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エルフの相談を受けてみた

「あ、あの、デュークさんが、デュークさんがっ!」



「わ、わかった、とりあえず部屋の中に入ってくれるか。話を聞くからさ、冷静になって欲しい。だから、揺らすのを止めてくれぇぇぇぇ」



日が出たばかりで普段ならまだ、寝ている時間帯の訪問者。

扉を何度も叩く音に目を覚まし、寝ぼけ気味で扉を開けたら、デュークの後輩のイレーネさんがいた。



俺の顔を確認すると襟元を掴まれ、わけもわからないまま揺らされたと。

事情があるのは理解したので、顔を洗ったりと身仕度をが整うまで、待ってもらう。



その間もそわそわと落ち着きがなかったので、かなりの出来事があったに違いない。。

デュークの名を何度も叫んでいたので、あいつが関係していることはわかっている。



「……で、こんな朝早くに何か?」



「は、はい。すみません、突然、約束もしていないのに……ご迷惑でしたか」



「約束というか……」



こんな朝っぱらに約束されても困るんだけどな。

眠くてフル稼働しない頭を必死に回転させる。

デュークがらみだ、デュークがらみだろう、きっとデュークがらみ。



だったら、眠くてうとうとしていようと聞くのがあいつの隊長としての努め。

大体デュークがそこまでアホなことをやらかすとは思えない。

ただ、目の前のイレーネさんの様子がな……余裕がないのね。



兜の上に帽子、ガントレットの上にアームカバー……鎧の中にはワンピースも着ているっぽい、混乱し過ぎ。



「とりあえず中に入ってください。話は部屋の中で」



「え、そんな、要件をがんばって話しますから、ここで大丈夫です」



「がんばって話すって言われても……」



伝えたいことが俺に伝わるかどうかという問題なんだが。



「デュークさんが綺麗な女の人とイチャイチャ、ラブラブしていたのを見てしまったんです」



「がんばって話すほど複雑な内容ではなかったな。しかし、デュークの交友関係は知っていると思っていたけど、まさかねぇ……」



「隊長さんなら、何か、知っていると、思ったん、です」



イレーネさんは片言ながらも必死の形相で迫り来る。

この人、こんなにデュークのことを想っていたのか。



「……わかった。イレーネさんも恋人の浮気行動は許せないよな。だけど、聞いてくれ。あいつは、デュークは浮気なんて絶対にしないやつなんだ。イレーネさん以外の女性とイチャイチャ、ラブラブなんて、俺には考えられない」



イレーネさんが落ち着いてくれるように断言したんだけども、イレーネさんは頭にクエスチョンマークを浮かべる。



「私とデュークさんがですか? 恋人ではないです、先輩、後輩ですよ」



「えっ?」



「え?」



俺も頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

そんな俺の反応にイレーネさんもクエスチョンマークがさらに浮かび、二人して混乱状態に。

いやいや……君たち付き合ってなかったの?



尾行デート、トリプルデート、仕事は常に一緒だろう。

今だってデュークが女の子とイチャイチャ、ラブラブしていたことが気になって気になって、こんな時間に俺を訪ねてきたし。

それなのに付き合ってない、恋人ではない……だと。



「イレーネさんにとってデュークってどんな存在なんだ。頼れる先輩とかか」



「隊長さん、デュークさんより、私の方が先輩ですよ」



「えー……」



失礼ですねと少し怒っているみたいだが、俺としては何とも言えない。

仕事中のデュークとイレーネさんに何度か遭遇したことあるけど、大体、デュークが引っ張ってなかったか。



エルフである彼女に見た目判定をしてはいけないと、レイヴンに言われた記憶があるが……見た目通りというか、そのままというか。

失礼なことだとわかっていても考えてしまう。



「デュークさんは後輩なんですけど、頼れる人で……私の好みも理解してくれた上で休日出かけるのも付き合ってくれたり。仕事中も気遣いを忘れない人です。私より剣術が上手くて、頭も良くて、社交的で、私のフォローもしてくれて……あれ? 私、先輩ですよ、隊長さん」



「俺には頑張れとしか言えないな。うーん、先輩らしくしたいなら、デュークより強くなることだ。あいつを壁だと思って、乗り越える感じだ。イレーネさんならできる!」



熱い気持ちでと言うのを忘れない。

握りこぶしを作って、やれる、いける、諦めるな、限界はそこじゃない、まだまだこれからだと励ます。



「そ、そうですよね。私、いつからか、デュークさんに頼ることが癖になっていたのかも。先輩らしく、デュークさんを引っ張らないといけないです。早速、修行してきます。隊長さん、ありがとうございました!」



扉は勢い良く閉まり、ドタドタと走り去っていく音が聞こえた。

なんだか違う気がするけど、眠いから良いか。



「……寝よう」



倒れるようにベッドに入る、まだ、眠る時間だ、起きる時間じゃない。

当たり前だが、二度寝をした。

その日の目覚めた理由は扉を強く叩く音だった。



「すみません、隊長さんー」



「いやいや、良いよ良いよ。俺が寝ぼけていたせいで真っ当な助言をしなかったしさ。俺もデュークのイチャイチャ、ラブラブな相手が気になるし」



イレーネさんと二人で歩く、目的地はデュークのいるであろう場所。

デュークの奴、今日、急に休暇を取ったんだとかで怪しむ要素がばりばりだとイレーネさんが強く語ってくれたわけ。



彼女のどこからか来ているやる気に付き合おうと思った俺はこうして協力している。



「デュークさんが別に綺麗な女の人とイチャイチャ、ラブラブしていたって良いんです。ただ少し……少しですよ。寂しくて切なくて悲しくて落ち着かなくて胸が苦しいんです」



「それ、絶対良くないって思っているよね」



そこまで感情が沸いてきているなら、充分、相手の女性に嫉妬していること確定だよ。

良かったなデューク、お前も立派なリア充だよ。

心の中で祝福をしながら、それとなくデュークのいる場所へと向かう。



イレーネさんには俺の感覚強化がばれてはいけないので、この辺がデュークの来そうなデートスポットなんだよと適当なことを言いつつだ。



「あ、いました。あの全身鎧兜はデュークさんです」



見つけるとすぐにイレーネさんはデュークに駆け寄って行く。

昨日は大丈夫だったけど、今度こそ本気で修羅場かな。



思いながら、近づいていくとデュークの隣にはイレーネさん以外の女性の姿がある。

ただ、俺は彼女を知っていた。



「イレーネじゃないっすか、どうしたんすか?」



「あ、あのデュークさんがイチャイチャ、ラブラブ……」



「それってアタシのことー? アタシは観光に来ていて案内されてるだけだっつーの」



シケちゃんの人魚友達のミサキちゃんだった……帰るか。

何の心配もいらなくなった俺は即座に回れ右をして、元来た道を戻る。



「あっ、隊長!」



しかし、後ろから聞こえたのは元部下、デュークの声。

人通りが少なかったからか、発見されてしまった。

この辺は昼過ぎから混んでくるからな、朝方はそこまで多くないんだよ。



「イレーネを連れてきたのは隊長っすね。何で連れてきたんすか」



「日も上ってない時間帯に来られた。寝ぼけて助言をミスった。だから、きちんとフォローすることにした、以上」



「きちんと説明するっす」



俺なりにかいつまんで説明したつもりだったんだけどな。

だったら、直球でいくか、わかりやすいし。



「イレーネさんはお前に女ができたと心配しているんだ。それで朝一で俺のとこに来てな。彼女は大パニック、俺も小パニック。見ろ、あの光景」



顔を真っ赤にしてどういう関係なんですかとミサキちゃんに迫っているイレーネさん。

あれでデュークと恋仲でないと言うのだから、不思議だ。

告白してさっさと一緒になれば良いだろう。



「いやー、俺のせいっすね。申し訳ないっす」



「都合があるのか知らんがイレーネさんの行動力……いや、先の読めない行動力だな。嘗めない方が良いぞ。俺からの忠告だ。見ろ、ちょっと目を離した隙にあれだ」



俺の指差す方向にはミサキちゃんを追いかけ回すイレーネさんの姿。

さっきまで話していただけだよな、どう話がこじれたんだ。



「あー……行ってくるっす」



「え、その慣れた感じは一体……」



「そりゃ慣れてるっすよ、こういういきなりな展開を収拾するのは。隊長のおかげっすね」



「……面目ない」



「んー、今更っすよ。これからもこんな感じなのは変わらないと思うんで、開き直りも大事っすね。じゃ、イレーネのこと礼を言うっす」



手を軽く振ってデュークは二人を追っていった。

大変だなデュークも。



俺も大変な思いをさせている原因の一つでもあるから、申し訳ない。

こんな晴れた日に全力で走っている姿を見ると……な。



「まあ、これで用事も済んだし帰るか」



「あ、あの……」



「うん?」



用事はまだまだ終わらないらしい、声をかけてきたのは息も絶え絶えなシケちゃんだった。


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