恋人と吸血鬼に相談してみた
「さて、落ち着いたところでそろそろ本題に入ろうか。セシリアももう良いよな?」
「そうですね。あとは本人たちの問題になりますから、何も言いません。棺桶の中にいる彼女さんもある程度は許容しているようですし……」
ちらりと棺桶を見ると隙間からはマルの札が出ている。
彼女さんもカイウスのことが好きなんだろうし、二百年待たせたことに負い目を感じたりしているのかもな。
それでも最初はやりすぎだろと思ったけどな。
呻き声が聞こえる棺桶背負っているんだから、俺もびっくりしたし。
そんな所行を行ったカイウスは目の前で正座している。
セシリアに軽くありがたい話をしてもらったのだ、是非、今後の彼女さんの対応が変われば良いなと思う。
「まさか、この私が彼女との付き合い方について説教をされるとはな。二百年近く、恋のキューピッドをしてきたというのに……全く、魔族の少年、君の恋人は中々の実力派だな」
「そうだろう、そうだろう。セシリアはな、子どもからお年寄りにまで別け隔てなく優しい皆の聖……」
「ヨウキさん」
「……はい」
調子に乗った結果、セシリアからプレッシャーが!
何かわからないカイウスは首を傾げている、分からない方が身のためだ。
セシリアの二つ名について、俺は何も言いません。
「さ、さて、ようやく本題である、俺の友人が三角関係に発展しそうなことになっている件について相談なんだが」
ようやく本筋に移ることができる。
セシリアとカイウスの相性はいまいちのようだが、個々の能力では信頼しているからな。
経験が浅く、勢いに任せやすい俺よりはまともな意見が出そうである。
「ヨウキさんの友人、まさかレイヴンさんが……?」
「正解、レイヴン」
「一体、何故。私には信じられません。ハピネスちゃんをとても大事にしていますよね。他の女性と関係を持つようには思えないのですが」
さすが、俺よりも付き合いが長いだけあって、レイヴンのことは分かっているようで、信じられないようだ。
「ほう……そのレイヴンという今回の相談対象はどのような人物なのかな」
カイウスはレイヴンを知らないので説明が必要か。
個人情報になるので、軽く俺から見たレイヴンみたいなノリで説明する。
騎士団長、昔は地声を気にして筆談、恋愛力は俺と同等……だと良いなぁ。
あとはハーピーのハピネスが彼女という点もな。
カイウスへの説明も終わり、先日に俺が遭遇した出来事を話す。
「それで人魚からラブレターが届いたというわけでして……」
「……ヨウキさん、事態がのみ込めません。何故、レイヴンさんに人魚からラブレターが届くのでしょうか」
「なあに、簡単な話さ。種族は違えども恋は生まれてしまうもの。
僕らのようにね。彼もまた、恋を誕生させてしまっただけで……」
「すみません、少しだけ静かにしてもらっても良いでしょうか」
セシリアとカイウスの相性が……相性がもう……。
ちらりと棺桶を見るとバツのついた札が顔を出している。
俺の考えに賛同してくれたのか、非常にありがたい。
「私は事実を述べているだけなんだがね」
セシリアの言葉で止まらないとは、さっき説教を受けたばかりなのに。
「あ、あはは、まあ、人魚を助けた話も今からするから、悪いけど聞いて下さい……」
色んなことが重なって弱腰になっているけど頑張ろう、二人とも笑顔だから頑張ろう……。
セシリアを心配しつつ、レイヴンにラブレターを出した人魚、シケちゃんについて話した。
昔行った依頼で助けて、レイヴンはシケちゃん、ミサキちゃんからキスされて、俺はハピネスにぶん殴られて、ハピネスは何かしたらしいけどわかんなくて。
「まあ、そんな感じだったんだけど」
「そういうことですか。……ヨウキさん、心配しすぎですよ。その段階ならレイヴンさんが会いに行くかすらわかりませんし」
「もう行った」
「えっ?」
手紙が届いた数日後、監査を理由に旅立っていったぞ。
「そ、それってハピネスちゃんはご存知なんですよね」
「ハピネスも着いていった」
「えっ、あっ……そういえば屋敷に戻って来てから姿を見ていなかったです」
実はセシリア、十日程、仕事で屋敷を留守にしていたらしく、帰ってきたのが昨日だったりする。
だから、この前レイヴンとハピネスを送っていった時、いなかったわけだ。
俺的には帰ってきたばかりなのに付き合わせて非常に申し訳なく感じていたりする。
「人魚……シケちゃんなんだけどハピネスとも良い感じに意気投合していたからさ。なんかドロドロの修羅場になっていないか怖くて」
「……私としてはレイヴンさんにはきちんとした対応を見せて欲しいですね。そもそも、何故、会いに行ったのでしょうか」
「はっはっは。彼は待っていると書かれた手紙をもらって無視をするような男なのかな。私が彼のことを聞いた感じでは、そうは思えないがね」
「それもそうですね。では、ハピネスちゃんは……」
「彼女は彼を信頼しているさ。着いていったのは心配する気持ちが少しと友人として人魚の少女に会いたかったんじゃないかな。ま、私としては想い合ってる相手と一緒にいたいから、という理由をオススメするがね」
カイウスは言い終えると彼女が入っている棺桶に向かって、軽く微笑んだ。
この余裕が二百年の重みなのかね。
「なあ、会いに行ったところでどうなるんだろう」
「そこではっきりと自分の意思を伝えられるかだね。曖昧な返事は良くない。期待をさせるのは失礼だし、時には悲劇を生むこともある。私はそんな道を歩んでほしくないね」
真剣な表情、本心なんだろうな。
昔の自分の失敗を他人にして欲しくないのだろう。
棺桶の中の彼女さんはどう思っているのやら、ちらりと視線を向けるもマル、バツ両方の札とも出ていない。
こればっかりははい、いいえじゃ伝わらないよな。
「……ヨウキさん、私もハピネスちゃんとレイヴンさんには清い関係でお付き合いをしてもらいたいです。ドロドロというのはその……」
セシリアもすごく心配らしい、まあ、身近でドロドロした三角関係が発生しているっていうのもな。
「俺はハピネスを泣かしたらデュークと一緒にレイヴンを……な?」
「ヨウキさん、邪悪な表情をしていますよ」
おっと、顔に出ていたか、いかん、いかん。
セシリアの前で見せてはいけない表情だったかな。
だが、ハピネスは俺たちにとっては家族みたいな存在だ。
ドロドロのぐちゃぐちゃな恋愛に発展させるわけにはいけない。
シークの教育にも悪いだろうしな、うん。
「じゃあ、早速こっそりレイヴンとハピネスに会いに行こうか。予定では今日帰ってくるはずだから」
「……随分とまた都合が良いですね」
「セシリアの予定が見事に合致した結果だ」
「では、行こうか。案内したまえ」
カイウスはそう言いつつ、棺桶を背負い外出準備をする。
目立つなあ、やっぱり。
セシリアも無の表情、中に女の子が入っていると思うとまだ複雑なんだろう。
彼女さん自身、同意の上なら口出しはあまりしない方が良いんだよなぁ。
そういうのが好きという可能性も……あ、バツの札が出た。
こんなチームワークでいけるのかと心配になりつつも、移動を開始。
変装しているとはいえ、セシリアの癒しオーラ、カイウスの背負う棺桶が目立って目立って、街中で視線を集めてしまっていた。
それでも騒ぎになることはなかったのが救いで、レイヴンたちが到着するであろう、馬車乗り場に到着。
「ああっ、注目を浴びるのを避けるために遠回りしすぎたせいか、馬車がもう到着した後だ」
「騒ぎを避けた結果ですね」
「仕方ないな」
「まあ、俺には追跡能力があるからな。ここが一番の見せ場だ」
そして、この面子だと今日、これ以外に俺の見せ場はないと思う。
さあ、感覚強化をして、調査を開始。
「あっ、ハピネスちゃんがいましたよ」
俺の見せ場終了のお知らせ。
良いんだ、セシリアは周りを見れる聖女様だからさ……。
ちょっといじけ気味な俺の背中をカイウスが押す形で移動する。
尾行した先にはレイヴンの姿があり、シケちゃんの姿もあった。




