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恋人と出掛けてみた

俺は今風を感じていた。

魔法で姿を消した俺はセシリアを抱えて、空を飛んでいる。

セシリア特製弁当持参のピクニック。

前回は子ども同伴だったが、今回は二人きりだ。



「わざわざ、角と翼を生やさなくても良かったのではないですか」



「んー、今日はセシリアを抱えて飛びたい気分だった」



今の俺は魔族の姿だ。

セシリアはあまり、俺が魔族の姿になるの好きじゃない。

うーん、前から良い顔をしてないからな。



ぼこぼこにしていたから、トラウマになっているとかかね。

だったら、地面に頭を擦り付けるんだけど。



「いつものように屋根から屋根へと跳んでいく方法もありましたよね。何故、今日はこれで?」



「まあ、その……早く移動したかったから、かな。移動中って姿を消してこそこそしている感じがするからさ。せっかくのデートだし、ゆっくりしたくて」



単純な話、飛んだ方が速いわけ。



「そうだったんですか。……ありがとうございます」



「いやいや、俺の都合でもあるからさ」



「……それでも、言葉は受け取って下さいよ」



「これは失礼」



会話をしながら、絶対に人がいないような場所を探す。

聴覚と嗅覚、そして視覚をフル活用して二人きりになれる最適な場所を求めた。



そして、俺たちはたどり着いたんだ。

誰も来なくて見晴らしも良く、自然を感じられるピクニックに相応しい場所に……。



「ごめん」



「どうして謝るんですか」



「いや、その……こんな場所しか見つからなくて」



今、俺とセシリアがいるのはドラゴンの巣の近くだ。

人気のない場所を探し山辺りが良いかなーと考え、ミネルバを離れ移動。



セシリアと会話しつつ飛んでて、緑豊かな山を見つけたまでは良かったんだけどな。



ずいぶんと高い山だなーと思ってたら、ドラゴンが飛んでいるわけ。

引き返そうとしたんだけどさ、小さいドラゴンが怪我をしているのをセシリアが見つけて。



治療したら大喜び、ボスドラゴンがゆっくりしていけと言うので、俺もセシリアも了承してしまった。



景色良いんだけどさ、ドラゴンの巣だしドラゴンやらワイバーンが飛んでるのよ。

アンギャーとかグルォォォとか聞こえるわけ。



少し離れた位置には今日の彼らの食事が並んでいて……うん、本当申し訳ない気持ちでいっぱいだ。



「私が我が儘を言ったのに、ヨウキさんは応えてくれたんです。謝らないで下さい。むしろ、我が儘を言った私が申し訳ないですよ」



「いやいや。久しぶりのデートなのにさ。こんな戦場みたいな」



「出会いも戦場でしたし、私たちには案外ちょうど良い場所かもしれませんね」



セシリアは少し笑うと持ってきたシートを敷き始めた。

俺もつられて笑ってしまった。

ここでセシリアが満足できるなら良いか。



「俺も手伝うよ」



セシリアだけに準備をやらせるのはあり得ないからな。

二人で協力して設置完了。



「どうぞ、お茶です」



「おっ、ありがとう。……いつもの味だわ」



安定感があるよね、本当に。

向かい合って座り、横を見たら森が広がっている。

飛んでるドラゴンたちを無視すれば、良い景色だ。



「良いですね。たまには……こういうのも。最近はずっとゆっくりできる時間がありませんでしたから」



「セシリア動きっぱなしだもんなぁ」



「まだ婚約の話が来ているので、休む時間が取れないんですよ。以前よりは少なくなってきているんですけど」



「その分、俺とギルドで依頼を受けて飛び回っているから」



結局、セシリアが休まる時間は増えていない。

疲労が溜まるのも無理はないな。



「でも、前とは違います。婚約を受ける気もないのに、ただ相手をするだけということは神経を使うものです。今は自分の将来のために動いていますから……これは私たちの将来への投資なんです」



「おおぅ。さすが、セシリア」



「ヨウキさんの協力は必須ですから。頑張りましょう」



セシリアに強く握られた手の感触が彼女のやる気を表している。

やばい、萌え……燃えてきた。

やるっきゃないって気持ちなれるわ。



「もちろんだ。俺はセシリア以上に頑張るよ」



「そのヨウキさんよりも私は頑張ります」



「なら、俺はその上を……」



「私はそれよりも……」



「だったら、そのさらに上を……」



どちらがより頑張るかを言い合う。

お互いにネタがきれてしまい、決着がついた。

こんなことで口論になり、ぜぇぜぇと息切れすることになるなんて。



そう思ったら笑ってしまった。

セシリアも俺につられて笑っていた。



「いやー、どうしてどっちか退かないかな」



「二人とも頑固なんですね」



「本当、そうだわ」



これが恋人同士の会話ってやつなんだろうな。

いや、そんなこと俺は意識していない。

セシリアもだろう。

恋人同士になったからって、目に見える変化はすぐに起きないものだ。



「また、時間があったらデートしよう」



「その時はお願いします」



お願いされたタイミングでグルゥォォォォと、一際大きな咆哮が聞こえた。

俺の代わりにどっかのドラゴンさんが返事をしてくれたらしい。

ありがたいかと言われたら、ありがたくないわけで。



「……次行く時までに静かにデートできる場所を探しておくよ」



「私はここでも良いですよ。ヨウキさんと一緒なら」



何その言葉、すごく嬉しい……じゃなくて。



「俺もセシリアと二人きりになれるなら、どこでも良いけど。それでも、彼氏としてきちんと考えたいからさ」



「なるほど。ですが、そんなことを言われたら期待してしまいますよ。良いのですか?」



「任せて下さぃ……」



自信の無さが出たのか、語尾の声が小さくなった。

ちゃんとしろ、俺。

こういう時のあれじゃないか。



「ふっ、この俺にかかれば……」



「いつものヨウキさんでお願いします」



「……頑張ります」



厨二禁止令が出された。

黒雷の魔剣士で厨二は間に合っているということだな。



「よろしい。移動時間もありますし、そろそろ帰りましょうか」



「もうそんな時間かー。楽しい時間は過ぎるのが早いな」



「そうですね。でも、休まりました。明日からまた頑張れそうです」



「俺もだ。さ、掴まって」



俺が抱えるだけじゃ危ないので腕を掴んでもらう。

絶対に落とさないけど、心配なんだよ。



「帰りもよろしくお願いしますね、ヨウキさん」



「お、おう」



上目遣いで言われるとやっぱり、ドキドキする。

体勢も体勢だから、余計だな。

平常心だ平常心……一旦深呼吸をしてと。



「よし、行きますか」



「はい」



翼を広げ、飛び立った。

もう来るななのか、また来いなのか。

意味は分からないが俺たちが飛び立つと、ドラゴンたちの声が聞こえた。



「なんて言ってたんだろうな」



「そうですね、気になります」



「今度来たら、ボスドラゴンに聞いてみようか」



「はい」



また二人でここに来ることになりそうだ。

セシリアはここが気に入ったのかな。

ドラゴンが沢山いるけど、景色は良いし空気は美味い。



二人きりになれる……うん、まあ、なれるし。

静かじゃないけど人の目を気にせずにすむ。

家で談笑も嫌いじゃないが、こうして出掛けるのも必要だ。

そんなことを考えていたら、大きな声が山から聞こえていた。



「また来いと皆が言ってるぞー」



「……何と言っていたか分かってしまいましたね」



「ボスドラゴン、空気読めやぁぁぁぁぁぁ!」



俺の叫びが聞こえたのか、ボスドラゴンから翼で風を感じ取っているーと返事が来た。

そういう意味じゃねぇよ!



「くっそー、結局締まらないなぁ」



「ヨウキさん、ヨウキさん」



「ん?」



「これを入れておきますね」



セシリアが懐から取り出した何かを俺のポケットに突っ込んだ。

何だろう、感触的にハンカチかな。



「いつも貰ってばかりなので」



「ありがとう」



「名前を縫っておきました。万が一落としてもヨウキさんの物だと分かるように」



セシリアから貰った物を無くすような真似は絶対にしないけど。

俺のために縫ってくれたのか……。



「大切にするよ」



ミネルバに戻り、セシリアを無事屋敷に送り届け、俺は帰宅した。

ハンカチには綺麗に俺の名前が縫ってあり、あまりの嬉しさに硬直。



ハンカチを見ては部屋の中でスキップし、鼻唄を歌う。

俺は完全に浮かれていた。

脳内お花畑状態のまま、翌日。



「ヨウキくん、助っ人を連れてきたんだ。もう一度話し合いをしよう」



ユウガが再びやって来た。

ソレイユとカイウスが見えるんだけど。

この間、事情説明したじゃねーか。

今更、この面子で何を話し合うんだよ。

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