友人と元部下の未来予想図を聞いてみた
数日後、シケちゃんはミサキちゃんと共に海へと帰っていった。
精神的に成長したシケちゃん、ミネルバの名所、レストラン、土産屋など、充分に観光しお土産をどっさり買ったミサキちゃん。
どちらにも沢山得るものがあったので、良い観光だったのではないかと思う。
帰りの馬車に乗る時、シケちゃんは笑顔で手を振っていた。
見送りに来ていたレイヴンとハピネス二人がいても、胸を張って堂々としており、未練がないことを感じた。
……いや、実際はどうなのかは本人しかわからないので断言はできない。
ただ……あの笑顔の裏表はなかっと、そう、信じたい。
「こうして俺が危惧していたことは解決したわけだ」
「……そうか、良かったな」
「そして、今日は二人がせっかくの休日にデートをしているにも関わらず、俺も同席している。非常に申し訳ないんだが、そこは寛大な心で受け入れてもらいたい」
「……邪魔」
ハピネスは相変わらず、手厳しい。
まあ、外は生憎の雨でデートには不向きな空模様である。
こうして、ケーキ屋でお茶を飲みながらまったりするのもたまには良いのではないか。
……良いとしても、俺が邪魔な存在ということには変わらないんだろうな。
「ハピネス、本当に済まないんだが、話したいことがあるんだ。多目にみてくれ」
「……浮気」
「してねーよ。その件は誤解だってお前は知ってるだろ!」
「……二股」
「してないって!」
「……女の敵」
「いやいや、俺はむしろ助けたんだよ」
テーブル越しにいつもの口論を繰り広げる俺とハピネス。
ハピネスとは会う度におちょくられているから、今日こそは折れないぞ。
この件に関しては……確かに俺にも非はあるけども、妙な噂も立ったけど、セリアさんに召喚されたけど。
微妙に笑っている辺り、俺が悩んでいる様を楽しんでいやがる。
「……虚言」
「……ところでレイヴン、シケちゃんと会って悩みは解決したか?」
このままハピネスと話していたら会話がいつまで経っても進まないわ。
でも、この話題ハピネス知らねぇんだよな、わかってない顔をしてるし。
話題の中心にいる人物には違いないのに……ま、説明しないまま話を進めっか。
「ああ。シケを見て、気づかされたことがあった。そして、ある決意をしたよ」
「ほうほう」
「いつになるかはわからんが……騎士団の仕事を任せられる後任が出来たら、団長の座を降りようと思う」
「は?」
「そして、ハピネスと森に一軒家を立てて一緒に暮らそうかと考えている」
ふざけて言ってるわけではなく、本気の未来予想図らしい。
ハピネスも驚いているようなので、初耳のようだ。
ユウガに続いてお前もなのか、レイヴン、お前も同棲するのか。
「いやいや、どういう心境の変化でそうなったよ!?」
「ハピネスから聞いたぞヨウキ。ミネルバを観光していて具合が悪くなっていたシケを介抱してくれたそうだな」
「ん、ああ、まあ……な」
その行為により一悶着あったので歯切れの悪い返事をしてしまう。
「ヨウキがとても大変だったことも聞いている。むしろ、そちらの方がハピネスから詳しく説明されたな。使用人がどんな噂を立てて、疑惑の視線を送っていたか」
「うん、よーく知ってる。実際にそんな目で見られたからな」
「……疑いが晴れたらしいぞ」
「え、まじで!? ソフィアさんが頑張ってくれたのかな」
最強メイド長だし、俺のことも良く知ってるから弁護してくれたのかもしれない。
人についた嫌なイメージなんて簡単に取れないし、そうとしか思えないぞ。
「……まあ、どうしてそうなったのかはセシリアに聞くんだな。その方が良いだろうし。今は俺とハピネスの未来について聞いてくれ!」
「お、おう。わかったけど……ハピネスがおいてけぼりになってないか。いつものレイヴンのキャラじゃないしさ」
ハピネスは未だにぼーっとしていて、心ここに在らず。
未来予想図には自分も含まれているんだぞ、しゃきっとしろって。
急すぎて展開についていけないのかね。
「わかっているさ。ただ、シケは水場がないと生活が難しい。やはり、自分に合った生活環境も大切なんだろう。ハピネスにとっては森だ。自然の中で暮らすことはハピネスのためになる……」
「……拒否」
「まあ、そう言うだろうよ」
俺としてはそういった理由で引っ越しとか考えたくないな。
ハピネスのためといって、レイヴン自身のことを考えていないような行動は嫌だろうよ。
「ハピネス……どうしてだ」
「……拒否」
「今すぐとは言っていない。俺もハピネスにも生活があるし、立場もある。勝手にこんなことを言い出して驚かせてすまない。ただ、知っておいて欲しい。俺がハピネスとの未来を真剣に考えていると」
「……卑怯」
べしべしとレイヴンの肩をパンチするハピネス、本気じゃないことは見え見え、じゃれついてるだけだ。
顔を真っ赤にしているのは二人共同じ、俺はなるほどなぁって感じで頷いている。
ユウガみたいに吹っ飛んだ発言をしたかと思ったが、違ったようだ。
あくまで実行はこれから一緒に手を取って考えていこうということだな。
二人も同棲を始めるのか、早いなーなんて他人事みたいに考えて現実逃避をしたい気分だ。
一方の俺は浮気疑惑、使用人たちからの疑いが晴れたとはいえ……だめだろ。
よし、後悔も反省も大分しているし、幸いセシリアからはお許しが出ている。
でも、シケちゃんとセシリアを置いて出ていってしまったために、ちゃんとした話をしてないんだよ。
「邪魔な存在は消えるぞ」
「……消滅」
「そういう消えるじゃねぇよ。気を遣ってこの場からいなくなるってことだ。察しろよ、今の状況を」
このラブラブでイチャイチャな雰囲気に俺はいてはいけないんだよ。
周りのテーブルからあいつなんで相席してんだみたいな視線を感じるんです……。
「……最初」
「ああ、お前は忠告してくれたよな。聞かなかった俺が悪かったよ。悪かったな!」
俺は自分の勘定分の金額をテーブルに置いて、店の外へと走り出す。
光ある方へと……あいつ何でいたんだという視線が突き刺さっているが気にしない。
「待てヨウキ。俺に話があるんじゃないのか!?」
後ろからレイヴンの声が聞こえてくる。
レイヴンに彼女とイチャイチャしてろよ、男のことなんて気にすんなよっていう視線は送られないのかね。
全くもって不公平じゃねーかのと思いつつ、後ろを振り向いて一言。
「助かったよ。レイヴンのおかげでな。それだけだー!」
そう、俺なりにお礼が言いたかっただけである。
デートの邪魔になっていたことは自他共にわかっていたので、本当に申し訳ない。
「ごめん、お待たせ」
俺は店を出るとある場所に向かっていた……そう、セシリアとの待合場所だ。
約束をしていた時間よりも早くに来たんだけどな、セシリアはもう着いていた。
「いいえ私も今来たところですから。……随分とまた、急いで来たんですね」
「い、いや。ちょっとお邪魔虫を長くし過ぎて時間に間に合わないんじゃないかと焦りを覚えたわけでして……」
余裕がない男と思われただろうか、笑っているのは苦笑いなのかどうなのか。
ああ、セシリアになりたい……。
「よくわかりませんが、また誰かの迷惑にはなっていませんよね?」
「はっはっは、そんなわけじゃないか。……え、また、って」
俺、そんなに毎回、誰かの迷惑になっていたりするっけ。
「ヨウキさんは何をするのか未知数ですから」
「……すみません」
彼女との会話が……俺のことをわかってくれているんだよね……うん。
「何故、謝るのでしょうか。……まさか、本当に誰かに迷惑をかけたわけではありませんよね?」
「い、いや、そんなことはして、ないよ……?」
あれって迷惑に入るんだろうか。
デートの邪魔をしたから、迷惑なのか、でもすぐに俺姿を消したけどなぁ。
曖昧な返事と目を泳がせたせいで、セシリアの疑惑の視線から逃れられないし。
「……レイヴンとハピネスがデートをしていたんだよ」
「はい」
「俺がそこに何食わぬ顔で同席したっていう話」
「そうですか。……ヨウキさん、レイヴンさんは忙しい身でハピネスちゃんも中々、会えないわけですし」
「でも、俺にも用事があったんだよ。話すことを最小限にまとめて……消えてきた」
「……ヨウキさんなりに理由があったんですね」
俺の顔を見て察してくれたらしい、さすがセシリア。
「そうなんだよ。レイヴンに……」
「私にはありませんか?」
「え」
「私には話すことないんですか」
「……あります」
どうした、ヨウキ、セシリアを目の前にして震えているのか。
オーラ的な何かが見えているというのだろうか。
「そうですよね。屋敷に帰れば使用人から同情の視線を浴び、お母様からはセシリアも大変ねぇと言われ……」
「ああぁ……本当に申し訳ない」
「そちらは良いんですよ。ヨウキさんは間違ったことをしてませんし、私はシケさんの事情を知っているから、すぐに納得しましたから」
「そ、そっか。だ、だよな。セシリアならわかってくれると」
ほっとしたのも束の間か、セシリアの口からですがという言葉が出てきた。
これは、やはり……説教パターンか、覚悟はしている。
「ヨウキさん、私を理由に自分の行動に制限をつけたりするのは止めてくださいね。レイヴンさんから聞きましたよ、ヨウキさんはヨウキさんのままで良いですから」
レイヴンのやつ、俺が悩んでいたことをセシリアに言ったのか。
……セシリアの口から言われると心に響くものがあるな。
「あ、でも、控えるべきところはちゃんと考えてください。……心当たりありますよね」
「いやぁ、そっちはヨウキじゃないから……」
「やり過ぎも大概にしてください」
「……はい」
黒雷の魔剣士、最近、活動してないような。
まあ、多分、当分は顔を出さないから大丈夫か。
「あれ、でも、使用人の疑惑ってどうやって解決したんだ」
「ソフィアさんの説得ですね。……最初はソフィアさんもヨウキさんの自業自得ということで、噂を広めない程度に動いていたのですが。ヨウキさん、ギルドの依頼をたくさん受けましたよね、一日に」
「ああ、あの日はもうがむしゃらに働いたな。クレイマンも巻き込んで」
「それですよ。ソフィアさんが機嫌が良かったので、尋ねるとクレイマンさんが初めて残業をしてきたことが嬉しかったみたいでして」
そんなんで喜んで良いんですかソフィアさん。
つーか、クレイマン、副ギルドマスターなのに残業を一切やらないとかどういうことだ。
一人で切り盛りした日があっただろうに……いや、クレイマンのことだ。
定時に合わせて閉めたか何かしたんだろうな。
「それが依頼を頑張ってこなしていたヨウキさんのおかげという話もクレイマンさんから聞いたらしく、噂を消すように全力を尽くしてくれたんです」
「なるほど、ソフィアさんにはお礼を言っておかないとな」
「ソフィアさんも言っていましたよ。ヨウキ様にはお礼を申しあげねばなりませんね、と」
「いやいや、俺は仕事をしただけだし」
「ふふ、そうですね。では、行きましょうか。立ち話ばかりだと疲れますし。今日は私がヨウキさんを楽しませますよ」
セシリアは微笑みを浮かべ、俺の手を引いて歩き出す。
一体、どんなところに連れていってくれるのか、楽しみだ。
こうして、シケちゃん、レイヴン、ハピネスの三角関係疑惑事件は幕を閉じた……ように見えたが。
「隊長ー、助けて欲しいっす」
「どうした、何があった。さっさと要件を言え。俺は昨日のセシリアとのデートの余韻に浸っていたいんだ」
「俺が騎士団内でイレーネを弄んだあげく、レイヴン……騎士団長の客人にも手をつけて、泥沼の三角関係になったっていう黒い噂がたってるっす」
「レイヴンに頼め、じゃ!」
俺はデュークを追い出して、扉を閉めた。
イレーネさんの暴走とミサキちゃんのデュークに対するフランクな態度が勘違いの原因かね。
どっちにしろ、もう三角関係で騒ぐのは止めよう。
デュークなら大丈夫、レイヴンもいるし、イレーネさんが誤解を解くだろうしな。
しかし、イレーネさんがさらなる大暴走を巻き起こしたらしいが、俺は知らない。




