守り神の話を聞いてみた
正体を現したガーゴイルが背中の翼で空中を飛び回っている。
どうやら、俺達を敵と認識しているようで、空中から闇の中級魔法で攻撃してくる。
無数の闇の魔力の弾丸が俺達に降り注ぐが木の裏に隠れて回避する。
「やっぱり、ただのガーゴイルか。何が村の守り神様だよ。魔物じゃねぇか」
こんな所で暴れ続けたら村人達に気づかれてしまう。
気づかれたらいろいろと厄介だな。
騒ぎになる前に倒してしまった方がいいだろう。
飛んでいるとはいえ、俺の魔法で撃ち落とすことなど造作無いことだし。
さて、倒すかと思い行動にうつそうとしたら、シークが近くにいないことに気づく。
あいつどこ行った?
シークの実力は知っているので、あんなガーゴイル一匹にやられるわけがない。
キョロキョロと周りを見渡し、シークの姿を探すと見つけた。
周りの木々を利用して身軽な身体を活かして跳んでいる。
シークには羽があるが、飛ぶことは出来ない。
これは、シークにとって禁句なので触れることはしない。
だから、シークは跳んでいた。
そうして、ガーゴイルの背後に回り、手に持った短剣を使わず、踵落とし。
石の身体など、関係ないと言わんばかりにシークの一撃は決まり、ガーゴイルは地面に落下したたきつけられる。
その上に華麗に着地するシーク。
「僕の勝ち〜」
ショタコンが見たら確実に鼻血を噴き出すであろう愛らしさ抜群の笑顔を見せる。
俺はショタではないので関係ないが。
「隊長〜。こいつどうするの〜?」
「ふむ」
別に悪いことをしたわけではない。
先に戦闘態勢にはいったのはこっちからだしな。
とりあえず話を聞いてみるか。
「おい、お前喋れるか? 質問に答えてくれ」
シークに踏まれたまま、恨めしそうにこちらを睨んでくる。
「なんだ。殺すなら殺せ」
かなり渋い声で諦めたように返答してくる。
「は〜い」
「ちょっと待て!」
シークが本気にして、ガーゴイルの頭目掛けて短剣を振り下ろそうとしたので、慌てて止める。まだ、聞きたい情報がたくさんあるからな。
「なんだ? 我輩を殺しに来たのではないのか」
「お前が先に襲って来たんだろ」
戦闘態勢にはいった俺達も悪いけどな。
自分の非を認めたのか、下を向いてすまないと謝罪してきた。
どうやら話の通じる奴のようだな。
「シーク、そいつから下りろ。多分もう襲って来ないだろうからな」
ある程度の理性はありそうだ。
この状態じゃ話すことも話せないだろうしな。
シークはぴょんとガーゴイルから飛び下りる。
ガーゴイルは起き上がり、肩を回している。
「ふむ、先ほどは失礼した。我輩の正体を知っていたり、魔王城がどうやらと怪しい会話をしていたのでな。貴公らが戦闘準備も始めたようだったので、こちらも攻撃せざるをえなくなったのだ」
どうやら、俺達が何もしなかったら、大人しくしてたっぽい。
「それはこちらが悪かったな。……でも何でガーゴイルなんかが村の守り神扱いされているんだ?」
遺跡とか守る魔物だと聞いたが。
「貴公らなら話しても良さそうだな。そうだな、もう数百年も前の話だ。我輩はある遺跡を守るために生まれ、そこを守っていた。だが、その遺跡は財宝などが全くない人間にとってはおいしくない遺跡だった」
財宝がない遺跡なんか確かに行かないだろうな。
シークはあまり興味がないのか、あくびをしている。
「我輩も襲うべき人間が全く来ないので毎日暇を持て余していた。気がつけば、一日の大半を寝て過ごすようになったのだ。」
「隊長と同じだ〜」
シークが興味なさそうに聞いていた癖に急に笑い出した。
いくら引きこもっていたとはいえ、一日の大半を寝ている程俺は酷くなかったぞ。
「……何の話かは知らんが続けるぞ。毎日を寝て過ごしていたある日のことだ。その日も人間が来ることはないだろうと思い居眠りをしていたのだ。そして、眠りから覚めると我輩はガタコトと揺れる場所にいた」
「……何があったんだ」
「どうやら、寝ている間に我輩自身が遺跡から連れ出されてしまったようで、目が覚めた場所は盗賊の馬車だったのだ」
「アハハハ、馬っ鹿でー」
さっきまで、全く話に興味を示していなかったシークが、腹を押さえて地面を転げ回っている。
確かに馬鹿みたいな話だ。
守護すべき遺跡で居眠りなんかするからだ。
まあ、ずっと引きこもってたら暇だっていう気持ちはわかるけど……。
「事態に気づいた我輩はすぐに馬車から逃げ出した。我輩を連れ出した盗賊には灸を据えてやったわ」
大した盗賊じゃなかったみたいだな。
「だったら、何で遺跡に帰らなかったんだよ」
馬車から脱出できたなら、さっさと自分の守護する遺跡に帰れただろうに。
「……我輩はその遺跡から出たことがなかったのでな。どれぐらい寝ていたか判断もつかなかったので、遺跡への帰り道がわからなかった」
「馬鹿過ぎだよ〜……っ〜お腹痛い……」
笑いすぎて地面の上でピクピク痙攣しているシークは置いといて。
「帰ろうとする努力を少しはしなかったのか?」
「うむ。山道だということはなんとなくわかったのだが、それ以外の情報が無くてな。あてもなくうろうろしていたのだが、火の手が見えたのでな。その場所に行ってみたのだ」
「それがこの村だったとか?」
「そうだ。我輩を連れ出した盗賊が村を襲っていたのだ。人間を助けるつもりではなかったのだが、我輩を連れ出した癖に、さらに盗みを働くのかとむかついてな。懲らしめてやったのだ。」
そこから、守り神扱いか。なんか無理矢理な話だなあ。
昔の村人達で悪魔を守り神扱いするのに反対した人はいなかったんだろうか。
「そのまま、鬱憤を晴らした我輩はこの社に住むことにした。すると、村人達が勝手に我輩のことを守り神扱いしだしたのだ」
この社も元からあった場所を住家にしたようだ。
本当は別に守り神的な何かがいたんじゃないか?
気がついたら石像があったから守り神扱いしだしたということか。
「じゃあ、元々この村を守る気なんかなかったのか」
こいつが善意で守り神やっているなら、前回の盗賊襲撃時に村人達を助けているはずだし。
「我輩は別に村を守るため盗賊を追い出したわけではなかったからな。村人が勝手に勘違いをしただけだ」
こいつはやはり普通の魔物だな。
人間のことを助ける気なんかないみたいだし。
「……しかし、我輩のことを守り神だと信じ込み、身体が弱いくせに毎日社を掃除しに来る少女がいたのでな」
ティールちゃんのことだろう。
身体が弱いことを知っていたのか。
毎日掃除をしに来ていると言っていたからな。
咳込みながら掃除をしていたんだろうな。
「盗賊が来ることを知った我輩はいつもの礼にと少女をこの社にかくまったのだ。何人か盗賊が来たが、全員我輩が蹴散らしてやったわ」
中々の力は持っているようだな。
ガーゴイルのランクは確かDぐらいのはずだったはずだけど、力をつけたんだろうな。
一応闇の中級魔法を使ってきたし、実力はありそうだ。
「まさか、ティールちゃんに手を出したりとかは……」
ティールちゃんはたぶん、十四歳か十五歳ぐらいだろう。
数百年生きている悪魔が、まだ何も知らなそうな無垢で病的な少女を……嫌な光景だなぁ。
俺が勝手な妄想をして気分を悪くしていると。
ガーゴイルが心外だと反論してきた。
「勝手なことを言わないで貰おう。我輩は彼女に何もしていない。《ナイトメア・スリープ》でも悪夢なども見せずにただ眠らせただけだ。……これで我輩の話は終わりだ。今度は貴公らの正体を話して貰おうか」
確かに、相手の話だけを聞きだして、自分達の正体を話さないのはフェアじゃあないな。
笑いすぎから回復したシークと相談して、ガーゴイルに俺達の事情を説明することにした。




