現実に直面してみた
「どーすんだろ、これ……」
ユウガとミカナの結婚式なのに、良いの、これで?
戸惑っていたら、ハピネスが近くに寄ってきた。
「……隊長」
「おう、ハピネスか。えらいことになってんな」
いつも、あまり表情を崩さないハピネスだが、今は不安そうな様子を見せている気がするのは気のせいだろうか。
俺も気持ちはすごく分かるぞ、でもな。
「こういう時は動揺せずに落ち着こうぜ。俺たちまで慌てたらさ。二人だってあんな感じで大変だろうから、俺らが支えるためにも動揺はせず、冷静に」
「……」
ハピネスが無言でセシリアの列を指差した。
おい、いつの間にか列じゃなくて、セシリアを中心にした輪になってるじゃねぇか。
イケメンが沢山いるとはいえ、セシリアをあんなむさ苦しい輪の中心に入れるとは。
透明になって、一人一人に電撃くらわして気絶させてやろうかな。
「……隊長、冷静」
「ん、ああ。悪い顔してたな、俺。ハピネスに落ち着けって言ったばっかなのにさ。でも、駄目だな。やっぱ、恋人があんな風に言い寄られてるの黙って見てるのって、きついわ。立場があるとはいえさ」
「……同意」
「王様も余計な発言をしてくれたもんだよ」
「……同意」
闇討ちしてやりたいくらいにな、やらないけど。
「これから二人共、大変だろうな」
結婚話とか山のように来るだろうよ、身分限らずだから、玉砕覚悟のやつとかも出てきそうだ。
しばらく忙しくて会えなくなるかもしれない。
「ユウガ、あれほっといて良いのかしら。セシリアも剣士もやばいことになってるわよ」
「そうだね。でも、二人なら大丈夫だよ。レイヴンもセシリアも……気持ちを曲げるようなことはしないさ。二人は僕と違ってしっかりしてるし……」
「何言ってるのよ。……これから二人の生活が始まるんだからしっかりしてもらわなきゃ困るわ」
「そっか……そうだよね。僕の人生はもう僕だけのものじゃないんだ。ミカナと一緒に……幸せにするよ」
あいつらも大変なことになってるな。
しばらく話しかけないようにしよう、惚気話を聞かせられること間違いなしだ。
夫婦水入らずの甘々な新婚生活を送っていれば良いさ。
「……むぅ」
ハピネスはレイヴンが気がかりな様子。
頬をちょっと膨らまして、むっとした表情だ。
レイヴンも美人、美少女に囲まれてるからな。
ユウガが結婚した今、この国の優良物件はレイヴンしかいない。
ああやって囲まれるのも仕方なし、と。
「あの……すみません。聞きたいことがあるんですけど」
話しかけてきたのは、ドレスを着た女の子だった。
身なりからして貴族だろうな、招待客か。
なんで俺に声をかけてきたんだ。
……まさか、何かのお誘いってやつじゃ。
「今、入り口から入ってきましたよね。黒雷の魔剣士様を見かけませんでしたか。全身、黒い服装を着ていて変わった兜を被っている方なんですけど」
目当ては黒雷の魔剣士かよ!
さっき、なんかやったかな、俺。
女の子とフラグ建築なんてしたっけか。
ひたすら戦ってただけなはずだ、何かした覚えはないぞ。
「ちょっと、分からないですね。何かあったんですか」
「いえ……その、少し話してみたいなって思って。帝国の勇者を相手に互角の勝負をして、勇者様の結婚式を守ろうと奮闘した方と。私以外でも同じことを思っている人が何人かいて、手分けして探しているんです」
団体で探してるのかよ、黒雷の魔剣士人気だな、おい。
正体は俺ですなんて言えるわけもないし、ここは知らないって言っとこう。
「あー、そうなんですか。すみません、俺も彼に助けられた者ですが気絶していたみたいで」
「えっ……あっ! 貴方、帝国の勇者の攻撃からミカナ様を守った方ですよね。怪我は大丈夫なんですか」
「いやー……まあ、黒雷の魔剣士が治療もしてくれたみたいで」
包帯を巻きつけた腕を見せる。
巻きつけただけだ、怪我なんてしていない。
怪我してるぜ俺、と誤魔化しのため、式場に戻ってくる前に巻いてきたのだ。
「ミカナ様を守るために勇敢に向かっていったんですよね。……その、格好良かったです。怪我、早く治ると良いですね」
それじゃあ、私はこれでと言葉を残し彼女は去っていった。
これは俺にもモテ期到来というやつか……?
「……浮気」
「ただ話しただけだろ。誤解を生むような発言はしないでもらいたい」
「……邪な……空気!」
俺を見るハピネスの視線が厳しい。
……確かにモテ期が来ようが何だろうが、俺の気持ちが揺らぐことはない。
男は悲しい生き物だな、女の子に格好良いと言われたくらいで、何を浮かれているのやら。
「そうだな。ちょっと調子に乗ったわ。セシリアはあんな状況だっていうのに、反省しないとな」
「……悲惨な、生き方、仕方なし、かも。……ふっ」
「ハピネスさん。それは俺が悲惨な生き方を今までしてきたから、女の子にちょーっと、格好良いって言われて調子に乗っても仕方ないよねーってことかな?」
俺にしっかり聞こえるように鼻で笑うとか、悪意あるよな。
「……隊長、正解」
「正解じゃねーよ」
いつものぐだぐだしたハピネスとのやり取り。
これはこれで日常だからな、落ち着くと言えば落ち着くんだよ。
ハピネスも内心焦ってる……というか不安はあるはずなんだ、俺と一緒でさ。
だから、こうやって話しているしかないんだよ、あの光景を見たくないから。
それでもハピネスには仕事があっていつまでも俺と漫才をしてられない。
幸いにもユウガがそろそろ良いかなと声かけをしてくれたおかげで、騒動は一旦収まった。
いつも騒動を起こしているユウガが、騒動を納めるとは……勇者らしいところを見せてくれる。
まあ、それでも視線がレイヴンやセシリアに行くことは避けられなかったみたいだが。
それ以外で何か特別なことが起こることもなく、結婚式は無事に終わった。
ソレイユが貴方はいつか黒雷の魔剣士と対峙する時が来るでしょうとか、言って帰っていったな。
永遠に来ねーよ。
ソレイユの中では、俺にとって一番のライバルが黒雷の魔剣士になっているらしい。
そのまま、ずっと勘違いしていれば良いよ、もう……。
そんなことよりも、重要というか厄介というか、もう王様ぶっ飛ばしちゃ駄目かなって思うことが起きたわけで。
「しばらく会うの禁止……だと?」
ギルドに依頼を受けにきただけなのに、何故俺はクレイマンからこんな悲しい現実を聞かされなければならないのか。
想像はしていたが、まさか現実になるなんて。
「ああ。ソフィアが言うにはそれはもうすげぇことになってんだとよ。婚約を断るにも無下にできないような相手も来ていてな。令嬢も大変らしいぞ。相手に気を使って、やんわりと断るっての繰り返してんだからな。令嬢の回りにも情報を掴みたいってやつが、張り付いているらしい」
パパラッチかよ。
そうやって情報を掴んで、ミネルバに噂をばらまくんだろうか。
「令嬢を狙ってるやつに情報を流すも良し、相手が貴族なら協力すると取り付けるも良しだが……この国を混乱させたいやつだっているかもしれねぇ。今、ミネルバで最も注目を浴びているって言っても良いだろうからな」
「つまりそんな中、俺がのこのこと屋敷に行って会いに行ったら……」
「令嬢を狙ってるやつはお前に興味津々になるだろうな。しばらく、後ろから気配を感じることになるんじゃねぇか」
俺に大量のストーカーが付くと。
血走った嫉妬の視線を浴びまくることなるんだろうな。
「嫌だわ」
「そういうことになるお前のための処置だろ。令嬢に何か伝言あるなら、書け。ソフィアに渡してもらうようにしてやる」
「あ、ああ。そうだな……」
会えなくて寂しい、これからどうするか話し合いをしたいので、どうにか時間を作れないかと書いた。
時間さえ合えば、誰にもばれずにセシリアと二人きりになるなど簡単だ。
透明になって、屋根を飛び回れば良いのだ。
周囲の警戒、確認も俺の得意分野だからな。
「しかし、まあ……王様も面倒なことを言ったもんだな。いつになれば収まるのか……いや、どう収まるのかさっぱりわかんねぇ。考えたくねーけどよ。ソフィアも毎日、疲れきった令嬢の顔を見るのは辛いだろうからな。俺も打開策っつーものが、考え付けば進言するんだがな」
「セシリアが断りまくってほとぼりが冷めるのを待つしかないのかな」
「まあ、お前のこと考えたらそうだろーな」
「はぁ……」
ため息をついても、状況が好転するわけでもなく、仕事はしなければならない。
それでもいまいち、乗り気になれなかった俺は簡単に終わるような依頼を選択して速攻で終わらせてしまった。
「もう、今日の分の仕事は達成で良いよな……」
たまには一人でぶらぶらするのも悪くない。
ただ、こういう時にはトラブルも付き物だ。
しかし、そういうのは先程、幸せオーラ全快で買い物していたイチャラブ夫婦に任せても良いだろう。
新婚? だからって気を使ってはやらん!
そう思っていたのに、何で俺の目の前でさぁ。
「お嬢さん。さっきからずっとここにいるみたいだけど、もしかしてデートすっぽかされたのかな。そんな酷い男より、俺たちと一日すごしてみないかい?」
こういうことが起きるかな。
いや、普通のナンパならまだしも……。
「……却下」
絡まれてるのハピネスだし!
チャラそうな男二人から絡まれてる。
これからレイヴンとデートなのか、服装張り切ってるな。
「そんなこと言わずにほら、喫茶店とかどう? 奢るぜ」
「……拒否」
「じゃあ、新しくできた服屋はどうよ。異国な服仕入れてるらしくと、評判だしさ。君に似合いそうな服、選んであげるよ」
「……拒否」
「なら……」
「……拒否!」
「……チッ! まだ何も言ってねーだろ。ちょっと、可愛いからって調子に」
「乗ってんのはお前らな」
二人仲良く拳骨をお見舞いした。




