恋人とデートしてみた
天候に恵まれた結果、晴天。
俺の日頃の行いが良いからだろう、はっはっは。
「天気が良いね」
「そうですね、ヨウキさんの日頃の行いが良いからでしょう」
「……俺、口に出してた?」
「空を見上げてにやにやしていたので、なんとなくですが、想像してみました」
すげー恥ずかしいんだけど、馬鹿みたいじゃね。
いや、俺は久々のデートだから浮かれているんだ。
……でも、俺が楽しむだけじゃ駄目だよね。
「セシリア、俺の考えがだだ漏れだと言いたいのだろう。だが、今日、俺は絶対にセシリアの記憶に残る日にしてやるからな」
「その言葉……信じてますからね?」
「任せろい!」
気合いを入れたところで早速、セシリアの手を取って歩き出す。
「ヨウキさん、どこに向かうんですか」
「それは着いてからのお楽しみってやつだな。知りたいなら、教えるけど」
「いえ、楽しみにすることにします。せっかく、ヨウキさんがエスコートしてくれるんですから。私は何も知らないまま、その方が良いですよね」
「……そりゃ普通そうだわな。なら、最近のミネルバの経済状況について話しながら、目的地に向かおうか」
軽くボケてみた、完全にセシリアのツッコミ待ちである。
デート出発早々、話題が堅いというボケだ。
ここから、いつもの日常会話へと発展させて、雰囲気を安定させる作戦だ。
「良いでしょう」
えっ、まじで。
「まず、騎士団の皆さんのおかげでミネルバも事件が素早く解決されるようになりました。効率向上の原因はレイヴンさんの変化によるものでしょう」
「あー、筆談じゃなくなったからな。まあ、最近は男見せてる時もあるし、人生目標も立てたから仕事に熱が入ってるんだろうな」
「私もそう考えています。また、冒険者が路上でけんかをすることも減ってきているみたいです。こちらはクレイマンさん直々に暴れる冒険者を鎮圧しているから、ですね」
「まじか、仕事してるなあ、クレイマン」
そういうことは面倒臭いから関わらないっていうイメージだ。
俺の受付やってるとこしか見ないし。
「ソフィアさんは喜んでいますよ。やる気を出してくれているので、優しくしてあげてるみたいです」
「……何をしてるんだろう」
だれてる時でも対応が甘かった気がするけどな。
詮索してみ……止めとこう、ソフィアさんに消されてしまう。
「そこは夫婦だけの秘密というやつですね。では本題に入りますよ……」
そこから、セシリア先生による、良く分かる現在のミネルバ経済情勢が始まった。
どこの国との貿易が最優先なのか、近隣の村の豊作による物価の変動による市場への影響。
浮浪児の対策、町の衛生面の管理の徹底……耳が痛くなります。
セシリアの話はとても分かりやすかった。
孤児院でこういう話もしたりするのかもしれない。
まあ……デート中の会話には見えてないだろうよ。
これじゃ、彼氏彼女じゃなくて教師と生徒の図だ……。
話の振りをミスした分はこれから行く場所で取り戻す。
「すごいですね、ヨウキさん」
隣にいるセシリア、普段は見せないような感じではしゃいでいる。
よし、ここを選んで正解だった。
もうすぐ有名な劇団一行がこの辺に来るっていう情報を得られて助かったな。
酒場で教えてくれたおっちゃんに感謝だわ。
「演劇って俺には無理だな。あんな恥ずかしい台詞をすらすらと言えないわ。大袈裟な感じの動きっていうのかな、難しそうで」
「え?」
セシリアからすごく意外そうな目で見られた。
いやいや、本当のことだし。
「ヨウキさん、本気で言ってるんですか」
「そうだけど……そんな目を見開いて言わなくても」
驚き過ぎじゃないか、なんでこんな……あ。
「……俺のは自然に出るものだから。出そうとして出してるわけじゃないから。自由自在じゃない。そういうことで」
演じてるわけじゃない、あれはこう……封じられたもう一人の俺みたいな。
いや、この発言自体が厨二だから、絶対口に出したらダメなやつ。
劇団の劇はすごかった……時折セシリアの視線を感じた、多分俺の返答に納得いかなかったんだろう。
まじで演技とは別物なんです。
「次はどこに行くんですか?」
「最近できたレストランに行こうかと」
もちろん、下調べ済みの店だ。
女性に優しいヘルシーな料理が出てくる。
なんか、肌とかに良さげな食材を使ってるっぽい。
下見に行ったとき、女性客かカップルしかいなかったからな、一人で入るの、中々、ハードル高かったわ。
まあ、これもセシリアを楽しませるためだと腹をくくり店に行ったけどな。
周りから受ける視線は、俺にだって恋人がいる、これは下見なんだと、自分に慰めの言葉を頭の中で延々繰り返して乗り切ったんだ。
……そういや、あの店結構並んだっけ、大丈夫かな。
「どうしたんですか、ヨウキさん。体調でも優れないのでしょうか。少し顔色が悪く……」
「え、いやいや、何でもな……」
「見つけたわよー!」
ああ……後ろからトラブルがやってきた。
顔だけ振り向くとミカナが全力疾走でこっちに向かってきている。
やはり、俺に平穏などないらしい。
「あんたのせ……」
突然、目の前のミカナが消えた。
どんな用事だったのかも伝えきれず、光の軌跡を残して。
……うん、今通りすぎていったのってあれだよな、旦那だよな。
「行きましょう」
「えっ!?」
明らかに一悶着ありそうだけど、スルーするの。
いやいや、あれスルーしちゃいけないやつだと思うけど。
「いや、セシリア。あれ、ミカナとユウガだって。なんかあったんだよ。見に行くだけ見に行かないと」
セシリアの手を引きユウガたちを追う。
二人を追っていくとたくさんの人たちが集まっていた。
何か始まるのかと皆ガヤガヤしている、どうしたんだろ。
「おいおい、勇者様だ。ミカナ様もいるぞ」
「え、あの二人って大丈夫なの」
「勇者様、浮気してたんだろ、ミカナ様にばれたんじゃないのか」
「噂になってるもんな」
「浮気相手はいないのか、どう決着つけるんだ」
「は、え、ユウガが浮気?」
どういうことだ、何があった。
いや、何もないって絶対、ユウガがそんなことするわけないから。
あのユウガだぞ、ミカナ関係であいつがそこまでするかって行動何回取ったと思ってんだ。
ユウガはミカナを抱き抱えたまま、空中で停止。
何か謝罪会見みたいな雰囲気を感じるぞ。
「皆さん、ありもしない噂に惑わされないで下さい。僕はミカナ以外の女性を愛することはありません。この勇者の証である聖剣に誓って」
すげぇな、聖剣に誓ってなんてよっぽどじゃないか。
この大勢の民衆の中、愛を叫んでいる姿は立派な勇者だと言わざるを得ない。
「嘘だ。俺は聞いたぞ。ミカナ様が仕事でミネルバを離れているというにも関わらず。あんたはミカナ様との愛の巣に別の女を連れ込んでイチャついてたってな」
「勇者様の家に行った文官が聞いたらしいぞ」
「一日だけじゃないとか」
「ひどい……」
「静かにして下さい。僕は誰も連れ込んでいません。……僕の話を聞いてもらえませんか?」
ユウガが真面目な表情で民衆に訴えかけている。
ミカナがとても不安そうだ……うん、俺も同じ気持ちだ。
「僕は……ミカナがいなくて寂しかったんです。寂しさからか、それは不安に変わり、悪夢を見るようになりました」
「げっ!」
気づいてしまった、この事件の全貌を。
「友人に相談した結果、僕は一つの枕を貰いました。その枕を抱いて寝たら悪夢を見なくなったどころか、心地良い夢を見れるようになったんです。……その内、僕は抑えきれなくなり、あろうことか枕に愛を囁くようになりました」
ユウガがそんなことになっていたなんて知らなかったんだけど。
あの枕失敗だったかな、民衆ドン引きなんだけど。
「その枕にはどうやら……」
「もう言わなくても良いわよ!」
ついにミカナから突っ込みが入った。
素材をばらすのは不味い、そこまで言ってしまったら、変態勇者になっちまう。
もう充分変態か、これ取り返しつかないやつじゃね。
どうやってユウガの勇者としての威厳とかイメージ回復させるんだろう。
そんなこと考えていたら、ミカナを抱えたユウガが落ちた。
ミカナが恥ずかしさからか、ユウガを軽く叩いていたせいでバランスを崩したらしい。
結構な高さだったぞ……大丈夫なのか。
しかし、そんな心配は無用だったらしい。
土埃が晴れると、そこにはミカナの下敷きになったユウガがいた。
どうやら、落下の衝撃からミカナを守ったらしい。
「ちょっ、ユウガ、平気!?」
「安心してミカナ。……君を不安にさせたけど、何があってもミカナは僕が幸せにする。怪我なんてさせない。もちろん、ミカナが心配するだろうから、僕もね」
そう言って、ミカナを抱き締めるユウガ。
そんな光景を見て集まってた人たちが沸いた。
……なんだこれ。
「それでは、行きましょうか」
「えっ、挨拶とかはしなくて……」
「今行くと今日はここで終了になります。騒ぎは解決したんですから」
「でもなぁ……」
俺が蒔いた種でもあるし……うーん。
楽しませるってセシリアに言ったんだよな、俺。
「行こう。今度謝っとく。今日はさ、セシリアとの約束を優先するよ。それに……」
「ミカナ、これからもよろしくね」
「アタシ、これから出張どうすれば良いのかしら。悩むわ……」
相変わらずって感じの雰囲気だ、邪魔者は不要だろう。
俺はセシリアと来た道を引き返した。




