普通に恋人とデートしてみた
「あいつら、もうどうにでもなって良いと思う」
結婚して、子どもが産まれて、家族で幸せになれば良いよ。
あんな感じなら、国一の夫婦になれるって。
「私はミカナを応援していたので……以前よりも大変でしょうけど、幸せそうですよね」
「確かにそうだけどさ……」
「ところでヨウキさん、勇者様が言っていた友人はヨウキさんですよね。あの枕、何でできてるんですか?」
絶対、知ってて聞いてるよね、これ。
ミカナの古着を調達したのはセシリアだ。
ユウガのやつ、素材をほのめかすこと口に出してたからな、くそぅ。
これ、説教パターンだよ、せめて店に着いてからに……。
「その話は店の中でこっそりと話すと言う形でよろしいでしょうか。まじで、すみません、お願いします」
「冗談ですよ。そんなに焦らなくても大丈夫です。ミカナにはきちんと後日、話した方が良いですよ。勇者様に任せるだけではちょっと……ヨウキさんも絡んでいるんですから」
あれ、予想していた対応と違うんだけど。
後日、俺がユウガとミカナに抱き枕の経緯を説明すれば良いってことだよね。
今日はこれ以上の追及はないって……え?
「さあ、行きましょう、ヨウキさん。私、お腹空いてきました」
「あ、うん。俺もなんかほっとしたら、一気に腹減っちゃった」
今はデートに集中しよう、集中っと。
セシリアとお目当ての店に到着したわけなんだが。
確実に行列が出来ているあろうと予測していたのに、それがない。
店内にもぱらぱらとしかお客さんいないし、どうなってんだ。
まだ、昼過ぎたばかりで昼食タイムであることは間違いないんだけどな。
「ここのはずなんだけど……」
「では、入りましょう」
セシリアに手を引かれて店内へと入る。
間違いない、ここだわ。
「なんで、こんな……」
空いてるんだろうと考えていたら、別の席にいるカップルたちの会話が聞こえてきた。
「さっきまで人沢山いたのにねー」
「皆、勇者様たちを見に行ったんだよ。ほら、勇者様の噂の真偽を確かめたかったんだって」
「あー、浮気云々てやつだよね」
「勇者様なら、ありえるって、イケメンだし、イケメンだし、イケメンだし……」
「こらこら、拗ねんの止めなって。私の一番はあんただから、ね?」
……皆、ユウガとミカナを見に行って、こうなったのね。
あいつらの影響力ってすごいな。
勇者と勇者の嫁確定だし、無理もないか。
まあ、その後良い雰囲気で美味しい昼食を食べた。
前回来たときとは違い、今回はセシリアと一緒。
食べた料理は最高に美味かった、なんかこう……遠慮なく食べれた。
……やっぱ、下見の時に一人で来たときがきつかったんだろう。
男一人って俺だけだったよ、なんか、待ち合わせすっぽかされたのって感じ。
「満足しました。また、一緒に来たいですね」
「うん、セシリアと一緒なら大歓迎」
一人では勘弁して下さい。
会計を済ませて店を出る、この後は商店街を見回る予定で……。
「うおおおぉぉ、どいてくれぇぇぇ!」
下り坂を猛スピードで下ってくるリヤカー。
野菜を乗せているな、出荷の途中かね、いや、なんでこの状況よ。
「あぁぁぁぁあ、誰だ、後ろから押したやつぅぅぅ」
「あー、慎重に歩いていたのに、後ろから押されたのか」
ギャラリーの中に顔を青くしてリヤカーを見つめる冒険者の姿がある。
酔っぱらってぶつかりでもしたのか、わからんがなんかやったに違いない。
このままでは大惨事、ここは俺の出番だろう。
「セシリア、行ってく……」
る、と言い飛び出そうとしたら、見覚えのある光の軌跡が俺の横を通りすぎた。
「さあ、もう大丈夫です」
「うぉぉぉぉあ、勇者様、ありがとうございます。止めてくださらなかったら、どうなっていたか」
リヤカーで爆走していた男が何度も頭を下げている。
俺の出番だと思ったんだけど、ユウガの出番さっきので終わりじゃなかったのか。
お、騒ぎを聞きつけたのか、騎士がこちらに向かってきている。
あとは事情聴取して終わりっぽい。
「行こうか。ユウガに任せよう」
よく働く勇者に任せてしまって良いだろう。
「……うーん」
「どうかしましたか?」
「いや、なんか……」
俺にとって都合が良すぎることがさっきから、続いてるんだよね。
ペットがいなくなったって叫んでる主婦にユウガ、荷物が重くて困ってるお婆さんにユウガ、母親とはぐれて泣いてる女の子にユウガ。
普段、あいつこんなに働いてたっけ。
しかも、俺とセシリアの目先にあるトラブルを潰している。
なんだんだ、今日は。
まあ、何事もなくセシリアとデートできるから良いんだけども。
「今日は勇者様大活躍ですね」
「……そうだね」
セシリアもちょっとおかしい気がする。
いつもなら我先にと困ってる人がいたら助けに行くのに、それをユウガに横からかっさわれることを許すなんて。
まさか、ここでユウガの勇者スキルが働いているというのか。
「こうして商店街を歩いているだけなのに、すごく楽しいです。旅をしている時は薬、食料等、消耗品のこと、資金の遣り繰りも考えながら買い物してましたから」
「苦労したんだなぁ……」
「あの頃の経験は忘れませんね」
そういう経験もあるからこそ、セシリアは聖母なんだろう。
元はユウガが発端らしいがユウガが言わなくても聖母って二つ名がついてたんじゃないかな。
「……どうかしましたか」
「え、いやいや、何でもない」
顔を見ていたことがばれた。
まさか、セシリアの地雷について考えていたなんて言えない。
言ったら、デート終了まではいかないだろうけど……どこか狭い部屋に連行されると思う。
「ん、なんか人だかりがあるな」
広場に人が集まっているな、何をやっているんだろう。
歓声が上がっている、誰か有名人でもいるのか。
ユウガだったりしてな……そんなこと考えつつ、人だかりの中心を覗き込む。
木刀を使っての試合……いや、賭け試合か。
おいおい、賭け試合ってこの国やっていいのか。
「セシリア、賭け試合って大丈夫なの?」
「もちろん、禁止されています。ただ、申請して許可を取ればできますよ。掛け金の制限を設け、不正が行われないか主催者側への入念な調査が入ります」
「ふーん、じゃあ、これは良いのか」
良く見たら観客から飛び入りで出てる人もいる。
主催者側が指名するパターンもあるようだ。
……嫌な予感、ここは離れた方が良さそう。
「次の挑戦者は……そちらの男性!」
俺を指名するなよぉぉぉぉ。
絶対に来ると思ったわ、あの主催者、セシリアと俺を交互に見て、良い顔してなかったし。
嫉妬か、嫉妬なのか。
恋人ができるとこういう目にさらされるようになるんですね。
周りの人たちからは早く出ろーという声。
うん……主催者以外にも敵が何人かいるらしい。
「仕方ない、行くか」
出ないと言って白けさせたら、嫌な注目を浴びる。
臆病者とか言われても良いけど、セシリアに迷惑かけたくない。
「さあ、相手はこちらが用意した屈強な男たち。果たして何人連続で倒せるのか、美しい彼女さんも含めて皆さん、ご注目下さい!」
ふざけんな、何で百人組手みたいになってんだよ。
これ、イベント終盤にやるやつじゃねぇか、なんで俺。
くそぅ、速攻で全員地面とキスさせてやる。
「待て、俺がやろう」
この声はまさか……。
ざわざわしながら、人だかりに穴が空いていく。
「……中々、盛り上がっているようだな。町に活気を……という意図があってのイベントだと聞いた。俺も協力しよう」
レイヴンだった、いや、なんで!?
こういうのレイヴンって嫌いじゃないのか。
つーか、これじゃ賭け試合にならないだろ、絶対皆レイヴンに賭けるって。
「き、騎士団長のレイヴン様……えっと、その、レイヴン様が参加されるとなりますと、企画が……」
「……申請された書類に書かれていた時間から考えるとまだイベントは中盤だろう。盛り上がるよう、手を貸そう。それとも、俺では不服か……?」
「い、いえ、そんなことは。み、皆様、騎士団長レイヴン様が飛び入り参加です。なお、運営側の都合によりこの試合は賭け無しの試合とさせて頂きます、ご理解下さい」
そりゃ、そうなるだろうよ。
歩いていくレイヴンと目が合う、あとは任せて行けと言ってる気がした。
レイヴン、ありがとう、この借りは今度返す。
レイヴンの登場により、大盛り上がりな人だかりから、こっそりと俺とセシリアは脱出した。