二つ解決してみた
「……納得がいきません。理由は自己中な勘違い、本当に反省をしているのかすら謎。無力な自分が許せなくて変わろうと思った? 勝手に修行でもしていれば良いでしょう。祠と像を壊したのは只の八つ当たりにしか思えません。やっぱり、この薬を……」
「止めときなって」
未だに復讐の機会を狙っているみたい、どうしよう。
このまま帰ったら、サトヤの周辺に罠を設置していきそうだ。
この目は殺る目だ、間違いない。
「おい、ガイ。なんとかしろって。このままじゃ後日、またここに来ることになるぞ。……重要参考人として」
故郷で犯罪はまずいって、いや、故郷じゃなくても不味いけど。
「うむ、あの者はこの村で正式な裁きを受けることになった。これ以上、咎め立てるのは良くはないな。……小僧の言う通り、ティールの立場も悪くなる」
「わかっています、わかっているんですが、守り神様。私はどうしても彼の行動が許せなくて……」
「うむ……」
ガイが何かを考えている、ティールちゃんをどう説得するかだろうか。
うん……二人きりにした方が良さそうだ。
「じゃ、俺は祠と像を直してくるから」
「わかった、頼むぞ。……すまんがティールが納得いくように頼む」
「わかってるって、昨日、何回作り直したと思ってんだよ」
細かすぎる修繕を何度も要求されたからな。
一発でティールちゃんがお礼を言うようなくらいの出来映えにしてやる。
「二人の話し合いが終わったら合流な、んじゃ、行ってくるわ」
二人に別れを告げて、一人、祠と像の修繕へ。
大事なのはイメージだ、俺のではなく、どういったできならティールちゃんが満足するか。
時間を掛ければ良いというものではない、集中するんだ。
「俺ならやれるはず、やってやるぞ」
少し、厨二スイッチが入ったものの、俺は自分の仕事を責任をもって果たした。
そう……ガイを信じ、ティールちゃんを連れこの場に来るのを待っていたのだ。
「おいっ、なんでこんな時間よ!?」
もうすっかり日が暮れていて、俺は飯も食わずに待ちぼうけ。
もうすぐ来る、もうすぐ来る……なんて思っていたらこの様だよ。
「すまん……」
ガイがとても申し訳なさそうに頭を下げている、一方……。
「すみませんでした、ヨウキさん~」
謝る気があるのか、ティールちゃんの頬がずっと緩んでいる。
どうしたんだ、この子は、何があった。
「ティールちゃんは間違って変な薬でも飲んだのか?」
「ぬぐぐ、す、すまん、小僧。それについては聞かないでくれると助か……」
「守り神様が、私と未来を歩んでいこうと言ってくれたんですよ~」
「お、おい、ティール!」
ガイが急いでティールちゃんの口を塞いだが、もう遅い。
こっちが真面目に修繕作業をしていた頃、この二人は人生設計をしていたようだ。
今の状態を見るとサトヤへの恨み辛みはないっぽい。
ガイは自分の仕事を果たしたと言っていいだろう……だが。
「……」
俺はガイを死んだ目で見つめていた、そこに込められた感情はない、完全な無。
「お、おい、小僧」
「……末永くお幸せにな」
「待て待て、誤解だ。我輩なりにだな」
「安心しろって、微妙に冗談だから」
「それはほぼ本気ではないのか」
「ははは……明日、朝一で帰ろうな?」
有無を言わさぬ迫力に押されたのか、ガイは首を縦に振るしか出来なかったように見えた。
翌日、馬車に乗ってミネルバに帰ってきた俺は早々と自宅に戻り、ベッドに直行。
まだ、夕方だった、夕食も食べてない、でも寝たかったんだ。
「ああ……引っ越しはいつになったら、完璧に終わるんだ……」
切実な願いが込められた一人言をぼそっと呟いた俺は眠気に従い、そのまま……。
「……んあ?」
扉をノックする音で目を覚ます。
俺に用事か、今度は誰だ、もう誰が来たって構わない。
俺は頼れる相談役なのだ、そうだろう。
連日、色々と頼まれたりなんだりと忙しかったせいか、頭がハイになっている。
厨二スイッチが入るのも仕方ないさ、どうせ訪ねてくるのは知り合いだ。
「誰だ、済まないが今起きたばかりだ。多少、時間をくれると助かる。それまで持ちこたえてくれ!」
どんな状況だよ、ツッコミたくなるような台詞、さあ……どんな返しをしてくるか。
「どう持ちこたえれば良いのかはわかりませんが……わかりました」
「えっ!?」
やばい、やばい、訪ねてきてるのセシリアだった。
急いで身支度を整えて扉を開ける。
「おはようございます」
「うん、おはよう……」
扉を開けたらやっぱりセシリアだった、声を聞き間違えるはずもないので、当たり前なのだが。
今日約束か何かしてたっけな、思い出せない……いや、してないんだよ。
「急に訪ねてきてすみません」
「いや、それは別に……ただ寝てただけだから」
「そうですか。ヨウキさん、今日、用事があったりしますか?」
「ないけど、たぶん」
これからできる可能性は大いにある。
最近、動いてばっかだし。
「では、私と出掛けませんか。……ヨウキさん、色々と用事があったりで引っ越し作業終わっていませんよね」
「良くわかってるね。なんか、色々と皆立て込んでるみたいで、気がつけば全く片付いてないし、買い物も終わってないし、掃除も中途半端だし……」
二階建てを一人で整理するのって、以外ときつい。
魔王城ではデュークたちと分担してやってたからな。
……一人暮らしをして管理していけるのか、心配になってくる。
「ですから、私が手伝いますよ。足りない小物や家具の買い物、掃除もまだ全部終わっていないでしょうし」
「えっ、いや、いいよ。終わってないのは俺の手際が悪いからで」
「ここ最近、ヨウキさんは誰かのために動いていたんですよね。それなら、誰かの手を借りても良いのではないですか」
ここまで言われて断るのはどうだろうか。
恋人がせっかく手伝うと言ってくれているのだから、素直に受け入れた方が良いのかね。
実際、セシリアがいてくれたら、買い物も掃除も助かるし。
……俺よりもしっかりしてるから。
「……お願いします」
「それでは、行きましょうか」
セシリアを連れて新居を出た。
しかし、すぐに連れられているのは俺だということが発覚する。
「ヨウキさん、この店は品数が多く、値段も手頃です」
「あ、はい」
「このカップ、良いと思いませんか」
「ああ、俺もそう思う」
「カーテンは……この辺にある物が良さげかと思います。ヨウキさんは?」
「よし、こっから決めよう」
俺、一人暮らしするんだよね、セシリアと一緒に住むわけじゃないよね。
すごくセシリアが楽しそうなんだけども……まあ、屋敷に住んでるんだから、引っ越しなんて縁がないよな。
セシリア頼りにはなっているけど、俺も選んでくれた物には納得しているから。
……ダメな男ではないと思いたい。
そんなこんなで、思ったよりも早く買い物が済み、我が家に戻って掃除。
つーか、セシリアはお嬢様、屋敷で掃除なんてしないんじゃないかと。
そんなことを思っていた時期があったわけですが。
「どうしたんですか、ヨウキさん。手が止まっていますよ」
「いや、うん」
頭に三角巾を装着、着てきた服の袖をまくり、雑巾とはたきを持つセシリアは非常にてきぱきと動いていた。
俺は箒を持って棒立ち、恋人の意外な姿にびっくりである。
「セシリアって、屋敷で掃除しないよね」
「自室の片付けを軽くするくらいですね。以前、自分で掃除していたら、ソフィアさんに叱られてしまいまして。私たちの仕事でございますと掃除道具を没収されてしまいました」
「メイドの面子に関わることだったんだろうなぁ。……なら、なんでこんなに手慣れてるの」
「孤児院でよく子どもと一緒に掃除をしているんですよ」
「あー、成る程。だから、手慣れてるのか」
「はい。……さあ、頑張りますよ、ヨウキさん。買ってきた物の整理も含めて今日で全部、終わらせましょう」
「本気でしょうか」
結構、がっつりやることあるけど、大丈夫なのか。
俺の掃除じゃ甘かったということで、家全体の掃除、買ってきた物には食器から、棚までとあるんだけど。
俺が時間見つけてやってきたことをリセットした感じなんだよね。
それなのに、今日一日で全てを終わらせるとかさ……まじか。
「私、嘘はつきませんから。さあ、始めますよ」
始まった恋人との共同作業……セシリア、手早く、丁寧、確実な動きだ。
俺もいつまでも箒を持って棒立ちしているわけにはいかない。
そう、ここは俺が苦労の末に手に入れた俺だけの城なのだ。
「俺たちが組めば無敵……どのような困難も乗り越えてみせる、いくぞ!」
俺は箒を片手に持ち、せっせと引っ越し作業に取り組んだ。




