイマンから依頼を受けようとしたら、なんと。
俺とセシリアに指命依頼を出してきた依頼者がいるという。
ミネルバで俺とセシリアは成功率十割、お客様のご要望にもできるだけ応えており、名も広まっている。
あ、別れろとかふざけたことを言ってきた依頼者にはプレッシャーを与えた……セシリアが。
私たちの関係を終わらせることが、今回の依頼とどのような関係があるのでしょうか、と笑顔で聞いていた。
どもっていた依頼者への容赦ない関係ありますかはこの黒雷の魔剣士すら、身震いをしたほどだ。
今も調子に乗りかけたが、横にいるセシリアからの笑みで強制終了。
さすがは俺のパートナーだ。
「おー……あれだな。助かるだろ。上手く手綱を握られてると。うっかりやり過ぎちまいそうになる前に止めてもらえるからな」
「セシリアは最高だ!」
「大声で何を言ってるんですか」
堂々と愛を叫んだだけだがな。
周りの冒険者からの嫉妬の視線を感じる。
ふん、人に嫉妬を覚える前に努力をしろ。
嫉妬する側でなく、嫉妬される側になるんだな。
「……そういうのができるのは若いうちだけだ。年を取ったら今更何を言ってんだかって考えて言えなくなる。だから、臭い言葉は若いうちに言っとけ。年を取ったら、良い想い出話になるからな」
「良いことを言うじゃないか。よーし……くふぉっ」
また、愛を叫ぼうとしたら杖で脇腹を刺された。
力はそんなに込められてなかったのに……急所を突かれたようだ。
「よーし……ではありません。これ以上はギルドの迷惑になるので止めてください。クレイマンさん、今の言葉はソフィアさんに伝えておきますね」
「いや、それは勘弁してくれ。そんな話をソフィアが令嬢から聞かされた日には息子と娘の前で俺の処刑が始まる」
クレイマンの顔色が一気に青くなる。
そりゃあな、子どもの前で自分の口説き文句発表会とかどんな地獄だ。
絶対にやられたくない。
「私たちは仕事に来たので、しっかりして下さい。私たちを指名して下さった方がいるんですよね。どんな依頼で依頼者は誰なのか、お話を聞かせてもらえますか」
「そうだな。依頼者を待たせるのは良くない。説明を頼む」
「おー、ほれ」
説明をしてくれと言ったのに依頼書を渡してくるとはな。
「おい、職務放棄か」
「俺が仲介するより、直接話を聞きに行った方が早いだろ」
「何……どうした、セシリア」
「魔剣士さん。依頼者が……」
セシリアが持っている依頼書を覗き込む。
依頼書名の欄にはユウガ、と書かれていた。
……トラブルの予感だな。




