玉砕してみた
結論から言おう。振られた。嫌ですの一言で終わった。
ここは魔王城の中盤辺りの部屋である。
そう、転生者である俺、瀬川陽樹(今はヨウキ)が守っている部屋だ。
その部屋の中央で俺は何をしているかというと
「……振られた。もう駄目だ。死のう……」
体育座りをして地面にのの字を書いている。
前世から合わせたら何回目の告白失敗だろうか。
「あの……えっと」
俺の隣で困ったようにオロオロしている僧侶の格好をした少女、名はセシリアというらしい。
「……ははは」
何故か笑いが込み上げてくる。
人間生きてたら振られることなんて何回もあるだろう。
実際、前世で何回も振られたことあるし。
だから、今回こそはという気持ちはあったのだ。
「あの、大丈夫ですか?……って私は敵に何を!」
励ましてくれるのかと思いきや、すぐに臨戦態勢に。
そっちの方が嬉しい。下手な優しさは俺の心をエグるだけだ。
そう、俺は彼女の敵なのだ。
それは何故か?
俺が魔族だからだ。
次転生するときは人間がいいな。
人間だったらもしかしたら……冴えない顔だからダメか。
彼女が武器である杖を俺に向けている。
どうやら俺を仕留めにかかるらしい。
恋した人に殺されるなら本望だな。
この世界で楽しいことなんてないし。
「《ジャッジメントクロス》」
俺に十字に重なった光の柱が向かってくる。
光属性の上級魔法だ。
チート持ちの俺だが、何の抵抗もしなければ、たぶん死ねるだろう。
「ああ、次は人間に転生できますように」
俺は祈り目を閉じた。
…
……
………
…………?
いつまでたっても、身体に衝撃が来ないので恐る恐る目を開く。
彼女が放った魔法は消えていた。俺は何もしていないので、彼女が魔法をキャンセルしたのだろうか?
「ふう……」
だが、一度放った魔法を無理やりキャンセルすると、身体に結構な負担がかかる。
その証拠に彼女は片膝をついて、息を吐いている。なのに何故そんなことを?
「……何故抵抗しないのですか。ここ一ヶ月の闘いであなたの実力はある程度理解しているつもりです。あんな魔法、避けるなり相殺するなりあなたならできるはずです!」
魔法キャンセルの反動から立ち直った彼女は俺に問い掛ける。
何故って言われてもなぁ。
「君に振られたから死にたくなった」
「ふざけないでください!」
彼女、怒る姿もかわいい……じゃなくて。仕方ない真面目に答えよう。
「生きていたって楽しくないんだよ。この部屋にいるだけの生活だぞ?外に出るには人里襲いに行くとか理由ないと出れないんだ。んで、俺は人襲いたくないから出られない」
前世の記憶があるので、どうしても抵抗があるのだ。
「……あなたみたいな魔族を見たことがありませんね。私が知っている魔族は獰猛で残忍な、人をゴミのように扱うような性格をしているはずなのですが」
俺の言葉を聞いて不思議がっているようだ。
彼女の言う通り、確かに魔族たちはそのような性格を持った者達が大半を占めている。
だが、俺は例外だ。
「だって俺元人間みたいなもんだし」
間違ったことは言っていないだろう。
「なっ!?魔族には人間を魔族に変える邪法があるというのですか」
彼女は目を見開き驚愕の表情を見せる。
なんか間違った解釈された。
そんな魔法はない。
チート貰った俺でもそんなことはできないな。
「違う違う。俺は転生した人間なんだよ。前世が人間なの」
急に彼女が冷めた目で俺を見出した。
こいつ何言っているの的なオーラが出ている。
「……なんだよ。本当だぞ。俺は地球生まれの瀬川陽樹で、死因は交通事故だ」
地球とか交通事故とか意味は分からないかもしれないが、とりあえず一度死んだ身だとアピールする。
「……そんなこと信じられませんね。では、仮にあなたの言うことが本当だとして、何故魔王に味方をしているのですか?我々人間に味方をしてくれてもよかったのではないですか?」
「確かにそうかもしれないが、仮に俺が味方すると言ってたら、あの勇者達は俺のことを信じたと思うか?」
あんな正義感の固まりで、我が強そうな奴が、敵と認識している奴の言うことを聞いただろうか?勇者がすべてなビッチ魔法使いはもちろん、剣士など論外だ。
まあ、仲間になる気なんてさらさらなかったけど。いくら彼女がいるからって、イケメン勇者、ビッチ魔法使い、寡黙な剣士。そんな息が詰まりそうなパーティーには入りたくない。
彼女は俺の言葉に納得してしまったのか、黙ってしまう。
「まあ、あの勇者くん達の実力なら魔王ぐらい倒せるよ」
なんだかんだ勇者だし。
剣士や魔法使いも実力は本物だったから余裕だろう。
「……あなたが魔王を倒した方が早かったのではないのですか?」
「そんなことできるわけないだろ。人間社会で一兵士が王を殺したら、どうなる?」
俺は彼女に質問する。
「…最悪処刑され、逃げれば指名手配されますね」
「魔族ならそんなもんじゃ済まないぞ。魔王を倒すんだ。次の魔王に担ぎ上げられる可能性がある。俺はそんなのごめんだから」
地位が低いから微妙だと言ったが、魔王になればいずれ討伐される運命なのだ。まあ、魔族である限り、遅かれ早かれ人間に討伐されるだろうが。
「今までこの部屋守ってたって言ったけど、実際引きこもりみたいなもんでさ、飽きてきたところだったんだ」
そんな中、現れたのが勇者パーティーである。
「本当はやられようかなと思ったんだけど、
昔発症した厨二病が災いして、ついテンションが上がって……」
全滅させてしまったのだ。
「このままじゃ、この世界的にまずいと思って、回復させて近くの村に捨てようと決めたんだ。そうしたら、君を見て一目惚れしたんだ」
「はぁ……そうですか」
「一ヶ月闘いながら君を見ていた。でも、俺のせいでこの世界は平和にならないんだなーって気づいたんだ。これ以上足止めさせるのはまずいと思って、今日、意を決して告白の場を作ったんだ」
あえなく玉砕してしまったが。
「あの、勇者パーティーは魔王を倒すだろう。そうしたら俺は住み処を失う。君にも振られちゃったし。だから、もういいんだよ」
転生して種族が魔族だった時点で俺は終わっていたのだ。
部屋の中が静まり返る。
数分経つと彼女がゆっくり口を開いた。
「……良くないです。あなたには力があります。私たち勇者パーティーでは相手にならないほどの。その力を是非私たち人間のために振るってくれませんか?」
いきなり彼女がそう切り出した。
「……そもそも、あなた程の力があれば人間にも化けられるでしょう?そうすれば十分人間社会にも溶けこめるはずです」
何故こういう展開になったんだろうか?
話の流れについていけてない俺をよそに彼女は話を続ける。
「だから……私と外の世界に出ましょう」
彼女が俺に手を差し伸べてきた。
どうやら引きこもり卒業の時がきたらしい。
その日、魔王は倒され世界は平和になった。