守り神の所に行ってみた
「守り神?」
随分と胡散臭い話な気がする。
この世界にはそんな物までいるのか?
だいたい、こんな山村にいるのだろうか。
「亡くなった私のおばあちゃんから聞いたんです。昔この村が山賊に襲われた時、守り神様が守ってくれたと」
どうやら、この村に残っている伝説みたいな物だな。
それにしても、守られたって何だよ。
「すみません。守られたというのはどういうことですか?」
気になるので詳しい話を聞いてみよう。
何だか怪しい雰囲気がするからな。
「私も気になります」
「僕も〜」
どうやら、二人も俺と同意見らしい。
「わかりました。話しますね」
聞いた話を要約してみると。
ティールちゃんは祖母から聞いた守り神に毎日お供え物を持って行ってたらしい。
彼女の祖母の世代では当たり前のようにしていた風習だったようだが、今では彼女ぐらいしかしていないとか。
盗賊の襲撃があった日もお供え物を持って守り神様の所に行ったが、帰ろうとしたら、突然強烈な眠気に襲われたらしい。
気がつくと守り神様に寄り添うように寝ていたという話だ。
「隊長〜。強烈な眠気ってひょっとすると闇魔法の類じゃない〜?」
確か、闇魔法で《ナイトメアスリープ》という魔法があったな。
でも、この魔法は敵を眠らせて悪夢を見せて苦しめる魔法だったはずだが。
「……ヨウキさん。何だかこの村の守り神って怪しい気がするのですが……」
「そんなことありません。守り神様はまったく怪しくなんかないです!」
セシリアが守り神に疑いをかけると、ティールちゃんが反抗する。
自分を救ってくれたのだから仕方ないとは思うが俺もセシリアに同意見だ。
「その守り神様ってのはどこにいるんだ?」
まずは、実物を見てみるのが一番いいだろう。
守り神様とやらの正体がわかるかもしれないからな。
「私が住んでいる森の近くにあります。そんなに疑うなら案内します。着いてきてください」
体が弱いはずなのにすたすたと家から飛び出して行った。
そんなに守り神様とやらを悪く言われるのが嫌なのか?
三人でティールちゃんの後を着いていくと、ボロボロな社が見えてきた。
扉は半分壊れていて、屋根は崩れかけている。
しかし、埃やゴミはない。
おそらくティールちゃんがこまめに掃除をしているのだろう。
「社の中に守り神様はいますよ」
守り神様を模った人形か像的な何かがあるのだろう。
俺が代表して、扉が壊れないように慎重に開けてみると。
「は!?」
「え!?」
「あれ〜!?」
中にあった物は石像だった。
でもこれはどう考えても……
「悪魔像……?」
どう考えてもそれにしか見えない。
悪魔のような顔に頭に生えている二本の角。
魔物のような胴体に鋭い爪や牙があり、翼まである。
どう考えても村の守り神には見えない。
俺達三人は唖然としているのに、ティールちゃんだけが、この悪魔像に対して、手を合わせてお祈りしている。
「この守り神様が私を守ってくださったのです」
「いや、これは守り神って感じには……」
「見えないよね〜」
「守り神様を馬鹿にすることは許さ……ごほっ、ごほっ」
急に咳込み出した。
シークの薬を飲んだとはいえ、一朝一夕では治るわけがないからな。
セシリアに付き添って貰い、先に帰ってもらうことした。
帰る途中、こちらを睨んでいた。
おそらく、何かしたらただじゃあおかないと言いたかったのだろう。
別に壊したりする気はないから安心してほしい。
彼女達の姿が完全に見えなくなると、石像の調査をする。
「なあシーク、どう考えてもこれって守り神の類には見えないよな」
「あはは〜。当たり前だよ〜。……神様っていうよりは悪魔って言う方が正しいと思うな」
やっぱりそう思うよな。
そもそも、村に残っている伝説がおかしい。
村を守ったものに感謝をこめてこの石像を造ったんだろ。
どう考えても悪魔じゃないか。
「まさか、この姿をした魔物が村を救ったとかか? ありえないと思うんだけどな」
魔物が人間の村を守る理由がわからない。
俺みたいなのは特殊な例だしな。
俺以外に昔転生した人間がいたとか?
わからんな。
「隊長〜。この石像に似た奴、僕見たことあるよ〜」
「何だと!?」
神様扱いされているというのに何処で見かけたというのだろうか。
「魔王城のトラップモンスターのガーゴイルに似ているよね〜」
「……そういえばそうだな」
魔物城で自分の部屋以外にあまり行かなかったので、忘れていた。
ガーゴイルとは石像に化けて敵を襲う魔物だ
古い遺跡などに生息していて、冒険者や盗賊が被害にあうことが多い。
しかし、なんでガーゴイルに似せた石像が神様扱いされているんだ?
「……本当にただの石像か? もしかして、こいつもガーゴイルとかじゃないだろうな 」
何だか怪しい気がするな。俺とシークは戦闘態勢になる。
シークは短剣を構え、俺は魔法の準備をする。
じりじりと石像に詰め寄っていくと、不意に目の部分が光り、社の中から飛び出して来た。