友人の恋を応援してみた
「え……来てない?」
俺はレイヴンのフラれた理由を知るために、セシリアに会いに来た。
直接聞くのは抵抗があったので、遠回しに聞こうとしたのだが。
「はい。レイヴンさんは会いに来ていませんよ。……何かあったのですか?」
どういうことだ?
一人で考えてもわからないので、セシリアに事情を説明してみた。
「……なるほど、もしかしたら使用人の誰かに告白したのではないでしょうか。」
メイドさんに告白したのなら聞く相手は決まっているだろう。
「ソフィアさんに聞いてみよう。メイド長だし、何か知っているかもしれない」
「私も行きます」
元仲間だからか、レイヴンのことが心配なのだろう。
さすがセシリアさん、お優しい。
二人でソフィアさんがいる使用人部屋に向かった。
「確かに先程、レイヴン様がこちらにいらっしゃいました」
使用人部屋に着き、ソフィアさんに聞いてみたが、セシリアの言う通り。
告白したのは、使用人の誰からしい。
セシリアがソフィアさんに質問する。
「それで、誰かに何か伝えたりしていませんでしたか?」
「確か……一人のメイドを呼んで何かを話されていましたね」
やはり、メイドさんの誰かなようだ。
一体どの娘に告白したんだろうか?
「ソフィアさん。呼ばれていた娘って誰ですか?」
友人として、その娘にレイヴンの何が駄目だったのか聞かねばならない。
セシリアも気になるのであろう、そわそわしてソフィアさんの返答を待っている。
「新人のハピネスです」
「「……」」
二人同時に固まった。
転生し、初めてできた友人の好きな人が元部下の魔物とか。
セシリアも何も言えずに固まっている。
「……はっ!すみません、ソフィアさん。今ハピネスは何処にいますか?」
ハピネスには聞かねばならないことがたくさんある。俺のあまりの焦りようを見て、若干引いているソフィアさんだが、直ぐにいつもの無表情に戻る。
「……ハピネスなら今、屋敷の掃除をしている時間です。屋敷は広いので、どの場所ということはわかりませんが」
確かにアクアレイン家の屋敷はかなり広いが、走り回って探せば数分ぐらいで見つかるだろう。
「ありがとうございます。あと、セシリアをよろしくお願いします」
まだ固まったままのセシリアをソフィアさんに任せ、俺は使用人部屋を出た。
そこから屋敷中を走り回る。
時々、他のメイドさんに注意されるが、軽く謝りまた走る。
屋敷中を三回ほど走り回り、ようやくハピネスを見つけた。
メイド服を着て、箒を持ち客室を掃除していた。
ここさっきも来たんだけどな、すれ違いをしたようだ。
「……お久」
軽く会釈し、背を向けて掃除にもどろうとしている。
「待てや」
まだ、何も話していないので肩を掴み、引き止める。
ようやく見つけたのに、挨拶だけして終わるわけにはいかない。
「……何?」
「何じゃないだろ、何じゃ。元隊長だよな、俺。なんでそんな感じの対応なの?」
一ヶ月半近く俺のことが心配で探していてくれたはずだよな?
確かに、魔王城にいた頃から尊敬はされてなかった気がするけれども。
今はそんな事関係ないので、我慢するが、後日ゆっくり話しをしたほうがいいような気がする。
「……用事?」
「ああ、そうだ。さっきお前の所に腰に剣をさしたイケメンが来ただろ。なんか言われなかったか?」
「……好きって言われたから無理って」
いつも通りの冷淡な声色でそっけなく言い放つ。
こんな感じで、レイヴンはフラれてしまったんだろうか。
だとしたら、かわいそう過ぎるだろう。
確か、レイヴンは声のことを羨ましいと言われたと言っていたな。
ということは何処かで出会いがあったはずだ。
「その剣士と会ったことがあるだろ。いつ、何処で会ったか教えてくれないか?」
ハピネスが何故そんなことを言ったのか気になる。
しかし、ハピネスはくるりと俺から背を向ける。
「……無理」
断り、ほうきを持って走り去って行くハピネスだった。
追いかけようとしたが、ハピネスにも言えない理由があるのだろう。
捕まえて無理矢理に問いただしては何も解決しない気がする。
「……一度帰って出直すか」
セシリアに帰ることを伝えて、ギルドに行くことにした。
「……ということがあったっす」
ギルドに着くともう昼間なので、酒場で食事をしている冒険者で賑わっていた。
いつもの指定席であるクレイマンの受付に向かうと、見たことある鎧騎士が座っている。
どうやら、デュークとクレイマンが談笑しているようだ。
とても、楽しそうに話している。
「ほ〜、お前も苦労してんだな。
俺だったらめんどくさくて投げ出してるぜ」
「何の話だ?」
気になるので、話の輪に入る。
クレイマンとデュークは俺に気づいて、軽い挨拶をする。
デュークは兜をかぶっているので表情がわからないが、恐らく笑っている。
「隊長の面白い話をしてたっす」
もちろん、隠すとこは隠したっすと口添えしてくる。
そういう問題じゃない。
「勝手に人の過去をネタに談笑してんじゃねぇよ」
記憶から消したい黒歴史がいくつもある。
一体、デュークはどの話をしたのか不安で仕方ない。
今すぐ、問いただして、とっちめてやりたいが、そんな場合ではない。
「ちょうどいい。
デューク、聞きたいことがあるから来てくれ」
ギルドから連れだして、事情を説明する。
デュークもなんだかんだハピネスとの付き合いは俺と同じぐらい長いからな。
味方に引き込めばかなり頼りになるだろう。
「う〜ん……まず、セシリアさんに協力して貰うならハピネスの事情話した方がいいっすよ。そうしないとセシリアさんも手をうとうにもうてないっす」
確かにそうかもしれないな。
だけど、落ち込んだままのレイヴンも放っておけないんだが……
「……仕方ない、先にセシリアのところに戻って説明しに行くか。デューク、行くぞ」
「了解っす」
デュークを連れて、アクアレイン家の屋敷に戻った。
セシリアの部屋でハピネスの過去を話すことに。
「じゃあ、話すっす。まず、ハーピーという魔物は人間にとってはよく狩りの対象になるってことは知っているっすか?」
セシリアは頷き肯定した。
ハーピーは容姿端麗な魔物で、捕まって奴隷にしたり、綺麗な羽目当てで狩ろうとする人間が後を絶たない。
ちなみに、言い忘れていたが、俺がハピネスから毟った羽は売らずにとっておいてある。
「もちろんハピネスも例外じゃないっす。人間のハンターに追われているところを、たまたま、見回りに出ていた俺が助けて、隊長の部下になったっす」
セシリアは複雑な表情をしている。
自分と同じ人間がしたことだからだろう。
あまり、良い話でもないしな。
「最初は全然口を開かなかったな。今はまだマシになった方だ」
最初は頷くか首を振るかのどちらかでコミュニケーションをとっていたからな。
そうとう、トラウマになっているようだった。
「だから、人間に好きって言われても、良い感情は浮かばないと思うっすよ……」
確かに、俺もハピネスのことを知っているからそう思う。
しかし、ハピネスはレイヴンにそこまで、悪い印象を持っていないはずなんだよなぁ。
「では、何故、レイヴンさんの声を聞いて羨ましいなんて言ったんでしょうか?」
「ハーピーは元々歌うのが好きな種族っすから声に惹かれた可能性があるっすけど……」
あの二人がどんな出会いをしたのかわからんからな。
これ以上は想像するしかない。
完全に手詰まりだ。
「……どんな出会いだったかは、ハピネスより、レイヴンに聞いた方がよさそうだな」
さっきハピネスに断られたし。
ハピネスも頑固なところがあるからな。
ハピネスの性格を知っているデュークも頷いているし。
セシリアも俺の案に賛同してくれたようだし。
「じゃあ、今日は解散しよう。俺は帰りにレイヴンのところに寄ってみるから」
どうするか方向性が決まったので、解散し、俺はレイヴンの住んでいる騎士寮に向かった。
騎士寮に着いた。
何人が住んでいるんだろうか?
およそ、数百人が住めるであろう、巨大な寮だ。中に入ると受付のような所があり、寮長さんらしき人が立っている。
俺に気づいてご用件はなんでしょうかと聞いてくる。
「すみません。ここに住んでいる騎士の友人に会いに来たんですけど……」
寮長さんは眼鏡が似合う、普通のお姉さんだ。
「確認をしたいので、騎士の名を教えていただきますか?あとあなたの名前も」
俺は自分の名前、そして、レイヴンの名を言うと、眼鏡を親指でクイッと上げ、疑いの眼差しを送ってきた。
まあ、レイヴンは有名人だし、友人も少ないようなので疑われるのは仕方ない。
だが、一応確認してはくれるようで寮の中に消えていった。
数分経つとつかつかと足音をたてて、綺麗な歩き方で寮長さんが戻ってきた。
「確認がとれました。レイヴン様の部屋に案内します」
戻って来た寮長の後ろをついて行きレイヴンの部屋についた。
寮長さんはごゆっくりと
言い残し、受付に戻っていった。
「レイヴン、入るぞ」
ノックをして、扉を開けた。
部屋は湿っぽいような暗い雰囲気が漂っている。
部屋の主であるレイヴンはベッドに突っ伏している。
……へこんでるな、気持ちはわかるけどさ。
初恋だもんなぁ。
レイヴンは俺に気がつき、ベッドから起き上がる。
「……ヨウキか、さっきは済まないな。せっかく誘ってくれたのに」
「いや、大丈夫だ。……それより聞きたいことがあるんだ」
話したくないと言われるかもしれないが、友人の恋を応援したい。
意地でも聞き出してやる。
「好きな子と会った時のことを詳しく聞きたいんだけど」
「……それを聞いてどうするんだ?」
相当、きてるのか、めんどくさそうにつぶやくレイヴン。
やばい、クレイマン化してるぞ、何とかしないと。
「まだ、諦めるには早いだろ。何か協力できるかもしれない。頼む、話してみてくれ」
俺のしつこさに負けたのだろう。
レイヴンはぽつりぽつりと話し出した。
まったく、意外じゃなかったですね…




