厨二で戦ってみた
「いっつー……」
両手を交差し、強化をしたのでダメージはそこまでなかった。
それでも痛いものは痛い。
ったく……ふざけやがって、あんなもん結婚式場で撃つなよ、馬鹿なのか。
まあ、ぶっ飛ばしてくれたおかげで黒雷の魔剣士に戻るチャンスができたから、良しとしよう。
瓦礫の中から脱出して素早く黒雷の魔剣士へとチェンジする。
この間、かかった時間は五分。
俺がいない間はレイヴンが抑えておいてくれているだろう。
真打ち登場といった感じで登場し、あんな結婚式にお呼びでない奴は早々に退場させてやろう。
意気込み充分に俺は式場へと突入した。
「我が名は黒雷の魔剣士! 勇者の式を台無しにしようと目論む輩に鉄槌を降す者だ。さあ、この俺が相手に……」
颯爽と登場してミラーの相手をしようと思ったのだが、思わぬ先約がいた。
それはレイヴンでもデュークでもユウガでもなくて。
「蒼炎を両手に纏って戦う……あれは以前、ミネルバを騒がした蒼炎の鋼腕じゃないか」
「長いこと姿を消していたのに何故今ごろになって……」
「罪滅ぼしに裏で騎士団と繋がりがあるという噂は本当だったのか」
なんで、お前がミラーと戦ってるんだ。
俺よりも着替えるのが早いとは……俺よりも瞬時に状況を判断して着替えにいったんだろう。
この俺が早さで負けるなんてな。
「ほらほら、そんな蒼い炎だけじゃ俺には勝てないよ。もっとくれないと満足できないなぁ!」
「くっ……俺の蒼炎が吸収されるだと。厄介な物を持っているな、帝国の勇者は」
「ははははっ、以前はあまりにも膨大な量の魔法を受けて吸収しきれずに負けた。あの魔族! 今度は魔力を吸収したら、すぐに放出するように改造された。もう俺が負けるなんてことはないのさ!」
すごく調子に乗ってるな、あいつ。
自分の実力がわかったならもう出ていけば良いのではないかね。
式場に留まる理由がないだろう。
「くそっ、なんでこんな……」
「ほらほらぁ、早く相手をしてくれよ勇者様ぁ。魔王を倒したあんたを倒せればさぁ。俺は安心できるんだよぉ。あんたを倒せたらあの魔族に勝てるだろうからさ」
だから、ユウガに固執しているのか。
別に魔王様より俺のが強かったからな、俺が引きこもってただけで。
そんな身勝手で見当違いな理由で結婚式を邪魔されたんじゃあな。ユウガも許せないだろうけど、新郎は大人しくしてないとな。
剣を抜かせるわけにはいかん。
それにしても黒雷の魔剣士が登場したというのに、誰も気付いてないなんて、悲しくなるぞ。
皆、ミラーと蒼炎の鋼腕の戦いに夢中だからな。
セシリアは……いる位置からして人込みに隠れて見えてないのだろう……仕方ない。
だから、ここは派手にいこうか。
決めた俺の行動は早い、跳躍してユウガを煽り、蒼炎の鋼腕と対峙するミラーの死角から、ドロップキックを放つ。
「甘いなぁ!」
完璧に虚をついた一撃だったのだが、振り向き様に腕で防御されてしまった。
「誰か知らないけど、どっか行っちゃいなよ!」
もうビームもどきをくらうのはごめんだったので、反動を利用して離れた位置に着地する。
「誰か……か。俺の名は黒雷の魔剣士。依頼を迅速かつ完璧に遂行する者だ。今回の依頼は勇者の結婚式を滞りなく終わらせること……そのために貴様は邪魔だ。新郎に決闘の申し込みなどあり得んな。きちんと結婚式に来る前にマナーを学んでこい、マナーを!」
そう言って、俺は再度斬りかかったが全てガードされた。
勇者という肩書を持っているだけあった中々やるな。
本気を出せば勝てるだろうけど、今は人目が多すぎる。
あまりにも人外な力を見せるのはいかがなものか。
この場を素早く収められるけれども、セシリア的にそれは駄目ですと言いそうだ。
「口だけだねぇ、剣が軽いよぉ!」
剣技を会得していないからな、見よう見まねではミラーに通じないらしい。
一旦、後退して作戦を練る。
やはり使い慣れた武器を使わないときついか。
よし、蒼炎の鋼腕に出番を与えてやろう。
「ふっ、勇者の肩書は伊達ではないな。この短時間でこちらの戦闘パターンを読まれたらしい。ここは共闘といかないか蒼炎の鋼腕よ」
「良いだろう。だが、どう攻める。来たばかりの貴様に説明するが、奴に魔法は通じないぞ。自分の肉体を……よくもまあ、あそこまで改造したものだ」
この世界ってそんなことありなのかというツッコミは置いておく。
面倒な相手……それだけの解釈ができれば充分だ。
「ふん、だからどうした。いくら肉体を改造している敵が相手だろうと、黒雷の魔剣士は依頼を迅速に、完璧に遂行する。今回の依頼は勇者の結婚式を滞りなく終わらせること。そのための障害が勇者だろうが、なんだろうが関係ないな」
「成る程……俺が憧れただけある。そんな憧れの相手から共闘の誘いを受けて断ることなどあり得ん!」
蒼炎の鋼腕もノリというものを分かっているじゃないか。
セシリアは……好きにしてくださいといった感じだな、よし。
許可も出たし、さくっと終わらせるぞ。
「作戦会議は終わったかなぁ。そろそろ、飽きてきたからユウガくんとやりたいんだよね」
「飽きてきたか……そうだな。俺もこんな頼まれてもいない催しは終わらせるべきだと考えていたところだ。式の邪魔はするものではない……」
俺はそう言いつつ、蒼炎の鋼腕のガントレットを外して装着する。
これだよ、これ、しっくりくる。
文句の一つも言わない蒼炎の鋼腕には俺の剣を渡した。
「分かるか。この盛大な式は勇者ユウガと魔法使いミカナが築き上げてきたものの集大成だ。歩んできた道程は決して楽なものではなかっただろう。時にはすれ違い、涙を流したこともあったはず」
解決した現場にいたので、確かな情報だ。
「沢山の困難を、試練を乗り越えて二人はそこに立っている。黒雷の魔剣士は依頼に私情をあまり挟まないようにしているが……今回ばかりは祝福したい。貴様に教えてやろう、自分のためではなく、誰かのために戦うということをな!」
≪瞬雷≫を発動して一気にたたみかける。
肉体強化なら吸収されんだろ、あとはひたすらぼこって気絶させる。
もちろん、ミラーも防御してくるが……遅い遅い!
「ふははは、なんだその動きは!? 動きが止まって見えるぞ、帝国の勇者ミラーよ」
明らかに俺の動きについてこれていない。
このままなら、殴り倒して終わりだ。
「ちっ、なんだお前。さっきと動きが全然違うじゃんよ」
「ふん、当たり前だ。俺は一人で戦っていない。蒼炎の鋼腕の想いがこもったこの拳。簡単に防げるとは思わないことだ」
この言い分だと蒼炎の鋼腕がやられたみたいな印象を受けるが気にしない。
こうでも言わないと近接格闘の方が強いだろお前という話になるからな。
これは俺だけの拳じゃない、だからこれだけの威力を……といった風にする。
違和感が残らないようにと考えた俺なりの作戦だ。
今後、剣技はレイヴンかデュークに教わるから、今はこれで許してほしい。
普段の戦闘スタイルだから、違和感なく全力が出せる。
これが黒雷の魔剣士の真の力だ。
「これで吹っ飛びなよ!」
胸の辺りに何かがチャージされていく……おい、手からだけでなけ胸からもビームもどきを出す気か、めちゃくちゃだな。
だが、そんな予備動作がばればれな攻撃に当たる黒雷の魔剣士だと思っているのか。
「……くっ!」
「くらいなぁ!」
避けられない、後ろには沢山の招待客がいる。
……セシリアもちょうどビームもどきの範囲内だ。
だったら、真っ向勝負しかない。
「上等だ。雷よ宿れ。我が拳よ、眼前の敵を粉砕する力を見せる時だ……」
右腕に雷属性中級魔法、≪ライトニング・アーム≫を発動。
それだけではインパクトに欠けるので、軽く風と雷を俺の周囲に展開。
これが黒雷の魔剣士の本気だと周りに見せるためだ。
肉体強化もこっそり展開し、ビームもどきを渾身の右ストレートで
かっ消す。
「消えちゃいなぁぁぁあ!」
やはり、手から出たビームもどきよりも強力だ。
招待客には悲鳴を上げてる者もいるな。まあ、安心しろ。
すぐに歓声へと変えてやる。
無言で放つ右ストレート、あまりにも余裕過ぎるのも不味いので、多少苦戦する素振りを見せつつも、ビームもどきを消滅させた。
「……ふっ、我が拳を砕くには足りんな。出直してこい」
「くそっ、何者なのさ、あんた。クラリネス王国にあんたみたいな奴がいるなんて、聞いてないんだけどなぁ」
「我が名は黒雷の魔剣士。冒険者ギルドに所属している。……それだけで充分だろう。自分の障害になる者には容赦しない。何者かなど関係ないはずだ。その方が単純で考えなくて済む」
「ふーん……その考え良いね、気に入ったよ。だったら、俺は戦いたいから戦う! これが俺の考えさ、単純で良いだろ」
にやりと笑う勇者ミラー。
話し合いとか通じそうにないな、こいつは。
勇者なのに戦闘中毒者とか止めてもらいたい。
こんな迷惑な奴は即刻、国に帰れという話だ。
ただ、力をセーブして戦ってるし、すぐに決着というわけにもいかない。
一人ではきつくても二人ならやれるか。
蒼炎の鋼腕にも手伝ってもらうとしよう。