勇者と少女魔法使いの家に行ってみた
明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いいたします。
今年、初投稿です。
恋人のセシリア、人生設計が決まり絶好調なレイヴンという最強の仲間と共に俺はミカナとユウガの愛の巣へと乗り込む。
早い展開についていけずに悩んでいる……ねぇ。
マリッジブルーというやつではないのか、結婚前になるっていうやつ。
そんなことを考えながら、二人が同棲中という家をまじまじと見上げる。
馬鹿でかい屋敷を予想していたんだけど……二階建でこじんまりとした庭がある一般的な家だった。
あの二人ならかなり稼いでいるだろうから、もっと大きい屋敷に住めるだろうに。
二人とも貴族出身じゃないから、こういう家で住む方が慣れているからかな。
規模はともかく二人でラブラブ同棲していることには変わりないんだろうけど。
俺よりも横にいるレイヴンの方ががっつり見て、考え込んでるからな。
時折、頷いたり、なるほどやら、いやしかしやらと一人言も聞こえる。
……そっとしておこう。
「ミカナ、いますか。セシリアです」
セシリアが代表して家の戸をたたき、ミカナを呼ぶ。
程なくして家の中から走る音が聞こえ、扉が開いた。
「悪いわね、来てもらって……って、なんでいるのよ。……え、剣士までいるじゃない。どういう風の吹き回しよ」
「いたら都合が悪いのかよ。ま、安心しろ、今日は普通に味方だから」
「……俺も心配になってな。ヨウキとセシリアに頼んで同行させてもらった」
「……そう、わかったわ。まあ、入って」
ミカナにとって俺とレイヴンが来ることは予想外だったみたいだ。
戸惑いつつも、ツッコミが面倒なのか、無理矢理納得したっぽい。
大丈夫かと思いつつ、俺たちは二人の愛の巣へと踏み入れた。
家の中へ入ると二人の生活感が感じられる箇所がちらほらと見てとれる。
ソファーには色違いの枕が二個、同じ食器が二つずつ、パジャマも色違い……。
家具は意外と少ない……高級品を使っているわけでもなく、手頃な値段の物。
レイヴンが一番キョロキョロと視線を動かしていて落ち着かない……いや、違うな。
これが同棲中のカップルが住んでいる家かとでも思っているのだろう。
……何しに来たんだこいつは。
「ちょっと、あまりジロジロと見ないでよ」
「ほほう。つまり見られて困る物があると解釈していいんだな」
「……セシリア、アタシお茶入れてくるから。セシリアの飼い犬なんだから、家を漁らないかしっかり見といてよ」
ミカナはそう言い残してキッチンへと消えていった、飼い犬って……おい。
「犬は犬らしく漁ってやろうか、本気で」
「駄目です」
「ですよね」
早速、飼い犬らしく止められてしまった。
いや、俺だって本気で漁ろうとか考えてないからな。
見てはいけないものを見てしまったら不味いし。
同棲してるカップルの家だから、絶対に何かしらあるだろうけど。
……本気で怖いからな、何あるかわからんから。
だが、今日、好奇心旺盛なレイヴンは視線を動かすことをやめられないようで……。
「おい、レイヴン。あまり見ない方が」
「……ヨウキ、あれはなんだろうな」
レイヴンの指差した先は扉が半開きになっている部屋だった。
寝室だろうか、ベッドが見えるんだけど……一つしかない。
そしてよーく見ると一つのベッドに枕が二つある……えっ?
レイヴンもその事に気づいたようで俺に目配せしてきた。
いや、そんな目で見られても俺だってどう反応すれば良いかわからんし。
部屋を凝視している俺たちに気づいたのか、セシリアが無言で半開きになっていた扉を閉めた。
「ヨウキさん、レイヴンさん。あまり、詮索するのは止めましょう。特にレイヴンさん……らしくありませんよ」
「……すまん」
レイヴンがセシリアに叱られるというとても珍しい光景だ。
いつもは俺なんだが……落ち着きがなかったからな、レイヴンのやつ。
レイヴンが反省しているとミカナがお茶を持って戻ってきた。
「お待たせ……って何これ。どうして剣士がセシリアに叱られているのよ。やらかすとしたら、あんたじゃないの」
「……レイヴンが率先して見てはいけないものを見てしまったんだよ」
「別に見られて困る物なんて家にはないはずなんだけど。一体何を見たわけ?」
いやぁ、これ言っても良いのかね。
レイヴンは完全に沈黙している、口にチャックでもつけたのか。
昔のレイヴンに戻ったみたいだな。
セシリアも黙っている、ミカナは質問した立場なので返答待ち。
よって、部屋の中がシーンとなる。
誰もが口を開かない中、レイヴンが懐かしのメモ帳とペンを取り出した。
速筆で書いた内容は、すまない、寝室を見た……っておいっ。
時すでに遅しだが、内容に気づいたセシリアがメモをちぎって即座に胸ポケットにしまう。
「……レイヴンさん、今日は本当に調子が悪いようですね」
「……そのようだな。すまないセシリア」
「ちょっと、謝るのならアタシにじゃないの!?」
これが勇者パーティーの連係というやつか。
俺が入れない領域な気がする、参加したいけど黙って様子を見てみようか。
「……そうだな。ミカナ、何かお祝いを贈った方が良いか?」
「何のお祝いよ。寝室を見ただけでどういう考えに至ったわけ。剣士、アンタこそ何かお祝い贈った方が良いんじゃないかしら。両手に花なんて良い身分じゃないの」
レイヴンは完全に素なんだが、ミカナはわざと言ってると思ったのかむきになっているようだ。
両手に花っていうのはシケちゃんのことか……ミカナも情報が早いな。
別にその件は解決したからレイヴンに落ち度はないんだけどな。
「……ミカナ、俺が愛でる花は片手にしか持っていない。例え俺に好意を持ってくれた子を悲しませる結果になったとしても、俺の気持ちは揺るがない」
「うぐっ……アンタ本当に変わったわね。そんなこと言う性格じゃなかったじゃない。セシリア、どうなってんのよ」
「ミカナ、レイヴンさんは見つけたんですよ。ミカナにとって勇者様のような存在を」
あのセシリアが言うのだから、これ以上上手く説明はできないよな。
レイヴンも顔を赤くしておらず、堂々としている……まじか、日々進化してるな。
「……ふぅ、剣士のことはわかったわ。寝室のことも見られたなら仕方ない。でも、深く追及はしないで。アンタたちだってわかるでしょ。恋人いるなら、詮索されたくないことの一つや二つあるじゃない」
「……確かに同意する」
「私はありませんよ」
いやいや……セシリア何言ってんの。
俺もミカナもレイヴンも驚いて視線が一気にセシリアへと集中する。
「ちょっとセシリア……それは嘘でしょう。こいつよ、こいつ。明らかに色々とやらかしてそうじゃない。そんなんじゃ、セシリアも巻き込まれて人に言いたくないことくらいあるでしょ!」
「おい、こら! 俺のことを何だと思っていやがる」
「アタシの情報網を嘗めんじゃないわよ。時々、変な発言したり、実力が妙に高かったり、人脈だってある。その分、問題行動多発って知っているわ。セシリアを本気で怒らせた経験だってあるでしょ」
「……すみません」
事実が混じっていると反撃の余地がなくなる。
どうせ俺は問題行動の多い永遠の厨二野郎さ。
「……セシリアは本当にヨウキとその、聞かれて困ることはないのか?」
「はい。私とヨウキさんは普通のお付き合いをしていますから。ですよね、ヨウキさん?」
「え、ああ、そうだね……」
そんな自然な微笑みを浮かべられたら、はいとしか答えられないじゃないか。
まあ、実際に清い付き合いをしているには違いないからな。
「そうか。そうなんだな。ヨウキ……」
何故、レイヴンからこのような微妙な視線を向けられねばならないのか、良いじゃないか、悪いことなんてしてないぞ。
今度はミカナがセシリアに聞こえないようにこっそりと耳打ちしてきた。
「アンタ、恋人と隠し事の一つや二つ作りなさいよ。二人だけの秘密なんて……憧れるものじゃない。剣士にだって言えないことあるわよ、絶対ね」
そんなものだろうか。
レイヴンからあれだけ相談にのっていたというのに、気づいていない何かがあると。
勿論、ミカナにも人には言えないユウガとの秘密があるんだろう、人にこれだけ言っているんだからな。
しかし、俺とセシリアだけの秘密ねぇ……うん、ないな。
俺が魔族ってことは知ってるやつ、そこそこいるし。
「ミカナ、どうかしましたか?」
「ううん、何でもないわ。……しっかりしなさいよ」
最後、小声でぼそっと忠告された。
俺なりにはしっかりしてるつもりなんだけどな。
いや、最近、無自覚が祟ってトラブルになったわ。
ああいうのを無くさないようにセシリアと相談して決めたんだった。
うーむ、秘密か……今後のために覚えておこう。
「……まとめると、俺たちは何も見なかったということにすれば良いんだな」
「そうよ! 深く考えなくて良いから」
「なあ、セシリアが通ってる孤児院て幼児もいるよな」
「はい。いますが……それが、何か?」
「いや、ミカナを連れていって今の内に抱っこやあやし方の練習を……いてっ!?」
セシリアとミカナ、二人からチョップが飛んできた。
「何でそうなるのよ!」
「そうですよ、ヨウキさん。ミカナにはまだ早いですね」
「えっ……セシリア、まだって何よ」
「当然ではありませんか。まずは子を身籠っている間のことから学ぶべきでしょう。勇者様にもミカナを補助できるよう、一緒に勉学に励んでもらった方が良いかと。私はそこまで詳しくありませんので、出産経験のあるソフィアさんにお願いして……」
ミカナの顔が段々赤く染まっていくのだが、セシリアは喋るのを止めない。
狙ってないんだよなぁ、素なんだよなぁ、セシリアの場合。
話の内容的に俺とレイヴンはあまり着いていけないし……って、レイヴンのやつメモってやがる、興味津々か。
……というかミカナ、元気じゃね?