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吸血鬼の彼女と話してみた

「満足そうだな、おい」



カップルと離れたところで声をかける。



「やあ、君たちも来ていたんだね」



「おー、まあ、色々あって来た。お忍びで来ているから名前は言わないでくれよ。……で、こんなところでも恋愛相談にのるんだな。しかも、あんな感じで」



相談にのったというよりは、自分から切り込みに行ってた。

売り込みじゃあるまいし、あんなんありなのかね。



「この仮面舞踏会という場はどうもね、多くの迷えるカップルたちを感じるんだよ。さっきのカップルでもう、四組目かな、相談にのったのは」



「マジかよ」



この舞踏会ってそんなに悩み抱える人たち参加しているのか。

声を出さないだけでセシリアも驚いているだろう。

仮面を被っているだけに気持ちに蓋をしている人が多いのかね。



事情は様々あるんだろうけど、それでも、いきなり切り込んでいくんだから、カイウスはすごいわ。



「いやー、おかげで約束をしていたのに大分遅れてしまっているんだ。彼女、怒っていなければ良いんだけどね」



「彼女……棺桶に入っているんじゃないのか」



「外に出たいって本人が話してね。どうにかできないものかと思って、今回の仮面舞踏会に目をつけたんだ。たまたま、城に来た相談者が教えてくれたんだよ。幸運だった」



「外に出たいってそういうことか……」



家からとかじゃなくて、棺桶からって話かよ。

……ということはだ、最終確認をしてみよう。



「彼女さんて踊り教えてもらったばっかり?」



「ああ、踊りを覚えなければならないような環境で育った娘じゃかったからね。私が手取り足取り、優しく教えてあげたよ。私がちょっと、意地悪して急に踊りのテンポを上げると、頬をふくらませて怒ってね。いやぁ、あの時は宥めるのが大変……」



「おら、行くぞ。相手が首を長くして待ってんだから」



惚気てないで、とっとと歩けという思いで腕を強引に引く。

気づかなかったな、会ったことは一回だけ、まだ目覚めてなかった時だ。



あとは棺桶の中にいる状態で会話もなかったし。

でも、本当にまさか……だよな。

先程、別れた場所を目指すと、飲み物を片手に持って壁に寄りかかる彼女さんの姿があった。



ちょっと待っててくれと言ったが、動かずに待っててくれていたんだな。



「やあ、待たせたね」



カイウスは悪びれた様子もなく彼女さんに近づいていく。

おいおい、待たせたって思ってんならもう少しあるだろう……って、え!? 



「あんな自然に抱き締めるのな」



返事も聞かずに優しく腕の中に彼女さんを収めてしまった。

彼女さんも慣れているのか、あまり驚くことなく、カイウスの背中に腕を回す……自然な動きだ。



「ずっと……待っていましたよ。でも、あまりに遅いから他の男性に踊りの相手をしてもらっていましたけどね」



「いやぁ、申し訳ない。とてもじゃないが、見ていられないカップルが何組もいてね。話している内に遅くなってしまったんだ。……許してくれるかい?」



「我が儘を聞いてくれたんです……これくらい許しますよ。それに、私もカイウスが教えてくれた踊りをカイウスじゃない人と踊れて楽しかったから」



「おやおや、それは浮気発言かい。困ったね、恋のキューピッドと名乗っているにも関わらず、自分の恋人に浮気されるなんて。悲しいなぁ、慰めてくれるかな」



「浮気なんて私がするわけないでしょう。カイウスは心配性過ぎますよ。慰めて欲しいなんて、良く言います。全く、私がどれだけ待ったと……」



「はっはっは、安心すると良い。今夜しっかりと埋め合わせをしよう。二人きりの時に……ね」



カイウスのやつ、俺とセシリアがいることわかってないのかね。

このまま会話を聞き続けたら、彼女さんに申し訳ないような。


本当に……二人だし好きなだけ愛を確かめ合っていれば良いと思う。



まてよ、それは俺たちも一緒ではなかろうか。

せっかくの舞踏会、お忍びだろうが、何だろうが、ここにいる人たちは大切な人と大切な一時を過ごしている。



ここで終わってしまったら、いつまでも変わらないな。

俺はそっと、セシリアの手を引いてパーティー会場の中心辺りまで移動した。



「踊ろう」



「唐突ですね。……良いんですか、私は男装しているんですよ」



小声なのは、正体を隠すためか。

男装なんて気にする必要はないだろう。



「せっかくのパーティーなんだし。カイウスもレイヴンも恋人とあんなに楽しそうに踊っているんだ。俺だけお預けなんて……なぁ。それとも、別の女性と踊った俺とはもう付き合えないとか」



「そんなことありませんよ! ……わかりました。パーティーは終了間近ですが、踊りましょう。手加減はしません、ついてこれないと……覚悟してくださいね?」



背中がゾワリとした、一体、俺は何をされてしまうのか。

まあ、失敗しなければ良いんだよ、うん。



「教えてくれた人が教えてくれた人だから、ミスなんてしないさ」



「では、お相手よろしくお願いします」



セシリアの手を取り、俺たちは踊り始めた。

スーツ姿で天狗と亀の仮面を被った、妙な格好の二人だと思われているんだろう。



仮面で見えないセシリアの表情、笑ってると良いなーなんて考えてたら、二回もミスをしてしまった。

……うん、絶対、セシリアは笑ったと思う。

俺はやっちまったって顔してたけどな。



仮面舞踏会は問題なく……まあ、多少の驚いたことはあったけども無事に終わった。

せっかくなので、会場を出てから皆で人気のない場所に移動し、顔を合わせる。



「いつも、カイウスがお世話になってます。私の名前はシアと申します、棺桶の中からでしたが、皆さんとは何度かお会いしているかと」



「あ、どうも、ヨウキです。まさか、知らず知らずにカイウスの彼女さんと踊ってたなんて」



全く、偶然とは怖いものだ。

まあ、今は偶然よりも色んな意味で恐ろしいことが待っているんだけど。



隣にいるセシリアがあまり見かけない種類の笑顔を浮かべているんだよ。

いつもの慈愛に溢れた笑顔じゃなくて……シークがすごく楽しんでいる時に浮かべる笑顔に似てる。



こんなことはかつてないので、何が起きるのかとびくびくしているわけだが。



「……満足?」



「ああ。……今日は俺の我が儘に付き合わせて悪かったな、ハピネス」



「……ぐいぐい、来ても、良いよ」



「……なら、またここに来ないか?」



「……バッチ来い」



「……ハピネスは優しいな」



あっちは勝手にイチャイチャしてるしよ。

俺に相談してこなくても、あの二人、大丈夫だったんじゃねーか。

レイヴンの暴走なんて一時的だろうに……勇者の影響力を嘗めてはいけないか。



「おやおや、随分お熱いようだね、あちらの二人は。愛し合うのは良いことだ」



「駄目ですよ、カイウス、茶化すのは。私と待ち合わせをしている間に何をしていたのか、聞かせて下さい。迷惑をかけていたら、きちんと謝罪をしに行かないと」



「はっはっは、私は迷える子羊たちに道を指し示しただけさ。その道に進むかは彼ら次第。また、その先に待つのが幸か不幸かも……ね」



「無責任なことを言って困らせてはいないんですね?」



「全く、私の愛しい恋人は随分と疑い深いようだ。私は恋のキューピッドだよ。無闇に人を困らせる真似はしないさ。君もそこは理解してくれているだろう」



「……そうですよね。カイウスがたくさんの人たちの話を親身になって聞いて、助けてきたのは知っていますし。でも、待ち合わせに遅れてきたのは……」



「本当にごめんよ。恋のキューピッドは悩める者たちの味方なんだ。……だが、私は、カイウスは君だけを愛するよ。まだまだ、夜は長いから、ね」



「……期待してみます」



あっちもこっちもイチャイチャ、イチャイチャ。

なんなんだこの状況は、桃色の空気が半端ないんだけど。

顔合わせって感じならもっとしっかりした方が良いんじゃないのか。



俺ですら分かることだ、セシリアだって気づいているはず。

落ちるぞ、セシリアからの雷がな。

そんなことを思っていたら、セシリアに腕をがっしりと掴まれた。



「二回もミスをしましたね。行きますよ」



「え、行くってどこに……」



「ヨウキさん、私、夜更かしというものをしてみたいんですよ」



それは朝まで付き合えということなのだろうか。

真面目系なセシリアに夜更かしなんてものは似合っていないよ、早寝早起き、健康的にいかないと。



この掴み方では完全に逃げることは不可だ。

踊りで失敗したこともあるし……。



「付き合ってくれますよね」



「……はい」



セリアさんの許可もあり、セシリアが満足するまでダンスレッスン。

いやぁ……セシリアさん、スパルタだったな。

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