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勇者の寝付きを良くしてみた

「ハピネス。最後はお前だ。頼む、協力してくれ」



俺の考える作戦で最も重要な役割を担うのがハピネスだ。

ハピネスに断られたら、今まで動いていた意味が無くなる。


やってほしいことは伝えた、掃除中に申し訳ないが。

反応は微妙……どうだろうか。



「……了承」



「まじか」



あっさりと了承を得ることができた。

……意外だ、もっと説得に時間がかかると思っていたのに。



「……無償?」



「ああ……やっぱりそうだよな。ただでってわけにはいかないよな」



シークにも何か買ってやろうと思っていたからな。

ハピネスにも何かしてやらないと。



でも、欲しいものがあるってわけでもなさそうだけど。

買い物はレイヴンと行った方が良いだろうし。

……ということは、だ。


「何かレイヴンのことで困り事か?」



「……はずれ」



「へ……じゃあ、何?」



「……ふっ」



俺が間抜けな声を出したからか、鼻で笑いやがった。

昔なら追いかけ回すところだが、ハピネスは仕事中。

おいかけっこが見つかったら、俺も含めてソフィアさんから説教が待っている、嫌だわ。



「はいはい。今はないから思いついたら、協力するってことで良いかね」



「……承知」



「んじゃ、ま。仕事頑張ってくれ」



ハピネスと後ろ手バイバイで別れる。

あとは、協力を頼んだ三人に任せよう。

俺の出番はない、残念だがな。

新居に戻って終わっていない荷物整理をした……かったんだけど。



「ヨウキくん、ダメだよ。ミカナが、ミカナが何処かへ行ってしまうんだ!」



「夢の中の話だろ、落ち着けや!」



「僕の隣にいないんだよぉぉぉぉぉぉ!?」



「現実は違うんだから、一人で考えろよぉぉぉぉ!」



ユウガが度々新居にやってきたので、あまり進まなかった。

良いんだ……秘密兵器が完成するまでの辛抱だから。

ガイも道連れにして、催眠療法でユウガを落ち着かせたよ……ティールちゃんが後ろに立ってこない程度にな。



まあ、そんなこんなで辛抱して一週間。

ついに最終兵器が完成したという報せがきた。

俺は走った、屋敷へと。

そして、無表情のハピネスから、目的の物を受け取ったのである。



「ハピネス、よくやった」



俺は親指をぐっと立てる。



「……余裕」



「また、何かあったら頼むわ」



「……報酬」



「おう。持ちつ持たれつってことでな。……どうしても困ったことがあったら、遠慮なく相談にのってやるよ。もちろん、レイヴンの次に、な」



最初は彼氏に相談しろということだ。

隊長と部下っていう関係よりも恋人の方が優先度は高いからな。



「……常識」



「わかってんなら、いーわ。じゃあな。忙しい中、ありがとよ」



ハピネスに別れを告げた俺は途中でガイを拾い、ユウガとミカナの愛の巣へ向かった。



「やあ、ヨウキくん。今日はどうしたの?」



「おう、今日はこの催眠療法師考案の下、お前が悪夢を見ずに熟睡できるようになるアイテムを持ってきたぞ」



「アイテム……これが?」



「ああ……抱き枕ってやつだ。これを抱いて寝ればばっちりなはずだぞ」



俺は背負ってきた抱き枕をユウガに渡した。

戸惑いながら受けとるユウガ、なんか疑っているっぽいな。



抱いて寝るだけで……なんて信じれないんだろう。

だが、今のお前にはこれが一番効果があると俺は断言できる。



「いいか、今日からそれを抱いて寝ろ。それでお前は悪夢を見なくなるから」



「う、うん。わかったよ……」



「じゃあな」



長話をしたくなかったので、俺は早々に退散した。



「これでばっちりだな」



「おい、小僧。枕を抱いて寝るだけで本当にあの者の不眠は治るのか。我輩にはどうも無理だと思うぞ。やつの悪夢は強力だ。常に近くで魔法をかけていないとならんとは……まるで、呪いのようだ」



振られた女からの恨みってやつが、ユウガを苦しめていると。

……ユウガは女の敵っていうわけではないからな。

それにどんな形でかは知らないけど、けじめはつけたと言っていたから、その線は薄い。



「そもそも、ユウガには魔法が効きづらいんだ。ガイの≪ナイトメア・スリープ≫も徐々に効果が切れたんだぞ。魔法でユウガが悪夢を見ているなら、自力で解決できてるさ」



「ふむ……それもそうか。では、悪夢の理由は一体……」



「いや、至極簡単な理由。ミカナが家にいないから」



「……どういうことだ」



そういえば、ガイはユウガとミカナの事情を詳しく知らないんだったな。



「まあ……婚約者が家にいなくて、寂しかったんだろ。悪夢の原因はそれだ」



「は……?」



そりゃそういう反応になるわな。

俺ももしかしたらと思って確認した時、ため息ついたし。



「俺に相談しに来た時点でおかしいんだよ。ミカナに相談しろって言った時、夢について説明し出したからな。後から、あれって思ったんだよ」



セシリアに聞いたら、ミカナは出張中だったと。

しかも、結婚するなら動ける内に動いてくれということで、長めの出張だ。



「分かりやすく言うとだな。ガイがミネルバから離れた場所で依頼を受ける。その間、ティールちゃんはガイに会えない。その時、ティールちゃんはどうなるかっていう……」



「現実味のある話だが、ティールならちゃんと大人しく待って……」



考え出したな、いるだろうと言えないらしい。

ティールちゃんなら、依頼場所にひょっこり現れそうだ。



「例えたらって話な。……で、ユウガはそんな状態だったってこと」



「ふむ、ではあの者……勇者だったか、の婚約者が戻ってくれば解決するのではないか」



「そりゃ、そうだけどさ。ガイ、ティールちゃんが悪夢を見たとしてだ。その原因はガイがいないからだって言えるか? 戻ってきたら治るなんて言ったら、どうなるよ」



「……ますます、ティールは我輩にべったりになるな」



「だろ?」



そこまでいったら依存とかそんな感じになる。

またはヤンデレ、ユウガにそうなって欲しくない。

イチャイチャする程度にしてくれっていうのが、俺の本心。



「ユウガがそうなるとは限らないけど……まあ、気づいてないならな。違う形で解決する方が良いかなって」



「それで、あの枕なのか」



「そうだよ」



あの抱き枕はただの抱き枕じゃないからな。



「表向きはシークに頼んだ心を落ち着かせる効果がある薬草が入った、リラックス枕」



まあ、言うほどの匂いはしないけどな。

入ってるって言ったら、そのおかげだって思ってくれれば良いし。



「表向きということは……」



「本命はユウガに言ってはいけないからな、秘密だぞ。……実はあの枕さ、素材にこだわっているんだ」



「素材だと」



「ああ。あの枕、ミカナの古着で作ってある」



「何!?」



「いやぁ、セシリアに頼んだ時は大変だったわ」



セシリアならミカナの両親に頼んで調達できると思っていた。

でも、全てを話したらセシリアに反対されそうだったので、ユウガとミカナのためってことだけを伝えて協力してもらった。



素材が手に入れば、加工はハピネスが完璧にしてくれるので、問題無しと。

さすが、ハピネスだわ、見事な仕上がりだった。



「今頃、安眠している頃だろうな」



「そんなに上手くいくものだろうか」



ガイの心配もわかるっちゃ、わかるがな。

相手があのユウガだからな、抱き枕は絶対に効果抜群なはず。



「明日になればわかるさ。そんなに疑うなら今日は泊まっていけよ。朝一でユウガは来るぞ、絶対にな」



「……ここまで協力したのだ。我輩もあの者の悪夢が解決するまで、見届けねばなるまい」



こうして、片付けが不十分なマイホームにガイが泊まった。

そして、翌日の朝。



「ヨウキくん、ヨウキくん!」



想像通り、朝から我が家の扉がドンドンと音を立てている。

朝一で来ることはわかっていたからな、寝起きではない。

至って冷静に扉を開けた。



「なんだ、こんな朝から、どうしたよ」



「ヨウキくん、この枕はすごいよ。悪夢どころか、とても良い夢が見れたんだ。寝る時にこれはもう手離せないよ。一体、どうしてかはわからないけど……この枕は本当にすごい。お金とか払わなくて良いのかな。ただでもらうなんて申し訳ないよ!」



朝からテンションが高い、冷静だったはずなのに、ガンガンくるから、イライラしてきた。

こちらがしゃべる暇もないくらい、話してくるし。

後ろにガイもいるんだけど、ユウガは気づいているのかね。 



「ミカナがいないから、すっごく寂しかったんだけど、夢の中で会ってデートまでしたからね。夢なのがとても残念で仕方なかったけど、ミカナが帰ってきたら、行けば良いんだもんね。ミカナが頑張っているんだから、僕も頑張らないとね。これからは夫婦になるんだから、僕がしっかりしないと。でも、僕が頑張り過ぎたら、それはそれで、ミカナが心配するかな。昔から心配性なんだよね。僕が小さい頃からミカナは……」



「うん、そうかぁ……」



後ろにいたガイは隙をみていなくなった。

笑顔が眩しいユウガの話はまだまだ終わりそうにない。

ユウガがすっきりした顔で帰った後、朝飯食べておけば良かったとものすごく後悔した。

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