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引っ越しを終えてみた

「終わったぁぁぁぁぁあ!」



俺は床の上で大の字になっていた。

セシリアもソファーに座り、休んでいる。

長く険しい道程だったが、無事に終えることができた。



セシリアには感謝しないといけないな、俺だけだったら、いつまでもダラダラとやっていて、区切りがつかなかったと思う。



「お疲れ様でした。……思ったりよりも時間がかかってしまいましたね」



「……家具の位置とか部屋割りでもめたりしたからじゃないかな」



タンスはこの位置、テーブルとイスはここ、日当たり的に寝室にするのは問題がある……など。

セシリアとは意見が食い違って、軽く口論になったり。



「……今、考えると住むのはヨウキさんなのに、でしゃばり過ぎましたね。すみませんでした」



「いや、良いんだ。セシリアのおかげで良い感じになったし。俺だけでやってたら、センスのない、殺風景な家になっていただろうから」



「そうですか、お役に立てたなら嬉しいですね」



「本当に助かった。すっかり暗くなったし、送っていくよ」



手伝ってもらって助かったし、恋人をこんな時間に一人で帰すとかあり得ないし、そんなことしたら、ソフィアさん、セリアさんが黙っていないし。



……とまあ、理由は様々だが、一番の理由はもっとセシリアと一緒にいたいからかな。

口に出すのは恥ずかしいので、思うだけにしておこう。

夜の町をセシリアと共に歩き、屋敷まで向かった。



「昼と夜では町の賑わい方が違いますね」



「大人の時間て感じかな。子どもはこんな時間にうろついていることは滅多にないから。怪しげな雰囲気の店に灯りが灯っていたり、酔っぱらいがうろうろしてたりと。……セシリア、こんな時間に出歩いたりしないでしょ」



「普段ならこの時間は夕食を食べ終えて、明日の予定の確認もし終え、読書をしている最中ですね」



「だよな」



俺だったら、依頼によっては行動しているな。

この時間帯って変な奴が絡んできたりもするから、気を付けないとならないんだよ。



しかも、最近、俺は巻き込まれ体質というか……頼まれ事の連続だ。

このままだと、知人以外の誰かからもいきなり何か飛んで来るかもしれない。



せっかく、セシリアと二人きりで夜道を歩くというレアなイベントなのだ。

今日くらいは邪魔が入らないでもらえるとありがたい。



俺は全神経を集中し、トラブルに巻き込まれないように、警戒を強めた。

やばそうな気配がしたら避けて通り、安全な道筋を選択する。



俺のお見送りは完璧だった、何のトラブルに巻き込まれることなく、屋敷に着くことができたのだ。



「へ?」



そう、気が付けばアクアレイン家の屋敷の前だったのである。



「ヨウキさん、送っていただいてありがとうございました」



「え、あ、うん」



「……何度か私が話しかけても無視していたのは、私を無事、屋敷へと送り届けるためなんですよね」



「はっ!?」



完璧な警戒が裏目に出てしまったらしい。

もっと話したかったのに、あっという間じゃないか。

セシリアもちょっと怒ってるような……いやいや、まさか、こんなことでねぇ。



ただ、埋め合わせはしないとダメだよな、これ。

このまま別れるのはちょっと……。



「今日のお礼もしたいから、今度一緒に出掛けない?」



誘うタイミングとしては自然なはず。

あとはセシリア次第なんだけど……。



「良いですよ」



「よしっ」



セシリアの了承ももらったので、日程、待ち合わせ場所の話をする。

どこ行くか考えとかないとな……。



「それでは、失礼します。ヨウキさん、おやすみなさい。……来週、楽しみにしていますね」



「おやすみ、セシリア」



楽しみにしているか……ハードル上げられちゃったなぁ。

屋敷に入っていくセシリアを見送る。

……なんだろう、急に寂しい気持ちになった。



「……帰ろう」



その辺の店で夕食を食べて、家に帰ってきたんだけど。

この広い家に住んでいるのは俺一人。

そう考えると寂しさが増した、セシリアとこの部屋はこうだ、家具の位置はここだと言い合いしていた時はあんなに楽しかったのに。



引っ越しが終わらない、終わらないとぼやいていた癖にいざ終ってみるとこれだ。



「よし、寝よう。……寝ながら、どこ行くか、決めよう」



そんな感じで寝たけど、中々寝つけなかった。

人恋しい時期なのかね……だが、セシリアと出掛ける日まで俺を訪ねてくる者はいなかった。



そのおかげでセシリアとどこに行くかをじっくり決められたけどさ。

こうして待ち合わせ場所で無事に会えたし、気分は最高潮だわ。



「大丈夫ですか?」



「へっ、何が?」



「いえ、私の姿が見えた途端にすごく安堵した表情を浮かべていたので……何かあったのかと」



自分が思っていた以上にセシリアに会いたかったらしい。

……やばいやつじゃね、俺。



「いやいや、そんなことないって」



「そうですか、良かったですね」



あれ、この返しってセシリアと会うことにそこまで思ってなかったっていう風にもとれね。

……ダメだって、この前といい選択肢ミスってるよ。



「あの、今のは俺がなぜか、誰でも良いから会いたいって時に誰も来なくて寂しい思いをしていたことを隠したかったから、思わず出てしまった強がり的なやつで」



「会うのは誰でも良かったんですね」



違う、違う、違う、そういうことじゃないんだって。

どうしたんだ、俺、じっくりデート場所決めたじゃん、プラン決めたじゃん、このままでは始まる前にセシリア帰っちゃうんだけど。



内心おろおろ、表情にも出ているだろうなって確信が持てる。

そんな困り顔が面白かったのか、セシリアが微笑んだ。



「さて、冗談はこの辺にしましょう」



「だよね、ほっとした」



「……少し、誰でも良かったと言われて残念な気持ちになりました」



「だから、誤解なんだって」



「わかっていますよ」



セシリアさん、俺で楽しんでるよね。

こんなやり取りはあまりやらないぞ……セシリアの新たな一面を見た気がする。

いたずらっ子な感じ……普段のイメージと違うからとても新鮮だ。



「こういうのなんか、良いな」



「……ヨウキさん」



「いや、弄られるのが好きってことじゃないからね。だから、その視線を止めてくれ」



セシリアから向けられたことのない、一線距離を置こうとする感じの視線が刺さる。

いや、これもあまりないけど、普通に焦る。

変に勘違いされたらやばいって。



「わかっていますよ、ちょっと意地悪してみただけです」



「セシリアが……意地悪だって? そういうのが実は好きだったのか」



意地悪されたので、やり返してみよう。

虐めるのが女王様なんて言ったら、なんて言うかなーなんて。



「ヨウキさんがそういったものが好みなら、ある程度考えますよ?」



大変すばらしい笑顔を頂きました。

うん……これ以上は止めとこう。

このままでは聖…が出てきてしまう。



「やっぱり、セシリアには敵わないな……」



「私もヨウキさんには敵わないと思う時があります。今日……私にも言わせてほしいですね」



成る程、これはデートを成功させられるか試されているというわけだな。

やってやる、絶対セシリアを満足させてみせる。



「ふっ、見ていろ。必ず、その口から敵わないと言わせてやる。……あっ」



ダメだって、自由にやって良い時期は終わったんだ。

今は恋人とデートなんだ、厨二は卒業しないと。



「緊張のない、ヨウキさんはいつも自然体で自分の思うまま行動してますよね。私はヨウキさんのそういう所、嫌いではありませんよ」



「え、あ、ありがと」



「ただ、自重してもらいたい時もあります」



「……すみません」



「……と、以前ならこう言って終わってました。時と場合によりますが、私の前であまり遠慮しないで欲しいです。私もしませんので。一緒にいて窮屈なのは嫌ですよね」



束縛はしないってことかね。

俺はもちろんしないけど、セシリアから案を出されるなんてな。

……俺って自由過ぎる時があるから、そういう時は押さえて欲しいんだけど。



「セシリア、それは俺も賛成だけどさ。えっと……」



「……あれこれ、自由にやって構わないとは言っていませんよ?」



「うん、そういう感じで理解してくれているのなら、物凄く助かる」



自分でこんな風に言うのってどうなんだろ。

甘え過ぎなのか、どうなのか。

……今後、気を付けていかないとダメだな。



「じゃ、行きますか」



時間は限られているし、移動しないと。



「そうですね。本日はよろしくお願いします」



そっと、手を出されたので迷うことなく握った。

デートは始まったばかりである。

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