少女と会ってみた
手刀で気絶させるシーンを魔法で眠らせるに編集しました。 8/3
長い山道を抜けて、なんとかダガズ村に着いた。
セシリアから聞いた事前情報によると、ダガズ村は人口数百人の小規模な村らしい。
今の情報を知るため、一度村を見回ってみたが、ダガズ村の状況はかなり酷いようだ。
家は焼かれ、畑は掘り起こされており、地面は戦闘の跡であろう血の跡が残っている。
すれ違う村人達も生気がなく、青白い顔をしていて、包帯をまいている者が多い。
「予想以上の状況ですね。まずは依頼主の村長さんの自宅に行きましょう」
村の中で一際大きな家があったので、多分そこだろう。
三人で村長に会うために、村人に案内して貰い、村長宅に向かう。
「おお! まさか魔王を倒した勇者様のお仲間であるセシリア様に来ていただけるとは。ありがとうございます。」
出迎えてくれたのは村長であろう老人だった。
頭に包帯を巻き、足を怪我しているのか引きずり歩いている。
「まずは、村長さんの治療から始めましょう。よければ村の一カ所に怪我人を集めて貰えますか?」
「わかりました、セシリア様。……ところでそちらの方々は?」
村長が俺とシークを見る。
セシリアは僧侶が着るようなローブ姿だが、俺とシークは完全に普段着だからな。
村人と普通のこどもにしか見えないのだろう。
「彼等は私の友人で、二人共今回の依頼の手助けをしてくれることになっています。実力は確かなので安心して下さい」
村長はセシリアの言葉を信じたのだろう。
俺とシークにもよろしくお願いしますと頭を下げてきた。
セシリアに頼まれたし、村長の態度も悪くない。
シークも頭を下げられて満更でもない表情をしている。
俺も一肌脱ぐとしようか。
「任せてくれ」
「了解〜」
さっそくセシリアが村長に回復魔法をかけ、村の中心の広場に怪我人を集めてもらう。
広場には老若男女の村人が集まった。
特に若い男性の重傷者が多いようだ。
集まった村人の半分の人数が治療を終えたところでセシリアの顔に汗が浮かんでいる。
チート持ちの俺や、薬剤を使うシークと違い疲労が溜まってきているようだ。
「セシリア、少し休憩した方がいいんじゃないか?」
魔力切れを起こしたらそれこそ本末転倒だ。
最悪、倒れて明日まで目が覚めなくなる時もある。
「はぁ…はぁ…。……っ大丈夫です」
全然大丈夫には見えないんだが。
顔も青白くなって来ているし限界だろう。
俺はセシリアに光の初級魔法をかけた。
癒しの力を持つ聖なる音色で対象者を眠らせる魔法だ。
元々、泣いている赤ん坊に使う魔法だという補足情報。
セシリアは疲労のせいか、俺の魔法に抵抗できず、眠ってしまい地面に倒れた。
周りの村人から悲鳴があがるが気にしない。
セシリアを休ませるために村長に泊まる所の手配を頼む。
「すみません。セシリアはもう限界なので休ませたいのですが、宿を手配して貰えますか?」
俺の行動に呆気に取られていた村長が俺の言葉で正気に戻る。
「……わかりました。ですが、今は村の宿も盗賊の襲撃で宿泊できる状態ではありません。従って、私の家に空き部屋があるのでそちらの方で休息をお取り下さい」
宿が焼け落ちていたのは、最初に村を回った時知ったので、何処に泊まるのか疑問に思っていた。
どうやら村長の家に泊めてくれるようだな。
俺は気絶させたセシリアをお姫様抱っこする。
「シーク、少しの間頼むぞ」
「任せて隊長〜」
一旦村人達の治療をシークに任せて、俺はセシリアを抱っこしたまま村長宅に向かった。
村長宅に着き、村長の奥さんに部屋を案内してもらう。
部屋に入った第一印象は埃っぽいだ。
あまり使っていない部屋なのだろう。
簡素なベッドと机に椅子、タンスがあるだけの部屋だ。
セシリアをベッドに寝かせて、窓を開けて換気をする。
「多分、少し休ませたら起きると思います。起きたら広場に来るように言ってください」
その頃にはもう村人達の治療が終わっていると思うがな。
奥さんにそう伝えて俺は広場に戻り村人達の治療を再開した。
集まっていた村人のほとんどの治療を終えた頃、セシリアが戻って来た。
どうやら、かなりお怒りのようで、眉間にしわを寄せて俺に向かってくる。
「……ヨウキさん。私の言いたいことわかりますよね?」
セシリアはセリアさん譲りだろう、目が笑っていない笑顔を見せてくる。
シークはかなりビビっているようで、俺の後ろに隠れてしまった。
だが、俺は彼女の怒る顔もかわいいと思えるから……ある程度平気だ。
それに、俺は自分が間違ったことをしたとは思っていない。
「……確かにいきなり魔法で眠らせたことは悪かった。でも、あのまま治療を続けていたらセシリアが倒れていた。俺はそんなの嫌だから荒療治させてもらった」
俺の言葉を聞き、セシリアは考える。
シークは俺とセシリアのぴりぴりした空気に耐えられないのか、涙目になっている。
可哀相なので、安心させるため頭をポンポンと撫でてやった。
「……確かに重傷者の治療は明日もしなければなりません。それに山賊がまた攻めてこないとも限りませんし。そんな時私が倒れていては駄目ですよね」
どうやら、わかってくれたようだ。
いつもの雰囲気に戻ったことがわかったのか、シークが俺の後ろから出てきた。
これで一件落着かな。
「私のことを考えて行動してくれたんですよね。ありがとうございます、ヨウキさん」
満面の微笑みのお礼をくらった俺は顔が真っ赤になった。
セシリアは計算通りと笑みを浮かべている。
多分、眠らせた仕返しみたいなものだろう。
そんな、やり取りをして村人達の治療も終わり、村長の家に行こうとしたところ。
「おい、ついでにティールも見て貰えばいいんじゃないか」
「あの子は盗賊が来た時いなかったろ。セシリア様もお疲れのようだし、別にいいじゃないか」
村人たちが騒がしい。
どうやら、まだ怪我人がいるっぽいな。
村人に事情を聞いてみるか。
「まだ、怪我人がいるんですか?」
「いや、村はずれにティールっていう少女が住んでいるんだ。盗賊の襲撃時に彼女は出かけていたので、怪我はしていない。ただ生まれた時から体が弱くてな。」
どうやら、病気の類の物のようだ。
シークに任せれば多少症状を和らげることが出来るかもしれない。
「よければ、その娘の住んでいる場所を教えて貰えますか」
「……良いのか? すまないな。ティールは村の東にある森に住んでいるから、頼んだぞ」
俺には結構砕けたしゃべり方なんだよなぁ。
まあ、セシリアの付き人みたいなもんだし、気にしないからいいけど。
三人でティールという少女に会うため、東の森に向かった。
森と言ってもオセルの森のような、薄暗く深い森ではなく、どちらかというと林と言った方が正しい。
五分ほど奥に進むと、木で出来た小さな一軒家が見えてきた。
「お邪魔しま〜」
変な挨拶でノックもせずに入っていくシーク。
おいおいと思いつつ、シークに続く。
家の中はベッドに机など普通の家にある家具がある。ただ、本が好きなのか本棚が多い。
部屋の奥のベッドに腰掛け、本を読んでいるのがティールさんだろう。
勝手に侵入してきた俺達を見て驚きを隠せないようだ。
「どちら様でしょうか? 村の方々ではないですよね」
言い終えるとコホコホと咳込んでいる。
「いきなり家にお邪魔してすみません。私は村長さんの依頼で来ましたセシリアと申します。こちらの二人は私の友人で手伝いに来てくれています」
「そうなのですか」
セシリアが自分と俺達の身元を話したので、かなり驚くと思ったが、案外冷静に返答して来る。
「シーク、病状を見て薬を与えてやってくれ」
シークがティールさんに駆け寄り、症状を見る。
いつもしょっているリュックから薬を取り出しティールさんに与えている。
「……ありがとうございます。大分楽になりました」
「よかったね〜。でもまだしばらくこの薬飲まなきゃ駄目だよ〜」
リュックからいくつか薬を取り出し、手渡す。
まあ、一回だけの薬の処方で治るほど軽い症状じゃなかったということだな。
「でも君運が良いよね〜。盗賊の襲撃があった時出かけてたなんてさ〜」
確かにいくら村はずれに住んでいたとはいえ、襲われてもおかしくなかったんだよな。
「違います。私は運が良かったわけじゃありません。村の守り神様が私を守ってくれたんです」
あれ? 知的で冷静な娘かと思ったら不思議ちゃんなのか?




