友人と元部下を探ってみた
「ところで二人は今日、どうするんだ。どっか出掛けたりは……」
「……できるならしたいが、今日も家で過ごそうと思うんだが、良いか?」
「いや、俺は出掛けるから家は好きに使ってくれて構わないぞ。なんか、いる物があるなら買い出しに行ってくるし」
「……ハピネスは何か必要な物はあるか?」
「……特になし」
「俺も急ぎ必要な物はないかな。悪いな、気を遣わせて」
「いやいや、ないなら良いんだ。じゃあ、ちょっと荷物取ってくるわ」
そう言って、二階に上がる。
黒雷の魔剣士セットを持っていく……というのが目的だが、もう一つ俺は調べたいことがあった。
「そーっと、そーっとな」
レイヴンたちに寝るよう言った客間を覗く。
二人は一階にいるから、別に警戒することないんだけど、一応な。
部屋には……一つのベッドしかない。
「ほほ~う……」
他の部屋を見回りベッドを確認をしたが、使った形跡があるのは一つだけ。
一階にはソファーがあるくらいだ。
だが、ソファーで寝てないとしたら……成る程、成る程。
にやにやしながら一階に降りると、ハピネスが指差し一言。
「……隊長、顔」
「何か問題あったか?」
「……不快」
げしっとローキックをされた。
「いでっ、おい。蹴ることないだろ」
「……不快、だった、から」
「言葉で伝えろよ。先に足を出すな!」
「……出るの、隊長だけ。安心」
「俺は全然安心できないからな!?」
ぎゃーぎゃーとハピネスといつものやり取りをしていたら、鋭い視線が。
送り主はもちろん、レイヴンだ。
いやー気を付けようとしてもさ、ハピネスとのこれはもう仕方ないというか。
「……気にするな。嫉妬している俺がおかしいんだ」
「別におかしくはないだろ。彼女が自分じゃない男と仲良くしてたら、嫉妬くらいするって。しないと、ハピネスに失礼だから、な?」
「……同意」
「ほら、見ろレイヴン!」
「……隊長は隊長。気にしないで」
「……そうか。ハピネスが言うなら努力しよう」
いや、努力するって……レイヴンのやつ独占欲とか出てるんじゃないよな。
ちょっとだけ、心配なんだが。
変な方向にだけは向かわないで欲しい。
まあ、そうなってもハピネスなら、良い具合に修正するだろう。
今は昨日のことを聞き出すことが先である。
「ふっふっふ……さあ、前置きはこれぐらいにして昨日のことを話してもらおうじゃないか。まあ、嫌だったら良いけど」
聞いちゃいけない感じだったら、やばいし。
ベッドの数のことを考えたら……ね。
俺はドキドキしているのだけれど、二人はそこまで焦った表情をしていない。
これは……何もないパターンのやつじゃないか。
「……昨日のこと、か。ヨウキには泊まらせてもらった恩がある。だが、俺たちがどう過ごしたかを話すのはその……どうなんだろうな?」
レイヴンがハピネスに確認する。
うーん、どっちだこの反応。
何もなかったのか、やっちまったのか……いや、あれだったら確認するまでもなく、話すのはダメだろう。
「……良いと思う」
ハピネスは良いらしい、話しても問題ないということか。
「……ハピネスが良いと言うなら。だが、ヨウキが期待してるような話はできないぞ」
「こういうのは当事者は何も思ってなくても、聞いてみるとお前らすごいなってなることがあるんだよ」
「……そんなものか?」
戸惑いがちなレイヴンだったが、それでも昨日の出来事を語ってくれた。
俺が捨て台詞をはいて、家を飛び出していった後。
「……なあ、ハピネス。その、手伝うことはないか?」
「……待つ」
「……いや、片付けとかさ。切るものはないか? 野営を何度も経験しているから、食事の用意をしていたことがある。協力できることができれば……」
「……休んでいて」
「そ、そうか。じゃあ、椅子に座って待ってるから。何かあったら、呼んでくれ」
食事の用意は全てハピネスがやったらしい。
レイヴンは何度もキッチンに行ったが、追い払われたんだとか。
そんなハピネスの様子を見て、怒っているんじゃないか心配になったようだ。
配膳も終わると、そこには気合いが入ってる……まあ、ハピネスが入れまくったらしい。
何かのパーティーかと錯覚するくらい、豪華な食卓だったとか。
俺はそこまで食材を用意した覚えはない。
わざわざ、ハピネスが買い出しに行ったみたいだ。
俺も二人分でも多いかなってくらいの食材を用意しといたんだけどな。
「……す、すごいな」
さすがのレイヴンも目を丸くしたとか。
いつだかのフードファイトを思い出すような料理の数々だったろうな。
「……頑張った」
「これを一人で作ったのか」
「……修行中」
屋敷で料理の勉強をしていたらしい。
花嫁修行ってやつだな。
「……どうぞ」
「ああ、いただくよ」
食事中、少しの間、無言が続いたとか。
理由を聞いたらレイヴンは料理に夢中、ハピネスは料理に夢中なレイヴンに夢中だったからである。
光景が容易に想像できた。
「……どうした」
「……美味しい?」
「美味いさ。すごく、美味い。……最近は満足な食事を取る時間もなかったからな」
女性と食事に行ったらしいが、ハピネスへの罪悪感で喉を通らなかったり、味を感じれなかったと。
気持ちは分からないまでもないけど、色々と追い詰められていたんだろう。
「……心配」
「……安心してくれ。今日は沢山、食う」
「……無理せずに、ね」
「分かってるよ。ハピネスも一緒に食べよう。ほら」
レイヴンは自然にあーんをやったんだとか。
周りに目がないとはいえ、結構恥ずかしいはずなんだがな、やる方もやられる方も。
まあ、雰囲気的なこともあったのかは知らないが、ハピネスは普通に受け入れたと。
「……ん、上出来」
「だろう。また作って欲しいくらいだ。……っと、図々しいことを言ったか」
「……全然」
「そうか。なら、頼む」
「……了承。あと、これも、美味しい、よ?」
ハピネスからの逆パターンもあったと。
もちろん、逆パターンも決まったようだ。
そこからは談笑しながら、食事をしたらしい。
片付けはレイヴンも手伝ったのだとか。
「使わせてもらっているんだから、しっかり綺麗にしとかないとな。ヨウキに悪い」
さすがレイヴン、礼儀を分かってる。
「……食器に罪はない」
俺には罪があるということか、ハピネスよ。
「……ハピネスはヨウキと仲が良いんだな」
「……腐れ縁」
「……それでも、な。なんだか、二人は遠慮なく言い合えてるから。たまにヨウキが羨ましくなる時があるんだ」
あんな扱いで羨ましいと思われるなら、俺はいくらでも立ち位置を代わってやるけどな。
俺がいなくても、ハピネスは俺のことを弄ってるみたいだし。
「……隊長は隊長。レイヴンはレイヴン」
「……そうだよな。分かってはいるんだが、どうしても心がざわつくというか、なんというか。ヨウキにはハピネスと付き合うまで色々と相談にのってもらったというのにな」
「……相談?」
「ああ」
「……詳しく」
「そうだな。まずは始めてハピネスと会った後……」
俺にどんなことを相談して行動したかを語ったと。
ハピネスは静かに聞いていたらしい。
変なことを言った覚えはないし、どんな行動をしようがレイヴンの自己責任だ。
それなのにハピネスのやつ、俺の脛を蹴ってきやがった。
良いじゃないか、関係がこじれたとかなかったんだし。
まあ、そんなこんなで寝る時間になったと。
「もう、こんな時間か。そろそろ寝よう」
「……ん」
「ハピネスは二階の客間を使ってくれ。ヨウキが用意してくれたらしい。俺は一階のソファーで寝るから」
「……なんで?」
「なんでって……上に行けば分かるぞ」
そう言ってハピネスと共に二階へ上がり、客間に入るとベッドが一つ。
一つしか用意していなかったから、当然である。
「……本当に一つしかないのか」
「……」
「まあ、こういうわけだから、俺は一階で……」
「……どーん」
寝るからと言おうとしたら、いきなりハピネスに突き飛ばされたようだ。
警戒していなかったため、レイヴンはベッドにダイブ。
「ハピネス何を……」
「……疲労」
「え……」
「……ベッドで、寝て」
ハピネスはレイヴンに疲労が溜まっているからと、ベッドで寝ることを勧めたようだ。
騎士団長としての勤務、女性たちの相手、そして今回の休みを取るため、無理なスケジュールで動いていたことを察してだろう。
だが、レイヴンもハピネスをソファーに寝かせるのは忍びないと思ったらしく、反論したが。
「いや、それは……」
「……寝る!」
ハピネスの力強い一言に何も言えなくなったのだとか。
滅多なことじゃないと、ハピネスは強く言わないからな。
従う他なかったのだろう。
「……だが、やはりハピネスをソファー寝かせるわけにはいかん。ヨウキには悪い……いや、ヨウキが悪いのだから、他の部屋のベッドを使わせてもらおう」
「……ん、見てくる」
部屋を出ていったハピネスを見て、レイヴンはほっとしたそうだ。
そこでどっと眠気が来てしまい、そのままベッドに寝転んでしまったらしい。
ただ、完全に寝入ったわけではなかったようだ。
ハピネスが部屋に入ってくると身を起こしたと。
「……ああ、ハピネス。ベッドはあった、か」
レイヴンの目の前に寝間着姿のハピネスがいたと。
着ていた寝間着は袖がやたらと長かったみたいだ。
……ハピネスが自前の羽根で作った寝間着だったらしい。
「……ここで、寝る」
一言言うと、身を起こしていたレイヴンを巻き込んでベッドにダイブ。
「おい、どうして……」
「……理由、あり」
ここはレイヴンと一緒に寝たいと、素直に言えば良いのだ。
ハピネスはそう思っていたに違いない。
それなのに……ハピネスのやつ、どのベッドで俺が寝ているか分からないからと言ったらしい。
ふざけんな、建前に俺を使うなよと思う。
レイヴンもそれはないだろうと言ってくれたみたいだが、一度きた眠気には勝てず。
「……おやすみ」
ハピネスに抱き締められたレイヴン。
自前の羽根で作られた寝間着は効果抜群だったらしい。
ハピネスと寝間着による柔らかな感触、温もりがレイヴンを簡単に夢の世界へと誘ったとか。
ハピネスもレイヴンが寝て安心したらしく、そのまま二人仲良く眠ったと。
「……会話まで説明する必要はあったのか?」
「……必要」
「ああ、二人がどう過ごしたか良く分かったよ……」
思ってたことはなかった、二人は純粋で清く想いあった関係だということを再確認した。
……乱れているベッドは一つだとか言って、テンション上げてた自分を殴ってやりたい。
「じゃ、俺もう行くから。……ごゆっくり」
二人に挨拶をして家を出た。




