守り神に協力してみた
何で今、それを聞くんだよ。
もう、頭を抱えたくなりそうな状況、着地地点が見えない現実に俺は心をが折れそうになった。
一体、どこでシークのやつに口を滑らせたのやら。
……誰かと話している時に偶々、聞かれていたのだろう。
最悪だと思う、だが、いつまでも落ち込んではいられない。
ここで引けば、色々と終わる。
「過去を振り替えるのは良い。でも、肝心なのは今の自分がどうかってことだ。今の自分が胸を張って生きているならさ……例え、昔ヒモだったとしても、良いんじゃないかな」
「ふざけるな!」
「だってさ、やっちまったことは変えられないんだぜ。今、どういう風に生きているかを伝えれば……わかってもらえるんじゃないか」
「勝手なことを言うな。見ろ、ティールの上司の表情を! もうどう説明しても信用は得られんぞ」
ガイの言う通り、ソフィアさんの俺たちを見る目は完全に不審者を見る目と同じ。
これから、屋敷に入れてもらえなくなるんじゃないかと思うレベルだ。
俺の信用も危うい、協力したハピネスの立場もやばい、後でダブル説教が待っている。
……リアルにやばいんだけど。
都合良くセシリアが現れるなんて奇跡を願ってしまうくらい。
シークのみがこの重苦しい空気の中、無邪気そうな笑みを浮かべている。
俺も許されるなら、笑っちまいたいよ、本当に。
「みんな、急に黙ってどうしたの。……あ~、僕、干してた薬草しまってない。じゃーね、隊長。ばいば~い」
爆弾落として逃げてんじゃねぇよぉぉぉ。
後ろ手バイバイで去っていくシークに対して、叫びたくなった。
「……仕事」
「そうですね。まだ掃除が残っているのでしょう、ハピネス。休憩は終わりです、ヨウキ様は私が話を聞きます」
「……隊長、また」
ハピネスも仕事に戻るため、屋敷へと消えていった。
……助けを求めた結果、話が余計ややこしくなった。
「私も仕事に戻ります」
「へっ?」
「……ティールから何度も話を聞いていますので、ある程度の理解はしています。今後は勘違いされるような言動は控えた方がよろしいかと」
失礼致しますと綺麗なおじぎをして、ソフィアさんも屋敷に戻っていった。
……結局、俺たちは遊ばれていたということか。
それとも、見逃してもらえたのかな。
「おい、小僧、急ぐぞ。ティールが出掛けたということは、もう冒険者ギルドにいるかもしれん。登録する前に説得せねばならん」
「あ、ああ。そうだな。行くか」
ソフィアさんに感謝しつつ、ガイと共にギルドへ向かう。
「不味いぞ。すでに登録が終わっていたら……」
「追い付くことはそう難しくないさ。俺たちなら、登録手続き中くらいのタイミングでギルドに着けるだろ」
説得して事情を説明したら、キャンセルくらいできるだろう、多分。
そんな期待を込めてギルドへと入り、ティールちゃんを受付で発見したが……。
「おーし、なんかあっても自己責任。同意書に名前は書き込んだな」
「はい……これで私の冒険者登録、終わりなんですね。もっと説明や確認事項があると思っていたんですけど」
「あー……詳しい規約とかはあれだ。隣の受付の綺麗なおねーさんに聞いてくれ」
「えっと、隣の方でなくてはダメなんですか?」
「ん、ああ、もちろん、俺も説明できるぞ。ただ、俺はこう見えても副ギルドマスターでな、やることは山積みだ。それに隣のおねーさんはまだまだギルドの職員としては未熟でよ。規約とかそういう話を初心者にわかりやすく説明できるかを見たい……」
「理由つけて、仕事をさぼろうとしてんじゃねぇよ!」
クレイマンのやつ、さらっとシエルさんに仕事を押し付けようとしやがって。
つーか、ティールちゃん、よりにもよってクレイマンの受付に行ったのか……これでは、もう手遅れだぞ。
「あ、守り神様! ……とヨウキさん。どうしたんですか、二人そろって依頼に行くんですか? なら、私も行きたいです。見てください、私のギルドカード。これで私も守り神様と同じ冒険者です」
ティールちゃんは嬉しそうにガイにギルドカードを見せている。
……仮面で隠れているけど、ガイがどんな表情してるか、手に取るようにわかるな。
絶対に複雑な顔をしていると断言できる。
ティールちゃんが嬉しそうに見せてくるので邪険に扱えず、だからとはいえ、素直に喜べもしないと。
「……頑張れ」
「おい、もう手遅れのように言うな。すぐに登録を解除すれば良いだろう」
「あ? 登録したばっかなのにすぐ解除だ。俺が直々にやったんだぞ。この俺がな。許さねーぞ、そんなこと。これ以上仕事を増やすんじゃねぇよ」
クレイマンから却下されて、どうにもこうにもいかないな。
実際、登録してすぐに解除なんて失礼だし。
「さあ、守り神様。どこまでも私は付いていきます。これからは二人で頑張りましょう」
「……う、うむ、そうだな、ティールよ」
ガイのやつ、根負けするのが早いな。
ここまで進んだら、諦めるしかないと悟ったのかね。
それともティールちゃんのキラキラした目を見たら、断れなくなったのかも。
「心配するのは分かるが、最初は危険な依頼は受けれねーし、大丈夫だろ。そんな仕事を回さないように、一応気を使ってやる」
「そうしてくれると助かる。まだまだ、厳しいだろうから。でも、良いのかよ。仕事増えるぞ」
仕事はささっと済ませてだらけるがもっとーのクレイマンからしたら、自分の仕事が増えるのは不都合じゃないか。
「ああ……なんかソフィアが世話してるらしくてよ。本業はメイドなんだろ、聞いたぞ。武器も持ったことねぇのに、ソフィアからのスパルタ教育受けてるってな」
「それには俺の知り合いも協力してる」
「らしいな。……普通はそんな急激に実力は伸びねぇ。ただ、やる気が凄まじいんだと。その原動力が……」
クレイマンが未だに守り神様、守り神様とガイに迫るティールちゃんに視線を向ける。
まあ……お察しくださいって感じだな。
「うん、そういうことだ」
「おう。若いってのは良いな。すっかり注目の的だぞ。それにしても、男連中があまり言い寄っていかねぇな。たまに面倒な言い寄りがあるもんだが」
ガイがいなくなったら、行こうとする輩がいそうだけど……まあ、無理だろうな、ティールちゃんだし。
二人の会話が怪しくなってきたから、そろそろ……。
「守り神様、これで私も無事に冒険者です。今の私の力は微々たる物ですが、少しでも力になれるように頑張ります」
「う、うむ」
「前にお嬢様、ヨウキさんに反対されたんです。守り神様のことを考えろと。私も自分の病弱さは知っています。それでも、守り神様の隣に立って役に立ちたいんです。もちろん、無理をしない程度にします。倒れてしまったら、余計、守り神様に迷惑をかけてしまいますから」
「と、当然だな」
「怒られることも覚悟していました。内緒で行動していたことは素直に謝ります。すみませんでした。……私、ちゃんと自分の体と相談しながら、守り神様のサポートします」
「あ、ああ」
「任せてください。守り神様の障害は私が潰しますから。……余計なことしようする者、全て」
ティールちゃんが真顔で言うと、ギルドの空気が一気に冷えるのを感じた。
いつもなら、ガヤガヤとしているギルドがこんなに静かになるのも珍しい。
俺はもう慣れてるからどうじないけど、以前よりも迫力が増したような気がする。
これもソフィアさんのスパルタ教育か成したことか。
数々の依頼を達成してきた屈強な冒険者たちが、冒険者に成り立ての少女の言葉に圧倒されるとは。
「……あいつも大変だな」
クレイマンのガイを見る目が優しくなった。
「振り回されてるわけでもないし、あの二人はあれで幸せだから良いんだよ」
「そんなもんか。……まあ、他人の関係を深く考えるなんて俺らしくもねーな。仕事したし、休憩するわ」
クレイマンはそう言うと、受付から立ちギルドの奥へと消えていった。
速攻でシエラさんも奥へ行き、クレイマンを引っ張ってきたけど。
「なんで、隙あらば裏に行こうとするんですか。仕事はまだたくさんあります」
「あー、わかってるよ。おら、この書類処理済、処理済、処理済……。昨日言ってた調査書もまとめてあるぞ。初心者冒険者向けの依頼リスト作ったからな。あと、依頼人からのクレーム、重要度順に並んでるから順番に処理しろ」
「えっ、ちょっと、待ってくださ……」
「ほら、受付並んでんぞ。対応しろ、シエラ」
「……そのやる気が常に続いたら良いのにな」
ばりばり働くクレイマン、できるなら最初からそうすれば良いんじゃないかね。
いや、クレイマンが本気を出したら周りが付いていけなくなるのかもしれない。




